Stroke. 2009; 40: 3504-3510 Published online before print September 17, 2009, doi: 10.1161/STROKEAHA.109.551234
Jorge C. Kattah, MD; Arun V. Talkad, MD; David Z. Wang, DO; Yu-Hsiang Hsieh, PhD, MS; David E. Newman-Toker, MD, PhD
急性前庭症候群(AVS)は、発症から数秒から数時間でのめまい、嘔気、嘔吐、歩行障害、頭位めまい、眼振の症状があり、数日から数週間続く。 多くの場合、ウイルス等による前庭神経炎や迷路炎によるもので、急性末梢前庭障害(APV)としても分類される。アメリカでは、めまいやふらつきで救急を受診する患者は毎年260万人おり、 急性末梢前庭障害は15万人いる。急性のめまいを訴える患者の中には危険な脳卒中が隠れていることがあり、いくつかの観察研究ではAVSのうち25%以上で脳後方循環障害があるとしている。 CTは急性期の梗塞については感度が低く(16%程度)、特に後頭蓋窩ではわかりにくい。加えて、MRIは撮影できないこともある。いくつかの研究では、 急性期の椎骨脳底動脈の梗塞では、MRIでの偽陰性があることも分かっている。以上の理由からベッドサイドでの診察が急性の中枢性めまいの鑑別に重要と考えられる。
古典的には、錐体路徴候等による病巣診断が重要視されていたが、AVSのうち四肢運動失調、構音障害、明らかな神経学的所見が見られるのは半分以下で、 眼球運動の検査がAVSの中で脳卒中を鑑別できる方法と考えられる。最も重要と考えられているのが、水平(h)HITで前庭動眼反射(VOR)を試験する方法である(Video 1a/b)。 1988年にHalmagyiとCurthoysにより初めて発表され、AVSの中で脳卒中を鑑別するのによい方法と言われている。最近の研究では、h-HITが正常であれば中枢性が強く疑われるし、VORが異常で あれば末梢前庭障害を強く疑うというエビデンスが発表されている。ただ、VOR異常の患者の中にも外側橋梗塞が紛れ込んでいることがあり、h-HITは完全な鑑別方法にはならない。
他のベッドサイドでの診察方法では、眼振が重要である。AVSでは多くの場合非方向交代性の水平眼振を伴っていることが多く、急速相と同方向への注視で増大する。 垂直や純回旋性の眼振は中枢性病変を強く疑うが、多くの脳卒中では、末梢前庭障害と同様の水平のみの眼振を呈する。この場合でも、注視眼振により、 中枢性の病変を鑑別できることが多い(Video 2a/b)。
3番目の診察方法はskew deviationと言って、垂直方向の眼位の左右の差をテストする方法である。左右の前庭の神経発火頻度の差に応じて眼位が変化し、 特に耳石器からの入力による。臨床的にはskew deviation、head tilt、ocular counterrollが重要である。Skewは、規定されたプリズム偏位を使用した alternate cover test(Video 3)により検査する。末梢前庭障害の患者でも報告されているが、ocular tilt reactionでのskewは基本的に中枢性、特に外側橋が病巣であることが多い。 脳底動脈の梗塞の評価で重要という報告もある。最近の後ろ向きケースコントロール研究では、 末梢前庭障害と脳卒中とを比較してskew deviationが中枢性めまいの特徴的な徴候であると報告している。
今回の研究では、AVSにおいて脳卒中を鑑別する上でのskew deviationの診断精度を調べ、h-HITと比較した。また、head impulse、眼振、 skewテストの3つの組み合わせによりどれだけ精度かについても調べた。
Video 1a/b: Horizontal Head Impulse Test of Vestibulo-Ocular Reflex Function
(description adapted from Newman-Toker DE, Kattah JC, Alvernia JE, Wang DZ. Normal head impulse test differentiates acute cerebellar strokes from
vestibular neuritis. Neurology. 2008;70:2378 2385)
VOR機能検査である(h-)HITは、原法では、中心位から側方(10°~20°)へ他動的に頭方向を動かし、視線は中心を見つめたままでいる方法である。変法では、
頭の方向を動かす前から側方の移動させておき、中心位置に戻すと言う方法もあり、この方法だと、椎骨動脈を痛める可能性が低く、手技もやりやすいし、
眼球運動も観察しやすいのでおすすめである。前庭機能は始めの位置は関係なく、加速度のみに影響があるので、機能評価には問題ないと考えられる。
どちらの方法をとるにしても、頭部の運動は受動的であることに留意すること。正常反応例では、眼球位置は固定して動かないが、異常例では、
前庭病巣側に頭部を回転させた時に反応が生じる。この時、VORの経路は皮質は経由しない。VORの入力に迷路からの情報が入らないと、頭部回転によって注視が不能となり、
回転運動が停止した時点で中止位置の補正が必要となり、これがh-HIT陽性の反応となる。急性前庭症候群では自発眼振があることが多いので、
HITを行うときはこれと区別する必要がある。Video 1aは末梢前庭障害で、左向き眼振、定方向性眼振、右向きh-HIT陽性である。症例は54歳男性、
DMに対して食餌療法中であり、24時間前からのめまい、右に落ちるようなふらつき、嘔気、嘔吐を訴えて受診。蝸牛症状はなし。
自発眼振、定方向性眼振、左向き時に増強する眼振は、右末梢前庭障害を示唆する。左向きHITでは陰性、右向きHITでは異常反応陽性であった。
MRIでは4mm大の白質病変が見つかったが、DWIでは急性の梗塞はなかった。Video 1bは前庭障害のようだがHIT正常であることから脳卒中が示唆された例。
71歳高血圧の患者で、2時間前から歩行障害、嘔気、嘔吐を呈する。蝸牛症状無し。立位時左に倒れる。右向き注視時右向き眼振、左向き注視時眼振なし。
自発眼振は右向き眼振で、末梢性の眼振に類似する。HITでは異常反応がなく、中枢性病変が示唆される。このビデオは12時間後に撮影された物で、
左向き時は正常だが、右向き時はsaccadic pursuitsが認められる。自発で下向きの眼振もあるが、水平右向き眼振が主である。頭部CTでは右小脳の梗塞を認め、
腫脹により第四脳室が狭小化していた。一ヶ月後のMRIでは脳軟化症を認め、CTに矛盾しない結果であった。
Video 2a/b: Examination for Nystagmus in Different Gaze Positions
末梢前庭障害での典型的な自発眼振は定方向性水平眼振で、眼振向き注視で増強し、反対向き注視で減弱する。このパターンはAlexander’s law に合致する
(Video 2a 急性末梢前庭障害での定方向性左向き眼振)。
中枢の障害では、中枢由来の抑制の障害により、注視方向への眼振が生じる。この場合、眼振は方向交代性となる(Video 2b 注視時方向交代性の眼振、左向き自発眼振、急性脳梗塞)。
Video 3: Alternate Cover Test for Vertical Ocular Misalignment (skew deviation)
注視しているとき、正常であれば、左右どちらかの目を交互に覆い隠しても(alternate cover test)、眼球運動は見られない。しかし、異常例では、
覆いを取った後にrefixation saccadeが見られる。Refixation saccade は、斜視か両眼視時の眼運動異常の結果生じる。
この偏位はプリズム補正により計測できる。Video 3は、外側延髄の梗塞により急性のめまいを発症した症例で、垂直方向の眼位の偏位を認める(=skew deviation)。
右目はhypotropic (上向きrefixation saccade)で、左目はhypertropic (下向きrefixation saccade)であり、右外側延髄の梗塞に矛盾しない。
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