ここに記載することは、放射線科研修医は勿論のこと、内科、外科の研修医に是非知っていて欲しいことです。 最初に書いたときから 10 年以上が経過し、超音波検査やマルチスライス CT の出現により、年々、腹部単純写真の価値が忘れられて(あるいは減って)いっているよ うに思います。今の時代に腹部単純写真で知っておいて欲しいと思うことについて書いておきたいと思います。
最近の腹部単純写真が撮られている理由には、以下のものがあります。
これから腹部単純写真の読影方法について説明しますが、まずは基本的な事項から説明します。 そして、最後にもう一度、腹部単純写真の撮られる理由とその有用性について考えて見ます。>
腹部単純写真は、基本的には呼気で撮影されます。体格が大きい人では、横隔膜から恥骨結合までフィルムにはいらないことがあります。このような場合には、 それぞれの施設での取り決めがあります。施設によっては吸気で撮影したり、背臥位の写真は恥骨結合をいれ、立位の写真は横隔膜をいれると決めているところが あります。 写真が適切な濃度で撮られているかどうかについての評価は困難です。腹部単純写真は骨から空気までの病変を診断するための写真であるため、コントラストが 強いギラギラした写真より、コントラストのない、全体がべったりとした写真のほうが好まれます。白すぎると、小さな石灰化が、黒過ぎのフィルムでは、わずかな ガス像がみえません。 最近では CR(デジタル写真)で撮影される施設が多く、不適切な濃度の写真を見せられることはほとんどなくなりました。 撮影する技師も注意して撮影していますが、下着の衣服の結び目、体に貼られた湿布などが撮影され、腫瘤様にみえることがあります。間違えないような注意が必要 です。
腹部単純写真の基本撮影は、背臥位正面撮影(前後撮影) (AP view in supine position ) です。背臥位では、触診する体位と同じで、各臓器があるべき位置に おさまっています。すなわち肝脾腫大の有無は肋骨弓から下に膨隆しているかどうかで判定します。消化管も腹部全体に分布し、腹部写真の濃淡が均等になり、 骨盤内の腫瘤や石灰化の有無の判定が可能です。立位写真では、各種臓器、大網、腸管、腹壁の脂肪、さらに消化管が骨盤内に落 ち込みます。そのため、下腹部が白く、上腹部は黒い診断しにくい写真になってしまい、写真的にも、情報量も臥位の写真より劣ります。
腹水の診断に有用である
昔は少量の腹水(約 200 ml 以上)も腹部単純写真で診断していました。骨盤内に少量の腹水があるとき、膀胱の上部にみられる Dog s ear sign は非常に有名で した(今では臨床的有用性もなくなり、知っている人も少なくなりました。過去の遺物です)。さらに、腹水が増加するにつれ、側腹線条徴候 ( Flank stripe sign ) 、 腸管の中央化(Centralization of the GI tract)といった所見がみられます。これらはすべて背臥位写真の所見です。立位の写真では腹水は、消化管とともに骨 盤内に落ち込むため診断できません。現在では、腹部単純写真で診断できるよりさらに少量の腹水を US や CT で診断することが可能です。 今日、腹水の存在診断に腹部単純写真を用いることはほとんどありません。しかし、腹部外傷のときなどに撮影された単純写真で腹腔内出血の有無を診断するた めに上記のサインぐらいは知っておいたほうがよいでしょう。
立位の写真のメリットはフリーエアー(Free air;遊離ガス) とニボー ( Niveau、 Air-fluid level :鏡面像)です。すなわち消化管穿孔やイレウスのときです。で は、イレウスや消化管穿孔疑いのとき腹部の立位写真1枚だけでよいかとなるとそうではありません。イレウスで見られるニボーも立位だけでは、その腸管が小 腸なのか大腸なのか、空腸なのか回腸なのかの判定が困難であるため、臥位の写真も必要なことが多いです。 穿孔を疑うときも穿孔以外の病変の評価も必要となり、背臥位の写真もあったほうがよいです。
