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感染症シリーズ - 経口βラクタム薬

ペニシリン系のペニシリンG(ペニシリンG顆粒)、アモキシシリン(サワシリン)、アモキシシリン・クラブラン酸(オーグメンチン)、 トシル酸スルタミシリン(ユナシン錠)、セフェム系のセファレキシン(ケフレックス)、セファクロル(ケフラール)、セフポドキシム(バナン)、 セフジトレン(メイアクト)、ペネム系のファロペネム(ファロム)について説明する。
もちろんこれら以外にも数多くの経口βラクタム薬が存在する(特に経口セフェム)が、ここでは臨床経験が多く、 Vitroの感受性試験の結果を反映しやすい(すなわち同等のスペクトラムを有する静注抗菌薬がある)薬剤を優先的に選択している。

ペニシリン系経口抗菌薬

ペニシリンG(PCG)

対応する静注薬:PCG(ただし達成される血中濃度が大きく劣るため適応症は異なる)
バイシリンG顆粒 40万単位を1日4回(保険適応内)

ペニシリンGの内服薬である。胃液で分解されやすく消化管からの吸収が不良であるという弱点を持つ。 欧米ではこの弱点を克服したペニシリンVという薬剤があるが本邦にはない。そもそも本薬剤を採用していない医療機関が多い。 ペニシリンGなので主な対象菌種はブドウ球菌以外のグラム陽性球菌である(グラム陰性桿菌には全く無効、嫌気性菌も横隔膜より下の菌はダメ)。 肺炎球菌や腸球菌を含めた連鎖球菌に活性を有する(ブドウ球菌はペニシリナーゼ産生によりほとんどが耐性)が、 上記の吸収の問題などがあり実質的に本抗菌薬で治療するのはA群溶連菌咽頭炎のみである。

アモキシシリン(AMPC)

対応する静注薬:ABPC
サワシリン 500mgを1日3-4回(保険適応は250mgを1日3-4回で適宜増減可)

注射薬のアンピシリン(ABPC)と同等のスペクトラムを有する抗菌薬である(注1)。すなわちペニシリンGが有効な肺炎球菌、 腸球菌を含めた連鎖球菌(ブドウ球菌に対してはやはりペニシリナーゼで分解されるためにほとんど耐性)に加えて H. influenzae、大腸菌(ともに耐性菌が多い)にも活性を有する。
適応は市中肺炎の外来治療における肺炎球菌のcover、梅毒治療、歯科治療時の感染性心内膜炎の予防 (ガイドラインでは2gを1回投与だが本邦では1gが無難か。本気で予防したいときにはABPC 2g div.の方が良い)などである。 A群溶連菌咽頭炎の治療にPCGの代わりに用いてはならない。もしその患者が本当は伝染性単核球症であった場合 (そのような患者が偶然咽頭にA群溶連菌を保菌していて検査で引っ掛けてしまう可能性はある)60-100%の患者で皮疹をきたすからである(注2)。

アモキシシリン・クラブラン酸(AMPC/CVA)

対応する静注薬:ABPC/SBT
オーグメンチン アモキシシリン量として500mg(total 750mg)を1日3-4回
(保険適応はアモキシシリン量として250mg(total 375mg)を1日3-4回で適宜増減可)

注射薬のアンピシリン・スルバクタム(ABPC/SBT)と同等のスペクトラムを有する抗菌薬である。 上述のアモキシシリンにβラクタマーゼ阻害薬であるクラブラン酸がくっついている。 これ故にAMPCが有効な菌に加えてMSSA、Moraxella catarrhalisにも有効でありH. influenzae、E. coli、Klebsiellaも耐性化していなければ有効である。 また嫌気性菌に対しては横隔膜の上下を問わずほぼ100%OKである。
適応としては市中肺炎での肺炎球菌+H. influenzae、Moraxella catarrhalisのcover(smokerや高齢者ではAMPCよりも良いかと思われる)、 皮膚軟部組織感染症とりわけ咬傷(注3)、軽症腹腔内感染症あるいは静注治療後の腹腔内感染症の慢性期治療(注4)などがある。 静注薬のABPC/SBTと同様に尿路感染症に積極的に用いる理由はない(注5)。

トシル酸スルタミシリン(SBTPC)

