<Quetzalcoatl_> How do I write a computer vision program in C on a
microcontroller?
<dyf> Quetzalcoatl_: with a text editor?
<Quetzalcoatl_> Hmm.. Never thought of that. But which editor? Is
Notepad good enough?
<mauke> no, you need at least Wordpad
<rindolf> mauke: I suggest MS Word or at least OpenOffice.org
<rindolf> mauke: but in order to really be able to write well, you
need a desktop publishing program like Scribus or Adobe
FrameMaker.
* rindolf wonders which compiler will accept PDFs as
input.
<waiting> rindolf: /usr/bin/pdftotext
<rindolf> waiting: and pray.
<rindolf> There's an estoric programming language called Piet (I
think) that accepts images as input.
-- How to write stylistic code
-- ##programming, Freenode
Imagine that we had a way of sending actors from Broadway to Hollywood that
involved putting them in cars and driving them across the country. Some of
these cars crashed, killing the poor actors. Sometimes the actors got drunk on
the way and shaved their heads or got nasal tattoos, thus becoming too ugly to
work in Hollywood, and frequently the actors arrived in a different order than
they had set out, because they all took different routes. Now imagine a new
service called Hollywood Express, which delivered actors to Hollywood,
guaranteeing that they would (a) arrive (b) in order (c) in perfect condition.
The magic part is that Hollywood Express doesn't have any method of delivering
the actors, other than the unreliable method of putting them in cars and
driving them across the country. Hollywood Express works by checking that each
actor arrives in perfect condition, and, if he doesn't, calling up the home
office and requesting that the actor's identical twin be sent instead. If the
actors arrive in the wrong order Hollywood Express rearranges them. If a large
UFO on its way to Area 51 crashes on the highway in Nevada, rendering it
impassable, all the actors that went that way are rerouted via Arizona and
Hollywood Express doesn't even tell the movie directors in California what
happened. To them, it just looks like the actors are arriving a little bit
more slowly than usual, and they never even hear about the UFO crash.
-- Joel Spolsky
-- "The Law of Leaky Abstractions" ( http://www.joelonsoftware.com/articles/LeakyAbstractions.html )
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新日本海新聞
水道料金問題(上)
中本信忠信州大教授に聞く
鳥取市の水道代は今月納入分から値上げされた。
感染すると下痢を起こす病原性原虫のクリプトスポリジウム対策として、新たに
約百七十五億円を投じて浄水施設を建設するほか、震災対策や配水施設の整備をする
ためだ。
本紙は既に「クリプト対策の行方」などの記事を通じて問題点を探ってきた。
しかし、まだ多くの問題が未解明のまま残されている。
そこで、緩速ろ過処理の専門家である中本信忠・信州大学教授に聞いてみた。
湧水が一番上等
−
日本の水道は近年、異臭がするだとか、おいしくないだとかいわれて不評だ。
最近ではクリプト問題なども起こっている。
水道水をどう考えるか。
中本
信州に住んでいるのでよく登山する。
その際には岩陰から湧き出す水を飲むが非常おいしいし、おなかをこわした記憶も
ない。
私は、一番上等な水はこうした自然の力で浄化された湧水や地下水、伏流水だと
思っている。
二番目は生物の力を活用した緩速ろ過処理された水だ。
私たち人間を含めて生物は、完ぺきな無菌室で生きているわけではない。
水だけでなく空気にも料理されたものにも多くの細菌はいるし、“超清潔主義”は
逆に人間の免疫力をそぐ。
−
厚生省はクリプト暫定対策指針で汚染の恐れのある水道には
(1)急速ろ過
(2)緩速ろ過
(3)膜ろ過−
のいずれかの浄水処理を行うよう求めている。この指針は有効なのか。
中本
私はクリプト自体は大騒ぎする必要ないと思っているが、指針は大筋では有効
だろう。
問題は並列的にあげている急速ろ過、緩速ろ過、膜ろ過のうち、
厚生省にも
水道業者にも
緩速ろ過の専門家がいないことだ。
−
指針では処理後の濁度を0・1に維持するよう求めている。
しかし、鳥取市の水道の原水の伏流水は通常、濁度0・03といわれている。
それでも浄水施設は必要なのか。
中本
鳥取市の原水が非常にいい水であることは間違いないが、年間何日か濁度2くらい
になるというのなら、それは集水管までの砂礫(されき)層に「水の通り道」が
あるということだ。
このため、洪水時などに表流水の濁りが伏流水にまで達している。
濁度2というのは指針前の浄水濁度の上限値で、クリプト防除という観点から
は浄水施設は必要だろう。
三つの処理方法
−
それぞれの浄水処理について、分かりやすく説明してほしい。
中本
急速ろ過は、凝集剤や凝集補助剤で原水の懸濁物質や細菌などを沈殿させ、
上澄みの水をろ過する処理。
ろ過砂の粒径は0・6−0・7ミリと粗いので、凝集沈殿しにくい細菌や
プランクトンは通過しやすい。
また、この方式では各種の計測機器が常に正常に作用してはじめて安全な水
ができる。
汚泥処理の問題も残る。
緩速ろ過は、生物による浄化が基本。
浄化処理するろ過池の構造は、水深約一メートルのろ過池と、底に約一メート
ルのろ過砂があるだけ。
表層のろ過砂は細かい(粒径0・15−0・45ミリ)ので、表面に微生物
群と懸濁物質が蓄積し、緻密なろ過膜を形成する。
これが非常に小さな細菌なども捕まえる。
いわば「人工的に清澄な伏流水」をつくる施設だ。
膜ろ過は、UF膜という孔径が数ナノミリから数十ナノミリの小さな穴の
ある膜に水を通し、この穴を通れない大きさの細菌や原虫をふるいにかける
処理。
クリプト除去はほぼ完全にできるが、まだ開発途上で大規模な施設には設置
されていない。
高くつく急速ろ過
−鳥取市では急速ろ過の採用を決めた。
素人の私には判断が難しいが、クリプト汚染が問題になったアメリカのミル
ウォーキーも埼玉県の越生町でも急速ろ過方式だった。
急速ろ過はクリプト対策として有効なのか。
中本
それ(急速ろ過の導入)は考え直した方がいい。
何よりもべらぼうな金がかかる。
さっきも言ったように、
急速ろ過施設は、科学薬品と計測機器による「水の生産工場」だ。
維持管理は大変だし、各種の機器は数年で更新しなくてはならない。
一方、緩速ろ過施設なら、一度造れば半永久的に使える。
現に外国では百年以上使っている緩速ろ過施設はいくらでもある。
何より、クリプトなどの原虫や細菌にも強い。
緩速ろ過が世界に普及したのは、西ドイツのエルベ河の水を水道に利用して
いるハンブルグ市と隣のアルトナ市でコレラ患者の発生に大きな差があった
から。
ハンブルグ市は沈殿処理だけだったが、アルトナ市では緩速ろ過していた。
これで緩速ろ過の水系伝染病に対する有効性が証明された。
(聞き手は鳥取発特報部・村上俊夫記者)
水道料金問題(下)
中本信忠信州大教授に聞く
審議会資料は誤り
−
お話だが、鳥取市の場合は市議会での答弁や審議会の資料をみると
▽急速ろ過に比べて緩速ろ過は用地が二倍近くかかる
▽維持費も急速ろ過の方が安い
▽緩速ろ過は維持管理が難しい
−などを理由に急速ろ過を選択している。
中本
それは全くの間違いだ。
確かにろ過池は緩速ろ過の方が広い面積が必要だ。
しかし、緩速ろ過にはそれ以外の施設はほとんど必要ない。
ところが急速ろ過はろ過池こそ狭くていいが、各種の機器や汚泥処理施設の
ための用地もいる。
東京都水道局の緩速ろ過施設の境浄水場の一平方メートル当たりの給水能力
は一・五トン、急速ろ過の三郷浄水場は一・八六トン。
用地に関してはそれほどの差はない。
それに地方都市なら、河川敷の近くには安い用地がいっぱいある。
場合によっては覆いろ過池を二階、三階にすることだってできる。
管理費の問題も大うそ。
既に話したように、急速ろ過はいわば最新工場なのだから、機器が正常に
動くことが命。
安全のために壊れてからでは遅いので耐用年数が来る前に取り替える。
緩速ろ過の経費に砂の表面の汚濁物質の削り取りなどを入れているのだろう
が、適正な管理さえしていればこの作業はそんなに頻繁にやる必要はない。
何年もやらなくても非常にいい状態で施設を維持している例もある。
管理の難しさも逆だ。
戦前は全国どこの水道も緩速ろ過だった。
管理が難しいはずがない。
逆に急速ろ過は高度の技術と適切な薬品管理が必要で、人事異動で
すぐ替わる職員では管理しきれない。
業者まかせになる。
それと、鳥取市の場合は、原水が非常にきれいなので、逆に凝集処理が
難しいのではないか。
水の汚れが少ないと凝集剤を入れても、なかなかフロック形成(非常に
小さい不純物の凝集)がうまくいかないのではないか。
「急速」優勢の理由
−
しかし、先生の言われる通りだとしたら、なぜもっと緩速ろ過が普及しな
いのか。
現実に給水量からみると、急速ろ過施設の方が圧倒的に多い。
中本
そこが問題だ。
緩速ろ過は凝集剤を使うようになるまで、ほとんど問題はなかった。
凝集剤を使用するようになっても、上手に取り除けない濁りもある。
そこで凝集剤の研究が盛んになり、水処理専門会社も発展した。
トラブルを解決するための研究には研究費がつきやすいので、大学の研究
者も新しい技術の開発に没頭する。
トラブルが起きない緩速ろ過の研究はしなくなる。
話したように、今や厚生省にも日本水道協会にも水道関係業者の中にも、
緩速ろ過の専門家はいなくなっている。
経済成長に伴って原水の汚濁が進む一方で、生活様式の変化もあって
水需要は拡大する。
そこで新しい施設を造る際、水道事業者は水処理会社に相談する。
トラブルの起こらない緩速ろ過施設を造ってももうからないから、
水処理会社は急速ろ過を勧める。
急速ろ過には解決すべき問題点が多かったから研究が進み、その対策で
水処理会社はもうけることができた。
緩速ろ過にとっても、水道を使う住民にとっても皮肉な結果だが、
この構造は一層強まっている。
−
確かに鳥取市も、水道審議会に諮る前段でコンサルタントに調査を依頼
している。
中本
これは一般論だが、多くの市町村の審議会の資料は水道コンサルがつくっ
たものだ。
彼らは自分の技術の良い点を強調し、不利な情報はできるだけ知らさない
ようにする。
行政は自分の足で調べないから見抜けない。
そして行政の意見に同調する委員を集めて審議し、業者に都合のいい資料
だけで答申書を書く。
結果として業者の言いなりになる、ということだ。
(浄水場紹介の二つのパンフレットを示して)
このパンフを見てほしい。
ちょっと印刷の色遣いが違うけど、内容は一緒。
こちらには業者の名前が入っているが、こちらには○○市水道局としか
入っていない。
両方とも業者が作ったものだ。
それほど業者と事業者の関係は深くなっている。
自分の足で調べて
−
地方自治体も財政は苦しい。
その上に情報公開の機運が盛り上がり、住民の行政を見る目も厳しくなっ
ている。
緩速ろ過が本当にいい施設なら見直されるはずだ。
中本
ぜひ、そうあってほしい。
それには日本人の「新技術崇拝」と、「金のかかった施設がいい施設だ」
といった誤った認識を改めなくてはならない。
欧米では緩速ろ過の再認識が進んできた。
アイルランドの環境保護庁の「ろ過」の本には、「緩速ろ過はクリプト
など病原性原虫の除去に優れ、再認識されだした」と書かれている。
急速ろ過一辺倒だったアメリカでも、水道協会や環境保護局が補助金
を出して研究を進めている。
細菌やウイルス、原虫などの駆除、トリハロメタン前駆物質の除去に
優れている点が見直されているのだ。
でも、これらの情報は無視されている。
日本の水道関係職員もパブリック・サーバント(公共の召し使い)
として、業者からの情報だけでなく、自分の足で調べ自分の頭で考えて
ほしい。
そうすれば緩速ろ過の良さは、きっと分かるはずだ。
(聞き手は鳥取発特報部・村上俊夫記者)
−−−
第53回全国水道研究発表会
平成14.5
焼細砂を用いた前処理
―緩速ろ過システム―
村上 光正(姫路工業大学) 浅野 正一(姫路工業大学)
高橋 孝輔(開発興業) 川中 功(開発興業)
1.はじめに
小規模な水道事業体では、伏流水や地下水を汲み上げ塩素消毒して、
そのまま配水しているところが少なくない。
この場合、処理が簡単なため原単価は極めて安価である。
しかしクリプトスポリジウム問題が発生し、このような直送方式に見直
しが迫られることになった。
市町村は、浄水場を建設すると、後年、大きな負担をかけるだけに苦渋
の際にある。
高度成長期であれば、地方交付金により社会資本の充実は問題視される
ことはなかった。
このような状況から安価で確実にクリプトスポリジウムが除去きる方法
の開発が緊急の課題となっている。
我々は緩速濾過に注目した。
2.良好な水質を緩速濾過するために
緩速濾過は、クリプト・オーシスとの除去率が4桁以上と非常に
優れている 1)
が、ろ賞の目詰まりという問題があり、高濁度のように水質が悪い場合、
緩速は難しい。
しかし、ここで取り上げるのは水質が良好な原水のクリプトスポリジウム
も含めた浄水対策である。
これらがクリアできれば、安価なクリプト・オーシスとの除去法となり
得る。
(1)緩速濾過の課題:
緩速濾過には2つの問題がある。
@地下水などではBODが低すぎる場合、砂層内の生物相が貧弱すぎて緩速
濾過が十分に機能せず、濁質が捕捉されず漏出する心配がある。
ABODや濁度が低い場合でも、最近、TN,TP濃度が高いことが多く、
砂表面で藻類が大繁殖し目詰まりを起こす。
特にこれらの濃度が高い河川の伏流水や市街地の地下水では緩速濾過装置
に日光があたると藻類が大繁殖するので、維持管理が難しくなる。
この2つの問題に対して、我々は
○細砂の利用、
○覆蓋
による解決を目指した。
細砂は閉塞をもたらすとして省みられることはなかったが、地下水の
ように濁質が少ない場合は閉塞しないと考えられる。
逆に細砂は物理的ろ過を行い、緩速濾過の欠点を克服する可能性がある。
次に覆蓋であるが、地下水の場合、覆蓋しない濾過では最大濾過速度が
急速に低下した。
覆蓋は藻類が浄化に関与する道を閉ざすが、逆に藻類が生産する有機物
の混入を防ぐことができる。
(2)沢水対策:
沢水や山間小河川は水質が良好であるが、有機性浮遊物が多く、かつ
降雨時には濁水となる。
このような沢水を飲むことは現在でも山間地では珍しくないが、
クリプト問題は伏流水などに比べものにならない。
また、このような水を緩速濾過する場合、沈澱池や前処理としての
粗濾過では対応が難しい。
これらの地域で飲み水を安全・安価に供給することは緊急の課題である。
これを解決するために、我々は焼細砂による前処理を研究した。
3.前処理の物理的ろ過実験
3.1実験装置及び方法
試験装置は、直径125mmの管に砂利層を38cm充填し、上部に0.1〜0.3mmの
手揉洗いした焼細砂を30cm入れた。
焼砂洗浄工場にある4基の濁水沈澱池の最終池から汚泥を採取し、
濁度20〜30度の原水を調整した。
粒子径は1〜8μmであった。
この原水をろ過し、ろ過水の濁度を測定した。
逆洗時の砂膨張率は100%とした。
3.2実験結果
測定結果を表1、2に示す。
表1は逆洗後、ろ過速度を変えて、ろ床容積(砂利層+ろ砂層)の2倍量
流したときの結果である。
逆洗直後が最も濁度が高いことを確認し、この点を考慮した。
ろ過速度が遅い場合、90%以上の除去率となった。
表2はろ過が進むと、さらに除去率が高くなることを示している。
クリプト・オーシストには4〜6μmの粒子除去が大切とされるが、
使用汚泥の大粒子がその程度であるから、十分除去できるものと推察
される。
本実験は単なる物理的ろ過の結果であるが、実際の場合は生物ろ過もある
ため除去率はさらに高くなる。
4.実装置の立上げ
4.1実装置の概略
図1は兵庫県千種町に設置した10〜20m3/d(11戸)の沢水の緩速濾過シス
テムである。
緩速濾過装置が20年以上前に設置されていたが、余りにも目詰まりが
激しいため、砂を捨て単に沈殿槽として利用していた。
今回、焼細砂緩速濾過装置として改造し、前処理装置を新設した。
現在の浄水量25m3/dである。
実装置は昨年12月に稼動させた。
(1)前処理槽:
直径70cmのステンレス製で、砂利層38cmの上に、実験装置よりやや大きめの
0.2〜0.3mmの焼砂を30cm充填した。
ろ過可能な速度は100m/d以上であるが、その数分の1程度で運転している。
(2)緩速濾過槽: ろ層は、砂利層100cm(栗石層20cmを含む)と0.1〜
0.3mmの焼砂層40cmである。
濾過速度は2〜3m/dである。
濾過速度が低いのは、
@砂の目詰まりを避ける、
A砂の削取りを数年間しない、ためである。
4.2運転結果
(1)前処理:
1ヶ月経った現在、特に問題は発生していない。
しかし、粗ろ過(2mmろ過)でも取れない軽い腐葉等の濁りや浄水処理量が
増加し、4日に1回の逆洗が必要となった。
また、大雨の後は逆洗する必要があった。
逆洗速度は細砂のため約300m/dと遅い。
ろ過水の濁度は、平均0.06度(0.015〜0.095)であった。
クリプトスポリジウム対策の目安の濁度0.1度は、前処理の段階でクリア
している。
砂粒径についてはさらに検討中である。
(2)緩速濾過:
現在、砂表面には何の不純物も見られない。
ろ過水の濁度は、稼動後2〜4週間で0.2〜0.3度である。
砂中の濁度成分がまだ残っていると考えられるが、緩速濾過の基準値と
されている0.6度以下はクリアしている 1)。
兵庫県市川町に設置した伏流水の緩速濾過池は3年前から稼動している。
原水のトリハロメタン生成能は低いが、さらに生成能が40%低くなる
ことを明らかにした 2)。
この装置は現在も目詰まりはない。
前処理で濁度成分の大半が分析データのように除去されるならば、
砂の削取りは長期間不要であると推察される。
5.まとめ
逆洗付き焼細砂濾過による前処理は、濁水や有機性浮遊物のある原水に
威力を発揮する。
これと焼細砂緩速濾過を組み合わせたシステムは山間地から中流域に
おいて、安定した安価で確実な浄水システムになるものと考えられる。
参考文献
1)中本信忠、水、Vol.43、No.11、34(2001)
2)村上光正・高橋孝輔、日本水道協会関西支部第45回研究発表会発表概
要集、80(2001)
−−−
水環境問題と社会資本
姫路工業大学環境人間学部 村上光正
このページは、多くの方々と議論し、研究してきたことを整理し、簡単な論文
形式としたものである。
今や我が国は新しい世界秩序であるグローバル化の荒波に翻弄されている。
我々はどのように考え行動すべきか、皆さんと議論を進めて行きたい。
(2003 元旦)
水道を考える
水道行政は住民に密着した極めて重要な行政課題である。
特に最近は厚生労働省がクリプトスポリジウム対策として地下水を水源とする
直送方式の見直しを厳しく迫っている。
しかし、これは、市町村にさらなる負担を強いるものであることは間違いない。
まずは水道そのものを議論しよう。
新緩速ろ過
緩速ろ過の特徴
急速ろ過とは
膜ろ過
町村の浄水方法と新緩速ろ過システム
社会資本とクリプトスポリジウム
「水道水中のクリプトスポリジウム暫定対策指針」を考える?
河川のクリプトスポリジウムー鳥取市千代川を例として
ー クリプトスポリジウムの除去率
集水埋渠のろ過能力―鳥取市千代川を例として―
社会資本のコストダウン
社会は激動の時代を迎えた。
一体世界で、日本で何が起こっているのか。
それが我々に何をもたらすのか。
社会の仕組みがどのように展開していくのか、新しい時代の社会資本のあり方
はいかにあるべきか。
市町村の社会資本のコスト削減について
日本再生への一提言
社会資本のコストダウンをいかに図るか
交付税削減の坂道
新自由主義(自由放任主義とは何か)
小さな政府・小さな地方自治体
規模のデメリット
社会資本の性能保証
池・湖沼の浄化は可能か
琵琶湖はきれいになるのか。
そんなおおそれた話はしないとしても池、それも鑑賞池程度ならどうであろ
うか。
私は長期間池の浄化研究を毎年続けてきた。研究会を開いたこともある。
それでどうなったかと問われると辛い。
皆さんの近くのため池はきれいになってきたであろうか。
公園の池はどうだろうか。
紫外線は確実
繊維ろ床は浄化の基本
ミジンコで湖沼を浄化する
湖沼はなぜアオコが発生するか
川の汚濁と浄化を考える
河川の汚濁は水道水を不味くし、トリハロメタンを増やし、クリプトスポリ
ジウムのおそれを高める。
それでは汚染の元凶は何なのか。
集落排水が原因との説が強力かも知れない。
それをどれだけ検証したのであろうか。
将来の水質は今より極端に悪化するのか。
悪化するとすればその原因は何か。
淀川水系のダム建設に待ったがかかった。
ダム建設中止は好ましいことであるとの意見と、洪水が起きたら誰が責任取
るかとの意見が交差している。
日本はそのような建設自体から撤退しなくてならない社会になりつつある。
この情勢を加味した議論が不可欠である。
河川汚濁の今昔
単独処理浄化槽と合併処理浄化槽の問題点
川の汚れ指標には窒素・リンは不要か
農業集落排水は何をもたらすか
新緩速ろ過システム
1.はじめに
新緩速ろ過は、緩速ろ過をさらに高度化し高度浄水システムとするとともに、
欠点であった閉塞を逆洗で自動化したものである。
緩速ろ過は有機物や農薬、赤痢、コレラ、O-157等の細菌を分解し、クリプト
スポリジウムも除去する。
また濁質も除去する優れた能力を有するものであり、現代風にいえば高度
浄水ということが出来る。
新緩速ろ過はこれらの性能を細砂の利用により、さらに高めたものである。
また閉塞に対しては削り取りで対処していたが、これを逆洗で完全自動化
した。
新緩速ろ過は原理的には緩速ろ過の利点を引き継いでおり、その浄水性能
については評価できるだけでなく、明らかに高度浄水になっている。
勿論薬品を使わない自然にも人間にも優しい処理法である。
現在膜ろ過が新技術としてハヤされているが、本法の浄化性能は、膜との
比較は無意味というべきレベルの高さである。
本法は、まず従来浄水システムがなかった山間地の沢水の利用を可能にした。
さらに地下水の浄化に大きな力を発揮する。
また激しい濁質が問題となる場合においても本システムは対応できる。
このように従来対応困難であった原水に対しても対応できることも大きな
特徴である。
建設コストは極めて低く、急速ろ過、MF膜ろ過に十分対抗出来るものであり、
維持管理費にいたっては遼に安価である。
最近厚生労働省はクリプトスポリジウム対策として、直送方式であった地方
の水道についても浄水をせまってきている。
新緩速ろ過システムはこの時代の要請に対して大きく応えることが出来る。
2.システムの概要
本法は逆洗付細砂ろ過と細砂緩速ろ過で構成されている。
二段構成とすることによってシステムの柔軟性を飛躍的に高めたものである。
濁度が高いとか、高い場合が時々あるというような原水に対しては、先ず
逆洗付細砂ろ過で濁質の大半を除去する。
その後で細砂緩速ろ過を行い、高度浄水とする。
直送方式であった水道に対しては、逆洗付細砂緩速ろ過を省いて、細砂
緩速ろ過のみで浄水することが出来る。
従来の緩速ろ過が細砂の使用によって高度処理となったものである。
2.1 逆洗付細砂ろ過池
池の最下部に集水装置及び逆洗水流入装置を配置する。
池底部から上部方向にグリ石、砂利、細砂を充填する。
グリ石と砂利は細砂を支えるものであり、他の発泡コンクリートなども利用
できる。
細砂は原水によって異なるがおおむね0.1〜0.3mmの微細な砂である。
これが従来の急速ろ過の0.7〜1mm程度と大きく異なる点である。
ろ過速度は30〜150m/dであり、急速ろ過に比べやや遅い。
このろ過によって、大半の濁質はろ過されてしまう。
場合によってはこれだけで浄水とすることも可能である。
そのろ過能力の高いことが、後に続く細砂緩速ろ過の負担を極めて低くし
ているのである。
逆洗装置は急速ろ過の装置とは幾らか異なっている。
逆洗速度は急速ろ過の数分の一であり、時間当たりの逆洗水量が少ない。
従ってそれだけポンプは小型化し、建設費用が安価になっている。
低逆洗速度は利用している砂が細砂であることを見れば明らかである。
また表面洗浄装置も設置している。
2.2 細砂緩速ろ過池
この池の構造・機能は基本的には緩速ろ過池と同等である。
違いは下部グリ石、砂利の構成とろ過砂、さらにろ過速度である。
細砂はおおむね0.1〜0.3mmの大きさであり、原水によって異なる。
緩速ろ過が0.4〜0.7mm程度の大きさであることを考えると極めて小さい。
ろ過速度は8m/d程度であり、緩速ろ過の標準的ろ過速度の約2倍である。
濁度が低い場合はさらにろ過速度を上げることが出来る。
細砂の利用は浄水の高度化をもたらすだけでなく、有機物が少ない原水に対して
濁質の漏出を止めるという効果がある。
これは地下水への適用を可能にしたものとして極めて重要なことである。
3.技術的特徴
3.1 緩速ろ過の閉塞対策
閉塞を起こさない条件を付加するならば、緩速ろ過はコスト、浄水能力何れ
においても最も優れた方法になる。
私と(株)開発興業はこれらの長所を生かし、より実用化できるようにする
研究開発を進めてきた。
今その結果、を以下に示す。
(1)ろ過池の覆蓋
従来でも覆蓋は寒冷地にて行われる。
通常は覆蓋しないが、覆蓋によって藻類の繁殖が無くなり、藻類による閉塞
を止めることが出来る。
藻類の繁殖のみを押さえる透明板も使うことが出来る。
緩速ろ過では基本的には覆蓋は行わない。
その理由は太陽光の基で藻類を繁殖させ、多量の酸素を発生させることに
あるとされている。
しかしながら、藻類の繁殖はある意味では、分解に酸素を必要とする有機物
を作っていることになり、かえって水を悪化させているのである。
勿論藻類やそれから流れ出す諸々の有機物は、最終的には緩速ろ過によって
分解されるといわれている。
そうであるならば、生成した酸素はその分解に全て使われることになる。
この藻類を排出するならば確かに酸素の余剰が出てくる。
しかしながら速やかに藻類を流出させることが出来るかどうか技術的問題
を抱えているものと考えられる。
本法は原則として逆洗付細砂ろ過池と細砂緩速ろ過池の何れも覆蓋する。
場合によっては前者の覆蓋は省くことが出来る。
この覆蓋によって藻類の繁殖は行われず、トリハロメタンを高くするような
成分の増加も阻止することが出来る。
覆蓋は確かにコストアップにはなるのであるが、其れを遼に上回る利点が
生じているのである。
(2)逆洗付き細砂ろ過(前処理システム)の意味
○凝集剤を利用しない
閉塞するのであれば、前段でろ過し、閉塞の時には逆洗すればよい。
逆洗装置付きろ過は既に急速ろ過で一般的に利用されている技術である。
問題は凝集剤を使わないで濾過することである。
そこで細砂を使うことでこれを解決した。
○物理路かと生物ろ過でクリプトを除去
砂の粒径は0.1〜0.3mmと小さいく、5ミクロンのクリプトスポリジウムも
大半を物理濾過できる。
細砂であるから逆洗時の砂同士の衝突の衝撃は小さい。