急性腹症では、立位と背臥位の腹部単純写真2枚と、これに加えて立位の胸部単純正面写真1枚、あわせて3枚の写真を撮影するのが私が若かった頃(1975- 1990 年ごろ)の常識でした。ヘリカル CT 出現前は、CT 撮影に時間がかかるため、まず単純写真で本当にCTが必要かどうか吟味されていました。 今や、単純写真を撮るより簡単に CT が撮影される時代では、3 枚の単純写真の必要性、とくに何故胸部写真が必要なのか、な どは知らなくてもよいことかもしれませんが、そういう時代だったことを知っていただくために記載しておきます。 どうして急性腹症の診断に胸部写真が必要かというと、第1の理由は、フリーエアーを探すためには立位の腹部単純写真より、胸部写真のほうが適しているため です。胸部写真は、空気が見やすいような条件で撮影されているので少量のフリーエアーもたやすく観察できます。注意しなければいけないのは、腹痛のためず っと臥位であった人を立位にしてすぐ撮影してはいけません。というのは腹腔内のフリーエアーが横隔膜の下まですぐ移動してこないからです。立位あるいは座 位にして4-5分してから撮影する必要があります。(・・・・なんて厳しく教わったものですが、今はこのような人は最初から CT をすべきです。) 第2の理由は、胸部の病変、たとえば、肺炎、心筋梗塞でも急性腹症の臨床症状を呈することがあるためで、胸部写真が必要になります。 第3には手術などの処置が必要になったときに胸部写真は不可欠なためです。
マルチスライス CT の出現により、簡単に腹部骨盤の CT を撮像することが可能になりました。CT は被曝量も単純写真に比較すると 20-30 倍も多いですが、情報量 も格段に違います。腹部単純写真で見えないフリーエアーも発見できます。イレウスの原因となっている腫瘍も簡単に発見できます。 一刻を争う救急の場で、腹部単純写真の結果がどうであれ、後で CT を撮るつもりならば、腹部単純写真を撮らないで最初から腹部 CT 検査を行なうことも、主治医 の判断で行うべきだろうと思います。ただ、やみくもに腹部 CT をしてしまうのは、担当医の医療レベルに問題があると思われます。
腹部単純写真では、金属、石灰化、水、脂肪、空気の5段階のものしか区別できません。骨や金属ははっきり見えますが、水と脂肪、小さなガス像の区別は難し いものです。肝臓や腎臓が見えているようにみえるのは、水濃度の臓器を周囲の脂肪が縁取っているためです。 どんなことでもそうですが、基本が大切です。研修医の時代に、基本的な読影の仕方を知っておくことで、見落としのない読影を行うことができます。たとえフリ ーエアーを探すために写真を撮っても、腹水や石灰化の有無や腸管のガスパターンの観察もしっかり行う必要があります。
腹部単純写真の基本的な読影順序を以下に述べます。
今日、腹部単純写真が撮影されるのはスクリーニングではなく、目的を持って撮影されます。イレウスが疑われた場合は、ニボーをみるだけ、フリーエアーを探す ときはフリーエアーだけが探されます。そのため、基本的な規則正しい読影方法、読影順序が適用されることは少ないかもしれません。しかし、若いときにこそ、目 の前にある、得られた情報をすべて利用するという心構えで、検査目的のことだけを探すのではなく、基本的な読影訓練を行い、それを身につけることは将来大きな 財産になると思います。
基本的な読影の仕方については上で述べましたが、ここでは読影に当たって読影しやすい所見、発見しやすい初級コース所見から、読影上級クラスの難しい病変に ついて述べます。
腹部単純写真をみればパッと気がつく所見です。これには石灰化、金属などの高濃度の陰影と腸管ガスがあります。 写真を見たときには、すぐに白くて目立つ石灰化や金属に目がいきます。まず、金属の濃さと石灰化の濃さの区別ができないと困ります。金属のほうが明らかに白 く、辺縁まで明瞭に見えます。金属は異物です。なぜ、金属が体内にあるのかチェックが必要です。手術で忘れられたネジ、ガーゼかもしれません。誤嚥された入れ 歯かもしれません。虫垂にバリウムが残っていることもよくあります。バリウム糞石ですが、虫垂炎の症状があれば虫垂破裂の危険性があります。 石灰化は金属より淡く見えます。骨と同程度の濃さです。
