感染症シリーズ - 耐性度の高いグラム陽性球菌
本日のテーマはVCM、TEIC、LZD。VCM、TEIC、LZDは主に耐性度の高いグラム陽性球菌
(コアグラーゼ陰性ブドウ球菌、MRSA、Enterococcus faeciumなど)による感染症を治療する目的で用いられる抗菌薬である。
VCM(バンコマイシン)
1.抗菌スペクトラム
抗菌スペクトラムは分かりやすい。グラム陽性菌ならばほとんど有効。グラム陰性菌には全く無効。
陽性菌ならば球菌、桿菌、好気性、嫌気性に関係なく有効(ただし嫌気性菌の治療には用いない)。
VCM耐性腸球菌(VRE)は日本には少ない。したがって、日本ではグラム陽性球菌でVCM耐性菌はほぼいないと考えてよい。
なお、日本での保険適応は「MRSA感染症」のみである。
2.作用機序
細胞壁合成阻害で殺菌的に作用する。腸球菌に対しては静菌的だが、GMとの併用により殺菌的に作用する。
3.副作用
- 1)レッドマン症候群
- VCMを急速静注するとヒスタミンが遊離され皮疹が出現する。時に血圧低下を伴うこともある。
これはアレルギー反応ではなく、投与速度が速いと誰にでも起こしうる反応であるので投与時間を長くして再投与することは可能である
(しかし時に真の1型アレルギーのこともあるので注意)。上半身に出やすい。
レッドマン症候群を防ぐためVCMは必ず1gあたり1時間以上かけて投与する(1.5時間、と指示しておくのが無難か)。
なお、1g/1hの投与速度でも皮膚反応が生じることはあり、さらにゆっくり投与することで解決することもある。
- 2)腎障害
- 腎障害はよく知られている副作用だがその頻度は意外に少ない(0-7%)。VCMの発売当初は精製が不十分で不純物によって腎障害が多く発生したが、
現在は技術の向上により純度が上がり、腎障害は減った。
バンコマイシンを使用する状況では敗血症そのものやそれに伴う循環障害による腎障害や他の腎毒性を有する薬剤の使用などがしばしばあるため
「VCMは腎障害が多い」というイメージを助長していると思われる。
ただし他の腎障害をきたす薬剤と併用すると腎障害の頻度を増すのは事実である(例:アミゴグリコシドとの併用)。
- 3)聴神経障害
- 頻度は少ないが他の耳毒性を有する薬剤との併用やVCMが高血中濃度(80μg/ml以上)で起こりやすい。
これらの他に静脈炎(VCMの溶解は5mg/ml以下が望ましいとされる)や好中球減少が見られうる。
4.投与量・投与方法
様々なdosingの方法が提案されているが、最も簡潔なものを示す。
これはあくまで目安であり、5回目の投与の前にトラフ血中濃度を測定し、10-15μg/mlを目標に調整する
(古典的には5-10μg/mlとされていたが近年はより高めの濃度が推奨される傾向にある)。
近年はピークの血中濃度測定の意義は乏しい(心内膜炎治療など特殊な状況を除いて)と考えられている。
上記のようにVCMは5mg/ml以下に溶解することが望ましく(実際には1g/100mlで溶解されることが多いが)、1gあたり1時間以上かけて投与する。
5.適応
VCMの最大のメリットはグラム陽性球菌をほぼ確実にcoverできるということである。
VCMしか効かない菌が感染症の起因菌と確定すれば当然VCMを開始することになるが、
耐性グラム陽性球菌による感染症の可能性があるが培養検査結果待ちの状況でも培養結果が分かるまでVCMを開始して培養検査結果を待つ。
ただし感受性菌に対する抗菌活性はβラクタム薬に劣るため、βラクタム薬に感受性があることが判明すれば速やかにβラクタム薬に切り替える(注1)。
MRSAを含めた黄色ブドウ球菌は培養検査でcontaminationとして検出されやすい菌である。
血液培養から検出された、あるいはその疑いの場合は迷わずVCMを投与すべきであるが、喀痰、尿、
意味無く取られた皮膚表面の培養などで検出された場合はcontaminationの可能性が高い(注2)。
また、便培養から検出されたMRSAにもほとんど臨床的意義は無い(注3)。
- 1) MRSA感染症
- VCM高度耐性菌のMRSAは日本では現在までは報告されていない。
MRSA感染症にVCMを用いていて臨床経過が思わしくない場合は抗菌薬を変更するよりは(薬剤耐性が原因ではないので抗菌薬の変更は無意味)、
感染症が良くならない原因を検討すべきである。
検討すべき事項
1 感染症のfocusのコントロールが不十分→血管内カテーテル感染症で感染したカテーテルが残っている、膿瘍のドレナージができていないなど。
2 感染症の合併症が生じている→血管内カテーテル感染症から細菌性血栓性静脈炎、感染性心内膜炎、骨髄炎など。
3 複数菌感染症で他の起因菌がcoverできていない場合→褥創感染などの血流不全を伴う軟部組織感染症、腹腔内感染症など
