MEDICA(日本語サイト)は、 世界最大の医療機器の商談会の一つで、医療機器の加工技術、部品材料展COMPAMEDと同時開催されており、ほぼ毎年デュッセルドルフで開催されている。講義の一環で、一度訪問する機会があったので、記してみる。 記載の一部に誤りがある可能性があるが、ご指摘いただければ幸いである。
COMPAMEDには、医療機器に使われる技術を持つ企業が多数出展しており、樹脂材料・金属材料・成形・加工といった材料の部分に関する技術、
回路設計・モータ等の個々の部品に関する技術等、多岐にわたる。地方の自治体が、複数の企業をまとめてパビリオンという形で出展している場合もあるし、体力のある企業、または、現地法人が個別に出している場合もあった。
例えばモータに関して言えば、日本で比較的シェアを占めるオリエンタルモータ及びシナノケンシは両方とも出店があった。自身の研究に使うための脱調検知ドライバつきステッピングモータの納入先の検討の際に、
両社をよく調べたこともあって、個人的にも比較的興味深い企業である。CEマーキングについても両社とも対応済みであるが、付加価値及び出展方法に違いが見られた。オリエンタルモータは、
自社(正確にはORIENTAL MOTOR (EUROPA) GmbHという海外子会社)として出展していたが、シナノケンシは長野県の共同ブースとして出展していた。オリエンタルモータは、2014年の売り上げが466億円で、
うち海外比率が42%であるのに対し、シナノケンシは2014年の連結売り上げが426億円で、両社とも大差ないし、シナノケンシもShinano Kenshi Europe GmbHという海外子会社があるが、そちらからの出展はないようであった。
シナノケンシは、付加価値として、ブラシレスACモータに新開発の低騒音真空ポンプおよび加圧ポンプを組み合わせた商品を展示していた。モータの会社としては、海外のメーカも多数展示があったが、
日本からは2社以外には目立った出展がなく、日本の最大手の日本電産の出展はなかったようで、本業の重点度や新規事業開拓に対する考え方等の違いによるものと思われた。
日本電産は、2014年の売り上げが単体1,659億円、連結8,751億円で、2015年には1兆円を突破しているとのことで桁違いである。MEDICAの方には、SONYとかTOSHIBAとか名だたる大企業がそれぞれのブースを出していたのに比べると、
COMPAMEDはそうでもなくて、その見本市の性格の違いがあって興味深かった。おそらく、COMPAMEDには、これから新たな事業を展開しようと考えており、積極的に動いている、いわゆる医療機器開発にやる気のある製造業が出展していると考えられる。
逆に、日本電産のように、それほど医療業界のパイを魅力的と考えない大企業は来ないのかもしれない。多くの医療機器、特に検査系の機器の可動部分にはすでに日本電産のモータが多く使われているので、新規開拓する必要があまりないと考えているのだろうか。
研究用の機器選定の際に接することのあった企業(例:TDK/連結売上8088億円、SMC(焼結金属工業)/連結売上4580億円、村田製作所/連結売上1兆435億円、HAMAMATSU/連結売上1120億円)
が多く出展していたが、その殆どが現地子会社であり、後から統計で売り上げを見て、その企業の規模に応じて行うことは比較的似通ってくるのだと感じた。日本電産については、他の企業に比べて企業買収に非常に積極的で、今の売上高を作っているのだと感じた。
長野ブースに出展していた上田日本無線は、無線用機器・電子部品・ソフトウエア等、多岐にわたる商品を開発製造しているが、
医療用のエコープローブのかなりのシェアを占めている。担当の方によると、日本で使われているほとんどの医療用エコーのプローブは同社製だそうであるが、展示している商品は、プローブの内部部品が数個程度と、
出展するのはあくまで儀式程度のようなプレゼンテーションであった。さらに詳しく伺うと、すでに採用してもらっている会社との交流を主眼に置いているとのことであった。