石灰化を見たときに、重要なのはそれは何かと考えることです。考え方の手順を述べます。 第一に石灰化の部位と形から考えます。 昔の話ですが、第 2 次世界大戦時代に使用された造影剤のトロトラストと呼ばれるものが、肝臓、脾臓、リンパ節の細網内皮系に取り込まれ濃い不規則、不均一な陰 影として観察されました。α線を出すため血管肉腫の発生が報告されており、腹部単純写真で知っておかねばならない所見でした。しかし、今ではティーチングファ イルでしか見ることはないでしょう。 肝臓に多発性のリング状の石灰化をみればエキノコッカスを考えねばなりません。上でも述べましたが、骨盤内の膀胱周囲に丸い同心円状の石灰化があれば静脈結石 で病的意義はありません。 骨盤内の石灰化には、静脈石のように形が特徴的なものが多いです。桑実状の 1cm以上の石灰化をみれば子宮筋腫の石灰化、歯牙の形は卵巣奇形腫の石灰化、膀胱結 石は丸い石灰化が多いです。 腎臓に重なり腎盂、腎杯の形をみればサンゴ状結石、腎結石、大動脈に沿うように分布している石灰化はリンパ節の石灰化を考えます。 脾動脈や腎動脈あたりにリング状の石灰化があれば動脈瘤の石灰化を考えます。 第二には、石灰化に特徴的な形がないときには、臨床症状を参考にして、石灰化の存在部位から推測します。 右季肋部痛と右上腹部の石灰化で胆石、右下腹部の痛みと石灰化で虫垂炎、血尿と尿路(と思われる部位)に一致した石灰化は尿路結石と診断します。
次に目に付くものは腸管のガス像です。ガスが多ければひと目でわかります。
ガスが多いか少ないかはすぐわかりますが、前述しましたが、異常か正常かの判断がむつかしいです。少々拡張した大腸ガスは正常です。小腸にも少しぐらいあ っても問題ありません。ではどこからを異常とするのでしょう。 正常小腸に関する「3 の法則」というものがあります。壁の厚さは 3mm 以下、正常の小腸粘膜襞(ケルクリングひだ)は 3mm 以下、小腸の直径は 3cm 以下、腹部単 純写真でニボーは 3 個以下ということです。小腸に途切れ途切れにガス像があるのは異常ではありません。拡張した小腸ループが長さ10cm ぐらい連続してみえて いるときには異常といえます。
大腸では、正常の盲腸径は 9cm 以下です。盲腸以外の大腸は 6cm 以下です。異常な腸管ガス像をみたとき、大腸か小腸、空腸か回腸の判断が重要です。大腸の走 行は固定されています。右側腹部に上行結腸、右から左に横行結腸、左側腹部に下行結腸があります。糞塊、ハウストラから大腸と判定します。 寝たきりの人、体を動かさないひと、腹水のある人では、腸管の動きも悪く単にガスがたまっているだけのことよくあります(鼓腸)。 閉塞機転があるかどうかは、肛門側の腸管にガスがあるかどうかで判断します。 肛門側腸管に空気がまったくなければ完全閉塞、少量があれば不完全閉塞と診断します。閉塞早期の場合では下位腸管にガスや糞塊が残っていることがあります。
本邦では、イレウスとは腸管閉塞、あるいは腸管の通過障害があるときに使用する言葉ですが、アメリカでは消化管閉塞(GI obstruction、 小腸閉塞 small bowel obstruction (SBO))と呼び麻痺性イレウスと混同しないようにしています。機械性イレウスとも呼ばれる病態です。腹膜炎などで腸管が動かない、蠕動が消失し たものは麻痺性イレウスと呼ばれます。若い医師達はこれらの区別もせず、ただ単に腸管のガスが多いだけでも、イレウスあるいはサブイレウス(subileus)とい った言葉を使っていることがあります。ちょっとガスが多ければサブイレウスといった、どっちつかずの、いい加減な呼び方をしています。サブイレウスなんて言 葉は教科書にはありません。
腹水のある患者、寝たきりの患者などでは腸管の動きも悪い。その結果、腸管ガスが増加しますが、これは単にガスが貯まった状態(鼓腸)でありイレウスでは ありません。異常な拡張がない、少し拡張があっても拡張した 1 本の小腸ループが10cm を越えない、大腸ではハウストレーションが保たれているときには腸管ガス 像は正常であると判断します。 腸管閉塞によるイレウス(機械性イレウス)では、閉塞部より手前が拡張し閉塞部より遠位部にはガス像がないかあっても少量です。従って拡張した腸管部位を 同定することで閉塞部位、原因を推定しなければなりません。まず、小腸なら癒着による変化を考えるし、大腸なら腫瘍による閉塞を疑います。機械性イレウスでは、 立位写真でニボーを認めます。腸管に蠕動圧がかかっていれば、ひとつの腸管ループのニボーに段差ができています。 イレウスの原因でもっとも多いのは以前の手術による癒着です。治療は胃管やイレウス管を挿入し減圧し様子を見ます。一般的に、1 週間で改善されないときに は手術を考慮する必要があります。経過の腹部単純写真で、閉塞部より下位にガスが出現したり、拡張した腸管がなくなれば改善したと判断します。 汎発性腹膜炎による麻痺性イレウスでは、小腸、大腸すべてが同じように拡張しています。また上腸間膜動脈閉塞などでは、上腸間膜動脈の支配域の腸管、すな わち小腸から横行結腸までの腸管の拡張を認めます。 麻痺性イレウスの一型として限局性麻痺性イレウスがあります。急性膵炎のと き十二指腸あるいは上部の空腸、急性胆嚢炎のとき右上腹部の腸管の一部、急性虫垂炎のとき虫垂周囲の腸管の一部がぽっかりと拡張することがあります。これ はセンチネルループサイン(Sentinel loop sign:見張り番ループサイン)と呼ばれます。腹部単純写真で、限局性の腸管拡張を見た場合、このあたりに疼痛が強い のだろうとか、炎症があるのではないかと疑うサインです。