そのためバクテリアが繁殖しており、物理ろ過以外に生物ろ過を行っている。
結局クリプトはこの逆洗で除去できることになる。
○沢水を始めて可能にした
このシステムは、閉塞時の砂の掻き取りを、逆洗で置き換えたことになる。
当然自動化したものであるから無人である。
この自動化は従来濁質が多くて利用できなかった沢水に対しても対応できる
ものである。
沢水は夕立があれば濁水となり、無機濁質のみならず細かい腐葉などが多量
に含まれている。
従来の緩速ろ過はこれに対応できなかった。
あちこちの山奥で緩速ろ過設備がうち捨てられているのである。
勿論急速ろ過は対応できない。
膜ろ過も対応できないのである。
3.2 ろ過砂に細砂の使用
緩速ろ過では、ろ過砂は0.3mm以上で0.6mm程度の大きさのものを利用するこ
とになっている。
しかし、これでは単なる濁水では濾過不十分になる。ある程度有機物が含まれ
ていて、バクテリアが繁殖し、ろ過膜を生成することで、濁質も除去させる
のが従来の緩速ろ過である。
しかし、沢水や地下水などでは有機成分が少ないことが多々あり、スライム
が完全には生成せず、濁質が除去できないことがある。
こうなると浄化が不十分になる。
そこで0.3mm以下の砂を利用することにした。
この細砂は従来含まれてはならないと決められていたものである。
禁止されていた細砂、この中に大きな可能性が詰まっていた。
同じように逆洗付細砂ろ過も細砂を利用するが、緩速ろ過ではろ過速度が
極めて小さい。また逆洗しない。
そのため、逆洗付き細砂ろ過以上に、物理ろ過を行い、スライム(ろ過膜)
が発達し、生物ろ過を行うのである。
勿論細砂を単に採用するのでは、ほとんどの場合閉塞をきたしてしまう。
そこで逆洗付き細砂ろ過を前処理として組み合わせることによって、この
細砂を緩速ろ過に使えることになった。
原水が沢水の場合、降雨の度に濁水が発生する。
そのたびに前処理でこれを除去し、逆洗する。
結果として細砂緩速ろ過は濁水を免れる。そこでは徹底した浄水が行われる。
原水がほとんど濁らない場合、前処理の逆洗は長い時間をおいて行われる。
しかし、これがあるから細砂緩速ろ過は長期間メンテフリーになるのである。
3.3 きれいな地下水は細砂緩速ろ過単独―メンテフリーが続く―
勿論、濁質や有機物がほとんどない地下水の場合、細砂緩速ろ過のみで良い。
これは既に2ヶ所のプラントで実証しているところである。
4年間経ても全く閉塞現象は無く、メンテフリーが続いている。
ポンプさえ動いていれば長期間浄水が得られるのである。
コストは井戸ポンプだけである。このポンプはどの浄水方法でも共通である
から、浄水部分だけ取ればランニングコストは零である。
このシステムは、直送方式の安全対策、保険として有用である。
直送方式で井戸水を一度細砂緩速ろ過して直ちに消毒後送水するのである。
元々濁質がないから、ろ床が閉塞することが無く、かつクリプトスポリジウム
の心配も無くなる。
特に重要なことはろ過だけでなく高度浄水となることである。
浄水設備というからには原水を浄水しなければ意味がない。
安全で、美味しい水をさらに安全で美味しい水としなければならない。
膜ろ過も地下水の浄水システムとして大きく提唱されている。
しかしながら膜ろ過は物理ろ過だけである。
安価な膜ろ過として登場した孔径の大きなMF膜はろ過もクリプトスポリジウム
は取るが、赤痢菌や、コレラ菌は除去できない。
ましてウイルスには歯が立たない。
クリプトは地下水に含まれる可能性は極めて低い。
ほとんどの地下水ではクリプトは含まれていないし、これからも含まれる
可能性はないであろう。
それをクリプト怖さに、クリプトをろ過するだけのシステムを導入する意味
は何か考えていただきたい。
4. まとめ ー新システムの長所―
○本法は緩速ろ過の欠点を克服したものである。
閉塞現象に完全に対応できる。
砂の掻き取り問題を、自動逆洗装置という高度技術を採用することで解決した。
これによって緩速ろ過の応用範囲が大幅に広くなった。
○自動化したため、人件費が僅かである。
従来の緩速ろ過に比べ、場合によっては非常に少なくなる。
これは砂の掻き取りが不要になったためである。
同じ自動化であっても、膜ろ過の自動化とは事情が異なる。
膜ろ過では自動化しないと運転できないのである。
自動化しても人件費は安くない。
すなわち、薬品洗浄は手動であり、場合によっては工場に持ち帰る必要がある。
また膜の張り替えもある。
○維持管理に高度技術を要しない。
これは自治体が導入する場合重要なことである。
さらに高度技術を要する場合は、結果として不完全技術であることが少なく
ない。
○コストは緩速ろ過としての性格を維持しており、極めて低い。
これは地方自治体で小規模浄水場を建設する場合、大きな意味を持つ。
コストは建設費と維持管理費で判断されるが、その両面とも他の方法に比べて
有利である。
○さらに細砂緩速ろ過の長所は細砂になって、より高度処理になったこと
である。
細砂を使うとろ床内の砂の表面積が大きくなる。
従来の2〜3倍である。
それだけ浄水能力が向上している。
○従来の緩速ろ過は地下水が苦手であったが、細砂の利用によって充分に対応
出来ることになった。
○沢水に対しては、規模が小さいこともあり有効な方法が無く、コストを無視
すれば、膜ろ過が利用できる程度までになっていた。
逆洗付き細砂ろ過・細砂緩速ろ過システムはこのような状況に対して、低コス
トの方法を提供することとなった。
−−
緩速ろ過の特徴
1.はじめに
緩速ろ過とは、原水を、砂を50〜1mほど敷いた池に流入させ、その下部から水を
取ると美味しい水になるだけでなくコレラ菌、赤痢菌、O-157、クリプトスポリ
ジウムなど全部分解してしまうという優れものである。
上手くいけば数年間何もしないで浄水でき、コストが低くというよりほとんど
タダで、勿論、手間のかからない方法である。
浄化出来る成分も極めて範囲が広く、理想的である。
しかしながら、1日4〜5mのゆっくりした速度で砂の中を通すため、土地が
沢山いるといわれる。
原水の性質によっては、ろ床の閉塞が起こり、維持管理が極めて困難になる。
日本では順調に運転できない場合も少なくない。
洪水時の濁水による、ろ床の閉塞は典型的例である。
閉塞する場合は砂表面を掻き取るのであるが、これを人手で行うため、
嫌われる。
2.原理
昔から地下水は、美味しく、綺麗で、安心なことがよく分かっていた。
コレラも発生しない。
要は砂の中を通すと綺麗になるということである。
(1)有機物や有害生物を分解出来る理由
砂の中に水を通すと、沢山の無害なバクテリアがいて、水の有機物や有害
細菌などを食べてしまう。
農薬なども分解されることになる。
さらにこれら無害細菌を食べる小動物がいる。
そのため、ほとんど汚泥が発生しない。
(2)スライムは濁質も除去
バクテリアの巣はねばねばしている。
これをスライムという。
スライムは色々なもの、溶けている有機物、有機物の濁り、粘土質などを
吸着できる。
スライムはバクテリアが餌を集め、後でじっくり分解するための重要な物質
である。
いわば餌場である。
砂は0.5〜0.6mm程度の大きさであるが、このスライムがあるから小さな
濁質の大半をろ過してしまう。
(3)鉄・マンガンを除去
砂の中は好気的に維持する。
原水によっては鉄、マンガンが溶解している場合がある。
これは原水があった場所が嫌気性であったため土などの鉄、マンガン酸化物
が溶解したものである。
砂の中ではこれらは鉄バクテリアによって酸化型にかえられ、直ちに
水酸化物となって不溶性になる。
(4)砂の上は藻類の世界
砂の上は原水が張ってあるが、太陽が燦々と降り注ぐ世界である。そこでは
小型植物である藻類が繁殖している。
藻類は炭酸ガスから有機物と酸素を作る。
この酸素が砂の中を好気性にするといわれている。
ただし物質収支的には、有機物を何らかの方法で除去する必要がある。
中本氏は水をゆっくりと流出させ、藻類を除去することを提唱している。
これをどうコントロールするかという問題もあるかもしれない。
(5)閉塞対策
そうはいっても、何れ閉塞が発生する。原水が悪ければ、頻繁に閉塞する。
この時は、水を抜いて、砂を2cmほど削り取る。
これはグラウンドのトンボで削るという代物である。
これが原始的と嫌われるのである。
頻繁に閉塞する場合はイヤになってしまう。
山奥の緩速ろ過などで、これが発生することは普通である。
3.システムの概要
水漏れしない池をコンクリートで作る。
最下部には集水溝や集水管を配置する。
下部から上部にかけてグリ石、砂利を入れていき、最上部は90cm程度
ろ過砂を入れる。
この砂は閉塞の度に少しずつ削り取られていく。
ろ過砂が40cm程度になったら、砂を補充する。
砂の上に原水を流入させ、上から下に水をゆっくりと流す。
そのろ過速度は4〜5m/d、最大でも8m/dと極めて緩やかである。
それ故、緩速ろ過といわれる。
このようにゆっくり流すと有機物は砂の最上部で分解される。
そして閉塞も最上部だけになる。
実はこれが極めて重要であり、ろ過速度を上げると分解が砂全体で行われる
ようになる。
これでは削り取りで閉塞を解決することが出来ない。
ろ過速度の調整は、浄水出口の水位レベルを上下する、原水の水位を上下する
などの方法で行われる。
閉塞とは水位が上昇し溢れるようになることである。
4.緩速ろ過の浄化物質
急速ろ過に比べ除去・分解物質は遼に多いことに留意されたい。
勿論膜ろ過は濁質除去だけであるから、全く比べものにならない。
この方法は自然で行われていることを、人工的に再現したものである。
自然に優しい浄水であり、PAC等使用薬品などの有害物の心配もない。
○濁度成分除去
○ダイオキシン除去、クリプトスポリジウム除去
○有機物分解
○アンモニア酸化
○鉄・マンガン除去
○農薬分解など多くの成分を除去分解
○トリハロメタン生成能を下げる
特徴をまとめると
○多くの物質を浄化できる。
ただし、フミン質は浄化できない。
○コストが安い。
水質が緩速ろ過に適しているならば、ほとんど手間がかからず非常に
安価になる。
1トンあたりというと、ほとんどタダといいたくなる場合も出てくる。
ポンプを8年で1回交換しても費用的には微々たるものである。
電気代も汲み上げる費用だけである。
○薬品を使わないので安心である。
汚泥もどこに捨てても問題ない成分である。
5.欠点もある
よいことずくめのようだが、欠点もある。
欠点故に、利用されなくなる傾向にあったが、最近見直しの機運もある。
(1)ろ過速度が4〜5m/日と遅く、ろ過池の面積が大
全体的には都市浄水の急速ろ過と大きな差はない。
ろ過池のみを取り上げると、そのようにいわれるが汚泥乾燥設備が要らない、
攪拌池や沈殿池も不要などの点を考慮すると、特に緩速ろ過が多大の面積
を必要とするわけではない。
しかしながら、膜ろ過、特に最近開発された孔径の大きなMF膜と比較する
と必要面積は大きい。
単に濁質だけを除去するだけのシステムと比較するのは酷であるが、
はやりの膜ろ過を勧める者はこの点を批判する。
(2)濁度成分が多いとか有機物が多い場合は、ろ床の閉塞が起きる
この時は砂の表面を掻き取らねばならない。
実はこれが最も現場で嫌われていることである。
実際に削り取り回数が増えてくると現場は困惑する。
「何でもかんでも緩速ろ過」というような議論は避けなければならない。
むしろ、原水が適当であるかどうか、厳しく判断した後に採用すべきである。
(3)原水が降雨によって濁水になる場合
山間地では一度夕立が来れば濁水が沢を下る。
こうなると、ろ床の閉塞が起きてしまう。
雨の度に砂を掻き取ったのでは泣いてしまう。
実際には、これがあって緩速ろ過は嫌われているのである。
欧米のように水が穏やかに流れ、洪水が起きない所では、この閉塞は
起こらない。
それではどの浄水方法がよいかというと 膜も急速ろ過も手が出ない。
山の中の水道事業は極めて難しい。
「他の方法が採用できないので、緩速ろ過を採用した。
ところがダメであった。やはり緩速ろ過はダメだ」といわれたのでは
立つ瀬がない。
(4)原水がきれいでないため、ろ過池で藻類が繁殖し閉塞する場合
運転管理を良くすると閉塞しないとの意見があるが、一般的ではない。
中本教授は藻類を繁殖させ、これを押し流してしまえばうまくコントロ
ール出来ると主張する。
全ての原水ではないとしても一考に値する。
ある程度の頻度の砂削り取りを覚悟することも一つの解決方法である。
(5)原水の有機物が少ない場合、ろ床のバクテリアが不足し、
濁質が漏出することがある
特に、地下水の緩速ろ過では問題が起きる可能性がある。
クリプトで地下水が注目されており、これは重要な問題点である。
新緩速ろ過システムは細砂によってこの問題を解決した。
6.中本教授の紹介技術
緩速ろ過の改良として、ろ過池の水は一部ろ過し、残りは捨てる方法が
信州大の中本教授によって紹介されている。
これは汚濁された原水に対して緩速ろ過の運転を容易にするものである。
しかし、全てには当てはまらない。
特に河川の上流ではこの方法は適用できないであろう。
流入する濁水は多量の粘土質をろ床内に持ち込む。
それが閉塞を招くのである。
7.考察
(1)設置面積大は欠点か
この点は一つの欠点と云われてきた。
確かに場所によっては地価が極めて高く、これが大きな費用となるところも
ある。
しかし、バブルがはじけた今、都市の地価は数分の一である。
まして地方の地価は極めて低く、今後も、この傾向が続くのである。
実際に建設費用の中の土地代を試算してみよう。
田舎では今や1平方メートルが1万円以下というところは極普通である。
1万平方メートルでも1億円以下とすると〜〜我々の社会は戦後50年の意識
から抜け出すことが出来ていない。
土地は高いものである、高くなるものである、何とか面積を縮小したい。
そこで相変わらず面積当たりの浄水能力を問題にしていないか?
新しい技術はややもするとこのような観点で開発されてきた。
グローバル化の波に揉まれる我が国において新しい見方が必要になっている。
(2)浄水とは何か
住民に供給する水道水は安全で、美味しく、安価である必要がある。
浄水とは原水をより安全に、よりおいしくするものである。
悪い水を浄水するのは勿論のこと、よい水はよいなりにさらに浄水しなけ
ればならない。
地下水が時に濁度0.1度を超えるから、とにかくこれをクリアするために、
膨大な費用を費やして建設したところ、維持管理費に泣くなど、
責任問題になりかねない。
これからの社会はそういうものである。
そう考えるとき、緩速ろ過は基本的に最も多くの利点を有している。
確かに水道事業者として問題となる欠点はあるが、あまりある利点が多い
ことを理解すべきであろう。
(3)河川下流の水での閉塞対策
○河川の下流となると落ち葉が流れ込むことも少なくなる。
TN,TPは確かに高いから、藻類は繁殖しやすい。
しかし、経験を積むならば、閉塞を避けるすべも分かって来るであろう。
台風時の対策もその一つであろうし、中本教授の提案も期待できる。
○さらに考えられるのは覆いをしてしまうことである。
太陽光が無くなれば、藻類の繁殖は防ぐことが出来る。
そうなると閉塞は起こりにくくなる。
但し、酸素の供給には十分配慮する必要がある。
流入時に何らかの曝気が必要な場合もある。
(4)地下水への展開
地下水は濁質が極めて少ない。
しかし厚生労働省は浄水せよという。
ところがもともと綺麗な水で、タダであったから、浄水したくない、
金をかけたくない。
そうなると安価で、維持管理の容易な処理法が求められる。
緩速ろ過は十分手を挙げる資格がある。
但し、有機物が少なく、スライムの発達が不完全であるから、濁質の漏出
対策を立てるべきである。
山奥の水道も避けるべきであろう。
−−
急速ろ過とは
現在、汚濁した原水の浄化の主流は急速ろ過法である。
大半の大規模都市で使われている。浄水の基本は凝集沈殿・急速ろ過である。
対象物質は濁質であるが、多少有機物も吸着分離できる。
1.原理
凝集剤としてアルミニウム塩やPAC(ポリ塩化アルミニウム)を原水に
数拾mg/l加え、急速攪拌でこれら凝集剤を分散させ、次に緩速攪拌で
フロック(大きな固まり)を生成させ、沈殿・急速ろ過でこれを除去する。
水酸化アルミニウムのフロックに濁質が凝集して一緒になって沈殿する。
さらに上澄みを急速ろ過することで残りの微細フロックを完全に除去する。
少し濁った水に凝集剤を加え多くの濁りを作り、これを除去すると、
最初に含まれていた濁りが一緒に除去されてしまう。
この方法は常時制御が必要であるが、生産性が高いので、都市型浄水に
適している。
除去出来るのは濁質である。
また農薬などを分解する能力もない。
但し、フロックに幾らか有機成分を吸着除去させることが出来る。
2.長所
○時間当たり浄水能力が高いとされている。
○汚濁が激しい水に対しても、それなりに対応でき、透明な水が得られる。
○クリプトスポリジウムもほぼ取れる。
但し、管理が不十分であると除去できない。
○除去物質が濁質だけであるが、オゾン・活性炭を併用することで水質も
相当良くなる。
但しコストが20円/m3程高くなる。
3.欠点
○常に人がコントロールする必要がある。
たとえば濁りが激しいときは、それに合わせて凝集剤の量を加減する。
自動制御だけでは無理がある。
従って小規模装置には不向きである。
○基本的には濁質だけしか除去出来ない。
○トリハロメタンの生成を抑制できない。
○有機物が取れない。臭気も除去できない。
○アルミニウムが浄水に混入する。
これがアルツハイマー様症状を引き起こすとされている。
今では透析機器からアルミ製品は除外されているのはそのためである。
○コストは高い。
但し、膜ろ過よりは相当安価である。
−−
膜 ろ過
1.はじめに
最近、小規模浄水装置に膜ろ過が採用されることが多くなった。
兵庫県は特にその例が多いと聞く。
膜ろ過の特徴は表流水では濁質を99%以上除去出来ることである。
欠点は地下水における浄化率検出方法がハッキリしない、高コスト、
維持管理が難しい、浄水物質が限られていること、前処理が複雑なこ
となどある。
2001年頃から膜ろ過を地下水のろ過に使う動きが多くなってきた。
これはクリプトスポリジウム対策を地下水にも立てるべきとの厚生労働省
の方針が大きく影響している。
さらに、表流水の場合は前処理などでシステムの組立が難しく、コストが
高くなり維持管理も簡単でないという技術的背景がある。
今では膜ろ過は地下水専用システムとして全国展開するかの流れがある。
確かに膜ろ過を地下水、それも既に水道として来た原水を対象にするの
であるから、多くのトラブルを排除でき、コストも大幅に低減できる
可能性がある。
しかし、本来は水道直送方式として成り立っていた原水を、単に万一の
クリプト対策として通常の浄水処理と同じような費用をかけるのが正しい
かどうか、大いに議論する必要がある。
一つ間違えると日本中「壮大な浪費であった」ということにもなりかね
ない。
クリプトの心配があるのは、当然のことながら表流水である。
まずは膜ろ過は表流水のろ過に全力を挙げるべきである。
その技術革新がなされたとき、膜ろ過システムが完成することになる。
2.膜ろ過の概要
膜ろ過は簡単にいうならば家庭用の浄水器のろ過部分だけをとりだしたもの
である。
家庭用浄水器は活性炭ろ過で有機物や諸々の物質を除去し、その次に中空
糸膜で細菌や濁りを完全に除去するのである。
後段の膜ろ過を取りだし、大規模にしたのが膜ろ過による浄水システム
である。
家庭用浄水器は2000倍程度の水を流すとろ過モジュールを捨て、新しい
モジュールをセットする。
家庭の場合は水道水であるから濁度は零に近いが、実際の原水は当然濁っ
ている。
さらに一々廃棄していたのでは採算が合わない。
そこで、膜ろ過は30分に1回逆洗する。
そして1年に3回ほど薬品洗浄する。
膜交換は約3年ごとである。
これが標準的な管理項目である。
如何にこれらを解決するかがシステムの完成度を上げたことになる。
もう一つの問題は、膜の孔が拡大したり、破断した場合の警報・遮断
システムの問題である。
原水濁度が高い場合、たとえば表流水で濁度5度のような場合は、浄水側
で濁度0.02度を遮断レベルとして設定すれば、99.6%の除去率を保証
できる。
しかし、地下水ではこの手は使えない。
2.1 膜の種類
(1)大きさによる分類
大きく分けて限外ろ過膜(UF膜、Ultrafilter)と精密ろ過膜(MF膜、
Microfilter)がある。
UF膜は孔径が0.01〜0.02ミクロン程度でウイルス、細菌、クリプトスポリ
ジウム全てを除去できる。
但し、有機物はほとんど除去しない。
MF膜は孔径が0.1〜0.2ミクロン程度の大きさである。
細菌、それより大きなクリプトスポリジウムは除去できるが、ウイルスの
多くは除去できない。
それ以外に、UF膜とMF膜の間の膜も開発されており、区分が難しくなって
いる。
最近、大孔径MF膜(孔径2ミクロン)というものも開発された。
この場合はギリギリ クリプトスポリジウムが除去できるというもので、
赤痢菌、コレラ菌、0−157等は除去できない。
(2)材質による分類
当初は高分子膜が主流であった。
最近はセラミック膜も登場している。
高分子膜は安価という長所がある。
欠点は虫による被害と膜交換頻度が3年に一回と高いことである。
セラミック膜は虫に食われることは無く、寿命も8年程度あるとのこと。
欠点は高価なことと目詰まりの点であろうか。
後者に対してはPACを使って解決している。
色々な膜はあるが、寿命は長寿命でもせいぜい5年程度、高分子膜は
2〜3年と考えておくのがよい。
2.2 システムの形態
(1)前処理
システムとして最も問題となるのは前処理である。
ここで可能な限り濁りやゴミを除去することで、後段の膜ろ過が容易になる。
前処理は大きく分けて凝集剤を入れてろ過するものと、徹底的にろ過を
繰り返す方法がある。
凝集剤を入れる方法が一般的なようである。
後者の場合はろ過を繰り返すことで薬品を入れなくてもよいが安定して
ろ過できるかが課題である。
現実の問題として沢水のような原水では、これらの方法では困難であろう。
(2)膜ろ過
○逆洗―塩素
メーカーによって膜の種類が色々であり、そのシステムも異なる。
通常は30分に一回逆洗する。
多くの場合、少なくとも逆洗時に塩素を入れる。
これは細菌の増殖を抑制すること、膜を水生生物によってかじられるの
を阻止するためである。
要するに全ての生物が繁殖しないようにする。
これが膜ろ過の基本である。
また表流水で有機物が多い場合は生物膜が生成しやすいので常時塩素を
使う場合もある。
セラミック膜の場合、膜がパイプ状であり、ゴミで詰まる可能性が低い。
そのため予めPACを注入してからろ過する。
PACは粘土質が孔に突き刺さるのを防ぐ意味で使う。
逆洗には塩素は使用しないこともあるという。
水質によって異なるのであろう。
○ろ過流束(ろ過速度)
ろ過流束は孔径の大きいものが大きい。
表面積も関係するからろ過速度だけが設計因子となるわけではない。
1〜2m3/m2・日である。孔径2μMFで3m3/m2・日とのこと。
2.2 メンテナンス
逆洗は回数が多いから自動化してある。
順調であれば薬品洗浄だけが大変な作業となるところであるが、現実には
技術的に未完成といわれるものが設置されている例が少なくなく、
維持管理に泣かされている。
自治体がバンザイし、企業が維持管理に走るというのも極普通である。
実際10億円で数百m3/日の設備を入れたが性能が出なくてどうにもならず、
町が管理を諦め、会社も四苦八苦の対応しているというものもある。
地下水の場合元々濁度が極端に低いから、維持管理はうんと楽になるはず
であるが、必ずしもそうでは無いようだ。
いずれにしてもトラブルは覚悟しておく必要がある。
(1)薬品洗浄
30分に1回逆洗しても何れ目詰まりする。
そこで1年に2,3回薬品処理する。
これは現在のところメーカーの工場に持ち帰るしか方法がない。
これが極めて煩雑であり、コストがかかる。
建設すると最後までメーカーの支配下に入り、なすがままになるとの批判
が高い。
膜の一部を持ち帰り、洗浄した後これを設置し、次の膜を持ち帰る
ーーという作業が続く。
(2)日常の維持管理
完全自動化であるから、理屈上は4ヶ月程度メンテフリーである。
しかし、高度な自動化を図ることでシステムが作動しているから、やはり
そうもいかない。
通常毎日の点検を欠かすことが出来ない。
修理は自治体の技術者では歯が立たないから、メーカーに依頼すること
になる。
ここにも企業支配という問題がある。
コストダウンが難しくなる要素がある。
3.建設費及維持管理費
3.1建設費
建設費は田舎の1500m3/dを標準とすると約5億円とされている。
この値段は最近急激に下がって2〜3億円程度になっている。
規模が大きくなると1 m3/d当たり20万円以下になる。
地下水で大孔径膜では10万円以下であるといわれている。
3.2維持管理費
これがハッキリしない。
とにかく高額である。
一応、上の規模では20〜50円/m3とされている。
もっと高額かも知れない。
規模が大きくなると20円 /m3以下との考えもあるが、標準的急速ろ過法
の場合の約15円/m3と比較するとどうしても高い。
前処理に複雑な装置を入れるとなるとさらに高くならざるを得ない。
地下水では前処理が不要であり、半値の10円程度もあり得るというメーカー
もあるが、そのような値段で運転されている例を私は知らない。
実際にはしばしば警報器がなり、費用が飛び抜けて高いと嘆く自治体があ
ったりする。
あちこち視察して、しっかり調査することが肝要だ。
2段処理するとさらに割高になる。
何れにしても、建設費を含めると相当コストのかかるシステムとなっている。
4.地下水の場合
4.1概要
地下水を汲み上げ直送方式としている水道事業者にとって、厚生労働省の
指導は頭痛の種である。
現在の水道が、濁度、糞便性細菌の点で問題があればクリプトスポリジウムの
可能性があるから浄水しなさいという。
いままで何も問題が無かったものが急に設備を作れとのこと。
そこで登場したのが膜ろ過である。
地下水の場合、ほとんど濁度は0.1度以下である。
何かの拍子にこれが0.1を越える。
何かの拍子に大腸菌や嫌気性芽胞菌が検出される。
このような水に対して膜ろ過システムがアタックする。
4.2 コスト
綺麗な地下水の場合、前処理は必要ない。
場合によってはBODが低いから塩素も省ける場合もある。
そうなるとコストは大幅に下がる。
大口径MF膜といわれるものであると、ろ過速度も格段に大きい。
あれやこれやで建設コストと維持管理費が50%程度に削減される。
こうなると他の浄化法と型を並べるようになる。
4.3 クリプトのおそれはほんとうか
但し、大きな課題があることに留意しければならない。
それははたして地下水にクリプトポリジウムが混入しているかどうかである。
これが確認されて建設されるわけではない。
もしも将来クリプトが全く検出されない原水であることが明らかになった
場合、この投資は何であったかが問われることになる。
どぶに巨大な資本を捨てていたのである。
言い訳は通用しない。
河川水が伏流水になっていることが明確な場合は、河川の濁度と伏流水の
濁度を大雨の前から濁水が収まるまで測定すると良い。
もし、じゃじゃ漏れの河川下部構造であったならば、当然クリプト汚染の
おそれがある。
一方、濁度が99%除去されている場合は、既に急速ろ過程度のろ過機能を
有していることになる。
その場合、伏流水は高度な自然ろ過を行っているのであるからクリプトの
心配はない。
他の方法では、濁度以外に有機物などの除去能力が大なり小なりある。
急速ろ過法といえども、ある程度の有機物は凝集剤によって吸着分離される。
もちろん緩速ろ過は分解するシステムである。
それだけに罪は軽いといえよう。
4.4 保証除去率
膜ろ過の欠点は、実は、膜が一枚であることだ。
もしも膜が破れた場合、直ちに原水がそのまま水道水となる。
他の緩速濾過や急速ろ過は多層処理であるから、そのような心配はない。
たとえば地下水が平時であり、きれいで濁度0.01度であったとしよう。
この場合、検出濁度が0.01度であるならば、膜が破れていても警報は
鳴らない。
洪水が起きて、浄水濁度が0.05度になって警報がなって遮断したとしても
既に遅いのである。
水道機工は、この問題に対して、モデル的には2段ろ過を提唱している。
こうすると相当安全になるので、是非そうして欲しいものである。
但し、そうなると建設費は実質2倍、維持管理費は1.5倍程度になる
であろう。
5.まとめ
(1)長所
○濁質が完全に除去できる
(クリプトスポリジウムは100近く%除去の可能性あり)
○UF膜はダイオキシンも大半除去出来る(濁質と共に除去)
○場所を取らない。
(2)短所
○地下水では2段処理などをしなければ除去率を保証できない。
○有機物は分解しない。
○農薬などもダメ。
○建設費が膨大である。
大口径MF膜は安価になったがクリプトスポリジウム以外役に立たない。
○維持管理費が予想以上に高い。
○企業の助けがないと維持管理できない。
○原水がきれいな場合に対応できるが、其れ以外の場合はいろいろな前処
理などが必要である。
それらは
・凝集沈殿処理
――濁質を予め除去する。あるいは濁質を凝集させて膜を保護する。
・多段ろ過
――数段に分けて予め濁質を大きいものから順次除去する。
・専用ろ過装置
――連続式ろ過器を置き、凝集した水を流す。
これらの前処理は、ほとんど膜処理が必要なのかと考えさせるものである。
前処理をきちんとすることは結局急速ろ過を採用することになるので
無かろうか。
膜は必要ないのが本当の所ではないかとの疑問も湧く。
○有機合成膜の場合は塩素処理が欠かせない。
予め消毒しなければ、虫が膜を破損する、BOD細菌が繁殖する。
当然トリハロメタンは増え、膜を通過する。
○膜は薬品で洗浄される。工場に持ち帰るなど、地方担当者には
高度技術すぎる。
(3)前処理の排水や排泥―そのまま捨てている?
