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尿路感染症のまとめ

考え方はどの感染症も同じ
1 患者背景を理解する
2 どの臓器の問題かを追究する
3 原因微生物を追究する
4 抗菌薬を選択する
5 適切な経過観察を行う

これを尿路感染症について考察すると

1 患者背景を理解する

男性か女性か?年齢は?→50歳以下の男性では尿路感染症は稀。発症した場合は性感染症や泌尿器科系基礎疾患の存在を考える。 50歳以上では前立腺肥大による尿路通過障害が基礎になっている可能性を考慮(あるいは感染症そのものが前立腺炎の場合もあり)。 男性の尿路感染症では直腸診が必須。
単純性か複雑性か?→尿路の流れを障害する解剖学的問題(前立腺肥大、腫瘍、結石)や異物(カテーテル、結石、ステント) の問題があるか(起因菌が異なる)?
感染成立の場所がどこか(市中?院内?施設?)?抗菌薬の使用歴は?→耐性菌のリスクに影響
免疫不全があるか?→特殊なpathogenの関与を考慮する必要があるか?

2 どの臓器の問題かを追究する

膀胱炎、尿道炎、前立腺炎、精巣上体炎、腎盂腎炎
病歴や診察所見から感染臓器を推定する
膀胱炎ならば恥骨上の下腹部痛、頻尿、排尿痛、残尿感などの膀胱刺激症状について問診。また、臨床像が類似する膣炎の除外のため 帯下の増加や外陰部掻痒感などについても聴取。
腎盂腎炎の場合は上記の下部尿路症状に加えて発熱、側腹部痛や背部痛、腹痛・嘔気・嘔吐などの消化器症状(けっこうある!) について聴取。CVA tendernessがあれば診断の助けになる。
カテーテル関連尿路感染症の診断はしばしば困難。下部尿路症状は分からないし、意識障害があって症状が分かりにくかったり 他の感染症のリスクも高い場合が多い。
前立腺炎は発熱、排尿痛、頻尿、会陰部痛、肛門部痛などあり。直腸診で高度圧痛。
男性の尿道炎は女性の子宮頚管炎に相当する。女性の子宮頚管炎はしばしば無症状で軽度の帯下の増加のみであったりするため診断困難。

3 原因微生物を追究する

市中の単純性膀胱炎、腎盂腎炎→圧倒的にE. coliが多い。他にK. pneumoniae, S. saprophyticusなど。
複雑性尿路感染症→市中の単純性の起因菌に加えてP. aeruginosa, Enterococcusなど。 グラム染色が必須(GNRとGPCどちらが優位かでmanagementが大きく異なる)!
前立腺炎→若年者ではClamydia trachomatis, N. gonorrhoeaなどのSTD pathogenが主体。高齢者ではE. coliなどの腸内細菌が主体。
男性の尿道炎と女性の子宮頚管炎→Clamydia trachomatis, N. gonorrhoea
いずれの場合も適切な検体(尿培養、尿道分泌物、血液培養など)を採取してグラム染色、培養により起因菌の同定に努める。 これをしていないと特に経過が思わしくないときに非常に悩むことになる。

4 抗菌薬を選択する

ここまでで特定した感染臓器、推定した起因菌に基づいて抗菌薬を選択する。
前立腺は抗菌薬の移行が不良な臓器であり移行性の良好なST合剤やキノロンの使用を検討する。
いずれの場合も培養検査で起因菌が同定されたら速やかにそのpathogenをtargetにしたより狭域の抗菌薬に変更する(原則的に単一菌感染である)。
急性腎盂腎炎で解熱が48時間以上持続すれば起因菌に感受性を有する経口抗菌薬に変更可能とされる。
カテーテル関連尿路感染症の場合は治療開始時にカテーテルは入れ替える(抜けるなら抜く)。

(例)

市中の軽症単純性腎盂腎炎
・CTM(パンスポリン) 1g 8時間おき
キノロンの単剤投与、ABPC ro ABPC/SBTなどは市中の大腸菌でも20~30%の耐性率が予想され、推奨しない。
市中の重症あるいは反復性腎盂腎炎
・CTRX(ロセフィン) 1-2g 24時間おき+GM(ゲンタシン) 3-5mg/kg 24時間おき
複雑性腎盂腎炎(特に反復性の場合はこれまでの抗菌薬の投与歴により起因菌の耐性度を推定して適宜regimenを選択)
(グラム染色でグラム陰性桿菌が優位)
CAZ(モダシン)1g 8時間おき±GM(ゲンタシン) 3-5mg/kg 24時間おき
(グラム染色でグラム陽性球菌が優位)
ABPC(ビクシリン) 1g 6時間おき+GM(ゲンタシン) 3-5mg/kg 24時間おき

5 適切な経過観察を行う

適切な治療期間を遵守する(急性膀胱炎→3~7日間、急性単純性腎盂腎炎→原則14日間、急性前立腺炎→2~4週間)。
腎盂腎炎で適切な抗菌薬が投与されれば72時間以内で解熱が得られる。72時間経過しても解熱しない場合は (1)同定されたpathogenが投与している抗菌薬に感受性を有するか確認(この頃に丁度判明する)
(2)合併症の検索(@1腎盂腎炎の治癒を妨げる合併症すなわち尿路の通過障害など@2腎盂腎炎の合併症の発症 (腎膿瘍、腎周囲膿瘍、気腫性腎盂腎炎など))を画像的に行う
(3)最初の診断を検討しなおす
(4)経過中に他の感染症や発熱の原因(薬剤熱など)が加わっていないか検討する。
CRPで一喜一憂しない。理詰めで攻めて確実な治癒を目指す。

Q:	What's tan and black and looks great on a lawyer?
A:	A doberman.

My opinions may seem crazy but they all make sense. Insane sense, but sense
nonetheless.

Shlomi Fish

    -- Shlomi Fish
    -- Shlomi Fish's Aphorisms Collection ( http://www.shlomifish.org/humour.html )


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