Q:	What do they call the alphabet in Arkansas?
A:	The impossible dream.

We're programmers. Programmers are, in their hearts, architects, and the first
thing they want to do when they get to a site is to bulldoze the place flat
and build something grand. We're not excited by incremental renovation:
tinkering, improving, planting flower beds.

    -- Joel Spolsky
    -- "Things you Should Never Do, Part I" ( http://www.joelonsoftware.com/articles/fog0000000069.html )


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中本信忠著
   『生でおいしい水道水』 
ー ナチュラルフィルターによる緩速ろ過技術 
 築地書館 2002年5月20日初版
   2,000円+税 200頁
 
 
一言でいえば、現在の水道で中心となり主流となっている急速ろ過法に、
緩速砂ろ過法を対置し中心にすえて、現在、水道が抱えているさまざま
な問題を解決して、安くて、安全で、おいしい水を提供する方策を提案
している本です。
一読、認識を新たにしたのは、生物学的な視点の必要性です。
 
緩速砂ろ過法は、うっすらと残っている習った記憶を振り返ってみると、
「古い技術で、急速ろ過法に比べてスピードに劣り広い敷地を必要と
するので、現在はもう使い物にならない、詳しくはイギリスへ行くか
文献で調べるように」
というようなことでした。
 
そのとき、緩速砂ろ過法を砂による物理的なろ過作用(篩=ふるいの働
き)ととらえていました。
その目づまりをおさえるために、ゆっくり、多くのスペースを必要と
するのだと考えていました。 
 
それに対して、急速ろ過法は、その延長にあって、高度な物理的化学
的手法でその限界を越えようとするもの、それが今日、さまざまな
問題を生み出している、と考えていました。
 
ところが、この本を読んでそれは違うということを知りました。
緩速砂ろ過法は、生物的処理法である、とされています。
 
砂と沈殿池は物理的な「ろ過」だけの世界でなくて、そこに生息する
微生物、藻(これが邪魔者ででなくて不可欠)、小動物のはたらきに
よる生物的な処理工程とされています。
(それを誤って、化学的手法で台なしにして、緩速砂ろ法の長所を
つぶしてしまった例がいくつか紹介されています)
原理的に異なるわけです。
 
とすると、風景がずいぶん変わってきます。
そうなれば塩素はもう不要なのでは?
 
実際、著者は不要と言っています。
山や沢の水を生でおいしく飲んだ時代の水を取り返せるのだろうか、
腐葉土と伏流によってつくられた水を身近にできるのだろうか。
こうなれば、緩速砂ろ過について本気で調べてみよう。
だいたい、古いとされている技術のなかに、多くの学ぶべき知恵が
あり、生物としての人間のあり方に合致しているのは、いくつも
あることです。
およそ、以下のような視点でこの書物は、整理され再構成されるの
ではないかと思います。
 
刺激的で読みながら考えることがいっぱい湧いてきて、頭の中は大変
です。
著者のサイトもほとんどほんと同じコンテンツがデジタル化されて
います。
 
1、現在の水道水をどうみるか。
今のままで十分満足しているか。
ガソリンより高いペットボトルを買ってでも、安全な水がほしい、
うまい水がほしい、という現状。
水道事業としての見直し論がもう既に不可避。
(大規模、高度処理、多額の予算。道路に続いて水道の見直し)
しかも、水道自体がエネルギー多消費。
 
2、水道水提供の原理的な手法の問題。
人間にとって飲用水とは?
生物ろ過法としての緩速砂ろ過法、200年前イギリスで、
原水と関与する生物。
緩速砂ろ過法の歴史と発展
急速ろ過の方法
何故、アメリカで発達してきたか。原理。
その発展の頂点と再認識のはじまり
転換点、クリプトスポリジゥムのつきつけたもの(塩素がきかない)
 
3、戦後日本の高度成長と水道
日本の飲用水、水と日本
都市化、集中・集積と水道の役割
戦後史と水道
自治体と水道事業、地方の浄水場の現状
にっちもさっちもいかない巨大な都市集積/過疎の農村
 
4、人間と水。今後の課題
世界的な水問題と日本。
安全、安心、安価な水とは
緩速砂ろ過法の日本での実績、現状、現地に応じた工法、
アジア、アフリカの水問題と緩速砂ろ過法
 
5、下水道、汚水・生活排水、廃水処理、水処理との接点。
水源の問題、森林、河川、湖沼、海。水源への放流=水道原水の取水
方法の問題
水の循環、物質の循環ということ。
 
【参考サイト】
著者のサイト、信州大学研究室
 http://water.shinshu-u.ac.jp/
 http://water.shinshu-u.ac.jp/j_ssf/j_ssftop.htm
 
 
 
有田一彦氏 『あぶない水道水』(三一新書)の著者
 http://www.arita.com/index.html 
コメントや本の紹介
 
水道技術情報 狸の水飲み場
 (一般的水道サイトはここからほぼたどれます)
 http://www.arita.com/index.html 
 
−−−
http://water.shinshu-u.ac.jp/index.htm
 
    安全でおいしい水道水と生物
 
http://water.shinshu-u.ac.jp/j_ssf/j_ssftop.htm
 
   − 生物処理の素晴らしさ
 
 
塩素臭い水道水は安全だろうか。
 
  シドニーの水道水は飲めない
オーストラリア・シドニーの人口は370万人である。この水道水に下痢を起こさ
せる原生動物の休眠シストが市の水道に混入していることが明らかになり、
1998年7月から市当局は水道水を煮沸して使用しなさいという事になった。
1998年11月の現在も改善されず、大問題になっている。先進国の大都市のシドニー
で非常に高価な瓶詰めの水を市民は利用している。この浄水場は1993年に完成した
最新の浄水場で、世界一の規模の浄水場といわれている。
どうも薬品処理の急速ろ過という最新技術に落とし穴がありそうだ。
 
戦前は主流であった英国生まれの緩速ろ過処理の方が安全だ。
 
 
 緩速ろ過は生物ろ過。
 あらゆる生物群集が安心して活躍できる環境である。
入ってくる濁り物質は生物の餌である。餌がなければ生物が繁殖できない。
それは、清澄な水である。 急速ろ過はポンプで吸引するので、流れが不規則であり、
生物群集は流されてしまう。濁り物質は砂粒の表面に吸着もできない。だから、
細菌などが流出するので、塩素で殺菌する必要があった。でも塩素でも死なない
クリプト原虫のシストがいる事がわかり問題になっている。  
 
 簡易水道による施設を含めると、日本中には約3000の緩速ろ過による施設がある、
急速ろ過よりも数が多い。統計に載らない施設を含めると日本中で1万位の施設が
ありそう。大きな浄水場だけの統計で全てと誤解していたようだ。
 
 
  日本の近代水道の始まり
 
 江戸から明治にかけて世界的に水系伝染病のコレラが大流行した。
日本でも多数の死者がでた。1878(明治11)年5月警視庁令として、また内務省
でも「飲料水注意法」が出された。安全な水道水の普及には二人の英国人技術者
の寄与による事は有名である。パーマーの指導により1887(明治20)年には横浜に
日本で最初の緩速ろ過による浄水場が完成した。パーマーおよびバルトンの指導に
より1898(明治31)年に東京・新宿に淀橋浄水場が完成した。この二人は日本各地の
浄水場建設に協力した。
 戦前までは緩速ろ過処理による浄水場が多数建設された。緩速ろ過による浄水場
では、塩素による消毒の必要性はほとんど考えられていなかった。
塩素消毒は伝染病の流行時のみで、常時塩素消毒がされだしたのは、昭和になり、
大都会の急速ろ過による浄水場であった。
 