膜は毎日数拾回逆洗している。
10〜20%の逆洗水が排出される。
それには消毒剤、凝集剤等の薬品が添加されている。
小型装置では、通常これらを無処理で、回収することなく放流している。
それが許されるのが不可解である。
急速ろ過のように凝集汚泥は分離濃縮し、固形化すべきである。
幾ら開発途上の方法といえども限度がある。
実際、急速ろ過で発生した汚泥を川に放流したと考えると問題点がハッキリ
する。
社会的に認められないことである。
凝集剤を使った泥は主成分として水酸化アルミニウムを含んでいる。
この沈殿物は自然界にはほとんど存在しない。
アルミニウムは自然界には沢山あるが、アルミナとして安定化している
のである。
人工的な水酸化アルミニウムは、少し酸性になると簡単にアルミニウム
イオンになる。
酸性雨で草木や魚が死滅する。
(微量に溶けだしたアルミニウムイオン毒のためとされている。)
勿論砒素などの様な強力な毒性は見られないが、やはり問題物質である。
これが血液に入るとアルツハイマーになることが分かっている。
化学反応を簡単に起こす水酸化アルミニウムは除去すべきである。
規模が小さいから、直接汚泥の毒性はないからといって、そのまま捨てる
というのは問題である。
せめて最終処分地に埋め立てるべきである。
それ以外の自然界に存在しない薬剤についても、きちんと処理すべきで
ある。
現在の企業が提示する装置、コストはこれらを無視した不完全な、
問題ある見積のことも少なくない。
(4)今後の展開
この方法は表流水ではコスト的に成り立たないと考えられる。
初期投資だけならまだ良いが、実際にはメンテが予想以上に高コストである。
しかしながら今簡単にこの方法を否定するわけには行かない。
価格も低下しているし、システムの改良にも拍車が掛かっている。
今後に期待したい。
浄化物質が濁質のみであることは問題である。
それが可能な場所は沢水に限られているが、この場合もゴミ除去の前処理が
欠かせない。
何れにしても、組み合わせ処理システムがどうなるかである。
地下水には厚生労働省のクリプト対策のバックアップがあり、活躍している
方法であるが、その評価は簡単ではなく、2段処理などさらに開発すべき
ことが多い。
(2003.1)
(2003.3.20改)
−−
クリプトスポリジウム除去率
1.要旨
(1)
緩速ろ過が、最も高いクリプト除去率であり99.99%、
その次は急速ろ過の99〜99.7%である。
(2)
膜ろ過では決まった除去率は決め難く、膜破断・膜劣化の検出方法が
難しい。
(3)
地下水の膜ろ過の場合は、
○濁度検出器利用では、保証除去率は50%以下ということもあり得る。
90%を越えることは困難である。
○圧力検出器は理論的に精度が低く、利用困難である。
○気泡検出方式は問題もある。保証除去率が低いと考えられる。
(4)
表流水の膜ろ過の場合は、濁度検出器が利用できる。
この場合保証濁度は99%以上である。
(5)
膜は2段直列が望ましい。
一段ずつ2〜3年ごとに交換すべきである。
また、24時間監視体制が必要である。
(6)
現時点において、各浄水システムのクリプト除去率を見るとき、
緩速濾過が最も良好で、次が急速ろ過である。
膜ろ過は、特に地下水において採用するには問題が多く、さらなる開発
が必要である。
2.はじめに
クリプトスポリジウム(以下クリプトと略称する)が水道事業では大きな
課題になっている。
厚生労働省の「水道におけるクリプトスポリジウム暫定対策指針」
(H13.11.13)によってクリプト問題が加速した。
すなわち大腸菌あるいは嫌気性芽胞菌(これらを指標菌という)が検出され
た水源はクリプトの心配があるので、浄水が必要との暫定対策指針である。
地下水や伏流水を水道水としている、いわゆる直送方式は約日本の20%
であるが、国土面積的には非常に大きいものがある。
また地下水と浄水を混合して水のまずさを緩和している水道事業者も少なく
ない。
しかし地下水に指標菌がいるのも極普通である。
そうなると浄水が問題となる。
暫定指針の問題は、ここでは触れない。
クリプト除去率について議論する。
現在の所、急速ろ過、緩速濾過、そして膜ろ過が浄水方法である。
クリプトだけであるならばオゾン、紫外線など他の方法もあるが、また
開発途上の技術であろう。
これら3システムについて検討する。
3. 急速ろ過
3.1 原理と問題点
この方法は、凝集剤を加え、それが沈殿するときに一緒に沈殿させ、
さらに沈殿しなかった濁質を急速ろ過で除去する方法である。
原水→急速攪拌→緩速攪拌→沈殿→急速ろ過→消毒→
↑
PACなど凝集剤添加
クリプトなどの濁質は、PACが水に分散した時水酸化アルミニウムの沈殿が
出来るが、この沈殿に原水の濁質をからめ取ろうとする方法である。
添加した分については、わざわざ濁度を上昇させるのであるから、
原水の濁度が低い場合は、沈殿させた後の濁度が原水より高くなることも
ある。
そこで最後の急速ろ過でこの濁質を砂表面に吸着除去させるのである。
表流水濁度は変動がある。
特に降雨があると濁度は急激に高くなる。
その濁度と成分に合わせて凝集剤、アルカリ剤(中和剤)、補助凝集剤の
添加量を変える必要がある。
これは濁度計と連動させていても適正に投入できるわけではなく、時間的
ずれも発生する。
従ってオペレータが必要になるが、それでも管理は不完全なことがある。
濁度0.1度以下にするということは管理強化を図ることという意味である。
?3.2 濁度除去のモデル
? 平時の河川表流水の濁度は2〜10程度である。
今濁度5度の原水としよう。
これにPACを10ppm(水酸化アルミニウムとして10%)入れたとする。
この時凝集前濁度が上昇する。
これについてのデータはないが、水酸化アルミニウム1mg/lが濁度5度に
相当するとしよう。
?PAC混合時濁度=5+5=10
凝集沈殿とろ過後の濁度は0.1度以下が最大値であるが、ここでは運転
が良好で0.03度とする。
濁度除去率=(1−0.03/10)*100=99.7%
クリプトは大きく、平均濁質の2〜5倍除去出来るとする。
3倍とすると
クリプト除去率=99.9%
勿論この推算は仮定が多すぎるが、1桁も違わないのではないか。
○暫定指針の紹介している除去率は99〜99.7%である。
?4.緩速濾過
緩速濾過は急速ろ過の手法は使えない。
ろ過は階層的に起きるのである。
? 原水中クリプト→砂上部に吸着→分解→余剰汚泥発生→余剰汚泥流出
? 図1 緩速濾過におけるクリプトスポリジウムの吸着・分解除去
? 図1のように、最初砂上部のろ過膜に吸着され、そこでバクテリアによる
分解を受ける。
バクテリアは他のバクテリアに分解され量を減らしていく。
最後には一部が余剰汚泥として流出する。
従って最初の濁質と最後の濁質はものが違うのである。
中本の紹介による、米国の測定例を転記すると
?
表1 クリプト除去実験における除去率
――――――――――――――――――
テスト1 99.99991%
テスト2 99.9996
テスト3 99.99993
テスト4 99.9997
――――――――――――――――――
?
表2 緩速濾過の除去率(抜粋)
―――――――――――――――――――
?濁度 0.6度以下
? 大腸菌 1−3桁
クリプト 4桁以上
―――――――――――――――――――
これを見ると濁度の割にクリプトの除去率が高いことが分かる。
これは上記分解で説明される。
大腸菌については必ずしも除去率は高くない。
これは急速ろ過でも同じことであるが、これだけで大腸菌を完全に除去する
ことは困難で、微細なためでる。
但し管理が完全な場合、緩速濾過では大腸菌が検出されないことも少なく
ない。
急速ろ過では無検出にならない。
○暫定指針では99.99%が紹介されている。
○地下水に対してろ過膜に心配がある場合は、新緩速濾過システムなど、
対応は容易である。
5.膜ろ過の保証除去率
膜ろ過はUF膜を使用する場合、0.01ミクロンまでろ過できると色度などに
も効果がある。
そうなると5ミクロンのクリプトなど、いとも簡単に除去できることになる。
除去率100%となる。
しかし一寸待って欲しい、本当に100%なのであろうか。
5.1 理論上の除去率
膜は孔径が小さいほど5ミクロンのクリプトを取る能力が大きくなる。
UF膜では理論上100%に限りなく近い。
但し、製造工程で孔径が所定分布である膜が間違いなく100%出来るわけ
ではないであろう。
モジュール化した場合の性能低下もあるであろう。
次にMF膜であるが、公称孔径が0.3ミクロンとなると、幾らか怪しくなる
であろう。
S社のパンフレットのテストでは前処理とMF膜の結果が出ている。
大腸菌は原水の陽性が陰性になったとし100%で、一般細菌は1324個/mlが
2個になって99.9%の除去率としている。
大腸菌は陽性ー陰性であるから除去率%は出せないし、一般細菌は
99.8%であるのはそれとして、問題は一般細菌が100%でないことである。
0.3ミクロンでは一般細菌が通過することもある。
クリプトはどうなのか?
公称孔径2ミクロンというものも開発されている。
この場合はクリプトだけを除去するものであるが、3ミクロン以上を
6桁以上分離するという。
膜モジュールとしては幾らかは明らかでないようだが、何れにしても
すばらしシャープな分布を持った膜である。
○結局、調べた限りではハッキリしたことは分からないが、原理的には
除去率に問題はないようである。
○モジュールとする場合は不完全さが発生するが、除去率としては
99.9%以上と推察される。
5.2 膜一枚外は無浄水の世界
舟は板一枚下は地獄である。
どのように優れた内装が施されていようと、船底が破れれば地獄が待ち
受けている。
それと同じように、膜ろ過は1枚の膜でろ過するため、そこが壊れると
原水が無ろ過で流出することになる。
膜一枚外は無浄水の世界だ。
これは今まで余り議論されてこなかった点である。
膜は常に危険と隣り合わせであり、それ故、メーカーはその対策に腐心し
ている所でもあろうが、まだ適当な方法が開発されていないようである。
急速ろ過や緩速濾過と膜ろ過の安全ということでの違いは、ここにある。
緩速濾過ではろ過が多層的にじっくり行われるから、一部の傷も結果
として修復され大事には至らない。
急速ろ過では凝集沈殿と急速ろ過の2段浄水が行われ、後段は多層ろ過
である。
しかし膜では、それ自体が損傷すると交換するしかない。
一見すばらしく簡単で時代の先端を行っているような技術であるが、
裏返せばこれほど危険な方法はない。
損傷があっても見つからなかった場合は即危険な事態となる。
5.3 膜破断の検出は警報器でなく遮断器を
この問題は極めて難しい。
それはハッキリしたデータが公表されていないことにもよるが、維持管理
方法によって大きく変わることがあり得るのであるという点もある。
先ずシステムを見てみよう。
膜はおよそ次のような方法で安全性をチェックしている。
原水→前処理→膜ろ過→膜破断検出器→塩素消毒
ここで問題にするのは膜異常警報器である。
通常これは全体で一つ備え付けられている。
膜は使用していると孔が次第にふさがれてきてろ過速度が低下する。
それと同時に孔が劣化し、時に大きな孔が出来る。
この大きな孔は最後には破断する。
大きな孔が発生したり、破断するようになる前に膜は交換しなければなら
ない。
そこで最後に検出装置を付ける。
通常は濁度の連続測定を行う。
気泡を検出する方法もある。
これらは警報器であるようだが、浄水遮断器でなければならない。
5.4 濁度測定の落とし穴
モジュールの一つが破断すると、浄水に原水が混入する。
濁度を測定しているとこれが検出できる。
そこで、濁度計を設置する。
濁度計は一般に、小数点以下4桁まで表示できる。
しかし絶対値となると一桁以上悪く見るべきである。
さらに連続測定となると安定性がネックとなって来る。
結局濁度0.01程度が限界と考えられる。
すなわち絶対値として安定して検出出来る精度を0.003度とし、これに
長期間測定による不安定さやノイズなどの安全率を見込んで0.01とする
のである。
濁度0.01度が検出された場合、浄水を自動停止し、膜を全面交換するの
である。
したがってこれは極めて分析器に高い能力を要求していることになる。
これが危なくて、たとえば0.02が限界となるとさらに問題は大きくなる。
0.01,0.02度何れにしても、クリプトの浄水基準は濁度0.1度であるから
十分過ぎる精度ということになるのだが、クリプト除去率を考えると大変危険
なのである。
○地下水のクリプト除去率は50%?
今安定した地下水があり、鳥取市の千代川集水埋管のように、濁度が2度以下
で平均0.03度であったとしよう。
検出器の原水混入警戒の濁度検出値は0.01度である。
これを越えた場合は浄水がストップし、直ちに膜交換が行われるとしよう。
そうすると濁度2の場合除去率は最高となり99%である。
ところが、最低は原水濁度が0.02程度という期間が結構長く続き、その間
に破断したと考えるときの除去率で、これが本来考えるべき除去率である。
そうすると除去率は以下のようになる。
(1−0.01/0.02)*100=50%
何と除去率は50%、半分しかきれいにならないのである。
この状態は大変な事態であるはずだが、浄水の濁度基準は0.1度以下である
から、すばらしい水と云うことになり、厚生労働省からはご褒美もの
である。
こんな変なことが起こるのである。
シャットダウン濁度を0.005とすれば75%まで上昇するが、それを保証する
検出器メーカーはあるまい。
とにかく浄水停止となると莫大な膜交換費が必要になるのである。
ノイズで間違われては大問題である。
? 私は実は、シャットダウン濁度を0.02とするのが現実的ではないか
と考えている。
しかし、さすがにそのような条件をおくと、これは辛い判断を要求する。
すなわち、その時、除去率0%でも自動停止装置は働かないというので
ある。
とんでもない話である。
まさか、何でもいいから浄水装置なるものを通せば浄水しなくても、
出口基準は0.1度だからかまわないなどというわけにはいかない。
確かに暫定指針はそれでパスするのであるが。
○表流水では保証除去率は99%
ところが濁度測定法も表流水となると話が違ってくる。
表流水の濁度は良くても2度程度はある。
従って、濁度0.02度をシャットダウン濁度と設定しても99%の除去率
となる。
安心して濁度計による検出をシステムに組み込むことが出来る。
5.5 圧力差検出器は使えない
膜の前後の圧力差を測定する方法も利用されている。
しかし以下に示す理由により、この方法は逆洗時期検出に使うべきもの
であり、正式な浄水検査器としては利用できないと考える。
膜ろ過は30分に1回逆洗して、濁質を除去する。
したがって圧力差を連続検出すると逆洗直後は低圧で逆洗直前は高い。
従って連続的に測定するとノコギリ歯状になる。
このノコギリ波形は原水の濁度によって高さが異なる。
また、逆洗時間とノコギリ歯ピークによる逆洗マークとを関連させた
管理ソフトの内容によっても、波長・波高が異なってくる。
ここで膜の破断を検出するのは大きな破断でも起こらない限り
検出困難である。
たとえば99%の除去率を保証するとなると、モジュールの除去率が
99.9%以上であっても、1%の水量変化を圧力によって検出しなければ
ならない。
もともと原水の圧力も一定にはならないものであること、上記判断などを
加味するとき、それは不可能に近い。
5.6 気泡の検出は信頼度が低い
水道機工は東京都羽村市の3万トンの浄水施設を受注した。
地下水の大孔径膜による浄水施設であり、膜ろ過としても日本最大規模
である。
大口径膜は内径0.75mm、孔径2ミクロンで外圧方式でろ過する。
線上は空気逆洗を採用し、逆洗水は使用しないとのことである。
さて、ここでは濁度計は清澄な原水であることから、これを使用せず、
超高精度光センサーによる気泡検知方式を採用したという
(20003.1.23水道産業新聞抜粋)
濁度計を地下水に利用できないことは既に上記議論で明らかである。
このシステムがそれを理解し、他の方法を採用したのは評価に値する。
問題は気泡検出器の採用である。
空気逆洗とはどのようなものであるか明らかではないが、内から空気
を送り管の孔から外側に空気を出す方式であろうか?
この場合、複数の孔から発生する微細気泡の内、大きな気泡が出れば
破断と判断することになる。
しかし、孔が近い場合、気泡は隣同士で合一し、大きな気泡になるので
これと孔が大きくなったときに発生する気泡を区別するのはかなり難し
いと考える。
一度確かめたものだ。
このような方式を採用した場合、極端な破断を検出することはできる
可能性があるが、劣化による孔の拡大には無力ではなかろうか。
保証除去率となるとこの方式では決めがたい。
5.7 その他の検出方法
今のところ手元にあるのは上記3方式である。
その他、次のような方法が考えられる。
他にも色々考えられるとは思うが、現段階の私はここまでである。
○流量測定方式
膜破断に至れば流量が増加するという原理を使った検出器が考えられる。
この場合モジュールユニット毎に流量計をセットし、流量が増加した
ユニットを遮断するというものである。
圧力式に比べ、ユニット間の比較が行えるため、より好ましいシステム
となる。
検知―シャットダウン方式を100基設置すれば、50%以上の水量変化を
シャットダウン条件とすれば、破断に対して99%保証となる。
10%検出とすればさらに10倍と云いたいが、流量は圧力変動があり、
それに伴う時間変動が大きいから、100基の相対値を使ってもそれ程楽な
検出にはならないであろう。
ところが、ここでも膜劣化による孔の拡大ということについては無力
である。
多分劣化は時間経過と共に激しくなり、孔が次第に大きくなると考え
られる。
そして最後には破断に至る。
問題は破断前野大きな孔を検出できるかどうかである。
全ユニットが同じように同時期一斉に劣化することが考えられるだけに、
対応が出来ないことになる。
大孔径膜の場合は、ろ過圧が低いため破断よりも、まずは劣化対策が重要
になるため、この方式の利用は困難と考える。
○大腸菌検出方式
表流水で常時大腸菌が検出される場合、浄水の大腸菌を常時検出するのは
値打ちがある。
但し、地下水には適用できない。
さらに表流水ならばこの方式よりも濁度計が良さそうである。
6. ニ段直列膜ろ過方式
適当な浄化率検出方式が、地下水にはないことを明らかにした。
このままでは地下水に膜を採用するのは極めて危険である。
それではどうすれば良いのであろうか。
以下は私の考えである。是非検討願いたい。
6.1 活性炭のメリーゴーランド方式
ヒントは、活性炭の対策にある。
さらに水道機工のUF-MF膜直列方式である。
活性炭は色々な物質を吸着するが、その吸着の終わりを検出するのが
困難である。
検出出来ないまま利用すれば「何時の間にか破過してしまっていた」と
なってしまう。
一番簡単な方式は、まだ十二分に吸着出来る場合であっても早めに新品
と交換するというものである。
たとえば吸着能力が破過までに3ヶ月程度ありそうな場合1ヶ月毎に
交換する。
全体の吸着能力に対して20%程度しか利用しないことになろうが、
安全を考えて、このように運転されている。
もう一つはメリーゴーランド方式の採用である。
吸着塔を3塔おき、これを直列に接続する。
吸着を開始すると第一段が破過する時期が来る。
これを検出するか、その時期が来たら、これを交換した後、
2−3−1塔の直列にする。
次は3−1−2塔となる。
このような方式を採用すると、活性炭の能力を70%程度利用できる。
この方式は一段では破過点が見出しにくく、24時間チェックもコスト
アップになること、連続処理が比較的容易であることなど利点がある。
6.2 水道機工の二段直列方式
地下水の膜処理は除去確認の困難さという点において、活性炭吸着塔と
同じようなものである。
すなわち、能力が発揮されているかどうか判断が難しく、特に使い捨てに
するものであるだけに、その時期を見極めるのは至難の業である。
そうなると、活性炭で行われている方法に注目したい。
しかし、メリーゴーランド方式は3つの装置を必要とする。
こうなると今までの3倍の建設費が必要になる。
これはかなり厳しい選択になる。
そこで、二段直列を提案する。
二段直列そのものは、既に水道機工が提案している。
この場合、次のような方式である。
原水→UF膜→膜破断検知器→塩素注入→MF膜の安全膜モジュール→浄水
この場合は異なった膜を直列に接続している。
ところが、この方式では、それぞれが上記検出器の問題にぶち当たる
ことになる。
これでは解決は道半ばである。
なお、大孔径膜ではこれが行われているかどうか、新聞発表では
一段のようであるのが心配である。
企業間の価格競争に集中し安全対策をおろそかにしないで欲しい。
折角の2段処理の提案であるだけに。
6.3 二段直列方式
ここで提案するのはメリーゴーランドを二段で行おうとする方法である。
先ず条件を示す。
○使用膜
ポリスルホン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリルニトリリル
などの有機膜。
○メーカーの耐用年数
耐用年数は8年以上とする。
但し、これはそれだけ耐用出来ることが絶対条件であることを意味しない。
いわれている耐用年数は保証値でないことを承知した上での8年である。
実際には安全対策を施すので3年間で交換するのが適当とされている
(清水合金製作所パンフレット、聞き取り調査など)
しかし、これでは常に破断の危険があり、その検出に適当な方法がない。
さらに劣化による大孔径対策がとれない。
○膜交換頻度
二基交互に2.5年ごと。すなわち一基では4年間毎の交換となる。
○システム
最初は次のようにする。
原水→膜1(膜+検出器)→膜2(膜+検出器)→
2年半後は
原水→膜1(旧膜+検出器)→膜2(新品膜+検出器)→
この方法はこの2つの接続方法を繰り返す。
もしも、2.5年以前に初段の検出器に濁度流出が発見された場合は、
さらに期間を短くする。
6.4 利点と欠点
利点
この方式の利点は、次のようなものである。
○耐用年数がハッキリしない時に、安全側に対応できる。
○膜交換は2.5年と標準程度の頻度を設定しているのも関わらず、
99%程度のクリプト除去率を得られる可能性がある。
○膜が劣化した場合、先ず前段の劣化を検知できる。
後段が残っているため、万一の対策がとれている。
○膜劣化検知に濁度計が利用できる可能性が出てくる。
たとえば前段後段各5基程度の濁度計を設置し、シャットダウン濁度
を0.02とする。
原水濁度は長期的に見れば変動している時がある。
数ヶ月に1回濁度0.2度以上となっているとしよう。
この時、前段の濁度計が一基であれば除去率90%で検出出来る。
勿論この数ヶ月、原水濁度が0.02〜0.03度程度であった場合何ら
検知器は機能しないし、濁度0.2であっても10%以下の破断などでは
検出出来ないのであるが、後段があるからまずは一安心できる。
濁度計が複数、たとえば5基あれば、初段の破断などについて10%破断
に対して0.1度程度の濁度の時検出出来る可能性がある。
○一段では「板一枚下は地獄」であるから、24時間監視は当然として、
高度な判断が常時求められる。
オペレーターの負担は多大である。
二段直列方法では24時間監視体制程度で済む。高度なオペレーターは
不要になる可能性がある。
○一段では浄水自動停止となった場合、貯水槽の水がなくなるまでに、
膜交換が必要である。たとえば1日以内に交換する必要がある。
実質上交換に必要な膜を常備しなければならないし、沢山の技術者を
動員して全て短時間に交換する必要がある。
二段では緊急を要するとしても、1日ということはない。
現在の方法は、破断したユニットのみ交換するというものである。
これでは他の膜が劣化していて、除去が怪しくなっていることを無視し
た方法である。
とくにろ過圧が低い場合、破断の前の劣化対策こそ大切である。
欠点
○建設費が2倍になる。敷地も2倍になる。
○点検項目が2倍になる。
○二段の切り替え操作などが増える。
7.討論
7.1 緩速濾過
元々クリプト除去率が高い。
濁度0.1以上であっても問題はない。
地下水の場合、ろ過膜形成が強固でない場合があるので、表流水を膜生成
の時期に加えると良いとの報告がある。
一方、全く問題がないとの現場の報告が大半である。
もしも、ろ過膜を心配するのであれば、新緩速システムや細砂の利用を
考えることが出来る。
極端な場合、ろ過膜がなくてもクリプト除去率99%程度は容易である。
7.2 急速ろ過
元々オペレーターが24時間監視するシステムである。
濁度0.1度をマーカーとすれば、99.7〜99.9%は保証される。
但し地下水については、濁度が低いのでそれなりの安定したシステム
を開発する必要があるかもしれない。
7.3 膜ろ過
二段直結方式の勧め
問題は膜劣化とそれに続く膜破断をいかに検出するかである。
現時点では100%という方法がない。
そのため危険を抱えながらの運転になる。
但し表流水の場合は濁度計が利用できる。
地下水では濁度計は当てにならない。
他に良い方法もない。
そこで二段直列方式を提唱する。
これは活性炭と同じような悩みであることから、編み出したものである。
二段にするため、問題の検出も緊急性が低下し、長期間における
濁度上昇期を掴んで判断することが出来る。
勿論これで完全ではないが、現在の膜だけの場合に比べ、安全度は
飛躍的に上昇する。
膜を信用してはならない
高分子が当てにならないことは、昔から沢山の事例がある。
特に長期間持つかどうかは最終的には実際の条件で繰り返し調べる
しかない。
ところが膜の開発は最近であり、10年、15年持つなどと言えるわけ
がない。
信仰や期待で云っているに過ぎない。
技術者として問題ある行動である。
確かに、人工気象室による加速実験がある。
しかし、これが当てにならないことは広く高分子の技術者には知られて
いることである。
実際にその条件で使ってみるまで分からないのである。
スポンジの例
典型的な話にウレタンがある。
20年ほど前、普通のウレタンがスポンジや靴底に沢山使われていた。
ところが数年経ってある日突然崩壊するのである。
たとえばウレタンをコーティングしていた高価な洋服を5年後に着よう
とするとウレタンがネトッとしてバラバラになってしまう。
靴底が突然バラバラの粉になる、スピーカーのコーンと枠がウレタン
の崩壊で突然崩れる、
―――書けばきりがないほど崩落現象が発生した。
これは加速実験では分からない内部崩壊であった。
大問題となったのであるが、その後、高分子は改良を加えられ、問題
は少なくなったとされている。
ところがである、
私が実験用恒温装置を40万円で購入し、使っていたところ、ゴミ取り
フィルターが1年で急に溶けてしまった。
スポンジ風であった。
また独立気泡径が4ミリ程度と大きなスポンジを10万円ほど購入し、
ろ床として池に設置した。
一枚定尺で1又は2万円と高額であったが、何と1ヶ月したら、
水際から溶けてしまった。
水中でもフニャフニャになっていた。
これは3,4年前の話であった。
このように、世の中にはインチキ商品と云うべき高分子が、なお
流通しているのである。
これが今の技術レベルであることを、水道事業者はきちんと理解して
おく必要がある。
たわしの例
簡単な話で皆さんに示すならば、「高分子たわし」要するに普通のたわし
を見て欲しい。
水に入れて使うだけで、かなり短期間でダメになる。
家庭の奥さんに聞いて欲しい。
10年持つかどうか。
色々な高分子が使われているのであるが、水に浸けると2年程度で劣化する
のである。
薬品といっても中性洗剤だけであるのだがーー
膜ろ過では、それも逆洗時には塩素を使わなければならない。
そうしないと、水生生物が膜をかじったり、バクテリアが孔を塞いで
しまうのである。
酸素、水、塩素、圧力、水流、これだけの悪条件において、開発した
技術者が「耐用年数は10年以上です」というのはとんでもない話である。
単にそうなって欲しいとの期待でしかない。
技術者が口にすることではない。
たとえ元の高分子ブロックや膜が従来の経験で室内で10年持ったと
しても、膜ろ過となると全く事情は異なる。
要するに、実際実用装置で過酷な経験を経なければ分からないので
ある。
膜ろ過装置は設置した後、まともに運転できないものが、ごろごろ
していることは、承知しているはずである。
企業間の競争にかまけて、デタラメな装置は作らないでいただきたい。
水道事業者を泣かせないでいただきたい。
膜ろ過システムは5〜10年間無料保証されたい。
システムは検査が終わり、立ち上げが出来れば金を貰って終わりと
いうことがある。
膜ろ過については開発段階である以上、少なくとも膜の一代が10年と
いうのであれば、その期間は無料で性能保証して欲しい。
勿論ろ過膜が簡単に目詰まりするなどの不具合がある場合は、システム
を無料で改造して欲しい。
それでこそ、膜の未来があるのではないか。
7.4 その他のクリプト対策
その他、オゾン処理、紫外線処理など色々な方法が試みられている。
しかし手元に資料がない。
入手したときは付け加えたい。
(20003.3.6 改)
−−
集水埋渠のろ過能力 ―鳥取市千代川を例として―
要旨
(1) 鳥取市千代川の集水埋渠を例に取ると、緩速ろ過に類似した浄水
を行っていることが分かった。
(2)濁度除去率は約99.5%以上と極めて高い。
(3)クリプトスポリジウム除去率は99.9%以上であり、急速ろ過の
それと同等以上である。
(4)このように集水埋渠は緩速濾過と見なすことが出来る場合もある。
各地の集水埋渠は表流水濁度と集水濁度の関係を調査し、緩速濾過と
見なすことが出来ないかどうか検討すべきである。
?
1.はじめに
鳥取市の水道は、千代川に集水埋渠を設置し直送方式としている。
平均濁度は0.03度と極めて清浄で、最悪でも舵機度は2度である。
しかし、クリプト指標菌が見つかり、国の暫定指針によれば汚染のおそれ
があるということになった。
それでは直ちに浄水場ということになるかである。
果たして必要かどうか地元で政治問題化している。
実際、暫定指針では解析が不十分であり判断に迷うことになる。
たとえば、膜ろ過の濁質除去はテストプラントでは問題がなくても、
地下水の場合、膜破断などの検出が困難ということもあり、信頼度は
決して高くないようである。
何でも設置して濁度0.1以下であればよいのか、など疑問点は多い。
早急にハッキリさせて、水道法に組み込む体制を取って欲しいもの
である。
法律であれば議論の余地がない。
逆に、国はその全責任をかぶることになる。
この報告書は、集水埋管のろ過性能を議論したものである。
幸い鳥取市水道局は詳しい資料を集めており、これを用いて解析した。
?
2.集水埋渠の構造
千代川河床3〜3.5mのところに配管し、その周りにグリ石と砂利、さらに
その上に河床の砂利・砂を盛ったものである。
最上部は蛇篭をおき、河床の低下を防ぐことになっている。
水は河床から約3m砂利・砂の間を流れ、集水埋渠に流入する。
これを殺菌して配水するのが直送方式である。
千代川は鳥取砂丘を作り、今もそれを維持している。
その砂が増水時には川面を覆うのである。
山陰の島根県から京都府西北部まで、河川は中国山地の花崗岩が風化
した砂を流し続けている。
この砂は集水埋渠を緩速濾過にしているのではなかろうか。
それが今回の解析の発端である。
?
3.集水埋渠の特性
さて、水道局から提供されているデータを見ることにする。
図1は濁度についてまとめたものである。
3.1 測定条件
(1)測定日
平成14年3月6〜7日
(2)雨量
3/5〜3/6で上流の若桜51mm、佐治50mm、智頭58mmであり、かなり
まとまった降雨であった?
3.2 取水と水位
(1)取水変化
データによると3/6、0〜4時は取水していない。
それ以後取水を開始している。
したがって、稼働時の濁水が混入した可能性があるが、それ程大きく
ないと考える。
(2) 河川流量の変化
千代川水位は分かるが、これでどの程度増水したか不明である。
3.3濁度の変化
(1)タイムラグ
図2に表流水濁度と1号井濁度を示す。
先ず、タイムラグがあることが分かる。
2つのピークから判断すると、
高いピーク:9時間
低いピーク:11時間
で非常に良く一致している。遅れは10時間と考えて良い。
(2)濁度除去率
図2で見ると次のようになる。
高いピーク:99.7%
低いピーク:99.6%
平坦な部分:99%
○ピークを取るべきか、平坦部分を取るべきか議論は分かれるところ
ではあるが、先ず99%以上の除去率であることはあきらかである。
○濁度0.1以下については、後述のごとくまったく問題がない。
また常に幾らかは剥がれ落ちた濁質があることを考えると、平坦部の
除去率は99%よりも大である。
○濁度が上がったときの除去こそ問題とされている。
そのことも考えると除去率は99.5%以上と考えられる。
クリプトの場合はさらに除去率が高くなるから99.9%以上となる。
このように、この集水埋渠の濁度除去率は極めて高く、急速ろ過の
クリプト除去率99〜99.7%を越えるものと判断される。
?