対応する静注薬:ABPC/SBT
ユナシン Total750mgを1日3-4回(保険適応はTotal 375mgを1日2-3回で適宜増減可)

商品名はABPC/SBT注射剤と同じだが実は一般名は全然違う。「経口投与後速やかに吸収され、 腸管のエステラーゼにより加水分解されてアンピシリン(ABPC)とスルバクタム(SBT)とになり、 それぞれ高い血中濃度を示す(添付文書より引用)」とのこと。達成されるABPCおよびSBTの濃度は同量のAMPC/CVA内服後のAMPCおよびCVAの濃度と同程度のようである。 AMPC/CVAが採用されている施設ではそちらを優先しようすべきと思われるがSBTPCのみ採用の場合は代替薬として用いる。

セフェム系経口抗菌薬

第一世代的セフェム

対応する静注薬:CEZ
セファレキシン(CEX) ケフレックス 500mgを1日4回(保険適応量)

第一世代的なセフェム系経口抗菌薬であり、MSSAやβ溶連菌による感染症が主な治療対象となる。 よって市中の軽症の蜂窩織炎の内服治療やA群β溶連菌による咽頭炎の治療などに用いることができる。 耐性度の低い腸内細菌(E. coli, Klebsiella)にも活性を有するが比較的MICが高いのでやや不安がある。抗菌薬投与歴がなく、 耐性菌の関与が考えにくい状況での単純性膀胱炎の治療には用いることができるかもしれない。 推奨する量は保険適応の最大量でありこれ以下の投与量での治療は不安である。

対応する静注薬:CEZ
セファクロル(CCL) ケフラール 500mgを1日3回(保険適応内)

第二世代に分類されることもあるがS. pneumoniaeやH. influenzaeに対する活性は低く実質的には第一世代的である。 CEXを採用していない施設でCEXの代替薬として用いる。適応症も同等。 推奨する量は保険適応の最大量でありこれ以下の投与量での治療は不安である。 小児で血清病の副作用が多いことで有名でありアナフィラキシーも類薬よりも多いという話もある。

第二世代的セフェム

以下の薬剤は一般的には第三世代セフェムに分類されることが多い。しかしながら耐性度の高い腸内細菌(Enterobacter, Serratiaなど) や緑膿菌には無効であり肺炎球菌に対する活性もCTRX, CTXよりも大きく劣るので実際は第二世代的に捉えておく(注6)のが妥当と思われる。

対応する静注薬:CTM
セフポドキシム(CPDX) バナン 200mgを1日2回(保険適応内)

MSSAや多くのRespiratory pathogen(ペニシリン感受性の肺炎球菌(PSSP)、H. influenzae、Moraxella catarrhalis)、 β溶連菌、耐性度の低い腸内細菌(E. coli, Klebsiella)に活性を有する。 多くのRespiratory pathogenに有効なので肺炎などの呼吸器感染症に用いたいところであるが肝心の肺炎球菌に対する活性にやや不安があるため (起因菌がPISP~PRSPの場合は治療失敗の懸念がある)市中肺炎のEmpiric therapyには用いにくい(注7)。 副鼻腔炎、中耳炎、軽症のCOPD増悪などの場合には用いることができる。また、感受性試験が確認できればPSSPや H. influenzaeなどによる肺炎治療の静注薬からのstep downにも使用できる。 耐性度の低い腸内細菌への活性があるため耐性菌の関与が考えにくい状況での単純性膀胱炎の治療に用いることができ、 腎盂腎炎の起因菌の感受性判明後のstep downにも用いることができる。 推奨する量は保険適応の最大量でありこれ以下の投与量での治療は不安である。

対応する静注薬:CTM
セフジトレン(CDTR) メイアクト 200mgを1日3回(保険適応内)

CPDXと類似した抗菌薬でありCPDXが採用されていない施設でCPDXの代替薬として用いる。 推奨する量は保険適応の最大量でありこれ以下の投与量での治療は不安である。(カゼインを含有するため牛乳アレルギーの患者には禁忌である。)

なお経口第二世代セフェムであるセフォチアム(パンスポリン)錠もこれら二剤と同じような役割での使用が可能と推測されるが データが少ないためここでは採用しなかった。使用する場合は400mgを1日3回(保険承認量)で。
第三世代経口セフェムとされるセフチブテン(セフテム)は上の二剤より腸内細菌に対する活性が高く(ただしスペクトラムそのものは同等) グラム陽性球菌に対する活性は低い抗菌薬であるが採用している施設が少ないためここでは採用しなかった。使用する場合は200mgを1日2回で。