 緩速ろ過の生まれた故郷を探した。産業革命は繊維産業が盛んになった時代である。
英国スコットランドの郊外、John Gibbジョンギブは、1804年ペイズリーで自分の漂白
工場用に良質の水を造る方法を模索し緩速砂ろ過処理を工夫した。その場所を訪ねて
みた。文献によるとカート川の水を使ったとあったが、現在はStanely Reservoir
(ステンリー貯水池)の下のSch(学校)がある場所の北の道路脇の草原であった。
 カート川の水はときどき濁るので粗ろ過し砂ろ過して清澄な水を造った。
自分の工場の需要以上に造れたので、Paisleyの町全体にワイン樽に入れて売り歩いた。
これが公共水道の始まりである。円形の緩速砂ろ過処理であった。
砂ろ過池を長持ちさせるための粗ろ過の前処理は最初から考えられていた。
 上田市には緩速ろ過処理(緩速濾過)による浄水場がある。浄水場にはろ過池以外
には他の施設はほとんどない。各ろ過池の面積は780m2である。もし、標準ろ過速度の
5m/dのろ過速度でろ過するなら、1池で1日で3900m3の良質の水道水ができる。
一人1日360リットル(0.36m3)の水道水を使用するとすると、1池で、1万人分の水道水
を供給できる。13池のろ過池の内1池が削り取り作業などで使用していないとすると、
この浄水場だけで、最大で12万人分も供給可能という事になる。そのため十分量を給水
可能である。上田市のろ過池には5月頃から11月までは、このようにろ過池は外観は汚ら
しい糸状藻類が浮いている。でもこの藻が役に立っていた。生物処理について奥が深かっ
た。
 
 産業革命時代のテムズ川は水質汚濁がひどかった。
 緩速ろ過が採用された時は、テムズが下水でとんでもなく汚染されていた。
つい最近まで、テムズの河川水はお歯黒ドブであった。こんな水でも緩速ろ過で良質で
細菌学的に安全な水道水をつくれる。
 
 英国ロンドンの緩速ろ過池は極度に汚染されたテムズ川の水を貯水池に一旦、
貯留する。その後緩速ろ過で飲料水にする。
ロンドン市の北東部にはカッパーミルズ浄水場がある。
リー川の水を一旦ためて緩速ろ過で水質浄化する。
 テムズ水道の貯水池の土手の管理は羊がしている。クリプト汚染源といわれているが、
緩速ろ過だから気にしていない。
 緩速ろ過池には白鳥がゆうゆうと遊んでいた。
これも水系伝染病を媒介するのではと考えられるが、緩速ろ過だから気にしていない。
 
 
 水道会社に勤めた若者が英国中を見て回った。
 
1890年代は欧州で緩速ろ過池が続々と建設された。汚染された河川水を取水する場合は、
前処理として、流入懸濁物質対策と酸素を供給するための前処理をするのが当たり前で
あった。前処理で如何に緩速ろ過池への負荷を低減化するかの工夫がなされていた。
1846-48年にはグラスゴー水道では河川水を前処理するための装置が建設され、濁りと
酸素供給を考えた。
 
 河川の濁りや汚濁した原水を前処理して砂ろ過をした。
 
  水系伝染病の伝搬は緩速砂ろ過で大丈夫 
1892(明治25)年ドイツのエルベ河の下流のハンブルグではコレラで8,605名もの死者
がでたが、隣町のアルトナではほとんど死者がでなかった。ハンブルグとアルトナも
同じエルベ川の水を飲料水にしていた。ハンブルグでは単に沈澱処理した水を給水し、
アルトナでは緩速ろ過をして給水していた。アルトナでは子供の患者は非常にわずか
で、大人はハンブルグに働きに行き、感染したと考えられた。この事実で水系病原菌の
コレラ菌が緩速ろ過処理で除ける事実が明白になった。このことから、緩速ろ過では
水系伝染病細菌もほぼ完全に除去できていたのを確信し、この処理は絶対的信頼を得て
世界中に普及していった。
 ちなみにクリプトはコレラ菌よりは大きい。
コレラが流行したとき緩速砂ろ過で病原菌が除けることがわかり広まった。
上田市も緩速ろ過であった。平均降水量は700mm、日本の平均の3分の1しかない。
河川水は降雨のために濁る。そのため、大正12年の創設当時から千曲川の氾濫原に井戸
を掘り、伏流水を取水するようにした。原水は、濁りがないので、一切ろ過閉塞しなか
った。昭和19年に河川表流水も直接に取水するようになり、原水が悪くなり、ろ過閉塞
もするようになった。濁り対策として、濁水のときは凝集剤を使うようになった。
濁度が30度以上なら凝集剤を添加というのに、安全にと濁度10度以下でも添加するよう
になり、益々、ろ過閉塞がひどくなった。
ろ過池で藻が繁殖するので、悪いと誤解し、東京都を真似て、原水に塩素を時には、
硫酸銅まで添加したことがあった。臭い水騒ぎもあった、塩素添加を中止したら、
水質が良くなった。濁度12度になってから凝集剤を添加するようにし、ろ過池も浅く
したら、ろ過閉塞しにくくなった。表流水でなく、創設当時の河川伏流水を取水するよう
にすればもっと良くなると思う。
 
 上田市のろ過池(緩速濾過池)には5月頃から11月までは、ろ過池は外観は汚らしい
糸状藻類が浮いている。流れのある環境では単細胞で生活する植物プランクトンは繁殖
できない。浮いている藻は手で簡単にすくうことができる。生きている藻は臭わない。
顕微鏡で観察すると糸状珪藻メロシラであった。1つの細胞の大きさは50ミクロンくらい
であるが、群体は非常に長い。メロシラの群体に河川から流入してきた懸濁物質が捕捉
されていた。
 塩があると、ろ過池の砂層面には糸状藻類が盛んに繁殖し、光合成によって生じた気泡
の浮力により藻類被膜は剥離浮上する。
 剥離面から懸濁物質が侵入すると云われていたが、剥離する時期は光合成が盛んで、
砂層直上の水の中の溶存酸素は過飽和状態である。剥離面には気泡が沢山ついていた。
この気泡が夜間も砂層を好気的にしていた。
 
ろ過池で藻が繁殖し、気泡の浮力で浮き、越流管から盛んに流出していた。
流出する量は莫大だった。
 
  繁殖し浮いてきた藻を自動排出させるのが重要
 藻を繁殖させてスカム排出口から連続的に排出させれば、水質がよくなる。緩速濾過池
での糸状藻類の連続培養系の維持が重要である。捨てられる藻を何とか有効利用したい。
糸状珪藻は水生昆虫の餌だけでなく、魚の餌としても利用価値がある。網などで簡単に
捕集できる。
 
  連続培養系が重要
 夏にろ過池(緩速濾過池)で繁殖し浮いてくる糸状珪藻を手製の刺し網で全て集め、
どれだけかを測定してみた。
日射量が一番多い、6月25日から7月5日までの11日間、毎日のように捕集してみた。
その捕集量の平均は下記である。
湿重量(単に水を切った重さ):173 g/m2/d
乾燥重量(乾燥器で一部を乾燥させた重さ):26 g/m2/d
有機物量(灼熱減量から計算):7.81 g/m2/d
窒素量(元素分析した):0.37 g/m2/d
リン量(元素分析した):0.032 g/m2/d
灰分(珪藻で、シルトが多いので):16.5 g/m2/d
クロロフィル量:44.6 Chl.a mg/m2/d
同時に呼吸量が光合成量を測定した
呼吸量(藻類と砂層の動物の呼吸量も入る):8.53 g O2/m2/d
純生産量:8.33 g O2/m2/d
総生産量:16.86 g O2/m2/d
 
長野県上田市の浄水場で夏の場合、780m2のろ過池では毎日これだけ越流管から流出して
いることがわかった。藻が光合成によって流入してくる栄養塩を使って藻体を作っていた。
それだけ栄養塩除去をしている。つまり、ろ過水は栄養塩が少ない、酸素が豊富な河川
上流の伏流水になっていた。ろ過池を糸状藻類の連続培養系として維持する条件に近づけ
ることが重要である。捕集した藻は珪藻である。鮎などの餌として好適である。
毎日収穫すれば、それは、栄養塩の除去にもなり、この収穫物は、飼料などにもなる。
ここでの酸素生産量は、溶存酸素濃度からの計算で、気泡になって大気に逃げる量を加味
していない。実際は、もっと酸素生産量は多い。
しかし、流入河川からシルトなどが入り、捕食動物が入るとこの値は小さくなる。
値は、ほぼ、潜在的な値と考えて間違いなさそうである。
 