4.千代川の集水埋渠は緩速ろ過か
なぜ99.5%以上の濁度除去率となるのであろうか。
この点を解析する。
4.1 配管周辺の砂礫層
(1)砂利はれきと砂の混合物
集水埋渠の近くは砂利など粗いもので覆われている。
しかし、その中は砂など目の細かいもので充填状態になっている。
れきだけで構成すると砂が伏流水に混入し、それが止まらなくなるが、
勿論そのようなことをするわけがない。
周囲の石、れき、砂の混合物で埋め戻しているのである。
それでは緩速ろ過はなぜ大きさを揃えるのであろうか。
それは小さい砂が混入するとその砂の目の大きさになるためである。
たとえば有効径0.4mm、均等係数2、最大径2mm、最小径0.2mmとする
場合、小さい砂が混じるとろ過がその砂のろ過に偏り、かつ効率が
悪くなるのである。
同じ意味で石などが混入すると効率が悪くなるが、ろ過という意味
では大きな影響を与えない。
(2)集水は目詰まりを起こす
集水を始めると初期は砂などが流入するが、早い段階で砂の流入は
止まり、濁度も次第に低くなってくる。
この時砂礫層の間には細かい砂が充填されていくことになる。
したがって最初がどうあろうと、運転開始すると、上流から運ばれた
砂が粗い場所に収まるのである。
これが図2である。
千代川は良質の花崗岩風解砂が沢山流れ、それが砂丘を作るのである
が、集水管の周りにもこれが配置されるようになる。
まさに天然の恵みである。
4.2 時間経過と砂利層のろ過
時間経過と共に、埋管上部及びその近くは、たとえ最初砂が不足して
いたとしても、全体に砂が充填され、流量も落ちついてくる。
この状態は、緩速ろ過よりもろ過速度が大であることもあるが、
ろ層高さが3mと緩速の3倍程度ある。
ろ過砂に相当する部分も1〜2m(緩速ろ過は40〜90cm)と充分である。
4.3 遠くの伏流水を集水
(1)削り取りが無い
さらに時間が経過すると集水管周辺のろ過速度は極めて低くなる。
これを図示したのが図3〜4である。
何しろ洪水が起きない限り緩速ろ過の削り取りに相当する作用は発生し
ないのである。
通常これは管理者にとって好ましいことばかりではない。
こうなると水は遠くの地下水を集めることになる。
この場合緩速ろ過そのものになるであろう。
もしも、管渠の周りが土のような成分が多い場合、集水流が急激に
低下することになる。
ところが砂丘を作る千代川である。
川の底は砂で出来ている。
集水量はそれ程減少しない。
これは表流水と伏流水の濁度の時間遅れをもたらす。
緩速ろ過はろ過速度5m/日と極めて緩やかである。
それでもろ過時間は5時間程度である。
ところが、1号井は10時間の時間遅れである。
これは何を意味しているのであろうか。
緩速ろ過よりも広い面積を使ってゆっくりとろ過していることに
他ならない。
(2)さらに目詰まりが進行した場合
長期間経過するとついには集水量が不足するようになる。
台風など洪水に近い流れがこれを解決してくれるのであるが、それが
起こらない場合、一般的には、ブルトーザで河床を削り取るのが
一つの解決方法であろう。
こうすることで水流が復活する。
このような対策は地域によっては1,2年毎に行わなければならない
のである。
鳥取市の集水管は、そのようなことは起こらない。
勿論、遠い将来、このようなことになるかどうか今は分からない。
河床のどこまで砂丘の砂と石、砂利が詰まっているかによる。
さらに洪水のような流れが、どの程度発生するかも大きな意味がある。
4.4 濁度除去とクリプト
特に問題となる表流水が濁っているとき、濁度が99.5%以上除去される
ことが分かった。
この場合、河床表面は洗われ濁りが砂の中に流れ込んでいる。
このような厳しい環境においてなお濁度の99.5%は除去できているので
ある。
砂の中では玉突き状に余剰汚泥が剥離する。
これが集水濁度を上昇させているのである。
緩速ろ過では、クリプトは粒子が大きいため容易にろ過され、分解される
のであるが、この場合も同じことが起きていると考えられる。
濁度除去率の高さと絶対値のレベルを見ると、明らかに観測ろ過となって
いることが分かる。
したがって少なくともクリプト除去率は99.9%以上である。
実際は99.99%かも知れないが、とりあえずは99.9%とする。
これは急速ろ過以上のクリプト除去率である。
膜ろ過と比較してみよう。
膜ろ過の場合は膜破断が起きるが、その検出が地下水のような濁度が
低い場合は難しい。
濁度計は用をなさない。
さらに破断以前の膜劣化による膜孔の拡大には打つ手がない。
このように考えていくと膜を地下水に使うのは危険である。
勿論千代川の場合は集水埋渠の方が遼に優れていることが分かる。
4.5 みずみちは心配ないか
緩速ろ過や急速ろ過ではみずみちについて言及することがある。
大抵は批判的立場で出される。
その詳細は不明であるが、急速ろ過では凝集汚泥がつきすぎて、
ろ過圧が高い場合はあり得る。
しかし、集水埋渠の場合は事情が異なる。
河川はしばしば砂、特に川内川では細砂が多量に流れている。
そのためこれらが問題となっている水道が部分的に発生したとしても、
これを補修するのである。
浅井戸の場合は砂の供給がない。
したがって、地下にみずみちが出来て、特定の汚染源からの汚濁物質
が流れ込むことが理屈上はあり得るが、集水埋渠ではそのような
心配は無いことに留意しなければならない。
?
5.鳥取市水道事業の今後
鳥取市の水道は、幸いなことに地の利を受けて伏流水が極めて清浄
であり、緩速ろ過を行ったと同じことになっていることが判明した。
クリプトの可能性がほとんどない。
将来的にも水質が悪化する可能性は認められない。
しかしながら、伏流水は表流水が増水した場合濁度が上昇すること
がある。
これが直ちに危険ということでは無いが、浄水の濁度が0.1度以下
であることを暫定指針が示しているところを考えるならば、将来、
何らかの緊急時対策を講じることが考えられる。
たとえば、その対策は、濁度上昇時、取水を続けながら放流する
システムであろう。
これはコスト的に問題の少ない方法と考える。
?
6.集水埋渠は直ちに調査を
見てきたように、鳥取市の場合は集水埋渠が緩速濾過になっている。
勿論これは地の利がそうさせた可能性はあるが、それ以外の地域では
どうであろうか。
6.1 川底全面粘土質
この場合は上流から常時泥が流れていることを示している。
集水埋渠も早い時点で閉塞し、しばしばブルトーザで削り取り、
場合によってはさらに広範囲に砂利を補給しなければならない。
このような場合は緩速濾過の機能は期待できない。
6.2 河床が砂利
これは多いに期待できる。
削り取りが滅多に必要ないようであるならば緩速濾過になっている
可能性がある。
早急に調査すべきである。
もしも緩速濾過装置であったならば、まずは安心して直送方式を続け
ることが出来るであろう。
しかし、それを主張するにはデータが必要である。
データなしに主張しても信用されない。
48時間は覚悟して連続的に表流水と集水の濁度を測定して欲しい。
?
7.討論
7.1 近くに汚水が流れている場合
問題は集水埋渠の近くに家畜舎があり、沢山の牛・豚が飼育されており、
糞が山積みになっている場合である。
雨が降ると地下水となる場合である。
このような状態が長期間続く場合、土は嫌気性になり分解能が低く
なるから、地下に汚水が流入することになる。
地下は砂の供給が絶えているから水道があるかも知れない。
そのみずみちが短い場合、糞尿の大腸菌などが多量に流入することも
考えられる。
勿論距離があれば、その間にトラップされ、分解され、菌濃度は
非常に低くなる。
クリプトは大腸菌より数倍大きいため、さらにトラップされやすい。
大腸菌濃度が低い場合はクリプトの心配はほとんどないと考える。
「クリプトのおそれ」も程々にしなければなるまい。
但し、その判断が難しく、それらの基準作成は今後の課題である。
7.2 グリ石ごろごろとはどういう状態か
砂利ばかりで水がろ過されないで集水されると心配されるかも知れ
ないが、まずは調査されたい。
砂利ばかりというのは、実は我々がそのように錯覚している可能性
が高いと考える。
確かに砂利を集めると沢山のグリ石やれきが目立つ、が今一度、
良く観察して欲しい。
それらの間は砂が充填されていないだろうか。
洪水の時、砂利が充填されない川底の上を、砂を含む大水が流れ、
川底にも流れることが出来るか考えて欲しい。
7.3 扇状地の石の河原では
それでも川底が20cm以上の石やグリ石で覆われている場合は納得が
いかない方もおられるであろう。
その場合は、自ら、河原に降りて、1平方メートル内の石を次々剥がし、
その下も剥がして欲しい。
石とグリ石で川底が出来ていないことが分かるであろう。
表面こそ水流が激しいから石しか残っていないが、その底は砂の
世界である。
石の下の水流は穏やかである。
当然砂の世界である。
勿論グリ石や大きな石も沢山詰まっている。
石だけがごろごろ存在できるのは防波堤だけである。
ここに水が流れるとどうなるのであろうか。
地下に浸透した水は数百メートルから数キロメートル、砂の中を流れる。
この中で緩速濾過に近い現象が起きるのである。
扇状地の末端ではこんこんと水が湧き出てくる。
いわゆる名水である。
緩速濾過など、僅か50cm程度流れるだけである。
幾ら同じ粒径の砂を充填して効率化を図ったとしても知れている。
自然の浄化能力を我々は知り、敬意を払うべきである。
−−−
町村の浄水方法と新緩速ろ過システム
1.はじめに
地方の農山村では水道は直送式が主流である。
しかし地方といえども水質に不安が出てきた町村も少なくない。
従来の方法は急速ろ過と緩速ろ過である。
しかし何れも一長一短であり、これというものではなかった。
一方、新しく膜ろ過が登場した。
この方法は水中の濁質を完全に除去する方法であり、クリプトスポリ
ジウムを100%除去できるという特徴がある。
小型浄水システムとしてメーカーの多くが開発に乗りだし実用化され
ている。
ところが、コストがかかりすぎる、維持管理が町村職員では手に負えず、
メーカー頼りになってしまう、発生する泥水を処理しない等問題点が
浮上した。
最近はMF膜でよりコストの安いものが開発され、地下水に使われるよ
うになったが、クリプト程度の濁質しか除去しないという問題を抱
えている。
膜ろ過は現時点では濁度の低い地下水に利用できるが、その他の水に
はまだ開発途上にあるといえよう。
一方、日本社会の今後を見るとき、自治体は合理化、組織縮小など
によって出費を大幅に縮小しなければならない。
したがって導入されるシステムは従来より高性能で、かつコストダウン
されていることが基本条件である。
勿論住民の年収も低下の傾向にあるから、使用料金は低減しなければ
ならない。
このような時代の流れを見るとき、時代に即した新しいシステムの
開発がメーカーにも自治体にも望まれる。
水道事業でもコストダウンと水道料金の低減は長期計画に組み入れる
必要がある。
結局、直送方式を浄水方式に変えようとしても、適当な方法が無い
ということになる。
我々は、このような時代の要請に応えるべく、新浄水システムの開発
に傾注してきた。
取り上げたのは、緩速ろ過であり、これを近代化して地方町村で実用
になるシステムとして組み上げる努力を行った。
?
2.従来の浄水方法の特徴
2.1 緩速ろ過の特徴
緩速ろ過は原水を、砂を1mほど敷いた池に流入させ、1日4〜5mのゆっくり
した速度で砂の中を通すというものである。
上手くいけば数年間何もしないで浄水でき、コストが低く手間のかから
ない方法である。
浄化出来る成分も極めて範囲が広く、理想的である。
しかしながら、原水の性質によっては、ろ床の閉塞が起こり、維持管理
が極めて困難になる。
日本の田舎の施設では順調に運転できる方が少ないかも知れない。
洪水時の濁水による、ろ床の閉塞は典型的例である。
閉塞する場合は砂表面を掻き取るのであるが、これを人手で行うため、
嫌われる。
(1) 緩速ろ過の浄化物質
次のようである。
○濁度成分除去
○ダイオキシン除去、クリプトスポリジウム除去
○有機物分解
○アンモニア酸化
○鉄・マンガン除去
○農薬分解など多くの成分を除去分解
?(2) 長所
○多くの物質を浄化できる。ただし、フミン質は浄化できない。
○コストが安い。
水質が緩速ろ過に適しているならば、ほとんど手間がかからず
非常に安価になる。
○薬品を使わないので安心である。
汚泥もどこに捨てても問題ない成分である。
?(3)従来法の欠点
欠点もある。
○ろ過速度が4〜5m/日と遅く、ろ過池の面積が大きい。
面積は全体的には都市浄水の急速ろ過と大きな差はない。
ろ過池のみを取り上げると、そのようにいわれるのである。
特に緩速ろ過が多大の面積を必要とするわけではない。
○濁度成分が多いとか有機物が多い場合はろ床の閉塞が起きる。
この時は砂の表面を掻き取らねばならない。
実はこれが最も現場で嫌われていることである。
・原水が降雨によって濁水になる場合
この時、ろ床の閉塞が起きることが少なくない。
雨の度に砂を掻き取ったのでは泣いてしまう。
これがあって緩速ろ過は嫌われているのである。
欧米のように水が穏やかに流れ、洪水が起きない所では、
この閉塞は起こらない。
・原水がきれいでないため、ろ過池で藻類が繁殖し閉塞する場合
運転管理を良くすると閉塞しないとの意見があるが、
一般的ではない。
○原水の有機物が少ない場合、ろ床のバクテリアが不足し、
濁質が漏出することがある。
特に、地下水の緩速ろ過では問題が起きる可能性がある。
2.2 膜ろ過
最近、小規模浄水装置に膜ろ過が採用されることことがある。
兵庫県は特にその例が多いと聞く。
膜ろ過の特徴は濁質を完全に除去出来ることである。
欠点は高コスト、維持管理、浄水物質が限られていること、前処理が
複雑なことなどある。
(1)長所
○濁質が完全に除去できる(クリプトスポリジウムは100%除去)
○ダイオキシンも大半除去出来る(濁質と共に除去)
○場所を取らない。
○自動運転(手動では運転出来ないことの裏返しではあるがー)
(2)短所
○有機物は分解しない。
○農薬などもダメ。
○建設費が膨大である。
大口径MF膜は安価になったが細菌は除去しない。
○維持管理費が予想以上に高い。
○企業の助けがないと維持管理できないのが現状。
○原水がきれいな場合に対応できるが、其れ以外の場合はいろいろな
前処理などが必要である。
これらの前処理は、ほとんど膜処理が必要なのかと考えさせるもの
である。
前処理をきちんとすることは結局急速ろ過を採用することになるので
無かろうか。
膜は必要ないのが本当の所ではないか。
○有機合成膜の場合は塩素処理が欠かせない。
予め消毒しなければ、虫が膜を破損する。
当然トリハロメタンは増え、膜を通過する。
○膜は薬品で洗浄される。工場に持ち帰るなど、地方担当者には高度
技術すぎる。
(3)前処理の排水や排泥―そのまま捨てている?
膜は毎日数回逆洗している。
10〜20%の逆洗水が排出される。
それには消毒剤、凝集剤等の薬品が添加されている。
小型装置では、通常これらを無処理で、回収することなく放流して
いるらしい。
それが許されるのが不可解である。
急速ろ過のように凝集汚泥は分離濃縮し、固形化すべきである。
実際、急速ろ過で発生した汚泥を川に放流したと考えると問題点が
ハッキリする。
社会的に認められないことである。
凝集剤を使った泥は主成分として水酸化アルミニウムを含んでいる。
このアルミニウムはアルツハイマーの心配がある物質である。
現在の企業が提示する装置、コストはこれらを無視した不完全な、
問題ある見積である。
(4)考察
この方法は現実の問題としてコスト的に成り立たないと考えられる。
初期投資だけならまだ良いが、実際にはメンテが予想以上に高コスト
である。
また、浄化物質が濁質のみであることは問題である。
それが可能な場所は沢水など限られている。其れ以外に除去できると
いわれるものは前処理のおかげであることが少なくない。
一体膜が必要なのか、考えさせられる。
地下水の場合は前処理が不要になる。
この場合は相当安価になる。
しかし本来必要かどうかの問題を抱えた投資である。
2.3 急速ろ過
現在、汚濁した原水の浄化の主流は急速ろ過法である。
大半の大規模都市で使われている。
浄水の基本は凝集沈殿・急速ろ過である。
対象物質は濁質であるが、多少有機物も吸着分離できる。
(1)原理
凝集剤としてアルミニウム塩やPAC(ポリ塩化アルミニウム)を原水に
数拾mg/l加え、急速攪拌でこれら凝集剤を分散させ、次に緩速攪拌で
フロック(大きな固まり)を生成させ、沈殿・急速ろ過でこれを除去する。
水酸化アルミニウムのフロックに濁質が凝集して一緒になって沈殿する。
さらに上澄みを急速ろ過することで残りの微細フロックを完全に除去する。
少し濁った水に凝集剤を加え多くの濁りを作り、これを除去すると、
最初に含まれていた濁りが一緒に除去されてしまう。
この方法は常時制御が必要であるが、生産性が高いので、都市型浄水に
適している。
除去出来るのは濁質である。
有機物などは除去出来ない。
また農薬などを分界する能力もない。
但し、フロックに幾らか有機成分を吸着除去させることが出来る。
(2)長所
○時間当たり浄水能力が高いとされている。
○汚濁が激しい水に対しても、それなりに対応でき、透明な水が
得られる。
○クリプトスポリジウムもほぼ取れる。
但し、管理が不十分であると除去できない。
○除去物質が濁質だけであるが、オゾン・活性炭を併用することで
水質も相当良くなる。
但しコストが20円/m3程高くなる。
(3)欠点
○常に人がコントロールする必要がある。
たとえば濁りが激しいときは、それに合わせて凝集剤の量を加減する。
自動制御では無理がある。
従って小規模装置には不向きである。
○基本的には濁質だけしか除去出来ない。
○トリハロメタンの生成を抑制できない。
○有機物が取れない。臭気も除去できない。
○アルミニウムが浄水に混入する。
これがアルツハイマー様症状を引き起こすとされている。
今では透析機器からアルミ製品は除外されているのはそのためである。
○コストは高い。但し、膜ろ過よりは相当安価である。
?
3.新緩速ろ過システム
ー逆洗付き細砂ろ過・細砂緩速ろ過システム
3.1 緩速ろ過の閉塞対策
閉塞を起こさない条件を付加するならば、緩速ろ過はコスト、浄水能力
何れにおいても最も優れた方法になる。
私と(株)開発興業はこれらの長所を生かし、より実用化できるよう
にする研究開発を進めてきた。
今その結果、を以下に示す。
(1)ろ過池の覆蓋
従来でも覆蓋は寒冷地にて行われる。
通常は覆蓋しないが、覆蓋によって藻類の繁殖が無くなり、藻類による
閉塞を止めることが出来る。
最近は藻類の繁殖のみを押さえる透明板も使うことが出来る。
(2)逆洗付き細砂ろ過(前処理システム)
閉塞するのであれば、前段でろ過し、閉塞の時には逆洗すればよい。
逆洗装置付きろ過は既に急速ろ過で一般的に利用されている技術である。
問題は凝集剤を使わないで濾過することである。
そこで細砂を使うことでこれを解決した。
砂の粒径は0.1〜0.3mmと従来の粗濾過の2〜3mmに比べ格段に小さく、
5ミクロンmのクリプトスポリジウムも大半を濾過できる。
濾過速度は30〜150m/日と緩速濾過に比べ格段に高く、装置は小型で
ある。
このシステムは、閉塞時の砂の掻き取りを、これに逆洗で置き換えた
ことになる。
当然自動化したものになるが、凝集剤を使わないので、監視体制が容易
であり、無人化に問題はない。
3.2 ろ過砂に細砂の使用
緩速ろ過では、ろ過砂は0.3mm以上で0.6mm程度の大きさのものを利用する
ことになっている。
しかし、これでは単なる濁水では濾過不十分になる。
ある程度有機物が含まれていて、バクテリアが繁殖し、ろ過膜を生成する
ことで、濁質も除去させるのが従来の緩速ろ過である。
しかし、沢水や地下水などでは有機成分が少ないことが多々あり、ろ過
膜が生成せず、濁質が除去できないことがある。
こうなると浄化が不十分になる。
そこで0.3mm以下の砂を利用することにした。
細砂を用いると、細砂自体濁質を除去することが出来、ろ過膜が不十分で
あっても機能を発揮できるというものである。
勿論細砂を単に採用するのでは、ほとんどの場合閉塞をきたしてしまう。
そこで逆洗付き細砂ろ過を前処理として組み合わせることによって、
この細砂を緩速ろ過に使えることになったのである。
原水が沢水の場合、降雨の度に濁水が発生する。
そのたびに前処理でこれを除去し、逆洗する。
結果として細砂緩速ろ過は濁水を免れる。
3.3 きれいな地下水は細砂緩速ろ過単独
勿論、濁質や有機物がほとんどない地下水の場合、細砂緩速ろ過のみで
良い。
これは2ヶ所のプラントで実証しているところである。
4年間経ても全く閉塞現象は無く、メンテフリーが続いている。
ポンプさえ動いていれば長期間浄水が得られるのである。
このシステムは、直送方式の安全対策、保険として有用である。
直送方式で井戸水を一度細砂緩速ろ過して直ちに消毒後送水するので
ある。
元々濁質がないから、ろ床が閉塞することが無く、かつクリプトスポリ
ジウムの心配も無くなる。
3.4 新システムの長所
○本法は緩速ろ過の欠点を克服したものである。
閉塞現象に完全に対応できる。
砂の掻き取り問題を、自動逆洗装置という高度技術を採用すること
で解決した。
これによって緩速ろ過の応用範囲が大幅に広くなった。
○自動化したため、人件費が僅かである。
従来の緩速ろ過に比べ、場合によっては非常に少なくなる。
○維持管理に高度技術を要しない。
これは自治体が導入する場合重要なことである。
○コストは緩速ろ過としての性格を維持しており、極めて低い。
コストは建設費と維持管理費で判断されるが、その両面とも他の
方法に比べて有利である。
○さらに細砂緩速ろ過の長所は細砂になって、より高度処理になった
ことである。
細砂を使うとろ床内の砂の表面積が大きくなる。
従来の2〜3倍である。
それだけ浄水能力が向上している。
○従来の緩速ろ過は地下水が苦手であったが、細砂の利用によって
充分に対応出来ることになった。
○沢水に対しては、規模が小さいこともあり有効な方法が無く、
コストを無視すれば、膜ろ過が利用できる程度までになっていた。
逆洗付き細砂ろ過・細砂緩速ろ過システムはこのような状況に対して、
低コストの方法を提供することとなった。
4.都市・地方と浄水方法
4.1 都市は安く、農村は高い水道料金
姫路市は2ヶ月の水道使用料は60m3として7000円以下である。
ところが加西市はその2倍である。
赤穂市は300円以下である。
一般に都市は安く、田舎は高い。
これはおかしい。
田舎は給与水準も低いのであるから当然公共料金も低くて当たり前
ではないだろうか。
日本社会では給与が低下していくことは否定しようがない。
物価も低下している。
とするならば、公共料金は連動して低下すべきである。
それが逆に高くなるとはとんでもないことである。
本当に現在のような水道料金は仕方なかったのであろうか。
もっと安価な水を住民に供給することは出来なかったであろうか。
4.2 都市における急速ろ過と膜ろ過
都市型の表流水を用いた浄水は現在のところ急速ろ過である。
膜ろ過は、当分の間、コスト的、技術的に利用できないものと
考えられる。
4.3 田舎における急速ろ過と膜ろ過
ところが、田舎になると急速ろ過も威力を失うのである。
人件費、維持管理技術何れも小規模自治体では荷に余る。
そこで膜ろ過が登場することになる。
しかしながら上記のごとく、膜ろ過は問題が多すぎる。
コスト的にも将来、地方自治体は小さな組織を目指さなければ
ならないが、その方向に真反対の技術である。
将来コストが数分の一になることを期待する。
河の上流では水質自体問題はなく、濁質のみ除去するだけでよいこと
も少なくない。
このようなところでは、膜ろ過が原理的に有用である。
しかし、凝集剤を入れるなど薬品を使うのでは何のための処理かと
なる。
薬品を使わずに膜処理できる、それも低コストである技術の開発を望む。
4.4 都会における緩速ろ過
急速ろ過は緩速ろ過との比較において浄水施設面積が少なくて済むと
され、都会ではやはり有利である。
面積は実はそれ程大きな差があるわけではないが、緩速ろ過の削り取り
が手作業で原始的であるとして嫌われる。
さらに、従来の緩速ろ過は、次のような点が問題である。
○洪水時に閉塞するというアクシデントが起きやすい。
これについて余り対応してこなかったのである。
○河川下流の水に対して緩速ろ過は運転可能であるが、それなりの
工夫が必要である。
結局、緩速ろ過は都市から姿を消すことになった。
欧米の技術をそのまま輸入してきたことのつけであろうか。
欧米では洪水は滅多に起きることはない。
そこで発達した技術をそのまま日本に輸入したのは問題であった。
4.5 小規模自治体の浄水
(1)どの方法も今ひとつか
河川上流ではどうか。
有機物が敷く無く、濁りだけ取ればよいのであるから簡単な様に思える。
そこで小規模緩速ろ過が導入された。
ところが、汚泥による閉塞という問題を解決できていない。
そのため田舎においても緩速ろ過は支持を失った。
現時点では、田舎の浄水処理には膜ろ過、急速ろ過、緩速ろ過の何れ
も適した技術ではない。
(2)直送方式の再評価
河の上流だけでなく下流においても、相変わらず直送方式が幅を利か
しているということに留意すべきである。
近くであると加古川市でも2万トン直送方式として、大事にしている。
赤穂市や龍野市などは100%直送方式である。
これを安易に浄水してはならないであろう。
上流では、実際適当な浄水方法がない以上仕方ない面もある。
地下水質が良好ならば出来るだけ直送方式を維持すべきである。
上流では浅井戸を見つけるのはそれ程簡単ではないが、是非、
井戸開発を進めて欲しいものである。
しかしながら、田舎といえどもそう簡単に豊かな地下水が得られる
とは限らない。
市川町の例がそれである。
浄水場を作る場合、コスト的に考えると、将来的には新緩速ろ過が
最も適している。
これの欠点を克服することが出来れば田舎で唯一の浄水システム
となり得る。
4.6 分散型水道網と新緩速ろ過
(1)田舎の水道は基本から見直すべき
地方の山奥では集落は数個単位で分散している。
ここで水道事業を行うにはコスト的に極めて厳しいものがある。
行政として安心した飲み水を確保することは重要課題であるが、今後の
一般会計予算の低減も間違いない現実である。
従って何でも一本化した水道と考えるのは問題ではなかろうか。
農村地帯では水道が来ても、相変わらず地下水を使う家庭が少なくない。
ますます水道利用者は少なくなる。
これは紛れもない事実である。
井戸水を使わせないようにするなど机上の空論である。
自治体は、現実を見据え、本当にやるべき施策を探るべきである。
それは、場合によっては分散型水道網というような、今まで考えられ
なかったシステムの創出もあり得る。
(2)沢水対策
沢水は降雨の度に濁水になるが、濁質を除けばすばらしく美味しい水
である。
沢水を利用する農家は兵庫県かでも沢山ある。
ところが予算の関係で水道が使えないという。
沢水しかない地帯に水道工事をすると、建設費が非常に高くなる。
このような地帯では10軒程度で水道施設を作るのも一つの方法である。
当然簡易水道であり、100%管理した水道ではないが、町行政を考える
場合、十分検討に値する。
当然低コストが条件である。
10軒で、500万円、どんなに高くても1000万円を越えるわけには行かな
いであろう。
維持費も2ヶ月5千円程度であろう。
我々の開発した新緩速ろ過システムはこれらに応えられるものと
考えている。
(3)地下水
地下水は直送方式となるが、浅井戸で、周囲に問題のある建築物や産業
がある場合は、浄化しなければならないことがある。
出来るならば他に地下水を求めるのが良いが、それも難しい場合がある。
このような地下水では濁度はそれ程高くないが、成分的に心配である。
特に地下水は全く水脈が違うような挙動を示すのが常である。
今はきれいだからといって安心してはならない。
危険な地上物から浸出水があり、これが汲み上がる危険性は常に高い。
ここでは細砂緩速ろ過が有効である。
単にろ床に水を流すだけであるからコストは極めて低い。
この方式は、有機物を分解することが出来る。
鉄・マンガンをある濃度までであれば酸化除去することが出来る。
ダイオキシンも安全である。
当然クリプトの心配はない。
なお濁度が相当高い場合は前処理を行う必要がある。
(4)河川水
小規模な自治体では、維持管理に多くの人手を割けないのが普通である。
そのため急速ろ過法は問題である。
膜ろ過は自動であるので、この点有利と見られている。
しかしメンテフリーであることを意味しない。
現実には人件費がかかるか、管理委託が高価である。
膜交換もコストアップになる。
田舎の水道では、1m3あたり100円以下で売るべきであるとすると、
金利負担等全てを加えたトータルコストが、1m3あたり30円以下で
あると理想的である。
少なくとも50円以下でなければなるまい。
5.おわりに
人口の少ない地域における水道について、特に新しく開発した逆洗付き
細砂ろ過・細砂緩速ろ過との関係を踏まえて考えてみた。
これら地域の水道行政は、直送方式が無理となった場合、代わり得る
方式が準備されていなかったのである。
我々はそれらの現実を踏まえ、古い緩速ろ過システムを新しく生き返ら
せる努力を続けてきた。
いま漸く世に問うことが出来るようになった。
これらについて厳しいご意見をいただき、さらに改良を加えたい。
そして、地方の水道に寄与できることを期待している。
−−−
公共投資とクリプトスポリジウム
要旨
地方の水道は主に直送方式である。
すなわち、伏流水や地下水を汲み上げて塩素を入れて配水している。
この方式は極めてコストが安く、地方の社会資本としてはきわめて
意味のあるシステムである。
地方の水道事業は最も金のかかる配管が都市に比べて長く不利である。
これを安全な地下水でペイしようとするものでもあった。
ところが、クリプトスポリジウムが取り上げられ、大腸菌など指標菌
が見つかれば汚染の恐れありとし、浄水設備を設けるべしとの
厚生労働省の暫定指針が提示された。
そうなると大半の地下水は汚染の恐れありとなる。
しかし、この行政指導はどうにもならない
ー今や地方の水道事業(公共事業全て)はピンチに立たされている。
田舎の水道料金は都市よりも高い。
給与水準が低い。
これではますます地域格差が拡大する。
下手な行政を進めると、住民は逃げ出すかも知れない。
水道施設で補助金を取ろうとすると浄水施設を作ることが条件になる。
いわゆる行政指導である。
但し補助金も少なくなった。
たとえば兵庫県では20〜30%しかないという。
これでは国のいうことを聞かないで勝手に作った方がコストダウン
になるかもしれない。
今や国の威光もかげりが見えている。
都市社会資本と田舎の社会資本
田舎の道路や水路はすばらしく
今までもいわれてきたことであるが、都市と田舎では社会資本の充実度
が全く違う。
ところが最近は東京都などが地方にばかり金を配るとして、反旗を翻し、
自民党も都市を重視するようになった。
たしかに道路を見ると田舎では立派な国道が続いているのに対し、
都市内の国道は道幅が狭く車で渋滞している。
広域農道なるものが人口の低い水田地帯を横切っているが、都市の
中は未だ歩道が無いところが多く、通学路にも苦労する。
水田は耕地整理が行われ、湿田も乾田化し、何時でも畑作が可能な整備
がなされている。
すばらしい升目の水田地帯、農道は舗装されすばらしい光景が展開
する。
都市のひがみに対して、農家は分担金で泣きたいという。
そして、そこには既に荒廃の蔭が忍び寄っている。
草に覆われた耕作地、谷筋の奥では水田跡はススキ畑である。
町の人はこれを見てきれいだと喜ぶのであろうか。
日本の財政破綻
田舎はこれから下水道整備を進めようとしたり、借金が雪だるまになっ
ていたりしているところであるが、日本が急に貧乏になってしまった。
なるほど貿易収支は黒字で、日本国は今も儲かっているのだというが、
それが庶民に配られるわけでもなく、政府に納められるわけでもない。
儲けはトヨタなど一部の企業のものであり、海外に投資するための
ものである。
日本に本社がある会社のものであっても、日本のものではない。
儲かった会社も基本給は減らしたいと云い出した。
? このような事態は見かけ上バブル崩壊から始まったが、日本が
グローバル化に飲み込まれのたうち回っているためである。
対応出来ない日本政府は過去12年間混迷の度を濃くしてしまった。
しかし、現在の延長上は、あきらかに米国的社会と同質の社会である。
それは果てしなきコストダウンの世界である。
産業界はもちろんのこと政府機関、地方公共団体も例外でない。
むしろ政府系こそ第一にコストダウンが要求されているというべき
かも知れない。
従前の50%であることが要求される。
実際収入はそのようにしてしまった政府である。
田舎は物価水準が低いか?