小児では、肥厚性幽門狭窄、先天性十二指腸閉鎖、腸重積、ヒルシュシュプルング病、鎖肛等いろいろな腸管閉塞を来す疾患があります。小児では、成人とち がって、小腸にガスがあるのが正常です。異常かどうかは異常な拡張かどうかで判断します。
明らかな、 10cmをはるか超えたような腸管ガスを見たときには、潰瘍性大腸炎などで発生する中毒性巨大結腸症(Toxic megacolon)や、S字状結腸捻転症によるS 状結腸ガスによる異常な拡張を疑います。 Coffee bean sign といわれるサインもあります。ほかに老人の麻酔手術後にみられる急性胃拡張などもあります。
腸管ガスがまったくない状態も異常として気づきます。このような状態をGasless abdomen と呼びます。 原因には機械性イレウスで腸管が空気でなく腸液で満たされてしまったとき、あるいは、よくみられるのが下痢と嘔吐を繰り返して、腸内の空気が排出されてし まったときなどがあります。イレウスで腸管に腸液が充満している場合との区別が問題になりますが、腸液がつまっている場合には腹部全体の透過性が悪くなる、あ るいは超音波検査で観察すれば簡単にわかります。このほかにも、瘻孔形成のない小児の先天性食道閉鎖でも腸管ガスは全く見られません。
慣れると一目でわかるのですが、慣れていないとなかなか発見さえできないものがあります。これには大きな臍部まで達するような卵巣腫瘍や巨大子宮筋腫などが あります。 大きな腫瘤直径が 10 cm を越えるような腫瘤でも単純写真で発見することは難しいです。腎 臓と同じぐらいの大きさの腫瘤を想像してください。腎臓はある場所がわかっているのと、周囲が脂肪に囲まれているので輪郭がわかりますが、濃度だけで腎臓を見 つけることは困難です。腫瘤は軟部組織と同じ水の濃度であり、腹部単純写真ではその部分の濃度がすこし濃くなるだけでしかありません。わずかな濃度差を発見 しなければならないので、名人芸、プロの目が必要です。アマチュアは、腸管ガスや臓器の偏位などの間接所見で腫瘤を疑うのがよいと思います。腫瘤によって 圧排された腸管ガスなどに注意して腫瘤の存在診断や大きさの診断をするしかないと思います。 非常に大きな腫瘤を来すものとしては、卵巣腫瘍・子宮筋腫・大動脈瘤などがあります。そのほか、膀胱や腸管が腫瘤様にみえる(pseudotumor)こともあるの で注意が必要です。神経因性膀胱などで拡張した膀胱と思えば導尿により 1000ml以上の尿を認め診断ができます。
最後に、ただ黙ってみているだけでは発見できないような所見について述べます。知識があり、それを探す目的で読影しないと見えない所見です。読影力の差のでる 所見です。
少量の腹腔内フリーエアー(free air、 pneumoperioneum)は見ようと思わなければみえません。フリーエアーを探すときはそれなりの症状があるので、まず存在す れば見落とされることはないでしょう。 立位の胸部写真や腹部単純写真でよくわかりますが、横隔膜の下ではなく肝臓の下あたりに存在する少量のガスや、S状 結腸穿孔のフリーエアーで、腸管ループ間にあるものの診断は非常に困難ですが、慣れてくると見えてきます。 また昔の話ですが、消化管穿孔が疑われる患者の撮影では、臥位の状態から立位あるいは座位にして少なくとも4-5分は待って撮影しなければならないといわわ れていました。今では、このような患者さんは最初から CT をすべきです。背臥位の写真では大量のフリーエアーでさえもわかりにくいものです。腹部全体の透過 性の亢進や腸管内と腸管外の空気によって腸管壁がみえてくる (Rigler サイン)ことで診断します。 次に、珍しい病態ですが、腸管嚢腫様気腫症があります。腸管壁内に線状あるいは嚢胞状にガス像を認める病態です。原因不明といわれていますが、肺気腫患者に 見られたり、消化管手術後に見られたりします。腸管ガスの見え方が奇妙に見えます。腸管壁をプロフィールで見ると腸管壁内に線状、嚢胞状のガス像を認めま す。腸管を正面にみると腸管ガスが網状にみえ、そのため普段はみられないような奇妙な腸管ガスに見えます。ときに穿孔を起こしフリーエアーを来すことがあり ますが、腹膜炎の臨床症状がなければ経過観察でよい疾患です。有機溶剤を扱っている人とか膠原病の人に見られるとも言われています。内科や外科の先生では、 人生で一度は見る機会があるのではないかと思います。フリーエアーがあるけれど、手術してはいけない、経過観察でよい疾患ですのでしっかり覚えておく必要があり ます。