 緩速ろ過は生物処理、生物が活躍する時間と場所が必要である。
添加する薬品は必要ない。流れがあるろ過池では糸状藻類が繁殖し、砂層表面と砂層
では細菌や微小動物が活躍している。ろ過池で繁殖する生物による浄化である。
日本では給水量の5%はこの処理である。その構造は水泳プールのような池の底に敷き
詰めた砂層を通過させて水を集めるだけである。砂層の表面と砂層上部には微生物や
微小生物、藻類などが活躍して水質を生物の力で浄化する。即席に人工的に河床の伏流水
を造る方法である。ろ過池で微小生物が活躍できるように一日に5メートルのゆっくりと
した速度でろ過をする。戦前の日本ではこの処理が主流であった。
古い技術というだけで嫌われた。
 
 緩速ろ過は生物処理、藻の役割が重要だ。
この緩速砂ろ過処理は、河床で湧き出る伏流水を人工的にできるように工夫した砂ろ過
装置である。
砂層の上部と砂層内部では微生物、微小動物が繁殖し、1〜2ミクロンの病原細菌まで
食べてしまったのであった。
ろ過池で繁殖する糸状藻類は従属栄養生物の働きを助けてた。塩素で殺菌をしないでも
安全で非常に清澄な水道水が緩速ろ過処理で造られていた。
 
 珪藻がユスリカに食べられると緑藻になるのはロンドンも同じだった。
  捕食動物の影響
緩速濾過池の砂層表面の糸状珪藻は水生昆虫の幼虫の餌として最適である。
糸状珪藻メロシラが捕食されてしまうことがある。
原因:「水深が深い。越流管の機能が十分に働いていない。栄養不足で珪藻が繁殖
   しにくい。」などが考えられる。
 
ろ過継続が長く、スカムを排出機能が十分に働いていない場合、ろ過池で繁殖した糸状
珪藻はユスリカ幼虫に捕食され細胞が大きく堅固な糸状緑藻(アオミドロ、クラドホラオ
など)に遷移することがある。これらの糸状緑藻は糸状珪藻に比べ、細胞が大きく、
気泡が付きにくい。浮上しにくい。
ろ過継続が長いので、砂層上部には微小動物群集が発達するのでろ過閉塞はほとんどしない。
 
 ロンドンのテムズ水道の緩速ろ過池のろ過継続日数は長い。水温が高い時期は、最初は、
糸状珪藻メロシラが繁殖する。次ぎに珪藻を捕食するユスリカが大繁殖する。最後に、
捕食されない糸状緑藻クラドホラになるのがわかった。
 冬期は、水温が低いので捕食者が活躍できないので、糸状珪藻メロシラの繁殖の
ブルームになっていた。
 
 まず東京の砧浄水場を見て、ろ過池に塩素を添加していたのに驚いた。
 東京都世田谷区には多摩川の伏流水を原水とする砧浄水場があるのを知っていた。
1991年にまず見学に行った。まず驚いたことに、その看板の古さである。数年後、学生
を連れて6月の浄水場公開日に見学に訪れたら、緩速ろ過の浄水場で、急速ろ過の説明を
していた。余りの無神経さに呆れてしまった。
東京都に何で緩速ろ過の説明をしないかと注文したら、看板を書き換え、現在は、
緩速ろ過の説明をするようになった。
 
 カシンベック病騒ぎの玉川浄水場を思い出した。
 
 カシンベック病騒ぎ 
オリンピック景気の1962(昭和37)年、多摩川の水質汚濁がひどくなり東京都水道局の
玉川浄水場の給水地域でカシンベック病騒ぎがあった。給水地区の児童の骨の発育不全
の兆候があるというものであった。その原因は汚濁した河川水を浄化する際に塩素を
添加する事により河川水中の有機物と化合し、有機塩素化合物が生じたことによると
された。玉川浄水場では取水停止をして問題は終息した。東京都水道局では塩素は
水質汚染物質を分解するのにも有効と考え、物理化学処理の急速ろ過処理ばかりでなく
生物処理の緩速ろ過池の原水にも多量の塩素を添加していた。 
塩素を添加しての生物処理?であった。
塩素を添加し、生物を殺して単に細かな砂でろ過をして給水していた。
緩速ろ過(緩速濾過)は生物による処理という本来の仕組みを誤解した。
 1960年代の多摩川の水質汚濁はひどく、取水した水に前塩素を添加していた。
当時は玉川浄水場の沈殿池が活性炭で真っ黒になった。ともかく安全にしようと他の
浄水場の20倍もの薬を使った。どんな薬品かといいますと、まず塩素です。
消毒用の塩素は1ppmでたいていの水は消毒できますし、きれいな水なら0.5ppmで
すみます。
それを100ppmも入れたのです。これは世界記録です。未だ破られていません。
その時は緩速ろ過では無理と考えていた。
 
   トリハロメタン問題
 
 1972(昭和47)年オランダのロッテルダム水道のルークはライン河の河川水から
トリハロメタンの一種であるクロロフォルムを検出し、河川水を塩素処理することに
より生成することを初めて報告し注目された。トリハロメタンは有機物と塩素や臭素と
化合してできる化合物で発癌物質として問題にした。
 1974(昭和49)年ハリスは米国ミッシシッピ州ルイジアナの住民の癌発生率が高く、
この癌発生は水道水中に存在している有機物が関係していると報告して以来、世界各地
で水道水の安全性について再検討が精力的に行われるようになった。1975年米国の環境
保護庁は全米113都市の水道水中の有機物について広範な調査を実施し、発癌物質の
トリハロメタンが多くの水道で検出されることを明らかにした。
 トリハロメタン以外にも多くの健康に影響を及ぼす危険のある有機物が塩素を添加して
処理をする急速ろ過の浄水処理過程で生成されることがわかった。
 水道水が臭くなった
 
 1969(昭和44)年琵琶湖の水を急速ろ過で給水している京阪神地区でカビ臭騒ぎが
あった。近代的な浄水処理と云われる急速ろ過処理によって給水している地域での事
だった。その後、日本各地で急速ろ過処理による水道水はカビ臭、藻臭などがするよう
になった。水質汚濁が進行し、水源の貯水池や河川が富栄養化し、繁殖した生物が分解し、
その分解物が急速ろ過の浄水過程で取り除けないためだった。
そこで、原水中の水質汚濁物質を分解する目的でも各地の浄水場で多量の塩素を添加
するようになった。
そのため水道水はカビ臭ばかりでなく塩素臭がするようになった。しかし、明治以来の
生物処理の緩速ろ過による水道水には臭いがついていなかった。
 
 藻が悪いと誤解した。
 
 ろ過池の越流管が塞がれているので、繁殖した藻がろ過池一面に浮いている。
糸状珪藻がユスリカに捕食され、糸状緑藻になる。繁殖した藻は排出されないので、
やがて、ろ過池で藻が腐り、夜明けに酸素不足になる。ろ過水が悪くなる。
ろ過池で繁殖する藻の機能と、ろ過池管理の仕方の誤解である。東京都水道局。
 
  砧浄水場は伏流水が原水。
  藻を塩素で殺した。
 
 東京には多摩川の河川敷に埋設した集水管と井戸から原水を取水する砧浄水場がある。
流入懸濁物質がないので、一切ろ過閉塞しない。しかし、栄養塩はあるのでろ過池では
糸状藻類が大繁殖する。繁殖した藻を排出する越流管が塞がれているので、藻が腐り
困った。ろ過池に塩素を添加し、藻を殺そうとしたりした。今度は、ろ過池を覆って
しまった。でも砂ろ過されてきた水を更に砂ろ過している。どんな目的で砂ろ過して
いるのであろうか理解に苦しむ。
 