田舎の賃金水準は間違いなく低い。
それは生活に必要な物価が低いことでバランスしてきた。
たとえば2DK?一寸住み易いマンションでは2LDKで15万円、購入
すると5000万円以上、これが昔の東京などの住居費を押し上げていた。
ワンルームでも8〜10万円であった。
田舎暮らしの方がよっぽど安く済む。
ところが今や半額である。
まだ下がる。
こうなると田舎のマンションと都会のマンションで大きな差が段々
縮小してきた。
何しろ都市の地価が数分の一まで下がってきた。
? 食べ物や着るものはどうだ。
食費で従来の2/3、着るものは1/2以下である。
これは都市も田舎も変わらないというよりも、田舎の方がやや高い
ことがある。
車の費用は車庫代は相変わらず差があるが。
これらのことを考えていくとき、果たして田舎は物価水準が低く生活
しやすいのであろうかとの疑問が湧く。
バスに乗ろうとすると不便で高いから、車は一人に1台持たないと
生活していけない。
上下水道の料金は都市よりむしろ高い。
地方交付金削減に泣くのは
?地方交付金はこれから本格的に低落を始める。
国は税入を半分にしてしまったから仕方ないことだ。
そこで最初に音を上げるのは地方自治体である。
しかし、それぞれの町には土木会社が1つや二つは必ずある。
彼等は公共事業で飯を食ってきた。
どうするか。
?これからの地方自治体の社会資本
? このような厳しい先行きに対する地方自治体の対応は、次のよう
なものであろう。
第1案
出来るだけ今のうちに補助金をもらって事業をしてしまう。
第2案
事業は全面的に見直し、余程のことがない限り中止する。
実施する場合はコストを大幅に低減出来る方策を探り、かつ効果の
大きいものだけとする。
第1案はいままでやってきたことであり、何れ政府が何とかしてきた
という経験に基づいている。
「しかし最近の政府は変だ、交付金を堂々と減額してきた」というこ
とであるが、景気はそれ程悪くなくても国の税収は半分しかない
年度が続いているのだから、交付金も半分にされるのは仕方ない
ようだ。
第2案の実施は土木業の倒産、作業員の失職の世界だ。
? 地方の水道とクリプトスポリジウム問題
直送方式の見直し?
? 地方の水道は直送方式が主流である。
そこにクリプト問題がでてきた。
厚生労働省は「水道におけるクリプトスポリジウム暫定対策指針」に
おいて大腸菌などの指標菌が見つかった場合には浄水すべしと指導
してきた。
これによると大半の直送式は浄水場が必要になる。
新しい水源確保や水道管を延長するなどの工事で補助金を貰おうとすると、
この浄水が条件になるのであろう。
新しく浄水場を建設するとなると相当の予算を組む必要がある。
なけなしの積立金を取り崩し、借金をするとして、その先はどうなる
のであろうか。
一番の問題はこのことである。
赤字再建団体になるかどうかの瀬戸際の自治体にとって、公共事業は、
簡単には手を付けられない。
? 料金値下げの必要性
赤字団体になれば水道料金をはじめ諸料金を大幅アップさせ、
福祉など大幅にカットすることになる。
そうならないために今から料金をアップするのが一つの方策だ。
しかし、賃金はダウンしてゆく。
それでなお水道料金アップを図るしかないのか。
給料は一時に比べ実質20〜30%ダウンしている。
今後その低下傾向はピッチを早めるであろう。
地方の水道料金は半分にすべきではないのか。
上下水道料金は田舎が高い
実際に生活するものが金を支払う社会資本は厳しい。
「下水道料金が低く、経営が安定化しているのはどこですか」
「それは東京や大阪です」
「高いのはどこですか」
「田舎の流域下水道や田舎の下水道、農業集落排水処理等です」
「水道料金が低く、経営が安定化しているのはどこですか」
「それは東京や大阪です」
「高いのはどこですか」
「田舎の市や町の水道です」
「水道事業で浄水場などの償還が済んでいるのはどこですか」
「それは東京や大阪です」
「借金で首が回らないのはどこですか」
「田舎の市や町です」
上下水道は管渠が金を食う
上下水道は都市から整備が進んできた。
それは要求が強いこともあるが、コスト的に安価なためでもある。
下水道では80%が管渠費用であり、下水処理場なるものは余り金が
掛からない。
そうなると必然的に都市は有利である。
田舎は建設が遅れることになる。
水道も同じこと、田舎では水道管は長くなるが、ユーザーは
まばらだ。
償却が済んでしまった都市の上下水道はオゾン処理だ何だと
高度処理に走り、より美味しい水を求めている。
谷筋が長いと数軒ずつが連続するから水道管を敷設するのは
とても無理だ。
下水は合併浄化槽で何とか凌ぐとしても、簡易水道はどうする
ー現状維持しかないのであろうか。
山奥に前処理つき膜ろ過を入れたが
何とかまとまった集落群に流行の膜ろ過を入れた。
谷水を凝集剤で沈殿させ、そのあとで膜ろ過するものだ。
ところが先ず前処理がまともに働かない。
谷の水は濁度が急変する。
それに凝集剤が追従できない。
腐葉も流れて故障させる。
前段が機能しなければ後段はハチャメチャだ。
建設後2年して町はお手上げだ。
企業が付きっきりで走り回っている。
かくして500〜1000トン程度で10億円が風前の灯火だ。
他の谷には緩速濾過装置があるが捨てようかと思っているとのこと。
毎月のように削り取りさせられて、どうにもならない。
クリプトは沢水にもいるというが
猪が走ってもクリプトだという。
しかし、どうすればいいのか。
透明な水を供給することさえままならないのである。
雨が降れば風呂で足が見えない。
その世界は現実のものだ。
病気の程度はクリプトよりホンコン型の方が余程怖いと考える
しかないのか。
山奥を笑っておれない
谷を下って盆地的な町に入ると、民家が軒を連ねている街がある。
水道は直送方式である。
ところが町体育館を建設したりして、再建団体一歩手前だ。
県は広域水道を使えと攻めて来る。
最初にサインしたのが仇となって、1トン160円だ。
これを人気取りで100円で売って見たが、もはや限界だ。
直送方式が半分もないから200円で売らねばならない。
料金値上げ200%だ。
それでも赤字だ。
町長はウンといわない。
その間にも赤字が増えていく
ーー クリプトなど考えておれない。
悪夢
ある時、水道料金と下水道料金の大幅値上げを境として、町民が
県でいちばん大きい都市に雪崩を打って流出していく。
既に町にはそれを止める手だてはなく、上の部落からぼろぼろと
集落が消えていく。
子供達の姿が無くなってから久しい。
近くの町と市町村合併したが、貧乏人同士が集まっても何もいい
ことなど無かった。
ちょうど都市銀行のように。
交付金維持も、その期間が過ぎてしまうと地獄で、合併時の箱もの
の建設も応えた
ーー維持管理費がでない。
町民に仕事を与えることが出来ず、町民は車で遠くの都市で働く。
公共料金が高くては、もはやこの故郷、不便な部落に住む理由
がない。
街の土地は大幅にダウンしているから家を建てるのも部落と
変わらないのだ。
「米の完全自由化も間近という。酪農も採算に合わない。
生きていく望みは失せた」
出て行く町民の後は、ゴーストタウンの悪夢が舞う。
北海道を笑っておれない。
?
公共投資を止めるしかない?
上記の内容はそれ程非現実的でないことは財政担当者にはお分かり
のこと。
いまや地方自治体は出口無しである。
人件費削減も限度があり、下水、水道、埋立地や箱ものの借金が
覆い被さっている。
そこに交付金の減額である。
死ねというに等しいとテレビで町長が怒っていた。
しかし、それでも地方自治体は経営していかなければならない。
一つ間違うと町民が流出することは、十分考えてながら。
多分、これからは公共料金は安くしなければならないであろう。
町民の収入が減っていくとき、それが必要になる。
老人医療はどうするか、年金はどうだ。
とにかく金がかからない方策を徹底的に追及しなければならない。
それを考えるとき、まず起債は一切中止することが必要では
なかろうか。
未来の殻にあった町運営を早く見つけるしかない。
公務員から臨時職員へ、さらにボランティアへ、経営方針は
どんどん新しくなっている。
老人パワーを使うことも肝要だ。
新しい産業は何だ
亀になるだけでは未来はどうであろう。
観光も難しい、一村一品運動も色あせた。
それでも新しい復興を探るしかない。
金をかけずにである。
もし他の町より住み良い町に出来るならば、外で働いても町民
が生活してくれるかも知れない。
これも魅力だが
ーー そう、自治体のサバイバルが始まるかも知れない。
?(2003.2.14)
−−−
水道中の「クリプトスポリジウム暫定対策指針」
を考える
(2003.1.30改)
1.内容の概要
平成13年11月13日、厚生労働省健康局水道課長は
「水道水中のクリプトスポリジウムに関する対策の実施について
(通知)」を水道事業者に出した。
その暫定対策指針の要点は次のようなものである。
まず、汚染のおそれがある場合として次のように述べている。
2.水道原水に係るクリプトスポリジウムによる汚染のおそれの判断
――――――――――――――――
@
以下のいずれかの場合には、大腸菌及び嫌気性芽胞菌(以下、
「指標菌」という。)の検査を実施することとし、いずれかの菌が
検出された場合には、水道原水のクリプトスポリジウムによる汚染の
おそれがあると判断すること。
・水道の原水から大腸菌群が検出されたことがある場合
・水道の水源となる表流水、伏流水若しくは湧水の取水施設の上流域
又は浅井戸の周辺に、人間又は哺乳動物の糞便を処理する施設等の
排出源がある場合
A
@において指標菌が検出されなかった場合、クリプトスポリジウムを
除去できる浄水処理を実施していない施設にあっては、水道原水の
指標菌の検査を月1回以上実施すること。
―――――――――
上記によれば、ほとんどの井戸水、伏流水が「汚染のおそれがある」
となる。
次にどのような措置を講ずるかについて次のように述べている。
3.予防対策
クリプトスポリジウムによる汚染のおそれがある水道原水から取水
している水道事業者等は次の対応措置を講ずること。
(1)施設整備
クリプトスポリジウムによって水道原水が汚染のおそれのある浄水場
では、クリプトスポリジウムを除去することが出来る浄水処理を行う
こと。
汚染のおそれがあるにもかかわらず、これらの浄水処理を実施して
いない浄水場においては、早急に浄水処理施設の整備を実施するか、
又は、クリプトスポリジウムによって汚染されるおそれのない水源か
らの取水に変更すること。
浄水場の維持管理については次のように述べている。
(2)浄水処理の徹底
@ろ過池出口の水の濁度を常時把握し、ろ過池出口の濁度を0.1度以下
に維持すること。
Aろ過方式ごとに適切に維持管理を行う必要があるが、特に急速ろ過
法を用いる場合にあっては、原水が低濁度であっても、必ず凝集剤
を用いて処理を行うこと。
B凝集剤の注入量、ろ過池出口濁度等、浄水施設の運転管理に関する
記録を残すこと。
水源対策として次のように記している。
(3)水源対策
表流水若しくは伏流水の取水施設の近傍上流域又は浅井戸の周辺に
クリプトスポリジウムを排出する可能性のある汚水処理施設等の
排水口がある場合には、当該排水口を取水口より下流に移設し、
又は、当該排水口より上流への取水口等の移設が恒久対策として
重要であるので、関係機関と協議うえ、その実施を図ること。
以上が、通知の収容部分である。
2.速やかな法制化を
効率的・無駄のない行政を
以前の指針に比べ格段の厳しさであろう。
この行政指導が順次実施されて行くならばクリプトスポリジウム
の問題も表に出ることがなくなるかの観がある。
しかしながら暫定指針というだけあって、色々の問題も抱えている
ようである。
問題点は後で詳しく分析する。
現在の暫定指針は行政指導であろうが、これは責任関係があやふやと
なりやすい。
従来我が国はこの行政指導が大きな力を発揮してきたが、許認可
と同じように規制そのものであり、かつ裏の規制で不明確なもの
である。
我が国は、戦後ケインズ主義を採用し、国の指導による立国を目指
してきた。
現在は行政の組織化が極限まで進み、非効率化が目立つようになっ
てきた。
米国はその非効率化が我が国より早く進行し、その行き詰まり
を打開するために、新自由主義を採用した。
一方、我が国は外圧部分だけは規制緩和などの措置を取ってきたが、
その他は旧態然としており、官僚国家であり、社会主義国家よりも
社会主義的(悪い意味で)といわれる状況になっている。
水道事業についても同じようなことになっていないか、いかに
スリム化するか、効率化を図るか考えて欲しい。
私は次のように考える。
これからの日本を考えるとき、早い段階で水道法、水道法施行規則の
改正を行って貰いたい。
クリプトスポリジウムの行政指導は廃止すべきである。
濁度2度を法で定めながら、行政指導で濁度0.1、さらには
「指標菌」で規制するのはギャップが大きすぎる。
勿論行政指導であるから、直接全国の水道を一律に制約するもの
ではなく、増設工事などの場合に補助金でこれを徐々に守らすと
いうようなことであるのは分かる。
しかしこれでは時代に合致しない。
法律であるならば権利義務が明確であるし、法律自体の客観性、
正当性も問われるだけに、より効率的な、無駄のない政策を遂行
しやすくなるであろう。
浄水の意味
この度の指針は、地下水を直送方式で家庭に送っている事業所に、
浄水施設を要求するものである。
浄水方法の1つに膜ろ過が認められている。
膜ろ過は一部のUF膜を除けば、濁質を除去するだけの能力しかなく、
その他の成分を除去できない。
これが果たして充分な浄水システムかどうか問われるべきものである。
勿論表流水の膜処理では膜単独で処理されることはないが、地下水
ではあり得る。
この指針は結局クリプトスポリジウムを除去するのが「浄水」で
あるという、間違った観念を植え付けるおそれがある。
「浄水」とは、諸々の水道水として不適当な成分を除去することを
いう。
急速ろ過の導入に対しても単に濁度を下げるだけの方法として批判が
あった。
しかし単に濁度を低下させるだけではない。
除去率は低いけれども、臭気、色度、溶解性有機物を除去する。
緩速ろ過は広い範囲の成分に大きな浄水を行う。
オゾンは臭気、色度を低下させる。
活性炭は多くの物質を吸着する。
しかし、MF膜はまったくのところ、濁度を下げるしか能力がない。
これでいいのだという風潮を蔓延させないか不安である。
3.地下水は「汚染のおそれがある」か?
指針では大半「汚染のおそれがある」となるが
濁度0.1以下であろうと無かろうと、大腸菌がいたら「汚染のおそれ
がある」ことになる。
あるいは嫌気性芽胞菌でも同じことである。
何れか一方が一回でも出れば即「汚染のおそれがある」となる。
この指針によると全ての地下水といってよいような条件である。
深井戸についても、もし見付かれば「汚染のおそれがある」となる。
おそれなしにするためには何らかの特別な検出であることを
示さなければならない。
たとえば初期で配管に付着していた菌が出た可能性があるとか
である。
ほとんどの地下水は浄水すべしとなれば、クリプトスポリジウム
の心配がなくなる。
日本の水道からクリプトスポリジウム患者が1人たりとも出さない?
それが正しいか。
それでは歩行者の交通事故を1人たりともなくするように道路と
いう道路で人と車を頑強な仕切で区分すべきか?
横断歩道は全て全て廃止し、エスカレータで立体交差する
ーー 当然これが馬鹿げていることは誰でも分かる。
そこまでコストをかけると日本は潰れてしまう。
水道がそのようにならないよう注意が必要だと思う。
提供資料によると「地下水は安全」
さて、実際に提供された資料を見よう。
検出された例を見てみると地下水が危険な例は一つもないの
である。
○日本における例では 277地点中8地点(全国) 表流水のみ?
25地点(表流水、伏流水)
中表流水11地点中4地点(神奈川県)
156地点の内74地点(兵庫県)
○日本でA取水口、B上流、Cさらに上流での調査で、19県の調査
があったが、表流水は15河川で合計8地点でクリプトスポリジウム
が検出されている。
確かに米国ではきれいな泉水でも0.04個/L、
地下水で0.003個/Lであり、決して零でないといっている。
しかし、発病する濃度かどうかである。
さらに、日本と米国では降雨量も異なる。
日本ではその値はさらに低くなるであろう。
疫学データとして解析を進められたい
田舎の市町村では直送方式が一般的である。
多分大半の水源では「感染のおそれがある」となるであろう。
その場合大金をかけた浄水施設の設置を指導する。
それでは疾病率が浄水した水道地域と比べて高いのであろうか?
下痢患者がそれ程多いのであろうか。
その下痢患者の中で、クリプトスポリジウムに感染した患者はどの
くらいいるのか?
実際、越生町のような事例が発生したことがあるか。
これらの疑問について暫定基準は充分には答えていない。
そこで、我々が現実に、あるいは昔から生活してきたことを疫学データ
と見ることが出来るが、それによると「地下水のクリプトスポリジウ
ムの心配は皆無か、あるいは無視できる」といえるのではなかろうか。
これも科学的根拠ではなかろうか。
何個で発病するか
何個で発病するかは解明されていないが、少なくとも数個では発病し
ないようである。
1〜2個/Lの水道を生で2000ml呑んだとしても発症しないであろう。
従って発症するには相当高い濃度のオーシストの水道水を飲まなけれ
ばならない。
現実には地下水で発症する可能性は非常に低い。
また生水を呑まないように指導すれば、洗い物で口にはいるのは
50ml満たないから、その可能性は皆無であるとなる。
何れにしてもこの辺りを早急に解明して欲しい。
現水道よりペット対策を?
たしかに豚や牛の子供の感染率は高いようであるが、親は低い。
糞が大雨の時多量に流出する可能性はないといえない。
しかし、結果として人が水道で感染することは特殊な場合に限られ
ている。
むしろペットから伝染する可能性の方が遼に高い。
水道よりもペット対策を先ず立てる必要があるのが順当な判断と
考えるが?
勿論この意見に違和感を覚える人が多いであろう。
しかし科学的にはそうなるのである。
4.地下水にも表流水に近い水がある
地下水といっても色々である。
非常に綺麗な地下水もあれば、汚濁されやすい地下水もある。
極端な場合、表流水と何ら変わらない水を地下水と称して直送して
いたという話を聞いてもいる。
田植え時期には濁度が2度以上になるので取水を一時停止するという
井戸もある。
滋賀県では井戸水と称して表流水を直送していてフェノール騒ぎに
なった自治体もあった。
綺麗な地下水は、
「増水しても濁度が常に0.1以下である」
「増水しても濁度が一時的に2程度になるがそれ以上はあがらない」
「何かの拍子に濁度0.3度程度に上昇するが直ぐに0.02以下になる」
このような話を聞くことが出来る。
通常表流水は濁度2以上であり、増水時には遼に高い数値になる。
それを考えるとき、これらの井戸は全く問題にならないのである。
しかし、田植え時期や、増水時に確実に濁度が5度を超えてしまうよう
な地下水は、明らかに表流水と連動している。
実際井戸が小河川から2,3メートルの位置というのもある。
これなど明らかに、表流水を期待したものである。
井戸水でありながら、表流水に近いものもあるのである。
このような場合、単に地下水に分類してはならない。
表流水と地下水の中間的なものと考えるべきである。
この場合、クリプトスポリジウムの心配があるかも知れない。
当然、浄水方法は単にクリプトスポリジウムを除去すればよいの
ではない。
それにしても、危ない地下水を直送している地域で、クリプトス
ポリジウムの集団感染が発生していないのはなぜであろうか?
我々はこの原因を明らかにする必要がある。
指針の精神を見るならば、当然地方の直送方式の水道供給地域は
沢山の集団感染が発生してもおかしくない。
実はそこにクリプトスポリジウムの特異性があるのではないか。
その原因を早急にあきらかにして欲しい。
5.クリプトスポリジウムは簡単に除去できる
沈殿分離でも取れそうな大きさ
クリプトスポリジウムは人など哺乳動物の腸内から出るとオーシスト
という殻を作って身を守る。
これが塩素では簡単には死なないのである。
99%除去するには塩素1mg/Lで27時間必要という。
乾燥や煮沸には弱い。
このオーシスト、約5ミクロンと非常に大きいのが特徴である。
ビーカーに水を入れて靜置すると沈殿分離出来る程度の大きさで、
傾斜板沈殿池ではかなり除去できる。
このように大きいから、当然砂の中を流れると除去できることになる。
勿論膜ろ過でも除去可能だ。
大孔径MF膜には2ミクロンというのも開発された。
これはクリプトスポリジウムだけ除去出来、その目的に開発された。
砂ろ過の物理的除去能力
先ず考えるべきは砂そのものによる物理ろ過である。
我々は有機物がほとんどない水を使って10℃以下でろ過実験を行った。
濁質は単純粘土質で、濁度は24度とした。
結果は細砂0.15〜0.3mm(主体は0.2〜0.3mm)を30cm充填した
ところ、4ミクロン以上の濁りは大半除去できた。
すなわち、濁度そのものが1/10以下になり、さらに、濁質の内
4ミクロン以上の割合が28%から4%になった。
すなわち総合で98.6%の除去率であった。
これは想像以上の除去である。
単に砂の層を通すだけで98%以上除去できるのである。
さらに砂の粒径を小さくすれば全て除去できることになる。
このような物理ろ過でクリプトスポリジウムの大きさの粒子が
補足できるのは、砂間の隙間が最大で1/10程度であること。
それ以下の小さい隙間がほとんどであることによる。
さらに、砂は膜ろ過と違い多層ろ過である。
繰り返し砂の間を流れていくのである。
そのため砂層が10cmもあると小さいものまで除去されてしまう
のである。
砂にはスライムが発生する
ところで、実際の水は当然有機物を含んでいる。
それは粒子の場合もあるし、溶質の場合もある。
これらはバクテリアの固まりに補足・分解される。
砂粒子表面はバクテリアが繁殖し、彼等が産み出すスライムに
よって覆われている。
スライムは粘着性があり強く砂に張り付いている。
ここに懸濁粒子が流れてくるとスライムが吸着する。
このスライムに吸着された濁質と溶質は最後にはバクテリアに
よって分解されるのである。
したがって、たとえ砂が大きくても、それらは吸着分解される。
これが緩速ろ過の原理である。
信州大学中本教授が紹介している米国の研究成果によると、
大腸菌は1−3桁の除去、
クリプトスポリジウムは99.999%以上、
あるいは4桁以上(99.99%)除去できるという。
これが緩速ろ過のすごさである。
0.6mm程度の砂を使っても除去できるのである。
勿論それ以外の物質も除去できる。
6.地下水のクリプトスポリジウム大腸菌の関係について解析を
大腸菌は井戸水によく見られるが、なぜであるかを考える。
大腸菌はほ乳類に寄生している桿菌で通常(2〜4)*(0.5〜0.7)
ミクロンの大きさである。
しかし長軸が特に短く球状のものもあるから、問題となる大腸菌は
1ミクロン以下と見てよい。
容易に沈降することはない。
ろ過しようとすると、物理ろ過の場合、砂は0.02mmすなわち
20ミクロン程度にする必要がある。
これでは泥であって砂ではないから、ろ過は難しい。
糞便の中に大腸菌は107/g位いる。
一方、クリプトスポリジウムは、この原虫を持つ人自体希である。
従って、浄水されたとしてもまだ大腸菌が残ることになる。
クリプトは零になっても大腸菌は残る。
緩速ろ過や地下水ではクリプトスポリジュウムは除去
菌が小さく、数が多いから排水処理で99%除去したとしても、なお
沢山の大腸菌がいる。
一応塩素消毒して放流されるが完全ではない。
そこで河川には大腸菌がいることになる。
緩速ろ過はこれをゆっくりと砂ろ過する。
ここでほとんどの大腸菌が除去され、全く検出されなく場合もある。
これは上記浄化効果による。
地下水の場合も同じである。
通常の浅井戸で濁度が低い場合、クリプトは完全に除去されている
と考える。
先に記載したような表流水のような地下水は別である。
都市の地下水には窒素やリンが沢山含まれている。
これはシールが不完全な下水管から下水が漏れている可能性が高い
が、水の濁度は極めて低い。
これは砂の浄化効果によるのである。
多分大腸菌や芽胞菌Clostridiumはいるであろうが、クリプトスポ
リジウムはいないであろう。
この地下水を調査するのも簡便な方法であると考える。
クリプトがほとんどいないとなれば、直送式の地下水は安全という
ことに決定されるであろう。
表流水に大腸菌がうようよいても
以上のようなことを考えると河川には大腸菌がうようよおり、
クリプトスポリジウムが幾らかいるということになる。
大腸菌がいたら、必ずクリプトスポリジウムがいる可能性が高いと
いうような判断は問題である。
従ってクリプトスポリジウムと大腸菌の個数関係を早急に決める
必要がある。
7.単独浄化槽と集落排水処理
単独浄化槽は管理せず
これからは集落排水や下水道が普及していく。
それにつれてクリプトスポリジウムの危険性が増大するか検討して
みる。
排水処理施設の処理水の値は10〜103/Lとされている。
除去率96.6%である。
ところが単独屎尿浄化槽は極端に除去率の悪いことが推察される。
構造自体問題を抱えていて浄化能力があまりないこと、
日常の点検管理がほとんどなされていないことから容易に
理解できよう。
全国の受験率(年1回、罰則もある)は何と6〜8%である。
通常、設置したら、そのまま何もしないのである。
従って、屎尿の垂れ流しである。
最近は合併処理浄化槽となったが、これも管理はデタラメである。
その単独屎尿浄化槽は厚生省調査(1997年度)のよると全国に
727万基設置されている。
1基4人として約2900万人がその恩恵によくしていることになる。
これだけの屎尿がろくに処理されずに河川に放流されている。
都市の下水道はかなり整備されているから、浄化槽は都市周辺や
田舎にある。
このような現実が理解されているであろうか。
「集落排水が設置されていくと、クリプトスポリジウムの危険性
が飛躍的に高まる」と考えることは大いに疑問である。
このことがどれだけ関係者に理解されているであろうか。
「地域の違いがあるが、集落排水処理はクリプトスポリジウムの
危険性を減らす」
と考えるべきではなかろうか。
8.濁度0.1度の取扱い不統一の整理を
急速ろ過、緩速ろ過、膜ろ過の濁度は0.1度以下であるとしている。
さらに急速ろ過では凝集剤を適切に入れるように指示している。
越生町の例では原因がハッキリしなかった。
急速ろ過で0.1度を守ればクリプトオーシストは検出されないとの
データが不足している。
もし適切に管理した急速ろ過では患者が出ないのであれば、多くの
既存の直送式では、これ以上のことがいえるであろう。
緩速ろ過の場合は危険物は吸着分解され、無害のバクテリアが余剰
となって流出する。
この場合クリプトオーシストは完全に除去されているのである。
同じ基準で0.1というのは荒っぽい判断のように考える。
さらなる精密化を期待する。
同じことであるが、地下水原水にこの0.1が条件でないことは
不可解である。
地下水は砂礫や砂の配置は知ることは難しいのであるが、緩速ろ過
と同じような浄水をしている。
その評価が全くない。
この辺りも早急に検討して欲しい。
推測であるが、同じ0.1ならば地下水より急速ろ過の浄水の方が
危険ではないか。
9.「壮大な資本のどぶ捨て」を招かぬために
以上のごとく、暫定指針は色々問題を抱えている。
我が国の集団発症例が僅か2例であるのが気になる。
それは今まで全く気付かなかったのか?