肝臓に重なりガス像を認めることがあります。壊死性腸炎では腸間膜静脈内にガスが侵入するため門脈内にガスが発生します。全身症状は敗血症症状で重篤です。 ガスは門脈血流により運ばれるため、肝末梢部分に樹枝状のガス像を認めます。 肝門部など、太い胆管内にガス像を認めるのは胆管内ガス像(pneumobilia)です。乳頭切開術や、形成術あるいは胆管や胆嚢と腸管とのあいだに瘻孔形成があるとき 認められます。特に症状はありません。ガス像の分布および症状が鑑別のポイントになります。 そのほか、気腫性胆嚢炎、気腫性腎盂炎があります。ガス産生菌による感染により胆嚢壁、腎盂壁、腎実質にガス像を認めます。 また、後腹膜内膿瘍などで内部にガスを認めることがあります。大きいものでは立位の写真でニボーを認めることがあります。
腫瘤が大きく腫瘤を発見したものの、腫瘤の大きさの割に透過性がよいことで脂肪成分の存在を指摘することが可能です。しかし、小さい腫瘤ではまず無理です。 脂肪性腫瘤の代表的なものには、腎臓の過誤腫(血管筋脂肪腫)、卵巣の奇形腫(皮様嚢腫)があります。大きな後腹膜脂肪肉腫が腎臓を偏位させていることで発 見されることもあります。
イレウス初期には腸管ガス像が正常な時期があります。臨床的にイレウスが強く疑われるならば2-3時間後にもう一度腹部単純写真を撮影して腸管ガスの増 加、腸管拡張の出現の有無をみるのがよい方法です。イレウスかどうか迷うようなガス像の場合も、時間をあけて撮影すれば診断が可能です。 絞扼性イレウスは突然の発症のため、直後にとられた腹部単純写真では腸管ガス像に異常を認めないことがよくあります。臨床所見から疑う場合には直ちに造 影 CT を行い上腸間膜動脈血栓症や腸管壁の血流障害について検討すべきです。
今は US や CT で少量腹水の診断が可能なので腹部単純写真により腹水の診断をする機会はほとんどありません。しかし、腹水のみえ方について知っていて損はあ りません。 腹水の診断ができるのは臥位の写真です。立位写真では、腹水も腸管も骨盤のなかに落ち込んでしまいます。これらの濃度は同じで単純写真では区別はつきません。 少量腹水は、背臥位では肝臓と右腎臓の間隙(モリソン窩)にたまります。そのため、少量腹水では、肝右葉下縁がみえなくなります(Hepatic angle sign、 肝角 徴候)。このような場合、その立位写真では腹水が移動するため肝右葉下縁がみえてきます。 200-300ml 腹水では、骨盤内、膀胱の頭側にたまります。そのたまり 方が犬の耳のように見えるので Dog s ear sign と呼ばれます 。さらに増加すると、腹水は骨盤内からあふれ出て、上行、下行結腸の外側の結腸傍溝(paracolic gutter)にたまります。そのため腸管と腹壁の間が開いてきます。5mm 以上が異常であり これを flank stripe sign、側腹線条徴候といいます。 さらに腹水が多いと、腹部全体の透過性が悪く、腸管が全体に中心に集まってきます。腸管の中央化と呼ばれます。
さて、最後に、はじめに列挙した最近の腹部単純写真が撮られている理由の妥当性について考えてみましょう。
腹部単純写真に何を求めてオーダーするのでしょうか。患者さんを安心させるため?それは理由にはなりません。そんな理由で放射線被曝をさせてはいけません。 そんな理由で撮った写真なんて、どうせ一瞬しか眺めないでしょうから何かあっても見落とされます。 さて上のような理由で撮られた写真をじっと観察して発見される所見にはどんなものがあるでしょうか。
ということで、1の理由で、腹部触診に続いて、腹部単純写真が撮られるのは有用だろうと思われます。
○ 泌尿器科の血尿患者では、まず尿路結石の有無の診断が必要です。超音波検査で発見しにくい水腎症のない尿管結石も発見できます
○ イレウスなど腸管ガスの異常を観察する場合、腹部単純写真は非常に有用です。