 東京都水道局砧浄水場の原水は多摩川の伏流水と河川敷内に作られた集水井戸である。
英国で緩速ろ過処理が普及して行ったとき、河川表流水を取水する場合は粗ろ過をした。
日本の河川水は降雨により増水し欧米の河川と比べ濁り具合が凄いので、このように
した。
 この浄水場では、浄水場での前処理は一切必要がない。ろ過閉塞は一切しないはず。
 でも、凝集剤で濁りがとれることがわかり、薬品を使っても表流水をとるように変更
したときから緩速ろ過は日本では無理と誤解した。ろ過池で生物が活発に活躍するため
の、栄養塩までも取ってしまった。またプランクトンなど凝集剤で除去できないので、
困った。
 
  藻を殺したら調子が良い
 
 ろ過池(緩速濾過池)で繁殖した藻を殺すために、ろ過池に塩素を直接に添加する事
を1991年にしたら藻が繁殖しないで調子が良かった。
でも藻が繁殖できないような塩素添加では砂層の中の微生物も死んでしまったのに気が
つかなかった。東京オリンピックの頃、玉川浄水場で前塩素添加をして緩速ろ過をして
いたのと同じ事をした。
 
  藻を繁殖させないようにろ過池を覆った。
 気温が低くて、ろ過池が凍結する地方には覆い緩速ろ過池がある。でも光が入り、
砂層面で光合成生物が活躍できるろ過池の方がろ過閉塞しにくい。これは砂層面で
藻が繁殖し、動物の餌が豊富になるのでろ過閉塞しにくくなっと思う。
 ろ過池(緩速濾過池)で繁殖した藻を殺すために、ろ過池に塩素を直接に添加
する事をしたら藻が繁殖しないで調子が良かった。
でも藻が繁殖できないような塩素添加では砂層の中の微生物も死んでしまったのに
気がついた。塩素添加を中止し、ろ過池をシートで覆った。現在は遮光ネットで
おおっている。
 この浄水場の原水は河川敷き内にある井戸水である。河川伏流水は既に緩速砂ろ過
された水。これを光を当てないで砂ろ過をする「何もしないのと同じでは?」、
理解に苦しむ。光があり、栄養塩が多少でもあれば、光合成生物の藻が繁殖する。
繁殖させないのは生物活性を何とか抑えようとする考えなのか。
でも藻が繁殖すれば、藻を食べるユスリカが増えるので、困る。そこで、藻を繁殖
させないようにと塩素を添加したり、光を遮断するためにシートで覆ったりした。
砂層表面の削りとり間隔は、約100日とのこと。濾過閉塞ではなく、とりあえず
削ってみるのでは。
 
  砧でも初期はメロシラの純水培養。
 
 緩速ろ過池は糸状藻類の繁殖の場ろ過池は浅いプールのような池で、上から下への
流れが常にある。流入水中に栄養があるなら、湖沼では浮遊性の植物プランクトンが
繁殖する。しかし、流れがある環境では流されない光合成生物の糸状藻類が繁殖する。
上田市の緩速ろ過池では糸状珪藻メロシラが優先繁殖し、光合成が盛んな時は、放出
された酸素の気泡の浮力で水面に浮上してきた。この浮上した藻はスカム排出口から
流亡し、砂層表面には新たにメロシラが繁殖し、ろ過池はメロシラの連続培養状態に
なっていた。
 緩速ろ過池は流水系だが、河床礫面で繁殖する単細胞で生活する付着珪藻には良い
環境でない。ろ過池は上から下への流れが常にあり、砂層表面に立体的に繁殖する
糸状珪藻メロシラが優先的に繁殖する。見た目で汚いと判断してはいけない。
 
  越流管を塞いだために、酸素不足になった。
 
  藻の繁殖は困った
 
 ろ過池(緩速濾過池)で繁殖した藻をスカム排出口から除くための越流管があったのに、
越流する水がもったいないとしてスカム排出口を塞いでしまった。繁殖した藻が排出でき
ないので、藻が腐ってしまった。
これではろ過池が夜中に酸素不足になってしまう。でも、もしろ過速度が早ければ、
問題が生じにくい。日本の手本の東京都がしたから全国がまねた。
 
  ろ過速度の誤解 
 
 1960年代の高度成長期は、水質汚濁がひどく、湖沼の富栄養化が激しく、湖沼で
植物プランクトンの繁殖が凄くなった。湖沼の底層は無酸素状態になり、藻類繁殖は
悪いという事が定説になった。緩速ろ過池でも糸状藻類が繁殖し、藻類繁殖は悪者となり、
殺藻目的で前塩素添加や硫酸銅、凝集剤などを東京や大阪で行った。日本の水質汚濁した
原水は生物処理の緩速ろ過では無理と考えた。ろ過池の砂層の中で微生物分解を完全に
させるためにはとろ過速度を遅くした。また、ろ過池(緩速濾過池)で繁殖した藻を
スカム排出口から除くための越流管があったのに、越流する水がもったいないとして
スカム排出口を塞いでしまった。 
ろ過池への流入水原水とろ過水の溶存酸素の日変化。ろ過継続日数が短いので夜明け
には酸素が少なくならない。東京都砧浄水場の原水は多摩川の河川敷内の集水埋渠。
濁りがない井戸水・伏流水である。夜中の呼吸は夜明けまでである。日の出は6時と
するとその時の水がろ過水にでるまでの時間はどれ位かな。溶存酸素の最小が午前11時
頃。砂層通過に5時間もかかっている。砂層の空隙率を50%とすると標準ろ過速度の
5m/dでろ過すると1時間に40cmの砂層を通過できる。つまり2から3時間のズレが生ずるが、
もっと長時間である。ろ過速度は標準より遅いようだ。藻が繁殖し、ろ過池には酸素の
気泡が沢山ついているので、夜中まで酸素が豊富である。(小島、清澄ろ過、p57、
昭和43)砧浄水場。
スカムを排出するための越流管がコンクリートで塞がれているので、繁殖した藻は
自動排出できなかった。越流するための水がもったいないと考えた。そのため、繁殖
した藻はろ過池で腐ってしまった。ろ過速度が標準の半分以下と遅いので溶存酸素
濃度の変化が顕著になった。
そのため、砂層内で無酸素状態の場所が生じ、マンガンなどが溶出してしまった。
ろ過速度を早くすれば問題が無かった。砧浄水場の原水は濁りがない伏流水、井戸水なの
で、ろ過閉塞はほとんどしないのに、原水水質が悪いと誤解し、ろ過速度を遅くした
ためである。(小島、用水と廃水25.8.3.1983)
 ろ過池で繁殖した糸状藻類はろ過池で分解し、夜明けにろ過水は酸素不足になって
しまった。
ろ過速度が早ければ、問題なかったが、ろ過速度が遅いので溶存酸素濃度の日変化を
大きくさせてしまった。
  砂層上部に生息している生物群集が大切であった。
 
 緩速ろ過池を干水すると、砂層表面は汚泥がすごい。汚泥は糸状藻類やその他の流入
懸濁物質で構成されている。
もちろん、その中に微小動物もいる。ろ過池の砂層上部を砂層採取道具(自作)で
採取してみると、表面近くの1〜2cmが茶色に変色している。この変色している部分
には微生物、微小動物が生息している。これらの生物群集が浄化の主役である。
砂層深部は汚れていない。つまり、汚泥は侵入していないので、微生物や微小動物が
生息していない。汚泥削り取りで、砂層内の茶色の部分の生物群集を取り除いては
いけない。表面の表面だけを取り除くことである。ろ過閉塞を回避させるだけで
十分である。
 もし、茶色の部分を取り除いてしまえば、浄化機能発現には時間がかかる。
 
  東京都がろ過池に塩素添加しているのを日本各地で真似た。
 沖縄宮古島は隆起珊瑚礁の島、地下水を汲み上げて緩速ろ過処理をしていた。
原水中には栄養塩が豊富で、ろ過池で藻が大量に繁殖した。東京オリンピック景気の
時代に完成した。この頃は、日本各地の緩速ろ過池の原水に前塩素処理をするのが
一般的になった。
 この浄水場でも藻の繁殖は悪いとしてろ過池に塩素を添加していた大都会の浄水場
を真似、原水に塩素を添加した。藻が繁殖しなくなり、見た目は良くなった。
でも塩素臭い水道水を供給することになった。
 