しかし、米国の例もそれ程多くないのではないか。
もし心配であるならば、問題ありそうな給水地域の検便調査をして
はどうか。
それ程の金はかからないであろう。
また大腸ガン検診の便を用いて調査することもできる。
早急に明確にして貰いたい。
未解明な点は多いが、現時点で考えるならば、水道は現状以上に
レベルアップする必要はないのかもしれない。
実際に日本で患者が特殊な2例に限られている。
このことは日本中の壮大な疫学データともみえる。
自ずと分かることである。
世界は既にケインズ主義は捨てている。
日本も否応なしにその波に飲み込まれんとしている。
「公共投資で無駄なことであってもやれば景気をよくし、皆が潤う」
との考えは既に過去のものである。
そのような公共投資は確実に国力を弱める。
やればやるだけ国のコストを高くし、他国に対して不利になる。
貿易や資本が自由化されていない時代は自国だけがケインズ主義
を貫いていればよかった。
しかしその垣根が取り払われた現在、投資のための公共投資は
単なる無駄な、どぶに金を捨てる行為となった。
今、浄水設備のない人口は20%、大半は田舎であるが、この地域
に大きな金をかけてクリプト対策をしたとしよう。
10年後、それらの直送方式にはクリプトのポリジウムの心配が
なかったことが明らかになったとする。
それが膜ろ過になっていたとすると、全ての投資がどぶに捨てた
ことになる。
それだけ田舎では何一つ恩恵を受けないでコストのみアップする。
生産現場として見ても、結局コストアップするのである。
今必要なのは、物価に合わせて、イヤそれ以上に社会資本のコスト
ダウンを図ることである。
水は生活の基盤である。
「食料や衣料、住居の物価を考えるとき、水道料金は1990年代の
2/3になっている必要がある」これが、水道から見た日本の再生
条件である。
水道関係者は出来るだけ短時間で、この条件を満たすことが
要求されている。
暫定指針が「壮大な社会資本投資の無駄」にならないよう、
さらなる解析を進められたい。
−−−
河川のクリプトスポリジウムー鳥取市千代川を例にしてー
要旨
(1)
河川のクリプト濃度を推算する方法を提案した。
(2)
最も問題となるのは浄化槽である。
浄化槽が下水に移行すれば河川のクリプト濃度は減少する。
(3)
きれいな河川である千代川の予測結果は以下のようである。
○クリプト濃度は0.0036個/Lと推算される。
毎日180ml以下の生表流水を飲んでも問題ない程度である。
○国が想定している濃度にするには、表流水を原水とする場合、
クリプト除去率は91%以上となり、対策は容易である。
○従って、集水埋渠、緩速ろ過、急速ろ過、膜ろ過の何れであって
も安全な水道となる。
○将来、千代川上流の浄化槽が農集排や下水道などでなくなると
クリプト濃度は低下する。
(4)瀬戸内海や大阪湾などに注ぐ河川で上流に人家が多い場合、
さらに合流式下水道がある場合は、国の考えでは極めて高いクリプト
除去率が要求されることになるが、実態とは一致しない。
1.序
地方行政にとって水道事業は大きな課題である。
そこにクリプト問題が持ち上がった。
地方にとって、このクリプトは極めて扱いにくい。
今まで何も文句を云われてこなかった直送方式が急に怪しくなって
きたのである。
また急速ろ過では、どの程度維持管理体制を強化すればよいか検討
する必要がでてきた。
しかし、嘆いていても仕方ない。
まずは河川表流水のクリプト濃度を推算してみようではないか。
推算する方法は未だ提示されていないようだが、私の知る限りの
現在の情報を使って検討してみる。
例題として、問題となっている鳥取県東部の千代川を取り上げた。
鳥取市では浄水場の建設をめぐって大きな問題になっていて、
比較的データが揃っているので好都合である。
さて、どのような方法を使えばよいであろうか。
最初は試行錯誤で、なかなか手順が決まらなかったのであるが、
分かってしまうと極めて簡単なこととなった。
勿論基準となるべき基礎データが決定的に不足しているから、
全くの概算であるが、とにかく算出することが出来た。
また、これを用いて鳥取市の水道問題を検討することが出来た。
それぞれの水道事業所などにおいても一度推算されることを勧める。
先ず河川にどの程度クリプトがいるかを見る必要がある。
その次は地下水や浄水のクリプトである。
単に恐れるだけでなく、客観的に、科学的に解析することが大切
であると考える。
?
2.千代川
鳥取市の水道問題
千代川は鳥取県東部を流れる県下随一の一級河川である。
源流となる中国山地は花崗岩で出来ており、その風化した砂は有名
な鳥取大砂丘を産み出している。
人口は少なく(鳥取市15万人、県全体でも61万人)、降雨量が多い
から、水質は良好である。
鳥取市はこの千代川から集水埋渠で伏流水を集め、直送方式で配水
してきた。
ところが、鳥取市水道の浄水場建設騒ぎが起こり、大論争になり、
かつ政治問題化してきた。
前市長にはリコール請求がなされ、危ないところまで行った。
そして昨年の市長選挙では、急速ろ過建設の前市長、完全中止を
訴える前県議、再検討及び緩速ろ過を主張する官僚の保守3氏の戦い
になり、凍結再検討を訴えた竹内氏が当選した。
ところがその市長も膜ろ過との方向になってきている。
混迷を深める鳥取市は、まさに全国の水道事業の混迷の象徴である。
千代川の概略
○流域面積1,190平方キロメートル、長さ52キロメートル
○鳥取市を除く上流域人口 49,464(H14.3.1)
集落排水処理施設等人口29,800人、
将来施設利用する人口15,600人
○家畜
牛3,700(S56)→2,500頭(S12)
豚5,500(S54)→1,300頭(H12)と減少傾向が続いている。
○県年間降水量 1,926mm(H12) 全国第9位
○平水流量 40〜70m3/秒(平均50m3程度=4,320,000m3/日)
○水質 極めて良好
?
3.クリプト排出原単位
人がクリプトを河川に流すのはいうまでもなく屎尿を通してである。
ところがその状態がハッキリしない。
原単位が分からないのであるから、ひたすら恐れおののくこと
にもなる。
そこで敢えて概算することにする。
下水道放流水からの放流
暫定指針では建設省の調査を記載している。
それによると下水の全国67ヶ所、73試料のうち7試料からオーシスト
検出、その濃度は8〜50個/Lであった。
さらに詳しくは、鳥取市の浄水施設見直し委員会の資料11ページ
には処理水は0.05〜1.6個/Lと記載されている。
そこで次式から濃度を概算する。排水量は水道使用量から推算
する。
○(0.05+1.6)/2*(7/73)=0.079個/L
○排水量 0.35m3/人・日
○クリプト排出量 0.079 *350=27.7個/人・日
この値は都市の値である。
田舎ではホテルなどが無いのでこの区分はない。
農業集落排水処理など
基本的には下水道と同じとする。但し、排水量は少し低くする。
○排水量 0.25m3/人・日
○クリプト排出量 0.079ラ250=20個/人・日
浄化槽
この推計が最もやっかいである。
全国的には人口の約1/4が利用しているが、その大半は単独処理
浄化槽であり、合併処理浄化槽は極僅かである。
ところがこの浄化槽の管理は何もしていないに等しい。
全国の受検率は6〜8%である。
罰則もあるが、適用されることはない、という恐ろしい世界
である。
まともに管理して年に2回ほど余剰汚泥を抜くなどを行えば、
合併処理浄化槽はそれなりに処理出来るのだが、
何しろコストがかさむ。
設置後一回も管理していないのが当たり前なのである。
電気も勿体ないとケチった事例さえあったと聞く。
幾ら自分は被害を受けず、下流の他人のことだとはいえ、酷い
ものである。
さて、このような状況であるから、処理水質などは分からない。
メーカーの性能値など全く関係ない。
無法地帯にデータを取ったという話も聞かない。
あれば是非教えて欲しいものだ。
したがって全国の浄化槽は汚泥が充満し、どうにかこうにか
糞尿の悪臭が減少した状態と考えればよい。
クリプトは比較的大きな5ミクロンという粒子である。
除去の基本は分解することと汚泥と共に除去することである。
暫定指針の米国試料によると下水処理でクリプトは96.6%の除去
率という。
すなわち3.4%流出する。BOD除去率が15%以下,嫌気性槽があること
など浄化槽の判断は難しいが、下水処理場の10倍流出すると考えて
良かろう。
10倍とすると34%流出することになる。
すなわち浄化槽のクリプト除去率は66%となるがメンテ無しと
考えると,まずはこの程度であろうか。
○一人が出すクリプト量は
20ラ10=200個/人・日
とする。
この値は勿論概算といえるものでもないかも知れないが、何も
ないでは議論も出来ないから仕方ない。データが欲しい。
汲み取り屎尿の場合
汲み取り屎尿は浄化センターで処理される。
通常1ヶ月間嫌気性発酵させる。
この場合は100%除去されると考える。
その他近代的処理法があるが、何れもクリプトを心配する施設は
なさそうである。
○汲み取り屎尿はクリプト除去率100%
?
4.動物のクリプト排出原単位
牛・豚・鶏
これは全くデータがない。
牛、豚、鶏全てから検出されているという。
牛や豚は糞が多量であるから人の20倍程度の汚染源であるが、
直接河川に流出することはない。
特に糞は回収され堆肥化されている。
しかし、尿を分離する方式にについては、なお大きな問題がある。
ボロ出しの時、尿には糞が混入している。
これを5%混入とすると、1頭が1人に相当する。
尿の処理は完全とはいえないのでクリプト流出率は人の処理場
の2倍とする。
結局増減で処理場の2倍相当となる。
豚についても同様とする。
さらに尿を出さない飼育方法があるが、これを全体の3/4とする。
結果として、
○豚牛の負荷
20ラ2ラ1/4=9.9個/頭・日
この推計はいい加減すぎるとの批判があって当然である。
しかし調査するとなると決して簡単ではない。
1ヶ所や2ヶ所の豚舎を調査しただけでは本当の所は分からない。
○鶏の糞尿は全て堆肥化されている。
これについては大きな問題は無いものと考える。
猪・ウサギ・鹿
これは何とも判断しようがない。
それらの糞は通常山地で分解される。
猪の数が人間より多いこともない。
当面負荷は考えなくて良い。
勿論全くクリプトの心配がないというのではない。
確かに簡易水道で検出されたなどの記事がある。
また一方で、多くの人達が沢水を簡易水道として利用しているが、
特に問題も起きていないことも事実である。
○野生動物の負荷は無視する。
表1 クリプト排出原単位 (個/人(頭・人・匹)・日)
――――――――――――――――――――――――
下水処理施設 28
集落排水処理施設 20
浄化槽 200
牛・豚 9.9
鶏 0
野生動物 0
――――――――――――――――――――――――
?
5.千代川のクリプトスポリジウム濃度
人による汚染
汲み取り人口と浄化槽人口が明らかでない。
私は姫路市を流れる市川の水質将来予測を行っている。
それによると上流では浄化槽40%、汲み取り60%である。
正確なデータはまだ手元にないが鳥取水道局の集計途中の資料に
よれば浄化槽は30%はありそうである。
そこで浄化槽30%、汲み取り70%とする。
予測は10年後汲み取りと浄化槽人口の大半が集落排水処理施設に
移行すると仮定する。
表2 現在と10年後の千代川のクリプト濃度推定
―――――――――――――――――――――――――
現状(2003年) 将来(2013年)
集排施設等 20ラ29,800= 600,000 20ラ45,400=908,000
浄化槽 200ラ15,600ラ0.3 =936,000 0
合計 1,536,000 908,000
河川流量m3 4,320,000 4,320,000
濃度(個/L) 1,536,000/4,320,000/1,000=0.00036 0.00021
―――――――――――――――――――――――――
表流水を飲んでも簡単には発病しない
表2を見れば、現状も将来も大きな変化はないが、ややクリプトが
大幅に減少することになる。
この濃度では幾ら飲んでも発病はしない程度である。
暫定指針では134個、分離株によっては9個で半数が発病するとの
データを紹介している。
これと比べるならば非常に低い値である。
牛と豚による汚染
将来はさらに頭数は減少する。
過去20年間の減少量のおよそ半分の減少とすると牛16%減、
豚38%減となる。
表3 牛・豚のクリプト汚染推定
――――――――――――――――――――――
現状(2003年) 将来(20013年)
牛・豚 9.9*(2,500+1300)=38,000 9.9*(2,125+806)=29,000
増加濃度(個/L) 38,000/4,320,000/1,000=0.000009 0.000007
合計(個/L) 0.00036+0.000009=0.00036 0.00021
――――――――――――――――――――――
計算結果によるとほとんど影響を与えないことになる。
ただし管理が不十分な畜舎の場合は特別の扱いが必要である。
5.推定の信頼性
人の排出原単位
現在のところ、下水処理場のクリプト検出数はそれなりにしっかり
したデータである。
後は最大最小の平均を取ったが、中央値であればもう少し低い値に
なるであろう。
しかし1つの浄化槽であっても高い値であったとするとそれも重視
する必要がある。
安全側に見て平均値を取るのは適当であろう。
都市と田舎では排水量が異なる。
個人の排水量は現在250L/日程度である。
それを農業集落排水処理施設で用いた。
田舎は昼間は人がいない、年寄りも多い。
これらと商店の水量増加をキャンセルしたことになる。
浄化槽はデータがない。
また違法行為を見逃していながらデータを取るのは困難であるし、
取ったとしても使うのに躊躇する。
2/3除去というのは当たらずとも遠からずと考える。
家畜や猪の排出原単位
家畜については手がつかない。
管理の悪い畜産業者の場合は多くの汚濁物質が流れ出しているよう
に考えられる。
しかし、きちんと管理したり、敷藁などを使う場合は全くクリプト
は流出しない。
猪などは必要以上に危険視するのはどうかと思う。
分散した糞は早い時期に山林の腐葉土などに吸収・分解される。
これが流出するのは台風などの時であるが、その場合は河川流量
が膨大であり、少ない糞はほとんど希釈されて問題にならない
のである。
勿論その時でも山地に吸収される部分が大半であろう。
?
6.千代川は危険か安全か
暫定基準から考える
暫定基準のHissらの式は
単回暴露の場合,Nを摂取個数、P(N)を感染確率とすると
P(N)=1-exp(-N/k), k=238.6 (1)
反復n回の場合
Pn=1-(1-P(N))n (2)
さて、今回の計算は、上記クリプト濃度が365日続くとした場合で
あるから(2)式を使うことになる。
国は、1万人に1人を基準としているようである。
さらに国民が平均1日2L生水を飲むという計算であることも理解して
おくべきである。
その計算結果によると30m3に1個が問題とすべき濃度となるという。
今回は0.36個/m3であるから10.8倍濃度が高いことになる。
すなわち表流水をそのまま水道水とすると危険ということになる。
一般市民は20mL生水を飲む程度、表流水も安心か
但し、これは毎日2L生水を365日飲むとの条件であり、実際には
生水を飲む人でも200mL程度であるから安全かどうかというところ
である。
ほとんどの人を生水は飲まない。
一般市民はさらに生水を口にすることは少ない。
口に入るのは食器洗い後の残り水と歯磨きの口の残り程度あるから
せいぜい20mL程度である。
そうなると2Lの1/100しか飲まないから、30m3に1個が0.15m3に1個以
下で安全になる。
0.36個/m3はこの1/10である。
表流水をそのまま水道にしても市民はクリプトにかからないという
ことだ。
浄水は難しくない
生水を2L毎日飲むという話に戻そう。
浄水場における除去率は
(1−1/10.8)ラ100=91%
これ以上でなければならないことになる。
これは比較的楽な基準である。
間違いない方法は緩速ろ過(99.99%)、
急速ろ過(除去率99〜99.7%)である。
勿論表流水であるから膜ろ過も利用できる。
7.?集水埋渠の浄水
鳥取市では集水埋渠で8万トン取水し、直送方式で水道としている。
必要かどうかでもめているのであるが、集水埋渠の濁質除去率は
99.5%と極めて高く、表流水と伏流水のタイムラグは約10時間である。
10時間かかって、ろ過される緩速ろ過となっていることになる。
極めて理想的である。
したがってクリプト除去率は99.99%以上としてもよい。
安全側にみて99.9%としても上記91%以上の基準を文句なくクリア
することになる。
千代川に作った集水埋渠が緩速濾過と見なせるのは、千代川が鳥取
大砂丘を作ったのと無縁ではない。
千代川の河床は砂利に良好な砂を充填したような構造になっている。
そのため緩速濾過になっているのである。
まさに地の恵みである。
そうすると、暫定基準のもう一つの基準である「濁度0.1度以下
であること」の条件が適用できることになる。
この伏流水の濁度は平均0.03度である。
0.1度という条件は不可解なところではあるが、一応指針を満足
できている。
集水埋渠は勿論ろ過設備の一種、浄水の一種であることは誰も否定
できないことであろう。
問題は、ろ過性能である。
「建設時は急速ろ過に匹敵するろ過速度で?あり、凝集剤を入れない
から濁質が除去できないーそれでは越生町のようになってしまう」と
考える者もいよう。
ところが、現実には埋渠の周辺は洗砂利が使われるが、その上の
埋め戻しには急速ろ過のような粒径の大きな砂を使うわけではなく、
付近の土砂で埋め戻しが行われる。
何れにしても出来るだけ理想的なろ過が行われるように施工される。
鳥取市の場合は直送方式であるから洪水時でも対応できるよう十二分
の検討を行った上で工事がなされたと考えられる。
さらに、100m/dを越えるろ過速度は、立ち上げ後急速に低下し、
影響半径Lはどんどん広くなっていく。
過速度が高い部分には河川の細砂が次々入り込み、ろ過速度を低減す
るのである。
これは取水量の低下を招くと同時にろ過性能を大幅に高くさせる。
千代川の場合は濁度除去率99.5%ということになる。
これは急速ろ過を凌ぐ性能である。
細砂でろ過する場合、どの程度であればクリプトスポリジウムが
除去できるかであるが、0.2mm以下の砂が相当量含まれておれば
問題がないことを我が研究室で明らかにした。
これが新緩速濾過システムであり、凝集剤無しで行う浄水システム
である。
?
8.汚れた河川は急速ろ過はダメ?―暫定指針の矛盾
表流水には急速ろ過は特別の注意が必要か?
日本では千代川は最もきれいな河川に属するであろう。
都市の河川は上流の人口、水量を考えるとき、千代川の10倍以上である。
たとえば兵庫県南部で比較的きれいな市川を例に取ると、流量1/10、
上流域人口は2倍である。
そこでこのような河川ではクリプト濃度を仮に20倍とすると、多く
の河川で測定した結果とほぼ同じ程度となる。
この計算はそれなりに妥当なのであろう。
さてその時に要求される浄化率は
(1−1/(0.36*30*20))*100=99.5%
となる。
すなわち「緩速ろ過か、膜ろ過は利用でるが、急速ろ過は最大限の
注意を要する」である。
但し、膜ろ過を表流水に使うには技術的に問題があるので間違い
ない方法は緩速濾過となる。
実際には市川では県営船津浄水場と市の甲山浄水場があり、何れも
急速ろ過で浄水している。
特に問題は出ていない。
合流式下水道処理水の下流はどうか
都市の多くの下水道は合流式である。
雨水も下水管に入れる方式である。
したがって一寸まとまった雨が降ると全部川に捨ててしまう。
そうしないと汚水がマンホールを押し上げて危険である。
このような河川の下流で取水するとなるとクリプト除去率はさら
に高い要求となる。
梅雨の時のようにほとんど無処理の時もあると、99.9%を遼に
越える除去率となるであろう。
緩速ろ過のクリプト除去の実験では99.9997%程度のデータが
出ているが、これを保証せよとなると急速ろ過の利用は困難になる
であろう。
勿論現実は急速ろ過であり問題はない。
(最近はオゾン処理が行われており、水温の高いときは不活化
出来るとされているが、冬期は余り期待できないようである)
現実は問題ないー暫定指針の矛盾
既に述べたように、多くの都市の浄水場では、現実は全く問題なく
急速ろ過を使っている。
集団感染したという話も聞かない。
(さらに、表流水を直送式で送っていた自治体が滋賀県にあったが、
それでもクリプト集団感染はなかった)
これはどうしたことであろう。
ここには必要以上に危険視することにより、実体に合わなくなっ
ている現実がある。
暫定指針はこのような大きな矛盾を抱えている。
この点について暫定指針は浄水について一律に濁度0.1以下と
しており、それが科学的に正しいかどうか解析し尽くしたとは
いえず、危険度からの話と切れた構成になっている。
この辺りの詰めを急いでいただきたい。
暫定指針に、いろいろ云えばきりがないのであるが、「大腸菌と
クリプトが相関しているとしているが、それでは急速ろ過で大腸菌
がいるが、それは配水してもよいのか」との疑問がある。
急速ろ過では浄水に大腸菌が沢山残るのは仕方ないことである。
これを単に水と考えた場合、指針ではクリプト汚染のおそれがある
ことになる筈だ。
除去率からも問題があるはず、なぜ例外になるのか、大腸菌除去
まで指示しないのは矛盾ではないか――
勿論暫定政策指針であるから、どうこう批判するのもどうかとは思う。
しかし、助成金を貰うとなると、これがネックになるのではないか。
?
?9.一般的クリプト濃度予測手順
予測値の扱い
? 以上のようにいろいろ問題はあるとはいえ、河川のクリプト濃度を
推算するのは重要である。
例示で示したように、必ずしもそれは困難ではなく、それぞれの事業体
で容易に推算出来るものである。
但し、その結果はオーダー的に見るべきであり、その数値そのものが
一人歩きし、50%高い低いと議論すべきことではない。
将来予測などの利用では、勿論相対値であるから20%の増減も内容に
よっては検討できる。それは千代川の例を見れば分かる。
この辺りの扱いに十分留意されたい。
? 予測手順
@目的河川の流域状況を確認
農業、製造業、商業などの現状と将来、人口動向など全般を掌握する。
千代川ではほとんど農業なので簡単であった。
A河川データ
平水量、水質データ
B流域の排水人口区分など
○下水道・農業集落排水などの利用人口と排水量
○汲み取り人口、単独処理浄化槽人口、合併処理浄化槽人口
○屎尿処理センター排水量
○工場排水
工場の場合はトイレの水量分が問題となる。処理方法も重要。
○レジャー施設
○ホテルなど
○その他人が集まる場所、生活する場所
C酪農など
○牛・豚の頭数、飼育方法など
D各排水の原単位
原単位の決定は極めて難しい。
上記の単位について余りにも不十分な根拠であると思われた方が多い
であろう。
少しでも合理的な値を設定して欲しい。よいデータがあれば私にも。
Eクリプト数の積算
F河川水の濃度計算
G全体の評価及び考察
?