ペネム系抗菌薬

対応する静注薬:なし
ファロペネム(FRPM) ファロム 300mg1日3回(保険適応内)

ペネム系抗菌薬である。カルバペネムの経口薬ではない。抗菌スペクトラムが全く異なり、カルバペネムの感受性試験の結果も適用できない。 VitroではMSSA、β溶連菌、Streptococcus milleri、ペニシリン耐性性を含めた肺炎球菌、H. influenzae、Moraxella catarrhalis、 E. coli、Klebsiellaに良好な活性を有する(J Antimicrobial Chemother 2002; 50: 293)。 緑膿菌には全く無効であり耐性度の高い腸内細菌にも十分な活性はないと考えておくのが無難。 嫌気性菌に対する活性は良好でありβラクタマーゼ配合ペンシリンやMetronidazoleなどと同様に信頼できそうである(Antimicrob Agents Chemother 2002; 46: 3669)。 これらの結果から呼吸器感染症や皮膚軟部組織感染症への適用が期待され、Clinical studyが行われている。 しかしながら大規模な臨床試験による裏付けは現時点では無い。耐性度の低い腸内細菌に対する活性と 嫌気性菌に対する活性から軽症の市中腹腔内感染症に対する使用(AMPC/CVAよりは腸内細菌に対する活性が期待できるかも知れず、 保険適応内での治療が可能なので)の可能性もあるかもしれない。

<解説>

(注1)
なお内服薬のアンピシリンもあるがアモキシシリンより消化管からの吸収がかなり劣る。よって内服はアモキシシリンが選択されるべきである。
(注2)
これは「アレルギー反応」ではないのでその後のペニシリン系抗菌薬の使用を制限する必要はない。
(注3)
咬傷は嫌気性菌を含めた複数菌感染症でありイヌ、ネコ、ヒトで関与する起因菌が異なるがAMPC/CVAは関与しうるPasteurella multocida, S. aureus, Capnocytophaga sp., Eikenella corrodensなどをcoverしてくれる。十分な洗浄、デブリドマン、排膿、破傷風の予防なども大事である。
(注4)
嫌気性菌に対する活性は良好であるが腸内細菌には耐性菌が多いのであまり安心感はない。
(注5)
単純性尿路感染症の主な起因菌であるE. coli, Klebsiellaに耐性菌が結構多い(市中のE. coliでも感受性菌は80%未満)。
(注6)
第二世代セフェムに対する感受性試験は施設によってはルーチンでは施行されない。腸内細菌であれば第一世代に感受性があれば第二世代にも感受性であり、 第一世代に耐性であれば第二世代にも耐性の可能性が高いと推測する他ない。 肺炎球菌の場合はペニシリン感受性であれば第二世代的なセフェムにも感受性があると考えてよいし、 MSSAに関しては第一世代的なセフェムを選択すべきなので考慮しなくてよい。
(注7)
同じ役割であればAMPCやAMPC/CVAの方が安心できる(ただし保険承認量を超えてしまう)。
Confucius says: "XSLT made me realise humanity was hopeless.".

    -- Shlomi Fish
    -- XSLT Facts by Shlomi Fish and Friends ( http://www.shlomifish.org/humour/bits/facts/XSLT/ )

Although the contents of her book, The Virtue of Selfishness, are precisely
accurate and widely integrated, Ayn Rand committed an error by distorting the
word "selfishness" in fashioning a dramatic statement. The word "selfishness"
does have valuable, precise denotations of "an irrational, harmful disregard
for others". Rand could have strengthened her work by selecting accurate
wording such as rational self-growth. Instead, she unnecessarily bent and
undermined the precise, valuable meaning of selfishness. ...As with
selflessness, selfishness is a form of immature, destructive, irrational
behavior -- a form of stupid behavior.

[Neo-Tech Advantage No. 14 - "Self-Growth vs. Selfless
View"](http://www.neo-tech.com/neotech/advantages/advantage14.html)

    -- Frank R. Wallace
    -- Neo-Tech Advantage No. 14 - "Self-Growth vs. Selfless View" ( http://www.neo-tech.com/neotech/advantages/advantage14.html )


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