  塩素添加を止めると水が美味しくなる。
 前塩素添加処理を中止したら、水道水が美味しくなったと住民から問い合わせが
くるようになった。しかし、ろ過池では藻が大量に繁殖し、浄水場ではこの処理に
困った。藻がろ過池で繁殖するのは原水中の栄養を使って繁殖する。この藻を取り除く
ことで、水質が更に良くなる。でもこの収穫作業を何とか機械化し、収穫した藻を
肥料や飼料として有効利用したい。
 繁殖した藻を顕微鏡観察すると透明の四角の結晶が多数、付着していた。
塩酸を滴下すると気泡を生じて消失した。炭酸カルシュウムの結晶と思われる。
砂層表面にも大量の炭酸カルシュウムの結晶が生じていた。藻の光合成により、
pHが高くなり、溶存していたカルシュウムが析出したのであった。
生物活動により軟水化が生じていた。
 
  日本は手作業だが、欧米は機械で削り取り。
  最新技術の急速ろ過が好きなのだ。
 急速ろ過処理はろ過池以外の施設が必要。汚泥処理も大変。高度の機械と高度の
薬品処理の知識が必要で素人には管理しきれない。維持管理をする業者がいつも
世話してくれなければ心配。転勤がある浄水場の職員では完全には管理しきれない
ので、業者にいつも相談しないといけない。
 現在、水道の給水量の75%は、濁りや溶けている物質を凝集薬品で沈澱させ、
最後に粗い砂でろ過をしている。このろ過速度が一日に120〜150メートルと早い
速度であるので急速ろ過処理といわれる。米国式ともいわれている。
この処理は薬品で除けない細菌や小さな微小生物、臭い物質などは粗い砂ろ過池
を通過してしまう。そこで、最後に塩素で殺菌のために消毒し給水をしている。
大量の凝集薬剤を常に使い、汚泥が大量に生ずる。この汚泥処理も問題である。
凝集剤は硫酸アルミ、ポリ塩化アルミなどである。アルミも問題である。
 
  濁り対策に自然の仕組みを使わず、凝集剤を使い、業者に相談しだしてから
  日本の水道水がまずくなった。
 緩速濾過の悲劇は、濁り対策に凝集薬剤を使用したことに始まる。急激な水質変化
は生物にとって大敵であった。ろ過閉塞しやすくなり、生物は逃げるようになった。
ろ過池は固くなった。でも生物屋がいなかったのでよくわからなかった。
 
  自分で確かめた、広島県
 
 新たな浄水場を建設しようとした広島県企業局は、最良な方式を検討していた。
古くても現代に通用する技術が緩速ろ過処理であることに気づいて、大正12年から
稼動しつづけている上田の浄水場を自分の足で確かめに来た。国の急速ろ過、高度処理
への大河に逆らってでも、県民のために緩速ろ過へ変更しようと。
最良の浄化システムは自然の仕組みを上手に利用した古い技術の緩速ろ過処理である
のに気がついた。公務員は決めた方針を修正しようとしないのが普通だが、広島県は
業者に任せず自分の足で再点検し古い技術を再認識しだした。日本の各地で、古い技術
の生物による水質浄化処理の緩速ろ過処理の再認識が始まりだしている。
 水道事業にたずさわる公務員が集まって自治労全国水道集会が先月、岡山市で開かれ、
中本信忠信州大教授が「よりおいしい水・安全な水供給へ」と題して講演した。
生物利用の「緩速ろ過」による浄水のすすめである。
 
 私は生物屋です。「生物の技術はいいものだ」と感動して仕事をしています。
 地下水は汚染が心配されていますが、河川の表流水よりはいい。浄水場で河川の
表流水を時速二○センチぐらいの流速でゆっくりろ過する緩速ろ過は、生物処理を
利用して人工の地下水をつくる方法です。
 砂を敷いた単なる池に、このくらいの流速だと珪藻(けいそう)を主とする
糸状藻類が繁殖し、膜をつくってゴミを捕らえるだけでなく、この膜や砂層の中の
小動物が病原菌も食べてしまいます。
 米国では、一九七四年にニューオーリンズの水道水で発がん物質トリハロメタンと
塩素処理の関係が明らかになって以来、薬品を使い機械的に処理する急速ろ過をやめ、
緩速ろ過の採用が急増しています。もともと原水が汚れていた欧州では、緩速ろ過が
かなり普及していましたが、近年再認識されています。
 日本も戦前ははとんと緩速ろ過でした。しかし、高度成長期以降、急速ろ過に変わ
っていきました。この方がはるかに工事費がかかる。緩速ろ過は広い浄水場面積が
必要だといわれるが、急速ろ過は、ろ過他のほかにいろいろな処理施設を必要とし、
面積は結局あまり変わらない。緩速ろ過は施設が単純だから管理しやすく、ランニン
グコストもかからない。
 東京都は緩速ろ過で水をつくるつもりはなく、急速ろ過のきれいなパンフレットを
業者が作っています。
 日本でなぜ緩速ろ過が再認識きれないかというと、緩速ろ過にすると業者にお金が
流れないからなんです。課長クラス以上になると本当のことをいわなくなりますが、
予算が少なくてすむことは悪いことだ、と自治体の公務員は考えるんです。
これが問題です。
 
 広島の次には沖縄宮古島浄水場も上田に確かめに来た。
香川県でも緩速ろ過を見直そうと動き出した。
厚生省、日本水道協会の言う事だけでなく、自分の足で、本当かと確かめようと
しだした。
 
  米国では伏流水取水を見直していた。
 アメリカ、オレゴン州の田舎に建設していた緩速ろ過による浄水場の取水方式は河床
に集水埋渠を敷設していた。もし閉塞したら、水を逆流させるとのことであった。
前処理施設を建設する代わりに、このようにすれば、ろ過閉塞の原因の懸濁物質がない
ので、緩速ろ過池はろ過閉塞しない。
東京都水道局の砧浄水場も多摩川の伏流水を取水しているのでろ過閉塞しない。
 
  高崎市の若田浄水場で水深について勉強した。
 群馬県高崎市には明治43年に完成し、現在も現役で使われている。ろ過池の壁は
斜め壁で石積みである。河川表流水を沈澱池を経由して緩速ろ過をしている。
高崎市では緩速ろ過で良質の水道を給水しているので、キリンビールが高崎市に
醸造工場を作った。
 昭和39年に、拡張して完成した若田浄水場。烏川の表流水を沈澱池を通すだけで、
緩速ろ過処理をしている。実際の管理を一人でしていた。長谷川宏さんから多くの事
を教わった。台風などで濁っても、凝集剤を使わない。自然とろ過閉塞をしたのは、
自然と回復する。下手にバルブをいじるとろ過閉塞を加速し、どうしようもなくなる。
じっと我慢をする。
 
 水深が深いと底まで光が十分届かないので藻が繁殖しにくい。藻を繁殖させてスカム
排出口から連続的に排出させれば、水質がよくなると判断した。
 そこでろ過池水深を浅くした。糸状藻類の連続培養系の維持の重要性である。
削り取り作業も容易になった。
 
   名古屋市の鍋屋上野でろ過池の壁の構造について勉強した。
  ろ過池の壁は斜めが無理がない
 明治大正時代に建設されたろ過池は斜め壁でブロックの石積みが多い。斜めなので
干水しての作業をしても内側に力がかからない。漏水もしにくい。
 しかし垂直壁の場合、内側への無理な力がかかり、ひび割れをしやすい。
漏水しやすく、長持ちしない。
 
   越流管を改造してくれた。
 越流口が水面に出ているので、スカムは隅にたまりやすかった。
そこで、越流口に蛇腹のゴムを付ける工事をした。
スカム排出を可動式に変更したので、容易に短時間で排出できるようになった。
 