10.おわりに
河川水のクリプト濃度が比較的簡単に推算出来ることを示した。
単に恐れ、時々指標菌を測定するだけでなく、このような解析も行わ
れたい。
それが、それぞれの事業所のおかれている環境を客観的に把握するのに
おおいに役立つと考える。
鳥取市の水道では、千代川の表流水のクリプト濃度が推算出来た。
表流水そのままでは生水を多量に飲む場合は少し感染のおそれがある
が、普通の生活では問題ないことになった。
さらに、集水埋渠では計算するまでもないことであるが、濃度を推算
することが可能であり、安全の上にも安全であることが明らかになっ
た。
将来的な問題についてもその姿を知ることが出来た。
集水埋渠は浄水設備の一種であることは間違いない。
濁度除去率の測定も簡単である。したがって性能を評価することが
出来る。
性能によっては取水後さらなるろ過施設が必要な場合もある。
浅井戸については言及することが出来なかった。
今のところ浄水設備とは言えないものである。
そうであると、まずは算定指針が基準となると考えられる。
暫定指針の理解はそれ程簡単ではない。
自らの河川を知ることが、この指針の意味を理解するのに大いに役
立つであろう。
暫定指針を真の意味で理解するにはこのような解析が必要なので
ある。
河川に特別な濃度でクリプトが検出されることがあった場合、
いたずらに驚くことなく、その原因を冷静に分析するのにも、
この予測は意味を持つであろう。
たとえば、管理が悪すぎる工場や畜舎などが必ずあるはずである
とか、夜間の不法放流とか、データの信頼性とか、それなりの
解析が行われ、解決出来ることになる。
2003.4.21 改
−−−
市町の社会資本のコスト削減について
1.はじめに
本報告は、市町における社会資本のコスト削減について検討したもの
である。特に水道事業を例にとって検討する。
2.社会情勢の中の市町村
現在、地方自治体は税収の低下と地方交付税の削減の大波を受けている。
これは日本が、米国を中心としたグローバリゼイションに逆らえず、
前を米国、後ろを中国に攻められ、否応なしに社会変革を押しつけ
られているためである。
そうなると、小さな政府、小さな地方自治体は必然である。
実際に、法人税を始めとする税金負担の削減は急速に進行させ、
外国に合致させようとしている。
問題は残りの「出」対策である。
これは極めて難しい。
そのため対策が進んでいない。
しかしながら700兆円を超える借金を抱え、これ以上放置すること
が出来ないのも事実であり、政府や自治体のスリム化は、今や
待ったなしである。
3.社会資本高コスト市町の未来
3.1 赤字団体から市町民は脱出する
漫然とした自治体運営は、赤字団体への道である。
その時、住民には大幅な諸料金のアップや諸サービスの切り捨てが
待ち受けている。
そのような市町から住民は脱出するようになる。
考えてみよう。水道料金は現在標準使用量60 m3/2ヶ月でおよそ
2500円〜15,000円の違いがある。
これに赤字団体突入を組み合わすならば、どのようなことになるか、
予測することは容易である。
さらに、下水料金、学校給食費など、全て、この調子でいくと大変
な違いになる。
現在、5人以上の事業所の平均月収は低落の一途をたどり、現在、
27万円である。
ボーナスを考えると、手取りは18〜20万円程度である。
この収入は今後さらに低下することは間違いない。
手取り15万円の時代が来ることを予定しておく必要がある。
上海市の一般市民の例がNHKで放映されていたが、時間40円、
12時間労働だという。
このような時に日本が生きていくことを考えると、過去のような
高い収入はあり得ない。
その時に赤字団体になって、月に出費が5万円にもなったら、
その市町では食えない。
住民は脱出せざるを得ない。
3.2 企業も脱出する
企業はさらに深刻である。
水が600円/m3以上もかかるのでは、水を多用する企業は逃げ出す
しかない。
厳しいコスト削減が企業存立の基本条件である。
その町に立てた工場が、水や土地、あるいは人件費が高くつくよう
になったなら、逃げ出すしかない。
4. 社会資本が低コストの市町は発展する
反対に、社会資本が安く、企業にも安価で土地や良好な水を供給し、
住民が安定して働く条件を整備している市町は、周辺の市民や企業
が移動してくるようになるであろう。
その市町は、収入も増え、さらに財政が健全化する。
ますます豊かになる。
5.土地への執着は消えていく
以前は、土地への執着が強く、資産としての価値は絶対であった。
しかし、米の減反が4割を越え、土地価格低下も留まるところをしらない。
片方で給料は低下していく。
住民は土地にしがみつく気持ちが薄くなってきた。
これは市町にとって大きな問題である。
いかに豊かな低コストの社会資本を確立するかが、住民の動向に
大きく響く時代が間近にある。
6.今こそ社会資本の低コスト化を図る時
現在、周辺市町がそれなりにバランスしている。
ところが今後、急速に財政格差が拡大する。
方向としては健全なところとの格差が拡大する。
そうなると、バランスしていた企業配置や住民分布が格差に従って
移動するようになる。
これは、従来無かった問題である。
従来は土地価格の高沸が最も企業や住民の動向を左右してきた。
また土地に住民は縛られてきた。
しかし、土地の値打ちが相対的に大きく低下してくる時代の到来
である。
ここに、住民、企業サービスの値打ちが大きく浮上することに
なろう。
かくして、市町のうちコスト削減に取り組んだところと、それを
漫然と放置した市町の格差は次第に拡大する。
今、箱ものや、水道、下水道あらゆるものについて大幅なコスト削減
に傾注すべき時ではなかろうか。
7. 水道事業は頭の問題(事例として)
各種事業の内、水道事業はそのやり方でコストに10倍の差が出るもの
と云われてきた。
勿論10倍までは行かないとしても、現在でも5倍程度の違いがある。
将来的には一般会計からの繰り入れは廃止せざるを得ないから、
その格差は10倍ということにもなる。
7.1 地下水を探せ
豊かな地下水脈を見つければ、まるまる儲けになる。
とくに濁度が0.1以下で大腸菌などがいない場合、コストは実質上
ゼロになる。
幾らか投資しても、井戸は掘り続けるべきと考える。
地価が安価になった今では住民は土地に固執しない。
井戸を掘り当てたら購入することだ。企業に任せて汚い水を浄水する
のに多額の投資し、維持管理費に泣くなど、これからは住民は許して
くれないであろう。
7.2 地下水の浄水は低コストで
地下水が大腸菌など糞便性細菌がいた場合、厚生労働省の指導では、
浄水すべきということになる。
勿論赤字団体では濁度2度以下であれば放置するところである。
これの判断は難しい。
国は濁度0.1度のみならず糞便性細菌で縛りをかけてきている。
しかし余りに強引な指導である。
このまま進むかどうか判断しかねる点がある。
何れにしても、浄水するということになれば、徹底したコストダウンを
図る必要がある。
将来を見越したコストダウンを目指すべきである。
7.3 高コスト水道は退場を
県営水道は全国的に失敗であったが、その事後対策として、県は地方
自治体に高い買い取りを要請してくる。
この場合、最初の建設費は不要であるとしよう。
しかし、将来的に、たとえば10年後に1m3当たり50円程度になる目途が
立っているかどうか。
兵庫県は150円以上という飛び抜けて高い卸値である。
出来るだけこのような法人は早く縮小させるべきである。
そのための最短縮小政策を進めて欲しい。
既に水需要は低下の一途をたどっており、将来増加に転じることは
考えられない。
その上で、水道事業を組み立てる必要がある。
需要掘り起こしでなく、原施設の改造、諸対策によりコストダウンの
道を探さなければならない。
場合によっては何もしないで償還終了を待つ以外方策がないこともある
かもしれないが、それでも色々探してみると名案が浮かぶかも知れない。
このようにもがくことが、町が発展する要件である。
8.まとめ
国会でも言われているように、社会資本の投資はやり方によっては
半分以下で出来ると考えてよいのではないか。
そのチャンスを無為に見過ごしては町の未来は暗いといわざるを
得ない。
今やコストダウンの時代である。
企業は不採算部門を削減し、人を減らし、給料を減らし懸命に
コストダウンをはかり生き延びを目指している。
地方自治体もコストダウンをはかり、次の時代の生き延びを目指す
べきと考える。
それを一歩早く進めるかどうかが、重要な分岐点になるのではなか
ろうか。
−−−
日本再生への一提言
今の我が国は深い沈滞・諦観・焦燥の相混ざった社会である。
環境対策をフィールドとして来た私は、そのような社会に対し、もっと
明るい社会の到来を待ちかねている。
環境問題を取り上げるとき、社会が沈滞すれば最初に切り捨てられる
のが環境分野である。
勿論高度成長の時の延長上のような技術革新を無反省のまま受け入れ
る所もあり、これは後世に大きなお荷物になるという意味で、鬼っ子
のようなものである。
なぜ日本は不況か
1990年からの12年間はバブル後遺症ではない
「バブル崩壊後一向に立ち上がれない日本」というような論調が少な
くなかった。
勿論そのような論調はさすがに少なくなった。
あの1990年は日本が修正資本主義(ケインズ主義)から米国の
新自由主義(自由放任主義)の軍門に下った変換点であった。
米国はレーガンの時代に、1985年までの5年間で無血革命を成し遂げた。
そしていよいよ世界に乗りだしてきたのである。
小さな政府、規制緩和、資本自由化、貿易自由化、金持ちと企業
の税半減などをモットーにして、効果的な国家を作り上げてきた。
新自由主義は低コスト社会を目指す
フリードマンが徹底的に非難したのはケインズ主義である。
ケインズ主義は公共投資と労働者の保護を基本柱として、豊かな社会
を作ろうとしてきた。
ところが、当然ながら高コスト社会となる。
米国はその高コストの行き詰まりに対して、全てのケインズ主義的
要素を5年間で破棄し、徹底的コストダウンを図った。
それが新自由主義である。
ここで云う自由とは「信条の自由」を指すのではない。
社会活動の自由を云うのであって、どのように金儲けしてもよい、
国家は一切干渉しない、という意味である。
当然のことながらこの国家ではコストが低減できるから、外国との
競争において絶対的に優位に立つ。
こうして米国は再生した。
日本の富の流出
我が国はケインズ主義のお手本であった。
マッカーサーの統治は帝国主義を完全に塗り替えてしまった。
そこに低コスト国家がなだれ込んできた。
今までバランスしていた国家間で、新自由主義を採用した国家が出る
と、当然優位に立つことになる。
技術力が劣っていても、コスト優位であれば企業優位に逆転する。
そこで、日本企業を買収すればなに一つ開発することなく、
新しい技術が手に入る。
こうして日本の富=生産・技術力を米国はタダで取り込むことに
なった。
フランスの国策自動車会社ルノーもあわててゴーン社長を送り、
日産を乗っ取る。
かくして日本がケインズ主義の高コスト体質から抜け出せないでいる
間に、欧米諸国は体質改善を図り、日本の富をかすめ取ることと
なった。
日本が選んだ道 ― 高コスト国家の堅持
このような事態に対し、我が国が選んだ道は、「米国に云われるまま
の資本自由化と貿易自由化はするが、ケインズ主義の公共投資、
各種規制、各種保護、各種福祉などは放棄しない」というもの
であった。
つまり高コスト国家は維持し、世界と戦おうとするものであった。
当然ながらその帰結は明白である。
産業空洞化は1990年から今になってもなお進んでいる。
破滅への道か
これは明らかに破滅への道ではなかろうか。
資本自由化、貿易自由化を自国は拒否し、国内では徹底して新自由
主義を押し進め、低コスト化を図るなら、日本は猛烈な成長路線と
なろう。
勿論諸外国がそれを許すわけはないとしても、今のような沈滞は
起こらなかった。
しかし、この選択は今の政府には無理な相談であろう。
米国には簡単にイエス、これが今の政府である。
たとえ日本を滅びの道に進ませるとしてもイエスか。
中国は変身した
中国はソ連崩壊後、実質共産主義を放棄し、新自由主義を採用した。
当然のことであるが、新自由主義は国家の主権については何も問題
にしていない。
一つの組織が独裁であっても採用できる主義である。
簡単に云えば、第1次、第2次大戦までの帝国主義のやり方そのもの
なのである。
食い破られ、ちぎれちぎれの日本の富を、中国は吸収し尽くす観が
ある。
我が国は自分の現状を理解せよ
銀行の不良債権はなぜ処理できないのか。
いうまでもなく、富=生産・技術力が流出していく我が国において、
銀行の不良債権が増えていくのは当たり前のことである。
問題は生産現場なのだ。
これが我が国で生き残り発展するような外交政策が必要なのだ。
今の政策は生産現場を中国を中心とするアジア諸国にタダでやるの
と同じである。
新しい技術革新だけでは国民は豊かになれない
政府は、特許に代表される新技術、技術立国を目指している。
しかしこれで1.2億人を養うことが出来るであろうか。
最先端技術でなるほど企業は利益を上げる。
しかし、その利益は国民には配分されないことに留意しよう。
それが新自由主義の神髄である。
トヨタが、ソニーが幾ら利益を上げてもそれは国民のものではない。
国民はトヨタやソニーに勤めたことによる給与分だけが配分である。
世界市場に出ていくこれら優良企業の国内での雇用は必ずしも多く
ない。
特許で多くの収入があるとして、企業はそれを国民に分配するわけ
ではない。
従来であれば、法人税、高額所得者税制によって国家が吸い上げ、
結果として国民に配分されてきた。
今は利益は儲けた組織、儲けたものにある。
平面テレビも一年で外国へ
最近のテレビは平面である。
その開発にしのぎを削っていた東芝等弱電メーカーは、まず1年間
日本国内の工場でラインを動かしてみる。
それでノウハウを得て、次の年には外国にそのラインを作る。
これが現状である。
どのように技術を開発したとしても、それは我が国民の利益になる
わけでない。
政府のいう技術立国は幻ではなかろうか。
日本再生への道
時間40円12時間労働に勝つために
NHKの特集によると上海のある大手メーカーの女性社員は12時間働き、
時間給40円という。
ここには共産主義の面影はない。
我々は中国を何時までも共産主義と見ていてはならない。
この国に勝つためにはどうすればよいであろうか。
勿論うち勝たなければ日本は持たない。
日本が世界に羽ばたいたのは総合的生産力である。
生産現場あってこそ国が栄える。
特許だけでは飯は食えない。
中国の人件費は安い。
また安いとしてもそれなりの生活が出来る。
上海の若者は日本よりリッチと思われる生活をしている層がある。
日本は20倍もリッチではない。
ここに隠された問題がある。
名目賃金だけ高くても、日常の生活は苦しい。
何がそうさせているかを考えてみよう。
日本の物価は高いか
我が国の物価は昔は高かった。
しかし今、食料品は約2/3、衣類は1/3,建物は約1/2となっている。
従って給料が従来の1/2であってもそれなりに生活出来る筈である。
しかし、そうではない。
其れ以外の所も1/2になるならば、日本は賃金が半分になっても
やれていく。
デフレスパイラルを経済界や政府は恐れるが、実際に贅沢しなければ
相当安くなっているのである。
庶民はこれを謳歌している観がある。
経済界のデフレはこれに合わせて上記以外が値下がりしていくこと
にある。
但し賃金が下がることには危機感がない。
これは新自由主義の導入と考えると自然なのかも知れないが、
何か勝手がいい。
生活費が半分になれば
残りの諸々が1/2の価格になれば、賃金が半分になっても同じこと
である。
そうすれば諸外国に出ていった企業群を呼び戻す可能性もでてくる。
特に中小企業は活性化する可能性が高い。
製品は既に半値になっている。
賃金や水、電気などが半分になるならば活動再開である。
生産現場を維持する外交を
勿論、上下水度、電気、ガスや賃金の低下だけではつぶれかかった社会
を再び活性化する保証にはならない。
外国との貿易、資本政策に対しても、我が国を守るという明確な方針
が必要である。
新帝国主義とまでいわれる米国が、我が国には徹底して自由化、
米国化を要求しながら、多くの関税障壁を設けていることを知らぬ
人はいないであろう。
自由化とは相手を自由化させることであって、自分を自由化すること
ではなさそうだ。
自国の利益を第一にしない外交など存在しない。
中国はどうだ。
かの国も鉄鋼に網をかけてきた。
制約ばかりの貿易である。
それが我が国は開発輸入など、し放題だ。
外交は先ず我が国の利益を第一とする基本方針を確立すべきである。
互いに国益第一としてこそ、正常な国交を構築できる。
ネギを輸入制限するかの議論で、中国の脅かしでいとも簡単に制限
を諦めてしまう。
米国、中国の鉄鋼輸入制限でも簡単に呑んでしまう。
相手方の輸入制限はある意味では相手の都合であるから仕方ないと
しても、日本の弱腰外交は何とかなら無いものであろうか。
低コスト国家を目指すとしても、垣根一つなき我が政府では働く意欲
を失う。
生産は国の総合力で維持するもの
生産は何も社長と従業員だけで維持するものではない。
生産に関連するあらゆる環境がその生産を支えるのである。
現在日本には明確に生産現場を外国から守るという方針がない。
国から見捨てられて、なぜ、韓国、中国、米国に対峙できるのか。
生産現場は今政府から見捨てられている。
誰も企業を守ろうとしない政府に目覚めて欲しい。
要は総合力である。
最も欠かけているのは国内企業を守れない外交である。
勿論高コスト体質も問題になる。
方策は
ーー頭を痛めるのが政府の仕事ではないか。
何も賃金が40円と800円の開きで勝負がつくのではない。
しかし、賃金格差は決して無視できない項目である。
しかし、我が国では時間400円では生きていけない。
それはそれを生活させるだけのシステムがないからである。
たとえば社会資本は余りにも不経済である。
沢山の金をどぶにぶちまけるようにして使ってこなかったか。
それが我が国の高コスト国家を作っていないか。
中小企業が発展できる体制こそ
「大企業は日本に大きな利益を与えてくれる」それは見かけである。
法人優遇措置を最初にしてしまった我が国では大企業の利益は
国の利益にはならない。
むしろ中小企業こそが値打ちがある。
中小企業は多くの従業員を抱える。
得られた収入の多くが賃金として国民のものになる。
最先端技術は勿論大切であるが、それだけでは飯は食えない。
国民が生きていくのは多くの労働を通してもらえる賃金である。
企業収益ではない。
それが新自由主義の一つの側面である。
賃金はそれ程高くなくてもよい。
働く場が必要なのだ。
そのためには外交は経済戦争であるとした確固たる政府が必要だ。
そして電気、ガス、水道、バス、電車、高速道路料金
――これらが安価な社会を作るべきである。
高齢者社会に生きる
我が国は地球上始めての高齢者社会となる。
現在の老人医療費、年金などの出費、税金を計算すると近い将来年収
の80%が取られる計算になるという。
このようなデタラメな計画を恥とも思わぬ政府である。
早く正常になって貰わないと、日本の将来はない。
高齢者には労働の場が与えられるべきである。
それは支出を考えるとき大きな意味を持つ。
しかし、現在の仕組みでは老人は不要である。
企業にとっては邪魔者である。
そこで老人大学で楽しんで貰う、ゲートボールをしてもらうことになる。
何れにしても単純消費者との位置づけである。
これが5万円でも、10万円でも収入のある働き口を提供するシステム
を構築することが緊急を要する。
それでなければ日本はうば捨て山政策に突入しかねない。
−−−
社会資本のコストダウンをいかに図るか
1.環境関係者は高度技術に弱い
ホームページの主要な課題の一つが社会資本と水環境問題を統合的に議論
することである。
環境問題は優れて技術的であるのは当然として、優れて社会的であり、
時には政治的である。
これが電気製品などとの大きな違いである。
往々にして、環境関係技術者や政策者は技術至上主義に陥りやすい。
たとえば埋立地の浸出水が処理困難とされると、それを飲み水にでも
するかのような、とんでもない技術の導入にはまり込むこともある。
蒸留した方が安価な設備がまかり通る。
これが家電製品であれば誰も購入しないし、また開発しようとしない。
なぜこのような不経済がまかり通るのであろうか。
2.フィードバックがない
環境問題に取り組むのは外部不経済そのものを重視することである。
従って取り組めば取り組むだけ税金が出ていくことになる。
浸出水は無処理で公共水域に放流してはならない。
それではどの程度まで処理すべきか?
とことんまで処理する方法と、不十分な処理がテーブルに出されたとき、
担当者は例外なく、高度技術に惹かれるであろう。
隣の町はこれこれの方法でレベルが低い、うちは高度処理をしてやろ
う。
担当者であれば、このような気持ちになって不思議はない。
ところが、このような選択が市町村財政の破綻をまねいているので
ある。
金がないといわれてもなお高度処理=高コスト処理を選んでしまう
のは、従来の延長上ではいかんともし難い。
新聞は高度処理を採用すれば記事にする、住民もそれを良しとする。
しかし財政のことは新聞も、住民も感心を寄せようとしない。
これらの社会資本投資には明確なフィードバックが働かないのだ。
「全国的にこの程度の装置を採用するのが今の標準です」曰く
「住民が納得しません」曰く「周辺市町村が納得しますか」。
「厚生労働省もレベルアップを行政指導しています」という言葉も
強力だ。
ところが厚生労働省は何が何でもそうしなさいとは断言していない
のである。
ちゃんと巧妙な逃げ道を作っている。
それでこそ官僚である。
今の時代に膨大な借財を抱えることを厚生労働省が強制するわけがない。
かくして企業の高コストシステムが自治体に納入されることになる。
受け入れ側ではそれ程の議論もなく、どうして国の補助金を受けるか
という事務的な議論がなされる程度で企業丸抱えの浸出水処理施設が
姿を現すことになる。
2億円と20億円ではどちらを選びますか?
答えは20億円だったりするのではなかろうか。
3.高コストを押さえる方策
何をおいても、社会の流れを認識すること、出来るだけ多くの人によっ
て議論されることが肝要ではないか。
(1)社会の流れを解析する
今、社会がどうなっているかを知らなくては、どうにもならない。
10年後の日本、10年後の町を取り巻く環境がどのようなものであるかを、
明確に掌握すること。
これは行政トップ、幹部に課せられた課題である。
特にスタッフの少ない町村で、この能力のありなしが将来を大きく左右
すると考える。
(2)騒がれて儲ける ー フィードバックの勧め
もめにもめる程良い。
これからの社会資本の投入については行政トップは、そのくらいの度胸
が必要である。
もめるに従って、今まで見えなかったことが見えてくる。
○色々なシステムのあることが分かる。
○同じ会社でも値段が大幅にダウンする。
○財政に対する認識が住民も理解するようになる。
少なくとも、建設費が大幅にダウンすることは間違いない。
談合組織が機能しなくなる。
オープンにせよ。
市民に騒がれることを恐れるなといいたい。
一回騒がれると1億円の儲けだと思えばいい。
ところが多くの自治体ははこれを嫌う。
騒がれるのは失政だとして一生懸命隠し押さえ込もうとする。
最初に簡単に決めてしまうから隠さなければならないのであって、最初
からオープンであれば住民の多くは行政を批判したりしない。
新しい時代の行政スタイルを作られたい。
(3)技術者を養成せよ
町村の技術者は少ない。
そのため企業の技術を正当に評価する能力に問題が出てくる。
数億円の損失などざらではないか。
損得を考えるべし。
(4)専門家の利用は慎重に
これは危ないことでもある。
実際自分を見て、周りを見てそう思う。
専門家は高度技術や新聞に載りそうなことを好む。
少なくとも財政を破綻する方向の話になるのが公約数である。
それを承知で利用することだ。
基本は相反する専門家の意見を求めることである。
−−−
新自由主義(自由放任主義)とは何か
1.多様な言い方がある
米国の世界一国支配が強まり、新帝国主義という単語がメディアで飛び
交うようになった。
一体何が世界を席巻しているかを考えてみよう。
現在、世界を支配しているシステムは次のような言葉でいわれている。
自由主義
自由放任主義
市場主義
マネタリズム
サッチャーイズム
レーガノミックス
これだけ多くの単語が同じような意味をもつから、理解するのが大変
である。
2.戦後の日本はケインズ主義=修正資本主義
第二次大戦後、日本は米国の指導の基で、帝国主義から修正資本主義
(ケインズ主義)に方向転換した。
社会的には「民主主義」として定着した。
ケインズ主義は1929年の世界恐慌を乗り越えるため米国で採用され大き
な成果を得た。
3.ケインズ主義
(1)ケインズの登場
アダムスミスの資本論は世界に羽ばたくイギリスなどの先進国で採用され、
帝国主義と結びついた。
後から名乗りを上げたドイツ、イタリア、日本と先進国のイギリス、
フランスなどは植民地の取り合いが限界に達し、2度の世界大戦を引き
起こした。
また世界恐慌をもたらすという面でも行き詰まりを来した。
このドン詰まりに対し解答を与えたのが、マルクス・レーニンとケインズ
であった。
どちらも需要がネックとなって資本主義が潰れるという解析をしたが、
解決方法が共産主義と修正資本主義で異なるのである。
現在、共産主義は実質上地球から消失し、今や修正資本主義も風前の灯火
である。
ケインズは一国内で需要を確保する道として、公共投資と労働者組織の
強化を提案した。
これによって他国を侵略しなくても経済成長が望めること、需要を
公共投資で調整すれば、景気の波を低くする=恐慌阻止が可能であるこ
とを主張した。
ケインズの主張は米国が導入したこともあり、第二次大戦後の最も基本的
社会システムとなった。
もう一つの共産主義はソビエト連邦の崩壊という形で終焉したことは、
我々のよく知るところである。
(2)ケインズ主義の破産
戦後の米国の発展はこのケインズ主義に支えられてきた。
民主主義という名前でもって世界を席巻してきた。
日本もこれに倣い、大きな発展を遂げた。
しかし、長らくケインズ主義を進めると、公共投資の波及効果が無くな
り、当たり前のように公共投資を待つ組織が膨れ上がる。
労働組合も官僚化してきた。
1960年代はケインズ主義を謳歌した各国も、80年代には低成長に泣く
こととなった。
そのとき日本はなお高度成長を遂げていた。
フリードマンらは、このケインズ主義を徹底的に批判し、ついに
「ケインズの死」を宣告した。
マネタリストの社会哲学である新自由主義(自由放任主義)は時代の
寵児となった。
4.サッチャーイズム、レーガノミックス
経済の疲弊に危機感をいだいた英国と米国はいち早くこれを採用した。
これがサッチャーイズムとレーガノミックスである。
彼等が行ったのは次のような政策である。
○金持ちの税金を低くし、低所得層を増税する
――
金持ちは税金を取られるので投資意欲を失っている。
これを鼓舞し、活躍させるためには金持を優遇すべし。
低所得層はいくら金を与えても全部消費してしまって貢献しない。
○公共投資から民間投資へ
――
公共投資は飴を期待する資本家が増えるだけである。
無駄なことをしない。
民間に出来ることは民間に譲る。
○小さな政府
―
大きな官僚組織は企業の発展を妨害する。
税金もかかる。
税収を押さえ、それに見合った政府組織とする。
○規制緩和
――
規制は社会の活動を疎外する。
規制緩和すれば小さな政府になる。
たとえば労働組合の保護、環境政策などは規制そのものとされた。
○グローバリズム
――
国内市場は期待しないから海外を目標とする。
資本自由化、貿易自由化の要求は必ず必要なことである。
こうした変革は実は無血革命のごとき様相を呈した。
1980年代レーガンは5年間でこの切り替えを行った。
労働者の給料の大幅ダウン、金持ち優遇、消費税のアップ、公務員の
カット、環境対策の廃止など厳しい変革となった。
5.新帝国主義は早いもの勝ち
ケインズの正反対にある新自由主義はレーガノミックスとして花開いた。
当然のことながら、一国内での需要の拡大は行わない。
従って、生産しても消費が保証されない。
そこで海外市場を目指すことになる。
これは何時か来た道である。
戦前は多くの国が帝国主義として外国に市場を求めた。
しかし、レーガンやサッチャーが最初に手がけたとき、ドイツや日本は
ケインズ主義を謳歌していた。
それだけに誰にも邪魔されず帝国主義を押し進め、果実を独占する
ことが出来た。
日本とドイツはケインズ主義で豊かであった。
そのことも影響して、この時代変化を読むことが出来なかった。
ソ連の崩壊を目の当たりにした中国はいち早くこれに乗ることとした。
権力機構はそのままにして産業構造を新自由主義にしたのである。
基本的には戦前の帝国主義と同じであるから、それが選挙で選ばれた
政府か、独占政府かは、必ずしも、この主義では問うていないことに
留意が必要である。
6.日本は外国のなすがまま
日本は米国の帝国主義、言い換えるならば新自由主義からの帰結である
ところの自由貿易と資本自由化をいとも簡単に飲んでしまった。
ところがその一方で国内体制を新自由主義にしなかった。
確かに金持ち優遇や労働者の保護の廃止や消費税は導入したが、支出は
今まで通りであった。
1990年バブル崩壊といわれるこの変換点おいて、小さな政府を作ろうと
しない日本は外国の破壊に身を任せている。
戦後蓄えた産業は米国と中国に食い破られ、為すすべもなく立ちつく
している。
2003年なお立ちつくし、産業は疲弊の極みにある。
7.今後の日本
現在の政府を見るとき、もはや新自由主義、新帝国主義の横暴を阻止
する気力はない。
何れ日本社会は破壊されながらあと約10年かけて、遅れてきた新帝国
主義あるいは新自由主義として改革させられることになろう。
その時、どれだけの国力が残っているのであろうか。
その時は当然小さな政府・小さな地方自治体になっている。
貧富の差は今よりさらに拡大している。
その時「しずく論」(金持ちが豊かになれば、貧乏人にも滴が落ちて、
結局彼等も豊かになる)は日本でこそ実現しているであろうか
(米国の印自由主義論者の論理だが、貧乏人はますます貧乏になる
というのが結末がある)
8.新時代を生きる
我が国は確かに時代に遅れている。其れが現在のどうしようもない息苦
しさを演出している。
悪いことには明かりが見えないのである。
夜明けの前の漆黒であることを期待したい。
我が国は対外的に貿易と資本を「本当に自由化」してしまった。
米国が農産物を本当に完全自由化しているか、鉄鋼製品はどうだ、
なぜアルゼンチンの肉は輸出できないのか。
中国は鉄鋼製品に待ったをかけ規制をわんさかとかけている。
そのあたりを考えると
「自由化は外交戦争で相手に飲ますものであり、自分がするものでない」
ような観がある。
日本だけが自ら自由化してしまう、めでたい国である。
これがせち辛くなったとき、日本は「再生への道」を歩むようになる
のであろう。
−−−
規模のデメリット
1.はじめに
浄水や下水処理の規模とコストの関係について議論する。
一般的に経済学では規模が大きいことはコストを下げる、規模のメリット
は定理である。
メキシコ農業は今や米国の大規模農業に立ち向かえない。
労働者の給与レベルから考えるならば。
米国の農業労働者の賃金はメキシコの農家の賃金水準に近いけれども
上回っている。
それにもかかわらず、米国農産物の流入により青息吐息である。
これなどまさに規模のメリットである。
勿論工業生産については、そのことは概ね正しい。
しかし、水環境となるとそれがとんでもない間違いになる。
反対に「小さいことはいいことだ」が定理である。
2.下水道―大きいことは損
流域下水道の見直し
都市下水道(公共下水道)は都市に展開された。
早いところでは既に戦前から普及していた。
下水管の有効利用を図るには家が密集している地域が適しているのである。
そこで下水は都市のもの、のような考えが一般的であった。
ところが15年ほど前から、田舎で農業集落排水処理施設が普及するように
なってきた。
今や田舎の普及率が50〜100%の地域は沢山ある。
都市の下水道はコストの点で、その限界を示すものであったが、それを
乗り越えるものとして、流域下水道整備計画が持てはやされた。
中規模の地方自治体が個別で下水道を建設するのは、規模的に、行政的
に、無理があると判断したことによる。
しかし、現実には都道府県が旗振り役になって大規模下水道を整備した
ところ、建築コストが大変高くなることが分かった。
補助金を建設に50%、償還に50%と莫大な援助をしても、なお採算に
乗らないのである。
これはバブル以前の問題として1990年代に大問題となった。
最初は住民など運動団体の指摘(流域下水道自体の諸々の問題点の批判)
の一つであったが、結果として当時の建設省も全面的に認めざるを得な
くなった。
流域下水道は規模のデメリット原則を踏み外していたのである。
今や計画区域が大幅に縮小されており、新規計画もほとんどなくなった。
自治体の区域界は、必ずしも自然の地形と合ってはいないので、区域
内に下水道の計画を限定することが不合理な場合もある。
しかし流域下水道計画は、それよりも常識として定着しはじめた規模
の利益を目的として、計画規模を大きくすれば単価が安くなり、
合理的な計画になるという思いこみの上に、百万トン/日単位の
巨大化した計画が作られる。
下水道では規模が大きくなればなるほど不経済になる。
全国的には二十年以上も前から、流域下水道や大規模の下水道の問題
が出ている。
将来の大きな数字を見越して、投資するために経済効率が下がる。
規模が大きいほど、維持管理にも莫大な資金が必要。
事業費は膨れ上がり完成するまでに当初計画を大幅に上回り行き詰まる。
水の循環からも、汚水は発生源の近くで処理するのが大事。
また、汚水管の腐食もある。
腐食の原因は洗剤等の硫化水素起源の硫酸。
管渠の補修の必要も出てきて、建設だけでなく維持費の負担も大きい。
宇井純(沖大教授)らは「中小規模の下水道と、合併浄化槽の組み合
わせること、雨水利用を考えること」を提案している。
最近では、下水道整備の遅れや環境面への配慮から、合併処理浄化槽が
注目され始めている。
浄化槽には、し尿のみを処理する単独処理浄化槽と、し尿と生活雑排水
を併せて処理する合併処理浄化槽がある。
合併処理浄化槽は厚生省が管轄し、下水道認可計画区域以外で、
生活排水対策が必要な地域に設置される。
スペースの問題や管理が個人に任されているなどの幾つか難点が指摘
されている。
しかし、さまざまなメリットがある。
整備が短期間で済み、汚水を各地域で処理し、水の循環が出来ること
など。
農集排施設は なぜ10倍コストアップにならないか
農業集落排水処理施設は、流域下水道よりもさらに人口密度の低い地域に
建設するものである。
人口密度10000人/km3と1000人/km3では同じ配管では10倍利用効率が
異なる。
それでは配管工事費用は10倍とは云わないまでも5倍の差があっても
おかしくはない。
現実にはそうなっていない。
全く不思議な世界である。
前者はシールド工法といってモグラのように掘り進んでいく、後者は
ユンボで掘り進む。
ユンボで掘り進む技術の方がモグラ工法より数倍安くなるというのである。
そこには技術革新の姿がない。
これについては別に議論するとして、話を先に進めよう。
ユンボはローコスト技術の最たるものであり、高く評価すべき技術