△ 腹部全体を見るのに腹部単純写真は有用ですが、頭部から腹部まで全身を検索する必要がある場合には、CTが優先されるべきと思います。とくに短時間で撮 影できるマルチスライスCTでは、冠状断、矢状断の再構成画像が簡単に作成できます。少量の腹腔内出血も、フリーエアーも、さらには引き続いての造影CTで血管損 傷、出血部位までも診断が可能です。時間をかけ、患者に負担をかけて立位胸部単純撮影、腹部の立位、臥位の写真を とっても、CTに比べると得られる情報量は極端に少ないです。単純写真のあと、どうせCTが必要と思うならば、最初からCTをすべきです。 CTのないところでは、昔ながらの胸部、腹部の 3 枚の写真を撮って診断するしかありません。
△ 上にも述べましたが、一刻を争う急性腹症ではCTのほうが圧倒的に時間的にも早く、十分な情報量を得ることができます。腹部単純写真で見えるものはCTで 見えるのであえて腹部単純写真は必要ないと思われます。しかし、石灰化のない胆石やごく少量の腹水を見るためには超音波検査は必要です。 CTを撮っても読影ができなければ何もなりません。単純CTだけでよいのか、造影CTもしなければならないのかも即座に判断できる程度の読影能力と、造影CT適応の 知識が必要です。 しかし、なんでもかんでもCTというのはどうかと思われます。急性虫垂炎あるいは胆石症発作などが疑われる場合、 最初からCTをしてしまうのは問題です。 やはり、 現病歴、理学所見から適切にCTか腹部単純写真か判断できる医師であって欲しいと思います。
△ 急性腹症と同様です。全身状態などの臨床所見から急ぐものはCTを、時間的に余裕があるならば腹部単純写真からという判断が必要です。 最後にCT や超音波検査のなかった時代には、腹部単純写真は胸部単純写真と同様に腹部症状を訴える患者のルーチン検査でした。胸部写真は現在でも潜在性結核病変 の発見などのスクリーニング検査の意味がありますが、腹部単純写真がルーチンに撮影されることはありません。たとえ、新規入院患者全員にスクリーニングと して撮影しても、変形性脊椎症や臨床的に問題のない石灰化ぐらいが発見される程度です。費用対効果、被曝のことを考えるともはや腹部単純写真はルーチンに 撮影するものではありません。
時代とともに、新しい検査方法、画像診断装置が出現し検査の適応も変化していきます。これまでの画像診断にこだわることなく、患者さんにとって最も良い検査 を適切に行なわなければなりません。 研修医のときにこそ、そして、またいつの時代も「なぜこの検査が必要なのか」 「本当に必要な検査なのか」を考えながら検査をオーダーし、画像はちゃんとした読影手順に則って読影する訓練をしなければなりません。そうでなければ、10年後 もあなたは惰性で検査をオーダーする医者になってしまいます。研修医に検査をする理由を聞かれても答えることができず、画像の読影も研修医より劣った医師にな ってしまいます。大変ですが 10 年目が 10 年目らしくあるためには、研修医のときのすり込み、すり込まれが大切です。
<<< Ask not what your country can do for you - ask what you can do for your country >>> -- John F. Kennedy (from his Inaugural Address). <<< The common good before the private good. >>> -- One of the slogans of Nazism in Nazi Germany. -- Based on a page on an Objectivism Site -- Glossary of Nazi Germany in the Wikipedia ( http://en.wikipedia.org/wiki/Glossary_of_Nazi_Germany ) Had I not been already insane, I would have long ago driven myself mad. "The Enemy and how I Helped to Fight It" Shlomi Fish -- Shlomi Fish -- Shlomi Fish's Aphorisms Collection ( http://www.shlomifish.org/humour.html )