   草津では低酸素の原水は悪いことを知った。
 草津市には北山田浄水場がある。琵琶湖の湖水を水源とする。緩速ろ過と急速ろ過が
併設されている。緩速ろ過ではミジンコなどが漏れることがあると教わった。
詳しく聞いたら、どうも、低酸素濃度の湖水を取水したときであった。
ろ過池で繁殖していた動物が急に低酸素の水が入ってきたので、もがいてろ過水に
まで逃げたようだ。
 生物処理はそこで繁殖する生物が嫌う状態にしてはいけない。
欧米では湖水を水源とする場合は、低酸素水対策を予めしてある。湖水のプランクトン
を粗ろ過(薬品を使ってはダメ)し分解し、通気をして酸素補給をしてから、緩速ろ過
をするのが良い。
 
   緩速ろ過は栄養が多い方が良い。
 糸状藻類が繁殖しない場合がある
 栄養塩濃度が非常に少ない自然の森林からの河川水が原水だと河床での付着藻類は
繁殖しにくい。しかし農耕地や都市排水の影響があると栄養塩が豊富なのでろ過池での
糸状藻類の繁殖が凄い。もちろん河床での付着藻類も繁殖が良い。
 糸状藻類が繁殖しないろ過池の場合、原水中に藻類繁殖に必要な栄養塩が少ない場合
や藻類繁殖を抑える目的に殺藻剤を原水に添加している場合であった。
 貯水池で植物プランクトンが繁殖する場合、ろ過池は栄養塩不足で藻類は繁殖でき
ない。また流入植物プランクトンでろ過閉塞する。ろ過を無理して継続するとろ過池に
流入してきた植物プランクトンはユスリカの餌なので、ユスリカが繁殖し、ろ過が
できるようになる。
 
   アメリカのクリプト事故で、真剣に検討した。
 世界最大の事故は、アメリカの急速ろ過による水道によるクリプト汚染である。
1993年1月〜4月にかけて、Milwaukee, Wisconsin州(1962年完成したHoward Avenue
Plant )ミルウオーキー市は給水人口84万人で、2つ浄水場があった。この浄水場が
牧場排水で汚染され、急速ろ過処理では除けなかったクリプトで汚染された。
40万人の集団下痢があり、約400人が死亡したと云われている。
 
   緩速ろ過の再認識
 
 米国水道界は1974年の急速ろ過処理で必須の塩素添加により発癌物質トリハロメタン
が生成される事がわかり、精力的に安全な浄水方法がないかを探った。
1979年には飲料水規制を改正した。発癌物質についてはできる限り低濃度におさえる
べきであるとした。日本でも1981(昭和56)年にトリハロメタンの制御目標値を定めた。
 米国では塩素消毒に代わる方法としてオゾン処理、膜処理などの開発が盛んになった。
薬品を添加しない安全な方法を模索したところ、ニューヨーク州で1874年、1893年に
建設された緩速ろ過池が最初のままで現役で活躍していて問題もなく稼動していた。
1829年に英国ロンドンで開発された生物処理の緩速ろ過処理を再認識した。
 最新技術の膜処理やオゾン処理の研究も盛んであるが、米国水道協会、環境保護局
は緩速ろ過処理の研究にも「再研究」などとして盛んに助成していた。
緩速ろ過国際会議が1988年ロンドンで、1991年米国でも米国水道協会主催で開催された。
米国では緩速ろ過処理に対して「再認識」、「再発見」、「現代に応用できる技術」、
「技術の見直し」、「古くても新しい技術」などと云われ、緩速ろ過処理の浄水場が
再び建設され出した。
 
  100年前の緩速ろ過を見直しだした。
 アメリカ・ニューヨーク州の田舎、イリオンの町には1893年に完成した緩速ろ過池
が現存し、現在も活躍している。向こう側の覆い緩速ろ過池は1912年完成である。
町の水道管理者のMike McCormackは緩速ろ過の良さを盛んに勧めている。
 アメリカ・ニューヨーク州、セントラルブリッジCentral Bridgeに1997年に完成し
たばかりの覆い緩速ろ過池である。向こう側の人口千人未満の町に給水するための
施設である。
 驚いた事にはろ過池の直ぐ上の水源貯水池の周囲は牧場で牛が放牧されていた。
緩速ろ過処理なのでクリプト汚染については神経を使っていなかった。
 
  日本ではクリプト事故で膜処理導入を勧めている。
 
 1996年6月埼玉県入間郡越生町で給水人口1万3千人の約7割約1万人弱の人が
集団下痢をする事故があった。塩素臭い水道水の安全神話が崩れた。
下痢の原因は原生動物(原虫)のクリプトスポリジウム(クリプト)のオーシスト
によるものだった。糞に出るときは休眠状態のオーシストと言われる固い殻で覆われ、
塩素のような強い消毒殺菌剤でも殺すことができなかった。
 
 塩素耐性がある原虫のオーシストには完全にお手上げであった。
そこで膜処理といわれ、非常に細かな膜で濾すことも検討し、採用する地域もできて
きた。高度処理には莫大な費用がかかる。0.2ミクロンの穴の膜でろ過をするという。
細菌も除ける、でも溶けている臭い物質は除けない。
 強力な圧力で原水をろ過をする。すぐに目詰まりをするので、逆洗浄を頻繁にする。
電気料が大量にかかる。膜に穴が開かないか心配。何年使えるか、更新にどれだけ
費用がかかるか。それにしても、水洗便所や庭木にまで膜処理の水が必要かな。
 膜処理による浄水場は膜ろ過装置だけ、これを操作する大型の機械や付帯機器が
大量にある。
 ハイテクの機器は故障したらお手上げ。
こんな機器の維持管理は専門家しかできない。
これでは業者の言いなりになってしまう。
 臭いやアンモニアみたいに溶けているのは除けない。
だから、原水が良いところしか向いていない。原水が悪かったら、さらに活性炭など
の処理が必要になる。
 膜の説明を聞いた。まず次亜塩素で生物を殺した水でないと、膜の表面で微生物が
繁殖してどうしようもない。生物毒で処理しないと膜は使えない。微小動物などが
入ってきたら、膜に穴をあけてしまうから、生物は毒で殺さないといけない。
それを飲み水にする処理だった。とんでもない事を考えている。
塩素は悪いということは1974年のトリハロメタン騒ぎで理解しているのに。
ダイオキシンも塩素化合物である。
 
 国は補助金を餌に各県に割り当てみたいに強制している。
とんでもないことをしている。でも、維持費まで出してくれない。
借金地獄を勧めている。機械は必ず壊れる。一度決めたら、屁理屈でもして導入をする。
ウーン、どうしようもない体質。
 
 アイルランド環境保護庁の教科書でも緩速の見直しを叫んでいた。ダブリンでは140年
間使い続けていた。ベルファーストには新たに建設された。
 アイルランドは自信たっぷりであった。アイルランドの環境保護庁の1985年に出版さ
れた「ろ過」の本の序文には、緩速ろ過はクリプトなど病原性原虫の除去に優れ、
再認識されだしたと書かれてあった。
 ダブリンの浄水場は1864年に完成し、現在まで問題なく使われている。コレラが
流行したときに安全な水道水をと1829年にシンプソンが完成させたロンドンの緩速
ろ過をまねた。
 驚いたことに真ん中の池は浄水池であった。覆いがしていない。しかも茶色の水で
あった。生物処理をした後の水は細菌学的に安全である。腐食物質は最後に塩素を添加
して発ガン物質のトリハロメタンを作るから問題であるという。この物質は腸管を通過
するだけであり、安全という。緩速ろ過池の砂層の細菌でも分解できないものは腸管
も単に通過するだけだという。昔のろ過池は斜め壁、干水したときに内側に無理な力
がかからない。
オランダのアムステルダム水道では、緩速ろ過をした後に後塩素添加をしていない。
 塩素を添加して発ガン物質を生成させる可能性の方が危険性が高いと判断したようだ。
北アイルランドのベルファースト市は緩速ろ過によって水道水は給水されている。
1966年に富栄養湖のネー湖の水を粗ろ過をして緩速ろ過をするようにした。
その後何回か拡張してきた。ろ過池以外の施設はほとんど必要ない。
 
