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Spinal Automatism 脊髄自動反射

刺激に反応して反射性に下肢が三重屈曲する現象であり、Vulpian, Charcotにより発見された。 Marie, Foix, Babinskiにより詳細に臨床的研究がされている。両下肢の運動麻痺によって発現する、 脊髄の自律的な反射機構が上位の抑制から解放されて顕在化したものと考えられている。 屈曲する関節は、股関節、膝関節、足関節で、下肢三重屈曲現象とも呼ばれる。

誘発手技

背臥位で下肢を伸ばして脱力した状態で行う。

刺激部位

足背が良く、誘発領域の確認のためには、足背、下腿、大腿、腹部と上行して、上界を決める。足底は紛らわしいことがあり適さない。

刺激方法

痛覚刺激
最もよく使われるのが、安全ピンでつつくか、爪で痛みを感じる程度につまむのが良い。 刺激時は、連続して刺激が加算されるようにするのが良い。刺激を数秒間続けて、反応なければ陰性、 反射が強いときには、短い刺激で陽性になる。意識のある患者では、下肢を動かさないように説明してから刺激する。 不意の刺激により、逃げることがある。痛覚が鈍麻・脱失している場合でも、反射は出現しうる。
冷感刺激
氷の入った試験管を使う。誘発されやすく、上界を決める際には、足背、下腿、大腿、腹部と転がしていく。
剥ぎ取り試験
患者のかけている毛布を急に剥ぎ取ると、下肢が三重屈曲することがある。痛感・冷感刺激より有効なことがあるが、 繰り返しても2回目からは出現しづらい。
Marie-Foixの手技
足趾を受動的に底屈する。検者は、一方の手で第2~5趾の基節を引き延ばしながら、底屈するように下に押す。 この際、痛み刺激を伴わないようにすること。
自発的屈曲
自己の身体内の刺激により反射を誘発する場合があり、例えば、膀胱に尿が充満したとき等がそれにあたる。 また、睡眠中等、閾値が何らかの原因により低下した場合、屈曲現象が起きる場合がある。

反射の強度の評価

刺激を受けた下肢の屈曲の程度を以下の4段階に区別し、病態の重症度に対応させる。

単収縮性三重屈曲 (twitched triple flexion)
反応が軽微で、ぴくっとした下肢屈筋の収縮とともに、下肢が一回の軽い三重屈曲運動を呈する。 やや強いときには、2~3回の筋収縮を呈し、下肢がぷるぷると震えるように小さく屈曲する。
相動性三重屈曲 (phasic triple flexion)
下肢は明らかに三重屈曲を停止、非持続性の一連の筋収縮から成り、刺激を停止すると直ちに元の伸展位に戻る。
強直性三重屈曲 (tonic triple flexion)
下肢は強直性に筋収縮を来たし、刺激を止めても筋収縮はしばらくの間屈曲位をとっている。 強い場合は、大腿は腹に、下腿は大腿に接近し、踵は床から持ち上がった状態となる。
持続性三重屈曲 (persistent triple flexion)
進行性の病態の場合、三重屈曲を繰り返しているうちに、三重屈曲が永続的な肢位となり、筋硬縮が加わり、 非刺激状態でも、三重屈曲位を持続するようになる。この状態では、両足は、重なり合った肢位をとるようになる。

現象の発現の機序と症候学的な意義

脊髄自動反射は、下肢が麻痺して自発的な屈曲ができない状態にもかかわらず、刺激により屈曲が生じることから注目されている。 そのため、従来は、運動麻痺があって初めて反射が生じると考えられてきた。例えば、脳卒中直後、片麻痺に脊髄自動反射を伴い、 病状の回復と共に反射が改善するとか、脊髄腫瘍で運動麻痺が進行すると共に脊髄自動反射が出現する等、 錐体路障害により脊髄が上位の抑制から解放されて、脊髄本来の下位の反射機能が顕在化するのだと考えられてきた。 しかし、錐体路性運動障害とは必ずしも関係なく、例えば、運動麻痺がほとんど見られない症例でも脊髄自動反射がみられることがあったり、 病状の回復と共に運動麻痺が改善したが、脊髄自動反射は残存した症例等がみられた。 このため、錐体外路・錐体路の両方が障害された場合に脊髄自動反射が生じるようになるのではないかと考えられるようになった。 また、筋萎縮性側索硬化症においては、錘体路、特に皮質脊髄路が変性するが、脊髄自動反射が誘発されることはまれであり、 このことも、この反射が複数の神経路の障害により生じることの裏付けとなると考えられる。

脳疾患における脊髄自動反射

脳性の片麻痺の症例のすべてについて脊髄自動反射が見られるわけではないが、脳卒中発作直後より出現することがある。 特に麻痺側に著明に認めることが多いが、反対側で見られることもある。健側の刺激により患側の反射を引き起こすこともある。 発作後時間経過に伴い、脳腫脹等の脳障害が回復し、反射が減弱していくことが多い。 また、病状が進んでいくと、わずかな刺激で屈曲位が生じ、健側も同様の位をとるようになることがあるが、詳細はわかっていない。

脊髄疾患における脊髄自動反射

筋萎縮性側索硬化症においては、脊髄自動反射が現れることはまれで、あっても極めて軽いことが多い。 しかし、脊髄を横断性に傷害する病変を持つ場合は、両下肢に反射が出現することが多い。 例えば、脊髄圧迫性病変による対麻痺、多発性硬化症の重い症例、脊髄空洞症、前脊髄動脈症候群、神経ベーチェット等では、この反射が出現することが多い。 進行性の病態では、腱反射の減弱と共に脊髄自動反射は亢進する。このことは、疾患が進行性で予後不良であることを示す徴候であると考えられている。 [4]によれば、筋萎縮性側索硬化症の中で特に下肢の運動麻痺・筋萎縮が軽い症例で、脊髄自動反射を調べたところ、すべて陰性であった。 この反射に関与すると考えられているdorsal reticulospinal systemの起始核である延髄毛様体大細胞核がALSでは侵されないため、 錐体外路の障害がなく、脊髄自動反射は生じないと考えられている。 脊髄外傷や脊髄血流障害等の脊髄ショック後に脊髄自動反射が生じてくることがある。これを腱反射の出現等と考えると、 病状の回復等と判断を誤ることがあり、注意が必要となる。

まとめ

脊髄自動反射は、錐体路・錐体外路の両方の障害により生じる反射と考えられている。反射の生じる上界を適切に評価することで、 上位診断を行うことができ、画像では診断しづらい症例でも、病変の範囲を知ることができる。また、反射が見られる症例では、 病状の改善とともに反射の減弱が見られることがあり、病態・病状の把握のための一助となりえる。

参考文献・図出典

[1] 平山惠造:脊髄自動反射、防御反射.神経症候学、pp.557-562、文光堂、1971.
[2] 下江豊 :脊椎脊髄疾患の神経症候学、脊髄自動反射.脊椎脊髄ジャーナル、pp.39-43 1999.01
[3] 下江豊 :脊髄自動反射発現に関する多変量解析による検討、臨床神経学、pp262-266 1995.03
[4] 平山惠造 :脊髄自動反射の臨床と病態機序に関する知見補遺、神経研究の進歩、pp763-772 1982.08

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