エコーの機器は、MEDICAの方にたくさんの会社の製品が展示されていたが、肝の部品は1~2社が独占しているようである。一つエコーの医療機器を開発するのにはだいたい10億円程度必要であるとのことで、
プローブからアナログフロントエンド・信号処理のIPコアまで、適宜選んで開発することができるとのことである。上田日本無線自社ではエコーは作らないそうで、それは一つの経営戦略と考えられた。
めまぐるしく変わる医療環境・国際的な顧客の変化に対するリスクまで負うよりは、一部品メーカとして底辺で市場を独占するという戦略であるのだろう。
最近三菱の新型ジェット機開発の話題を聞いたが、日本製航空機開発に関しては、組織的な面からの否定的な意見があるようだ。翼等の部品のみで言えば、日本製というのは多いが、最終製品を作る企業の場として現状、日本は難しいのかもしれない。
アップルの製品の部品の数多くが日本の製造企業によるものであることは有名であるが、最近、下請けがアップルを相手取って裁判を起こしたことが報道されたのを耳にしたのを思い出した。アップルが下請けに非常に厳しいことは有名で、
たとえて言うと、「日本全土がアップルの下請け」のようになって、利益を蝕まれているという。島野製作所はアップルに特殊コネクタを下ろしていたが、設計図ごと安いところに持って行かれた上に、
安くなった分の金額を過去にさかのぼって請求されたり、専用の工場を要求されたり、専用工場の稼働率を補償しなかったりと、圧力をかけられたようで、提訴に踏み切ったようである。利益率を度外視してまで下請けを行わないというのが現状では一つの解なのであろうか。
医療機器の分野では、価格圧力が比較的かかりにくく、現在のところは、アップルと下請けのような問題がまだ起きにくいのであろう。
しかし、妥当と思っていた値段自体、職人に対して、実は買いたたいているのかもしれない。
MEDICAは非常に多くの企業が出展していることもあって、分野別に大きく分けられてブースが割り当てられている。大きな建物自体、10程度あり、医療材料、衛生材料、ベッド・什器、体外診断用医療機器、
一般研究機器、いわゆる外来で使われる医療機器、手術室で使われる医療機器等、の分類で分けられている。一日ですべてを回ることは困難であり、2日目は、医療材料・診断用機器及び什器のブースを主に回った。
医療材料、特に使い捨ての製品に関しては、中国の出展が非常に多く、一つの建物にまとめられている材料区分もあった。実際の診療で使う使い捨の製品の多くには中国製の記載があるが、
実際の製造元は記載されておらず、基本的に輸入元か販売元の記載しかない。見たことのない会社名ばかりであったが、どの会社にも、使い捨て用手術着、手袋等、どこかで見たことのある製品が展示されており、
普段使用している製品のいくつかは、それらの会社のどこかで作られているのであろう。ただ、輸入業者は、これだけたくさんの会社からどのように選んでいるのであろうか。回っている間に、
商談をしているブースは数パーセント程度であった。実際にはどのような判断基準で製造業者を選んでいるのかは非常に興味がある。
什器の企業の建物には、来場者があまりおらず、閑散としていた。このような製品は、システム納入業者が選定することが多く、単体で購入することがおそらくほとんどないのであろう。
診断用機器については、心電計の出展が比較的多い様に見えた。日本光電出身の方によると、心電計は「電子紙芝居」で、扱う電圧自体あまりノイズに困るものでないので基本的に相応の技術があれば作れる物なのだそうで、
その考えを参考にすると、心電計というのはとりあえず医療機器企業を起業したらまず作って売りたい製品、市場がある製品なのだろうか。心電計については、
日本では片手に入るくらいの数の企業の製品しか見たことがないので、その多さが印象的であった。企業・起業風土の違いからくるものかもしれない。
作れる技術はたぶんあるけれど作らない理由、というのを考える機会が今回の研修では結構あったように思うが、学の世界では基本的にありえないことである。できるのであれば基本的につぎ込めるだけの労力・