   ろ過閉塞の指標の損失水頭の表し方がいけなかった。
 ろ過閉塞指標に損失水頭(H1-H2)が用いられている。しかし実測の損失水頭(H1-H2)
はろ過速度(Vf)に比例して変化する。
欧米では標準ろ過速度(20cm/hまたは4.8m/d)でろ過した場合の損失水頭
(標準化損失水頭:NHL:Normalized Head Loss)でろ過閉塞度を比較していた。
日本でもこの値で比較したい。
 
標準化損失水頭:Hn (cm)
Hn=(H x Vn) ÷ V
実測の損失水頭:H (cm)
実測のろ過速度:V (cm/hまたはm/d)
標準のろ過速度:Vn (20cm/hまたはm/d)
 
 
 もっと勉強したかったら、古い教科書、中本の講演記録と文献、学生の発表の
記録をみると良くわかる。
 
 緩速ろ過の浄水場は簡易水道も含めると約3,000もの施設がある。お金がなく
小さな施設ほど緩速ろ過の施設が管理が良かった。
 
 お金持ちの自治体は、転勤する素人が管理をし、お金儲けが基本の業者主導で
あった。
 
 東京都には日本一の施設、境浄水場、理想的な原水取水方式の砧浄水場がある。
東京都が再認識すれば、日本中で、東京を真似るので、蛇口から安全で美味しく、
廉価な水道水を飲めると思っている。
 
 業者・コンサルの作った資料と(出てきた資料だけで交通整理して判断する)
学者の協力でなく、自分で本当に理解して確かめるということをしないと思っ
ている。
 
 ゆっくりの水はおいしい。生物処理には生物が活躍する時間が必要。
 やすい水はおいしい。確かに水道料金が安い水の方がおいしい。
薬品を使用する急速ろ過処理の水の方がまずい。
自然の仕組みの上手な利用には、そんなにお金は大量にはかからない。
 
 
 
   緩速ろ過という名前が誤解を生んだ
 
   急速ろ過はかっこよかった
 
 緩速濾過(緩速ろ過)は最初はゆっくりと砂ろ過すれば、濁りが除け清澄な水が
でき、評判になった。だからSlow Sand Filtrationという名前がついた。
しかし、砂濾過すると病原菌が除けることがハンブルグのコレラ騒ぎで証明され、
生物処理であることがわかった。
生物が利用できない、濁りが苦手であった。そこで、緩速ろ過処理の前処理として、
粗ろ過で濁りを取り除いたり、伏流水を取水して、工夫をした。
生物処理は、生物の餌が豊富だと生物群集の発達が良く、ろ過機能が上手くいった。
 
 しかし、家庭廃水などで汚染されていない原水の場合、生物群集の発達が悪かった。
降雨などにより濁りが入ると砂ろ過池が詰まってしまい困った。
そこで、何とか濁りを効果的に除く方法の開発が行われるようになった。
それが凝集剤の開発である。
しかし、完全には細菌などを除けないので、塩素で最後に殺菌するようになった。
人々は新しい技術に飛びついた。技術開発が盛んになり、専門会社ができた。
専門会社に何でも相談するようになり、専門会社の言いなりになった。
 
 日本各地を見学すると、大きな都会ほど、業者依存性が高かった。
それは転勤で素人が管理していた。パンフレットも業者が作成していた。
業者に都合が悪いことはパンフレットに書かれていなかった。
 
 緩速ろ過は5m/dとろ過効率が悪く、面積が必要で、急速は120m/dと
効率が20から30倍も良いと強調された。しかし、それはろ過池の面積のみである。
緩速ろ過はろ過池のみが重要でそれ以外の施設はほとんど必要ない。
急速ろ過はろ過池以外の施設がたくさんひつようである。
また薬品を常時添加するために専門技術者が必要である。
 
 汚泥が毎日大量に排出されるが、この産業廃棄物の問題は触れないようにしている。
浄水施設でなく、廃棄物処理施設だからと浄水処理の施設面積にもいれていない浄水場
がたくさんある。またこの廃棄物処理しせつはパイプで別のところに運んでいて
見学もできない場合もある。
 
 ろ過池で発生する藻を除く装置から流出する水がもったいなかった。
この機能を無視した東京都の誤解から日本での緩速ろ過の不幸が始まった。ろ過池で
繁殖した藻がろ過池で腐り、緩速ろ過は無理と誤解した。そこで、ろ過池に塩素まで
添加して藻を殺すことを東京都が率先して行い、それを日本全国が真似た。
それは、米軍の指導による急速ろ過での塩素の臭いは安全の印という考えがまだ
続いている。
塩素添加はトリハロメタン騒ぎで懲りたはずなのに、O157騒ぎで塩素添加を増やした。
 
 一度決めたことを修正しないという公務員体質、責任をとりたくないから業者まかせ
にしたいという公務員体質が業者主導の水道界になった。
 
 クリプト騒ぎで、膜処理を厚生省は勧めている。
しかし、莫大な経費がかかる。補助金は膜処理と高度処理のみ。
生物処理の緩速ろ過や普通の急速ろ過処理には補助金はでない。生物処理の緩速ろ過
では、一度建設すると施設は100年もそのままで良い。
 
 これでは業者は勧めたくない。できれば情報は流したくない。
 
 これは書きたくないが。
大学は貧乏になり、研究費はこの25年間、実質金額は減っている。
例えば、信州大学に職を得た、25年前の助教授と助手の研究費は備品、消耗品
などの年額は130万円程度、現在も変わっていない。
旅費は教授でも年間に使えるのは6万円程度。
後は、全て自費出張である。自分の給料から出している。
書籍も自分の給料で購入するようになる。
これでは業界からお金をもらいたくなる。業界のためになる研究のみになる。
業者が儲からない研究はできなくなる。自分の車で学生を連れて学生に自腹でおごって
研究調査をしている状態が日本の大学の研究者。でも業界のためになる研究をすれば
お金が入るので、その方向の研究をする。
 
 浄水場の偉い人は、業者に遠慮するようになる。
天下り先を大事にするようになる。
 
 水道界の中から、水道関係者の中から、体質改善をしてもらいたく、水道関係者
の読みそうな雑誌に緩速ろ過の良さを書き続けてきた。その反響が表れだしている。
 
 一昨年位から、県レベルで緩速ろ過の勉強会を開催しだした。
希望演題は「望ましい浄水処理−緩速ろ過」である。
でも日本水道協会関連のホームページに緩速ろ過というのがあっても何年も
「工事中、準備中」である。
故意に緩速ろ過の情報を流そうとしていないとしか思えない。
 
 緩速ろ過処理は、建設費に関して、面積当たりという積算の土木工事が多いので、
最初の投資は少しはかかります。
でも維持管理費はほとんどかかりません。
精密な機器などは必要ありませんので、素人で管理できます。
 
 だから、業者にとってうま味がありません。
 
 鳥取市の場合、戦後になり、日本各地を調査し、千代川の伏流水を取水する方式に
しようと結論をだし、昭和22年から25年にかけて集水埋渠を建設しました。
その後何回か拡張しましたが、全て伏流水取水です。この水の濁りは、年間の平均で、
0.03度(0.03mg/l)です。水道水基準は2度(2mg/l)です。
クリプト汚染問題が埼玉で生じてからあわてて、0.1度にと目標値にと指導され
るようになりました。
 
 埼玉の場合も急速ろ過でした。
 そこで、膜処理に1カ月しないうちに決定されました。
このときは、緩速ろ過への検討は一つもなされませんでした。
水道コンサルに相談したのです。
 
 鳥取市の場合、河川が濁るときは、浄水が2度まであがることがありました。
それは、ポンプで強引に吸引したからです。
日本海側の平野部は砂地です。
自然の緩速ろ過処理場です。
ポンプで強引に引けば砂の表面に付着した濁りは流れてきます。
自然の仕組みを理解していなかったためです。
 
 鳥取市の場合、一度決めた方針なんとしてでも守ろうとする行政の姿勢に
住民が反発しているのです。
住民が納得するならリコールも取り下げるとのことです。
 
 水道局の職員より、住民の方が良く勉強し、専門知識が豊富な場合がある
という時代です。
 
 
 