4 経過中に他の感染症を合併したり、感染症以外の原因による発熱(例:薬剤熱)をともなっている場合
5 そもそも最初の診断が誤っている場合→何気なく採取した尿培養から検出されたMRSAをVCMで治療しているなど
6 治癒に時間がかかる感染症に罹患している→心内膜炎、骨髄炎など
7 VCMの血中濃度が不十分→血中濃度測定は行なわれているか?
なお、難治性のMRSA感染症の状況では臨床的な相乗効果を期待してVCMにGM(心内膜炎など)やRFP(人工物感染症など)を併用することがある。
- 2) コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)感染症
- βラクタム耐性菌(MRCNS)が多く、仮に感受性試験で感受性があると判定されても臨床的には無効であることもあるのでVCMで治療するのが無難。
人工物関連感染症(人工弁の感染性心内膜炎など)の場合はRFPやGMを併用することもある。
- 3) Enterococcu faeciumなどの耐性度の高い腸球菌感染症
- 腸球菌の中でもEnterococcus faeciumは耐性度が高くペニシリンが無効なことがほとんどでありVCMを用いて治療する。
日本ではVREの頻度は高くはない。VCMの腸球菌に対する効果は静菌的なので重症感染症ではGMを併用する。
- 4) 血管内カテーテル関連敗血症の経験的治療
- カテーテル関連感染症の起因菌としてはグラム陽性球菌が最も多く、中でもβラクタム薬が無効なMRSAやCNSの頻度が高い。
よってこれらをEmpiricにcoverするのは必須となる。必要に応じてグラム陰性菌やCandidaのcoverも検討する。
- 5) 院内発症の感染症で血液培養からグラム陽性球菌が検出されたとき
- βラクタム薬が無効なMRSAやCNSの頻度が高い。よってこれらをEmpiricにcoverするのは必須となる(注4)。
- 6) 細菌性髄膜炎の経験的治療
- ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)による感染症は髄膜炎以外の疾患(肺炎、副鼻腔炎など)であれば高用量のペニシリンやCTX,
CTRXで十分治療できる。しかし、髄膜炎の場合は髄液移行性が良いとされているCTX,
CTRXでも髄液内での濃度は血中よりも低いためPRSPが起因菌の場合は治療に反応しないことがある。
したがって、髄膜炎では肺炎球菌を確実にカバーする為に感受性結果が分かるまでCTX or CTRXにVCMを加える。
- 7) 好中球減少時の発熱
- IDSA(米国の感染症学会)のガイドラインによるとVCMの併用を検討する状況としては
(1)血管内カテーテル感染症を疑う(2)PRSPやMRSAを保菌している(3)グラム陽性球菌が血液培養で検出されており同定待ちのとき
(4)低血圧などの心血管系の障害が示唆されるとき(5)強力な化学療法による粘膜の高度な障害(6)キノロンの予防投与がある
(ペニシリン耐性の連鎖球菌感染症のrisk factorとされる)などがある。
当然ながら、緑膿菌を含めたグラム陰性桿菌をcoverする抗菌薬と併用することが大前提である。
- 8) βラクタム薬にアレルギーのある患者でのグラム陽性菌のcover
- βラクタム薬と交叉アレルギーが無いのでこのような使用法がある。
- 9) Clostridium difficile関連腸炎
- 経口VCM(バンコマイシン散 125mgを1日4回内服)は偽膜性腸炎の原因菌であるClostridium dfficileに対して有効である。
ただし薬価が高く、metronidazoleと効果は概ね同じと考えられているので本来はmetronidazoleで反応が悪い時や重症例の場合に使用するのが望ましい。
しかしながら日本では「偽膜性腸炎」の治療薬として承認されているのはバンコマイシン散のみである。
消化管からは吸収されないので腎障害などの副作用はない。
TEIC(テイコプラニン)
VCMと同じグリコペプチド系の抗菌薬であり、その抗菌スペクトラムや適応も概ねVCMに準ずる。
VCMと同様にトラフ血中濃度をモニターしながら使用する。蛋白結合率が高く、組織結合率が高いため非常に薬剤の半減期が長く、
血中濃度が定常状態に達するまで時間がかかるので5日目以降にトラフ血中濃度を測定する。
目標のトラフ血中濃度は10μg/ml以上、心内膜炎や重症敗血症などの場合は20μg/ml程度を目標とする。
6mg/kgあるいは12mg/kgの投与での定常状態の血中濃度はそれぞれ平均で14μg/ml, 23μg/mlであった。
上記の目標血中濃度を考えると50kg以上の体重がある腎機能正常患者では400mgでのdosingが妥当であろう。