時間・金を使って研究するというのが学問・研究の世界であり、医療機器開発の死の谷は、谷どころでなく、異世界なのかもしれないと思った。
開発が非常に難しいという印象があったエコーの製品が数多くの企業で出展されていた。上田日本無線の方の話によれば、開発費さえあれば、
肝の部品と回路とIPコアを買ってきて組み合わせればできるものなのだそうで、アップルのような価格競争が起きないことを祈るばかりである。最近では、携帯電話も、エコーの例と同様に、
コアの部品とソフトを組み合わせて開発できるものになっており、中国製の安価な製品を目にするようになったことを思い出した。では、なぜ、この安価な製品が日本では出ないのか、
開発されないのかといえば、企業風土の違い・経営の考え方の違いに原因を求めるしかないのだろうか。
NRW・JETROの朝食会は、ドイツNRW州の企業の技術を生かせる医療機器開発のためのマッチングを意図して開催されたものであったが、非常にやる気のある日本の企業との交流を深めることもでき、
大変有意義なものであった。当朝食会では、ドイツの企業との交流に関しては、意図されていたほどは行われず、MEDICA会場でのブースでの交流も重要とのことであった。
MicroStone社は、長野県に本社のある、加速度等のセンサ技術を基盤とした会社で、朝食会では白鳥社長ご本人とのお話をすることができた。
別の記事によると、「白鳥社長は前職の時計関連メーカーで18年間センサ開発を担当していた。会社がセンサの開発を中止し、液晶開発へ転換してしまう。自分ではどうしてもセンサの開発がやりたくて平成11年に創業することとなった。
その背景には、創業の3年前に父親が入院した際に、食事ばかりに気を遣い病人の行動すらセンシングできない病院の遅れを感じ、センサで何か役に立ちたいという思いがあった。
人間の1日の行動記録をセンサでとらえることにより、病状のチェック、健康管理、病気の予防ができるようになるのではないかと考えていた。」とのことである。ホームページに光るウチワが掲載されており、
お伺いしたところ、小さなアイデアから生まれた商品で、ウチワを振るとLEDの色が変化する商品とのことであった。個人的には、そんなに売れるものかと懐疑的に思っていたこともあり、
あまりお伺いしなかったが、後日調べたところ、大手音楽会社のイベント公式グッズ・キャンペーン・コンサート・ライブの採用が多く、年間10~15万本販売されており、特許による保護もあって、
主力製品であった。特許の効果もさることながら、アイデアを一面からのみで評価することの危険性が痛感された。
後ほど、出展ブースにお伺いし、海外展開を考えている歩行分析計を拝見した。ブースを、JETROや地方自治体経由で出した場合、場所が必ずしも自分の考えている分野と一致しないところになることがあり、
リハビリ部門の場所を自力でとったとのことである。お伺いした時点で、すでに複数の代理店からの強い申し出があったとのことで、技術基盤の強さが感じられた。
会社の創業・製品の開発のお話から考えて、製品がニーズを生み出すような事例とも捉えられるように思われた。
海外展開を考える際には、企業の規模に応じて、海外の代理店を通じた商売をするか、海外に子会社を持つか、営業所を持つか、多くの選択肢がある。比較的小規模から開始する場合、 代理店の力が非常に重要となる。英語圏以外の国々においても、英語が通じることがほとんどで、数多くの地域から代理店の担当者が来場し、商品及び市場、販売経路、決済の方法等について詳細な話がされた。 以前まではあまり意識したことがなかったが、海外との取引の場合、銀行間送金以外にもいくつかの方法があるとのことで、国内では考えたこともなかったようなトラブルが生じることもあるようである。
Good day for a change of scene. Repaper the bedroom wall. I'm a peripheral visionary: I see into the future, but mostly off to the sides. -- One of Nadav Har'El's Email Signatures.