   ガソリン代より高い飲み水
 
 ガソリン代より高い飲料水、牛乳より高い飲料水が平気でスーパーで大量
に売られています。皆が買うからです。タダの水ですよ。
Drinking Water Supplyの水を飲みたくない。おかしいと思いませんか。
 
 昨年、私の研究室にブラジルから研究者が滞在しました。
学生がペットボトルの水を飲んでいるのを見て「日本では水道水は飲めない
のか?」と質問されてしまいました。
「日本の水道水は、殺菌消毒され、安全で、どの水道の蛇口でも飲める」と
返事をしました。
「なぜ、安全な水道水があるのにペットボトルの水を買うのか。
私には理解できない。ファッションか、お金があまっているとしか思えない」と
言われてしまいました。
 
 昔は井戸水を平気でおいしく飲んでいました。
大都会でも二十、三十年前まで、家庭に井戸があれば平気で井戸水を飲んで
いました。井戸水からは大腸菌がでるからといわれ、飲まなくなりました。
でもこの井戸水を飲んで下痢などをしたことがありませんでした。
確かに昔は、汚染した井戸水を飲んで下痢をした事実はありました。
 
 水道の神様ともいわれる小島貞男先生が述べているように、井戸水や伏流水を
塩素消毒だけをして給水している水道水はおいしい。
 
次は、生物処理の緩速ろ過処理の水道水です。
自然界の仕組みを上手に活用した緩速ろ過処理による浄水場は五十年でも百年でも
安くおいしい水道水を供給し続けています。
 
 英語で浄水場のことをDrinking Water Supply「飲料水を供給する所」といいます。
でも高いお金をかけても塩素臭い水道水は信用されていません。
 
 水道関係者に怒られるかもしれませんが、平気で飲みたくない水道水を供給して
いる日本の水道業界、水道関係者は何を考えているのか理解に苦しみます。
 
 牛乳やガソリンの値段より高いペットボトル入りの水を容認している日本社会は
おかしいと思いませんか。
 
 つい数十年前は、水道水はもっと信頼されていました。
おいしいと皆が平気で飲んでいました。日本の自然環境は、浄化力が大きいのです。
いつからこの自然の浄化力を信用しなくなったのでしょうか。
 
 トリハロメタンと発ガン性、塩素消毒とトリハロメタンの生成が分かってから、
欧米では安全な水道水ということで、現代に通用する古い技術の生物処理による
緩速ろ過の見直しが始まっています。
 
 水道料金が高い水道は、安全、安全、おいしい水道水といわれても、必ずしも、
おいしくありません。
 
 薬品や機械を沢山使用する浄化施設には事故はつきものです。
自然の浄化力を利用した水道の施設は単純で事故はおきにくいです。
また水道料金は安く、安心でき、おいしい水道水です。
 
 水道週間の機会に、自然界の微小生物が活躍して安全な水道水をつくる生物処理
の緩速ろ過を再認識しませんか。
(長野県上田市諏訪形、大学教授、中本信忠、58歳)
 
2000.6.6.日本海新聞、私の視点
 
 
   ガソリンより高い水は変だ
 
大学教授 中本信忠
 
 水の、ろ過処理を専門にしている私の研究室にブラジルから研究者が滞在した。
学生がペットボトルの水を飲んでいるのを見て、「日本では水道水は飲めないのか?」
と質問された。
「日本の水道水は殺菌消毒され、安全で、どの水道の蛇口でも飲める」と答えた。
「なぜ安全な水道水があるのにペットボトルの水を買うのか。お金が余っていると
しか思えない」と言う。
 井戸水や伏流水を塩素消毒だけして給水している水道水はおいしい。次は生物処理の
緩速ろ過処理の水道水だ。自然界の仕組みを上手に活用した緩速ろ過処理による
浄水場は、五十年でも百年でも安くおいしい水道水を供給し続けている。
 飲みたくない水道水は、薬品処理の急速ろ過による水である。高いお金をかけても
塩素臭い水道水は信用されない。ガソリンより高いペットボトル入りの水を容認して
いる日本社会は、おかしいと思いませんか。
欧米では安全な水道水ということで、現代に通用する古い技術の緩速ろ過の見直しが
始まっています。一日からの水道週間を機会に、自然界の微小生物が活躍して安全な
水道水を作る緩速ろ過を再認識しませんか。
(2000.6.2.朝日新聞、声)
 
 浄水場をDrinking Water Supplyという。
でも直接飲みたくない水を供給しているなんて、おかしいとおもいませんか。
 
 1リットルの牛乳より高いペットボトルの水です。ただの水ですよ。
おかしいと思いませんか。
 ゆっくりの水はおいしい。生物処理には生物が活躍する時間が必要。
 やすい水はおいしい。確かに水道料金が安い水の方がおいしい。薬品を使用する
急速ろ過処理の水の方がまずい。
自然の仕組みの上手な利用には、そんなにお金は大量にはかからない
 
 
 
 水道水はPL法(製造物責任法)の対象物であるので、これを訴えたかった。
下記のように修正して良いかと問い合わせがあった。
少しでも緩速ろ過の話題が掲載されることを願ってそれでも我慢した。
 
   自然水に似た濾過法の勧め
 
    大学教授 中本信忠 (長野県上田市 58歳)
 
 上田市から長野市にかけて1月末、県営浄水場から給水している水道水に異臭味
が生じた。
二日間も給水車の飲み水に頼った。
集団下痢を起こすといわれる原虫のクリプト対策で施設を改善したばかりの
急速濾過処理による浄水場が原因である。
微生物による自然な緩速濾過処理なら異臭味問題は起こらない。
微生物が活動して異臭味成分を分解してくれるからである。
 
 高度な技術を駆使した急速濾過処理は病原菌が濾過水に漏れることがあると、
最後に塩素で滅菌する。生物処理で給水していた戦前は、塩素滅菌していなかった。
 
 緩速濾過処理は、微生物と微小動物の活躍で浄化する。
濾過するための池に必要な空間がいるが、一度造れば専門的な技術は不要で、
メンテナンスも気にかけなくていい。
この処理による水は山のわき水と同じである。
小さな緩速濾過処理場で小さな地域に供給するようになれば、それだけ安全で、
安心できる。
 
 しかし、水道水の大部分は、急速濾過処理によって供給されている。
高いお金をかけても塩素の臭いがする。
だから、自然のわき水を詰めたペットボトルが売れる。
飲みたくない水道水を供給するなんて、詐欺だ
 
     大学教授 中本信忠  (長野県上田市 58歳)
 
 長野県上田市から長野市にかけて給水している長野県企業局の県営水道から
給水している水道水に異臭味が生じた。
「水道水を飲まないように」と広報車がでた。1月31日から2日間も給水車で飲み水を
給水するという大きな事故であった。
集団下痢を起こすとわれるクリプト対策で施設を改善したばかりの急速ろ過処理に
よる浄水場での事故である。
異臭味は人間の嗅覚や味覚が反応し危険と感じたのである。
生物処理の緩速ろ過処理なら異臭味問題はない。それは微生物が反応してこのような
異臭味成分を分解してくれるからである。
 
 高度な技術を駆使した最新の浄水場には事故はつきものである。
急速ろ過処理は病原菌がろ過水にもれることがあるからと最後に塩素で殺菌する。
生物処理で給水していた戦前は、最後に塩素消毒をしていなかった。
昔のように、水道の蛇口から安心して飲みたくなる水道水を供給してもらいたい。
ヨーロッパには、現在でも緩速ろ過処理なので最後に塩素を添加しない浄水場もある。
緩速ろ過処理は、それだけ、安全で、安心できる浄化方法である。
 
 現在の日本では、水道水の大部分は、最新技術といわれるが、飲みたくない
急速ろ過や高度処理によって供給されている。
高いお金をかけても塩素臭い水道水を誰も信用していない。
だからペットボトルが売れる。浄水場とは、英語でDrinking Water Supplyという。
飲みたくない水道水を平気で供給しているなんて、まるで詐欺である
    2001年2月20日朝日新聞「声」欄に掲載。