皮膚軟部組織感染症、呼吸器感染症、カテーテル関連感染症などについてはVCMと同程度の臨床効果があることを示したstudyがある。
しかし、S. aureusが起因菌の心内膜炎や血管内感染症については6-10mg/kg/dayの投与量でもVCMより臨床効果が劣っていることを示したstudyがある。
腎障害の副作用はVCMよりも少ないと思われ、レッドマン症候群や聴覚障害も稀。
本薬剤はVCMの腎障害の発現を懸念して選択される傾向があるが、
上記のようにVCMの腎障害の頻度は実際には少ないことやTEICによる重症グラム陽性球菌感染症治療のエビデンスが必ずしも十分でないことを認識しておく。
VCMに薬剤アレルギーがある場合も本薬剤の適応が検討されるが、
交叉アレルギーがあるとする意見もあるのでそのような場合はLZDなど系統の異なる薬剤を用いる方が賢明であると思われる。
LZD(リネゾリド)
VCMやTEICと同様に耐性度の高いグラム陽性球菌の感染症の治療目的に用いられる抗菌薬であるが前2剤とは薬剤の系統は異なる
(「オキサゾリジノン系」というグループである)。VREにも有効。
軟部組織感染症や呼吸器感染症などをはじめとした耐性グラム陽性球菌感染症の治療について、
VCMと同等あるいはそれ以上の効果があるというデータがではじめている。しかしながらVCMよりは臨床経験が少ないこと、
そもそもVCM耐性菌による感染症は日本では現時点ではほとんど無いこと、濫用による耐性菌の増加が懸念されることなどから、
LZDの使用は何らかの理由(アレルギーや副作用など)によりVCMが使用できない状況での代替薬としての役割のみに現時点では限定しておくのが妥当と考える。
また非常に高価な薬剤でもある。
生体内利用率は非常に良好であり経口と静注で理論的には効果に差が無い。
腎障害、肝障害があっても投与量調整は不要である(HD患者はHD後に投与)。
副作用は悪心などの消化器系の副作用、血小板減少を中心とした血球減少、
MAO阻害(注5)などがあり特に血球減少は2週間をこえる長期使用の際にしばしばみられ、使用中止の原因となる。
末梢神経障害、視神経障害、乳酸アシトーシスなどの報告もある。
<解説>
- (注1)
- 例えば起因菌がMSSAと判明すればVCMよりもCEZの方が臨床的な効果は高い(Clin Infect Dis 2007; 44: 190)。
- (注2)
- ただしMRSAは院内肺炎の起因菌にはなりうる。また尿培養で検出されたMRSAが実は菌血症の結果として生じている
(腎臓は血流の多い臓器であるので)こともありうる。
- (注3)
- 「MRSA腸炎」というほぼ日本でしか認識されていない病態があるらしい。
- (注4)
- 市中発症の場合は必ずしもこの限りではない。例えば、肺炎球菌性肺炎を疑っている状況で血液培養からグラム陽性球菌が検出された場合や、
市中発症の血行性の骨髄炎の患者からグラム陽性球菌が検出された場合は抗菌薬の選択には影響しない。
- (注5)
- ドパミン、エピネフリンなどのアドレナリン作動薬との併用で血圧上昇、動悸、SSRIなどのセロトニン作動薬との併用でセロトニン症候群
(高熱、錯乱、振戦など)、チラミン食(チーズ、ビール、赤ワイン)との併用で血圧上昇、動悸など。
You are magnetic in your bearing.
There is no IGLU Cabal. Shlomi Fish has obtained a patent on certain key
technologies essential for existence of IGLU Cabals. He is available for
license negotiations only on February 29th of odd-numbered years, between the
hours 14:15:09-18:28:18.
People, who practice IGLU Cabalism without the appropriate patent licenses,
risk teleportation into the interior of exploding supernovae.
Omer Zak in Hackers-IL message No. 1968
(Re: A TINIC Sequel)
-- Omer Zak
-- Hackers-IL
Message No. 1968 ( http://tech.groups.yahoo.com/group/hackers-il/message/1968 )
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