である。
農集排は管渠が長くなりやすく、水量は少ない。
このユンボのハイ技術に支えられて農村地帯でありながら下水道を都市
と対等に比べられるシステムを作り上げた。
排水処理施設も規模のデメリットか
処理施設を見るとしよう。
都市では10万〜50万人規模の下水処理場が普通である。
ところが農集排では100〜800人規模である。
1000倍の違いがある。
ところがどちらも1人当たりとすると同じ程度で建設できる。
ここにも技術革新の姿が見えない。
1000倍も違えば当然コストは10〜100倍違うべきものではないのだろうか。
下水管が無い ー 合併処理浄化槽
極めつけが浄化槽である。
浄化槽には下水管に相当するものがない。
そして建設費が都市下水道や農集排に匹敵するというから、もうどう
にもならない。
浄化槽を各戸に設置した方がよいのか。
処理水質も都市下水と同等であるという。
都市下水道の関係者は何をしてきたのであろうか。
そう批判するのも正当であると思うが、基本的には規模のデメリットの
証明であるとも思う。
3.下水管理 ― 小さいものも大きいものも”喝”
上記のごとく大きい下水施設は大きくすることに欠点が目立ち、
コスト的に不利になることは明らかである。
しかし、小さくすると欠点も出てくるといわれている。
それは主に管理面である。
小さくなると管理が不完全になることがある。
当然、管理されなければ処理出来ない。
浄化槽は管理しない
最も小さい浄化槽には、一つの決定的欠陥がある。
それは管理がデタラメだということである。
余剰汚泥が溜まってもそれを除去せず、掃除もしない。
これでは処理できるわけがない。
ところが、まともな管理は10%以下である。
年1回の法定受検率は6〜8%、行政は見て見ぬ振りをしている。
排水処理はある意味では静脈的社会であり、さらには裏社会的部分
があるかも知れない。
しかし、それを正常化しようとしない行政を強く批判したい。
農集排などはどうか
姫路市G団地は業者が開発した。
調整区域であるが開発され、団地には専用の排水処理施設がある。
ところが施設管理を行っていた開発業者は、住民の管理費を受け
取るが、ほとんど余剰汚泥抜きなどしない。
極めて汚い水が放流されていたのだが、姫路市に団地自治会が掛け
合っても、「それは皆さんの問題、姫路市はとにかく処理水が法
を満たしているかどうかであって、関与しない。排水がダメなら
停止させるだけです」と官僚この上ない態度であった。
色々あって最後には団地住民の管理になり、やっとまともになった。
汚泥ポンプも何も修理もしなかったから、管理切り替えた直後
が大変であった。
農集排は管理会社が何カ所かまとめて面倒を見ている。
それが悪徳業者の場合は色々問題が発生する。
汚泥処理はその最たるものであるが、安心できないこともあるようだ。
都市下水道も大問題
都市下水道の多くは合流式である。
雨が降ると汚水と雨水の混合物が公共水域に放流される。
梅雨時期になると処理するより、生放流の方が多くなってしまった
りする。
都市下水はこの意味ではデタラメである。
それをいままで伏せてきた。
浄化槽のことを言えることではない。
早く全面改修すべきである。
ところが汚水と雨水を分離した分流式を採用すると、下水管で汚物
が腐敗し、硫化水素が発生し、腐食されるという。
硫化水素が硫酸になって下水管が溶けてしまうのである。
これは大事である。
沖縄でその被害が大きいが、本州にも広がってきた。
技術レベルがこのような初歩的段階であることに、排水処理研究
に末席ながらも座っていたものとして恥ずかしいことである。
4.水道 ― 大きいことはコストアップのこと
広域水道の悲劇
厚生省は広域水道を盛んに言い広め、建設を後押ししてきた。
これは各都道府県の市町村の水道をネットワーク化するものであった。
兵庫県は最初にこの構想に飛びついた。
ところがである、ダムを造って浄水場を造っていったところ、
誰も一滴の水道も要らないと言い出した。
実際兵庫県官僚が描いたバラ色の水需要予測とは、反対の需要減少
であったから、広域水道など誰も要らないことになってしまった。
厚生省は今から3年前でも、なお旗振りしていたのである。
破産した県営水道は今や市町村の大きなお重荷になっている。
なぜなら最初に手を挙げた(実体は挙げさせられた)市町村は、
水が要らなくても強制的に金を払わされている。
美味く安価な市の水があるのに、それを止めて県営水道の臭く高価
な水に切り換えたところ、住民が騒ぎ出したところもある。
40円を155円で買わされる
誰が考えても、広域水道はコストのデメリットで計画してはならない
ものであった。
厚生省官僚はそれが分からないのか、分かっていても自分が大きな社会
資本投資を計画することで出世を得るためなのか、計画してしまった。
下水道でみたように管渠に多大の資金が必要であるから、出来るだけ
配管は短いのがよい。
そんなことは当たり前のことであるが、それがそうならなかった。
兵庫県瀬戸内海側の自治体は安い自己浄水を止めて、155円の水を購入
している。
失敗は皆で負担するのであるが、さらに買って貰うため管を延長して
いる。
今や自転車操業である。
交付金がどんどん減っている現在、これを解消する手だてを持って
いない。
日本の将来を見るとき、今精算してしまうと被害が少ないかも知れ
ない。
国に設計して貰うと10倍高い
自分たちが素人なりに日本中視察し、研究して水道を計画すると、
国に依頼した場合に比べ1/10になるといわれてきた。
これは新聞などでも知られた話である。
要は厚生省官僚は技術的・政策的にコスト意識がない。
見方を変えると総合的レベルが低すぎるとの批判であるが、
勿論そんなことは誰もいわない。
厚生省は色々なところで高コストの日本を導いてきた。
医療費は今やヨーロッパの4倍程度という。
内容が4倍も優れているわけでないから、よく分からない中間搾取
が大きな医療保険制度になっているのであろう。
水道も大変な所に導いているのであろうか、損なことにならないよう
頑張って欲しい。
クリプトスポリジウム
地方の水道は直送式が多い。
人口密度が低いところでは浄水施設を造らないこと、規模を小さく
狭域化することで配管コストを抑え、どうにか水道事業を維持して
きた。
ところが厚生労働省は、原水に大腸菌など指標菌がみつかたら
クリプト汚染の恐れがある、浄水施設が必要といいだした。
大腸菌は浅井戸なら見つかるのが普通である。
それどころか、急速ろ過では浄水には沢山いて不思議でないし、
緩速濾過でもいないわけではない。
「井戸水や伏流水には浄水せよというが、急速ろ過はよろしい」と
のダブルスタンダードについては言及していない。
小さな町は、まともに行政指導に従っていたのでは水道事業を
維持できなくなってしまう。
広域水道に全部お任せするとなると、広域水道自体さらに管渠工
事代を貰わねばならない。
規模のデメリットの法則にますます逆らうことになり、田舎の水道
は住民から1m3当たり400円貰わねば採算が合わないことになる。
結局、膜ろ過を設置することになるとしよう。
ここでも水道料金の高沸は、町民の水道離れを加速させる。
それはますます水道事業を苦しくさせる。
考えてみると、多くの地下水源はクリプトのおそれは無いのでは
なかろうか。
実際今まで全く問題がなかったのである。
現在の暫定指針は「安全側に見て全て」を含んでいるようである。
早急に危険な水源と安全な水源を明確に分けた指針、出来れば
法制化をされたい。
勿論急速ろ過の基準との不一致を解消していただきたい。
そうでなければ無理に浄水施設をつけさせ、あとで全く不要と分か
ったとき、どうなるのか。
まさか厚生労働省が責任をとって全て弁償するわけでもあるまい。
田舎の浄水事業の悩み
上記のように田舎は浄水事業が決定的に不利である。
それは地域の環境がなせる運命である。
下水はまだしも上水道では決定的不利な要件が沢山ある。
「小さいことはいいことだ」定理では追いつかない。
たとえば水源が確保できない。
なるほど谷川の水はきれいであるが、一寸雨が降れば濁水になるし、
腐葉が流れて装置を詰まらせる。
この沢水を浄水出来る技術は残念ながら企業は提供していなかっ
たようである
(私達の新緩速システムはこれに対応できるものとして
鋭意開発した)
勿論儲けにはならないかも知れない。
そこで訳が分からない施設を押しつけて捨てさせているという
事案にしばしば出くわす。
田舎では、平地であれば井戸がある家が少なくない。
この家は間違いなく井戸水を使う。
そうなると水道管を敷設して強制的に利用させても基本料金しか
払わない。
町水道を使うのは山肌にある家だけである。
これでは水道事業は成り立たない。
ところが地方交付金が減額されてくるから赤字を埋めることも
出来なくなった。
上下水道では「小さいことはいいことだ」は定理であろう。
それは世界の中の日本を見るとき、定理に逆らい、公共投資その
ものを目的としたような工事は確実に国力を弱めることは間違い
ない。
いま社会資本のコストダウンを図る施策への転換が急務である。
(2003.2.16)
−−−
社会資本の性能保証
1.はじめに
企業は生き残りをかけて厳しい営業活動を行っている。
談合といわれる入札の上限張り付きも少なくなっていると思うのは、
私の楽観的見方であろうか。
ところが、ここにもう一つ、所定の性能が出ないという問題がある。
「性能が出なければやり直し」になるかというと、行政機関の場合、
そうはならない。
まともに動かないものがそのまま納入され、金の支払いが行われて
一件落着となることも少なくない。
勿論民間ではこのようなことは起こりえず、性能が出なければ返品
などの責任を取らされる。
企業間では当たり前のことが、自治体ではそうはならない。
2.私の経験
なぜこのような提案を思い立ったか、私の小さな経験と、その他
の見聞事項などから説明する。
まずは私の実体験である。
鯉がはねる
池水の浄化は私のライフワークである。
ある企業が凝集剤を池に投入する装置を売り込みに来た。
話を聞くとPACを定期的に投入するもので、アッという間に透明に
なるという。
なるほどそんな簡単に透明な水が得られるのであれば、私の研究方
向とは異なるが、考える余地がある。
そこで、観賞池の汚濁で困りきっている自治体の担当者に紹介する
こととした。
話は早いということになった。
しかし、他の池の実績があるとはいえ、どうも心配である。
そこで、性能保証を求めた。
「池には品評会で入賞した100万円を超える鯉が何匹も寄付されて
いる。
これらが売り物になっているので、死んでは困る。
凝集剤で死ぬような場合は、新しくそれに相当する鯉を入れて
欲しい」と条件を出した。
ところが
「実は凝集剤を入れると鯉が苦しがって跳ねるのです。
保証といわれると困る」と急に言い出した。
そのような話は一度も聞かなかったのに、私が保証を要求した途端
である。
かくして話は消えた。
タンクが基本設計と異なる
排水処理施設を作ることになり、基本設計を担当した。
総額4,000万円程度であったろうか。
曝気槽を半地下式にすることとし、振動・騒音について、周辺建物
の者と何回か折衝して許可を得ていた。
ところが型枠が立ち上がっていくのを見ると、どうも地上型である。
その姿が現れたとき、びっくり仰天した。
あわてて、勝手な変更を強く指弾した。
結局、企業は水槽全部をやり直した。
いい加減に工事をすること、安く工事をすることが当たり前の社会
を見せつけられることになった。
企業が大きな赤字になってしまうことを承知で、指摘するのは苦しい
が、それだけの責任感がなければ、まともにならないことを痛感した。
ビオトープの池がジャジャ漏れ
キャンパス内にビオトープの実験施設を作ることになった。
相当な予算を獲得したのである。
色々事務職員と折衝した。
随意契約が可能か、やはり入札だ、ただで設計する者などいない、
コンペしか方策がないか、工事入札に特記事項を入れる、それを
無視して応札してくる
ーーいろいろ2年以上かかってから着工した。
何故かビオトープの経験がない造園業者が落札した。
図面さえあればという考えであったろうか、工事は受注業者が土木業
者に丸投げに近いことをした。
受注業者はろくに来てもくれない。
ビオトープを知らないから、ホタルも何も入れられない。
仕方なくコンペの業者が植栽やホタル、魚をタダで入れることになっ
た。
ハチャメチャである。
それでもどうにか完成した。
ホタルも飛ばせた。
学生も沢山見学に来てくれた。
魚も増えてきた。
さあ研究だと思った矢先、8月に漏水してきた。
水道水で満水にしても、次の日には、せせらぎの循環ポンプが空転
する。
やっとの事で修理させた。
ところが、一ヶ月もするとまた漏水である。
今度は違ったところだ。
修理して1ヶ月また漏水。
そして1年間漏水工事は5回となった。
もはや実験にならない。
測定してきた水質などのデータも無駄になってしまった。
学生も困った。
魚も沢山死んだ。
ホタルの幼虫も生きているかどうか不明だ。
かくして、3月、漏水保証を求めたがいい返事はない。
とうとうコンペの設計会社は自分で修理すると言い出した。
私は全面監査なども辞せずとの考えを固め、自分で支払う覚悟で
金を集め、書類を集め、文章を作成した。
それをバネにして、池の全面修理を要求し、金を出すよう折衝した。
決意が伝わって、やっと金を出すことを承知した。
かわいそうなことに設計会社も一部負担するという。
とことん追求することで漸く改修してもらえることになった。
大変な労力と強い折衝が必要であった。
どう見ても議論の余地のないことでさえ疲れ切った私である。
こんなことでは、逃げられるのが普通のように思える。
私はついていないのかも知れない。
経験は大学内であるから小さなことでしかない。
しかし、まともなことをして貰うには、強靱な心臓と、的確な
判断力、責任体制の徹底が必要なことを痛感させられた。
私には大きな社会資本などの建設責任者の能力は無いことを
痛感した。
3.性能が出ないままになる
池浄化装置は休止
5〜10年ほど以前、自治体は金持ちであった。
溜め池、観賞池、水路などを浄化する試みが全国的に展開されていた。
今、それらはどうなっているのであろうか?
紫外線を当てて、ろ過するというI社のシステムが1〜2年で200基
程度全国に納入されたのはこの頃であった。
池の場合1基が3,000万円ほどしていたから大変な金額である。
ところが数年後、それが設置されなくなった。
理由の一つが運転トラブルであったようだ。
勿論その中には維持管理費が膨大過ぎるということもある。
私の近くでも2基とも運転停止していた。
運転停止で終わってしまうから不思議である。
池の浄化は私の専門の一つであるが、確かに、池の水を透明に
するのは簡単ではなく、開発された技術のほとんどは使い物に
ならない。
それにも関わらず、多くの浄化装置が多くの自治体に納入されて
きた。
そして放置されてしまうのである。
税金の無駄使いそのものである。
建設省の河川浄化実験は立ち上げ停止
建設省(現国土交通省)は河川浄化の大規模実験を全国で幾つか
行ってきた。
たとえば、新聞によると、淀川上流の桂川付近で河川に石を敷き詰
めた水路を作りこれに河川水を流した。
ところが取水口に多量のビニール類がひかかり、水の流れが止まっ
てしまう。
一日で直ぐ止まってしまう。
仕方がないので取水を止めたという記事があった。
何千万円かがポンと捨てられたのである。
河川に多量のゴミが流れていて、取水口やポンプのストレーナが
1日で目詰まりするのは極普通のことである。
それを考えないで工事をすると、とんでもないことになる。
但しここではそのことを議論するのではなく、多くの環境対策が
資金の無駄そのものになっていることを言いたいだけだ。
水路浄化は無駄そのものか
都市郊外は下水道が普及せず、単独屎尿浄化槽や合併処理浄化槽が
これに代用されているのが一般的であった。
いまは下水道普及で郊外の浄化槽は増えなくなったようだ。
単独浄化槽の場合、台所排水は直接水路に放流されるため、
悪臭が漂うことになる。
そこで、その水を浄化する設備が日本中でパラパラと設置された。
ところが、それがまともに動いている例は少ない。
水を浄化槽に汲み上げるタイプでは、ストレーナが目詰まりしや
すいのは当然として、槽自体が1年もしない内に泥で詰まって
しまう。
中の蛎殻、石、焼結物などを取り出して掃除し、汚泥を捨て、
再び充填するとなると、とんでもない人件費がかかる。
曝気装置があると動力費に泣く。
ひも状ろ材を水路や川に直接設置するとゴミがひっかかり、以前より
汚いことこの上ない。
河川水の浄化設備の多くは、明らかに失敗であることが、設置後
1年以内に判明する。
それでは改善命令が出るかというと、そうはならない。
捨てられるだけだ。
沢水の浄水は今
水道の例を述べよう。
田舎の山奥では簡易水道が普及している。
簡易水道といっても飲み水にならないような、実質無浄水設備も
少なくない。
しかし浄水施設もかなり設置されている。
ところがその大半は死んでいる。
何千万円かの国の補助金で設置された施設が死んでいるのである。
要は役に立たないためである。
それではそれを作った企業は金を戻して倒産しているのかという
とそうではない。
失業保険金がドブに捨てられる
サラリーマンから集めた失業保険金の一定割合を集めで、福祉施設
を作っている。
そのような法律がある。
何十億円、あるいは百億円を越える宿泊総合施設が次々と建設され、
そのほとんどが1万円や10万円で売りに出されている。
サラリーマンの保険金が業者の工事費に化け、施設はずさんな計画
でお客がなく、使われぬまま、うち捨てられていくのである。
このことについてはテレビで2,3報道されているが、不思議と
国会では大人しく諦めムードのようである。
この無駄遣いは度を超していて、本論文の議論すべき内容とは
外れているが、官僚組織が腐敗すると、どうなるかという見本
である。
ケインズ主義では、いつの間にかこのような無駄な投資が蔓延する
のである。
そして、その国はやがて落日を迎える。
3.何故社会資本が放置されるか
上記のような事例は、無責任体制そのものである。
社会資本を投入して、もしも所定の性能が発揮出来ないときは
当然工事をし直したり、システムをやり直したりすべきであること
はいうまでもない。
しかし、それを行うと、担当者が責任をとらされることになる。
それがイヤであるから、工事をやり直すことはない。
スイッチを入れて流量がまともで、個々の機械が正常であれば、
工事費が支払われる。
1年間それらが動けば工事業者が責任をとらされることはない。
官僚は4,5年毎に移動する。性能が発揮出来ないままの装置を
抱えて、移動する場合、後任の官僚がこれを問題視することは
ない。
同僚を叩くような行為は慎まねばならない。
それには改善工事などしないことである。
かくして、人事異動があれば、ますます出来損ないの社会資本は
打ち捨てれれることになる。
4.性能保証制度
もはやゴミを飲み込む力はない
高度成長の日本であるならば、上記のごときハチャメチャも税や
保険金の収入増加ということで飲み込むことが出来た。
しかしながら、今や新自由主義の大波に洗われて沈没しそうな日本
である。
もはやそのようなことを続けることは出来ない。
戦後のケインズ主義であると、国内市場拡大のためと称して、
道路公団が沢山の高給取りを抱え、その子会社群がかじり尽くして
いて当たり前となる。
我が国の高速道路料金が外国の数倍であっても、我々はこれを飲み
込んできた。
そのような不合理な行動が次第に日本社会を蝕んできた。
そしてついに制度的破綻を迎えることになった。
1990年である。
社会資本のドブ捨てを止めよう
これからの社会資本はまともな予測と保証された性能を発揮させな
ければならない。
10分走行しても一台も対向車に出会わないような高速道路は、
明らかに最初の計画段階から利用されないことが判っていたの
である。
3本の本四架橋は採算がとれないことも判っていたのである。
それらを承知で計画段階では架空に基づく書類、予測を書き
連ねてきた。
このようなことを何時までも続けられるわけがない。
日本が維持できるわけがない。
具体的提言
何らかの方策で、社会資本をドブに捨てさせない保証が必要である。
次のようなことを大胆に進めてはどうか。
(1)
大きく予測が外れた場合は、当時の担当者は責任を取る。
退職、降格、役職から無役職などとする。
これは社会資本投下保証法としてルール化する。
計画者は真剣勝負を要求される。そ
れ故、議員の押し込みなどに対しても毅然としていくことが
自分のためである。
車の走行台数や上水道の計画水量などが現実と大幅に外れることは
なくなる。
責任の取り方は、無役となることまでとするが、重大さによっては
退職させられる。
賠償を求められることもある。
(2)
計画に先立ち、複数の責任者氏名を決定する。
責任者を指名することが肝要である。
無名や変更が自由であっては責任体制がとれない。
(3)
責任者は、先頭に立って計画を遂行する権限を有する。
責任者は、全責任を負う。
それ故権限を手中に得ることが出来る。
勿論、権限を使って親族企業や特定企業に利益を不当に与える
などの行為は、後日、刑事・民事責任を問われなければならない。
(4)
民間のシステムを導入するに際し、性能保証を要求する。
期間は償還期間15年間の場合、その2/3期間とする。
建築の場合は築後10年保証である。
これと同程度とする。
民間のコンサルなどの設計会社は、設計に対して大きな責任を
持たされる。
(5)
建設費だけでなく維持管理費についても性能保証の重大な項目
として責任を持たされる。
(6)
工事業者の入札に対しても性能保証を求める。
期間は上記と同一とする。
工事関係者は、性能が発揮されるような工事を行う義務がある。
入札に性能保証を要求するということは、設計、工事何れに
ついても責任を持つことである。
従って、入札後追加工事が必要になることはない。
何らかの社会的変動で、又は突発的な社会変動で物価が急上昇
でもしない限り、工事費が後で高沸することはない。
性能が設計の問題で充分に発揮できない場合、工事を行った企業も
共同責任を有する。
(7)
工事業者は計画書や図面の問題点は予め入札までに設計会社に指摘し、
変更を求めなければならない。
それを怠った場合共同責任を有する。
もしも設計に不満がある場合は応札してはならない。
5.保証の限度
建設費
工事費について国会では半額で工事が出来ると議論されている。
ゴミ償却装置では民間の工事は約1/3とされている。
このように現在は高額すぎる工事となっている。
もちろん最近は談合が成立しないことも多く、半額というのも
出てきたようである。
従って、保証制度が工事を高くすることはあり得ない。
特にデフレが心配されている状況では工事が入札金額を超える必要
はない。
ところが現状では追加工事という形で随意契約がなされているの
である。
これを止めるのが責任者の設置、設計・工事の保証制度である。
工事関係者にも性能保証をさせなければ、追加工事を止めることは
難しい。
保証させるならば、そのような見落としも、まとめて企業の共同
責任となる。
池や河川の浄化装置を作ったが性能が出ない場合は、改造工事など
が要求される。
改造しても性能が出ないこと、性能を出すための代替案もないこと
が判った場合は、工事費の返却を求められる。
全額の返却とするか50%とするかは検討する必要がある。
2/3程度を考えたい。
維持管理費
性能の中に維持管理費がある。
この項目は極めて重要である。
特に環境関係では予想外の維持費に泣き、設備を運転停止して
しまうことが少なくない。
作って一応動いておれば、予想外の維持管理費であっても結果責任
を免れるのでは意味がない。
たとえば、浄水設備で1m3当たり10円と言っていたとしよう。
これが定期的修理費、部品交換費などが嵩んで50円になったとしよう。
少なくとも差額の2/3、27円程度は企業が負担する必要がある。
残りの13円は建設責任者の責任ということになろう。
企業倒産
弁償を求められても企業が存在しない、倒産するなどの事態が起こ
り得る。
野焼き企業は多くの場合、廃棄物を野山に積み上げて雲隠れして
いる。
幾ら責任を取らすといっても金が徴収出来ず服役しないでもよい
ではどうにもならない。
保証保険制度、企業責任者追跡制度など色々考えなくてはならない。
倒産すれば責任はそこで終わりというような現行制度との摺り
あわせも必要となる。
6.例題 ― クリプト対策 ―
クリプト対策に係る暫定指針では、大腸菌か嫌気性芽胞菌が見つか
った場合は汚染のおそれがあるとし、浄水設備を作ることになって
いる。
ところが暫定対策指針であるから、
大まかな議論だけが行われており、正確さに欠ける。
特に地下水では上記指標菌が見つかることも少なくないが、
たとえ濁度0.1度より遼に低くても浄水することになる。
ところが、地下水の多くはクリプトがでる可能性は極めて低く、
表流水の浄水よりも安全である場合が少なくないと考えられる。
実際それを証明することも出来る。
このような場合、当然企業は売り込みに暫定対策指針を利用する。
地方自治体では、これらの問題を判断する能力が充分とはいえない
こともあるだけに、企業のいうままになることが起こり得る。
そこで後日全くそのようなおそれがないと判った場合、責任は
誰が取るべきであろうか。
企業はあくまでもろ過性能さえあれば責任を取ろうとしない。
それでは自治体の技術者や町長に責任を取らすべきか?
これも全部責任を負わすのは、適当でないような感じである。
しかし、浄水設備は安価なものではない。
維持費も高い。
それが不要であったとなると、何処かに責任を取らさせなければ
ならない。
国が責任を取るか。
その場合、先ず、その担当者、委員会メンバーが個人的責任を
取る。
そして金額保証は国が行う。
もしもそれが数兆円になるとしてもそうすべきであろうか?
かくして、新しい新自由主義下の社会資本投下に係る責任制度は
難しいのであるが、避けてはいけないのではなかろうか。
(2003.3.24)
−−−
繊維ろ材は浄化の基本
1. はじめは楽しく
下水処理場には水がない
池をきれいにしようと研究を始めたのは約10年前である。
加古川の流域下水道に作られた公園の池の浄化。
皆が嫌う設備を作る時は、周囲の自治会に多額の寄付をするとか、
公園を作るとか、場合によっては漁協幹部がふところにポイコちゃん
して刑事事件になったりと、多彩な同意活動が行われる。
下水道も嫌われものである。
今回私が関係したのは下水処理場のために公園を作るということ
であった。
公園といえば池である。
下水処理場であるから処理水はふんだんにある。
勿論処理水はきれいに処理していますと住民には断言するが、
あくまでも排水である。
排水は汚いから排水するのであって、きれいであれば再利用する
はずだ。
幾らでもあるといっても、その排水を使ったのでは悪臭が漂う池
になってしまう。
地下水は金気でだめ
かといって水道水をどんどん消費していたのでは社会問題になり
かねない。
そこで、井戸を掘って地下水を確保する。
もう一つは水道水を入れるが、循環浄化して、水道水の使用量を
最低限にするとの2本立てである。
井戸水は掘ったところ、金気が高濃度で、一寸した酸化処理では装
置全体が鉄泥で埋まってしまうものであった。
これは使えない。
波板ろ床で大成功
困った友達が相談をかけてきたのが始まりである。
とにかくろ床を作って循環することにした。
浪板を3cmの隙間を開けて立体化した構造だ。
クーリングタワーに入っているものと同じもの。
さて、設計したときは、単にBOD(生化学的酸素消費量、有機物が
多いかどうかをバクテリアを繁殖させて測る)成分の分解という
ことである。
藻類も同じように分解するであろうと。
家庭雑排水が流れている水路浄化に実績があるという。
藻類も除去するから過大な設計をすることとした。
450トン、1000uの池は鯉が泳いでいるが、30トン、蛇行水路長
100mのろ床が完成した。
池そのままでは濁るが、ろ床に水を循環すると見事に透明になる。
また循環を止めると濁る。
運転中は、決して悪くなることがない。
大成功である。
ろ床には、ヤゴを始めいろいろな小動物がいて、理想的な生態系
を作っている。
好古園も池に泣く
このような鑑賞池の成功は日本で始めてであった。
同じ頃、姫路城西に出来た「好古園」は現代の庭園技術の粋を
集めたものであった。
指導は京大に頼んだとのこと。
バブルの余韻が残っていたから、税金もどっさり投入した。
そして900トンの池に失敗した。
池は青黒く濁り、1匹元100万円だったという寄付された鯉が
見えない。
池があるために庭園全体が薄汚くなってしまった。
新聞にはハチャメチャ叩かれる。
この池には有名会社のろ過器が備え付けられていた。
これで藻類も除去できるとのふれこみである。
日本の最高技術を集めた庭園、それがこの程度であった。
庭園自体の芸術性は、皆さんの評価に待たねばならないが、
昔からのテクニックを集めていることは間違いなく、竜安寺の
ような芸術性は追求していない。
最後には、オゾン処理、紫外線処理等を加え、どうにか池は
きれいになった。
但し電気代など維持費は莫大である。
兼六園も、栗林公園も
有名な庭園といえば後楽園、兼六園、栗林公園などである。
何れも殿様の庭園であった。
それが今に継がれているのである。
ところが兼六園、栗林公園を各2度ほど見る機会があったが、
池の汚いこと。
たとえば水が入ってくる小川は確かにきれいである。
しかし池は激しく濁っている。
1回目より2回目の方が濁りは激しい。
殿様が愛でていた頃は、水は厳密に管理され、領民がそれを汚す
ことは厳しく止められていた。
ところが今はそれがない。
それどころか民家も増えてきたであろう。
これらの庭園の池をきれいに維持することは、余りにも大きすぎて
出来ていない。
東京「しのばずの池」も繰り返し、税金が投入されて、試験が行わ
れているが、成果を上げていない。
皇居の堀の浄化も失敗して、あわてて店じまいをした。
運転は僅か数ヶ月であったように聞いている。
このことは少数のものしか知らない。
一応報告書をまとめたというが、一般には出回っておらず、私も
入手していない。
余程恥ずかしく、デタラメであったということである。
日本の研究者や企業の能力は池浄化に関していえば、このような
レベルである。
それにも関わらず税金はどんどんどぶに捨てられてきた。
それは昔のこと?
2.波板で失敗
同じシステムの筈が
さて話を元に戻そう。
味をしめて、本格的に研究を開始した。
姫路工大本館の前に130トンの鑑賞池がある。
鯉が泳いでいて、その汚濁に泣かされていた。
そこで、池の一部を10トン仕切って、板で全長50mの蛇行水路を造り、
これに波板群ろ材を入れた。
さあ実験開始。
ところが4月頃から濁り始めた。
D社と共同研究していたが、わけが分からない。
規模を縮小しただけであるはずなのに浄化できない。
夏になると透視度は20cm以下となった。
一、二度池が透明になった!
喜んだの何の。
ところが一週間もすると元の木阿弥で、藻類の種類が換わった
だけだ。
そして誰も寄りつかなくなった
呆然としただけで済まない。
これは好むと好まざるとに関わらず、公開実験のようなものである。
皆がよってきて私と話をしていく。
始めは自信があるから楽しく説明できる
ーーそして最後には誰も寄りつかなくなった。
学生は研究を止めるという。
私は血圧が急上昇する。
まさに地獄の日々である。
やけくそで、あらゆる材料を使ってろ床水路に入れてみた。
そして繊維に藻類が吸着される現象を見出した。
20L水槽に実験ブラシ(洗い矢という)を入れると、1時間で
藻類がこれに吸着するのである。
勿論水は透明になる。
バケツに入れれば何でもきれいになる
バケツに入れた水は濁り成分が、5時間もすると沈降分離する。
特にビーカーなど小さい容器ならばさらによく沈殿する。
ところが、池やろ床は相変わらず濁っている。
これで浄化できるではないか
ーーこのようなことを考えてはならない。
実験室規模の実験は池の浄化には全く役立たないのだが、これが
理解できない研究者も少なくない。
水環境問題は研究室で手に負えるような代物ではないのだ。
私は、実システムが成功して、テストプラントが失敗するという、
苦渋の道を歩かされた。
繊維の発見も実用化には先があったが、幸いにも、無事それを乗り
越えることが出来た。
3.ざるで水をすくう
そこで、長さ1m程度の小型の水路を造り、その中に金網を入れた、
洗い矢も入れた。
こうして繊維に藻類がトラップされる現象を発見した。
金網でゆっくり水をすくうと藻類が取れる。
「ざるで水をすくうと濁りが取れる」
色々後で整理してみると、加古川で成功したのは運がよかったに
尽きる。
先ず餌が僅かである。
そのため池の窒素リンが少なく、藻類が簡単にろ床で取れてしまう。
しかし、藻類の繁殖が激しい場合は、全く歯が立たない。
鑑賞池では鯉がいて、毎日餌をやる。
水道水は1ヶ月の滞留時間である。
計算すると5日で藻類が大繁殖する条件になる。
ここに紐状ろ材の登場である。
0.5mmの繊維が5mmにも太る。
目開き10mmの金網が目詰まりするように藻類を吸着する。
これを、先の波板群ろ床と全部交換した。
金も掛かった、企業が出してくれたが。
水路の幅も20cmから60cmとし、全長を1/3にした。
その結果今度は本当に池を浄化することが出来た。
特許3件やっと取った
早速特許だ。
原理特許と応用特許に分けて出願した。
ところが簡単ではない。
最初は拒絶されるのは仕方ないとしても、2度ほど特許庁と書類
を交わしてもなかなか認めてくれない。
片方など、向こうからの間隔が1年間位あったりして、訳が分か
らない。
催促してそれもやっと折衝始まりだ。
幾度となく企業と会議を持ち、膨大な資料を作成して5年目にして
やっと認められた。
1つは2分割した。
結局3件の特許が取れた。
ところが次は会社からのクレームである。
相手は誰か分からないが取り消すべしと訴えてくる。
それで特許庁は特許取り消しだという。
これの反論に1年かかった。
ようやく全てが終わったとき、出願から6年が経過していた。
事務経費だけでも膨大である。
繊維ろ床が研究の標準になった
現在、湖沼のろ材浄化の研究はほとんどが繊維を使ったものである。
今のところ、これを越える研究はない。
我々の研究成果が湖沼浄化の標準となっているのはうれしいこと
である。
しかし、これを商売にして池をきれいにするという会社が出て
くれない。
研究はあちこちしてくれるが、商売してくれない。
これでは特許料が取れない。
ぜひこの技術で商売して欲しいものである。
何も高い特許料取りませんから。
万能ではない
さて、これで大学の鑑賞池の浄化実験を繰り返していくと、完全
浄化が出来なくなった。
調べてみるとケラスツルムとゴレンキニアという2種類の藻類
だけになっていた。
ツヅミモなど消えてしまった。
この2種は有機物を含む水に繁殖しやすく、条件にかなっている。
その上、これらは繊維を素通りしやすいのだ。
何回も繊維に水を通すと、最後には繊維にトラップできない
藻類ばかり、これが繁殖する。
自然はしたたかである。
人間の技術など嘲笑うように反撃してくる。
透視度30cmと専門家はいうが
勿論、繊維ろ床は、たとえ、これだけで繰り返し水を通していると、
濁りは完全には取れなくなるとはいえ、肥料が多くても池が腐る
ようなことにはならない。
程々の浄化をしてくれる。
「鯉池は透視度30cmとやや濁っているのが一番きれいだ」などと
研究者達が何処かの討論会で話していたというが、そのような
ことならば繊維ろ床で充分だ。
しかし透視度30cmは嘘である。
一般市民や学生はやはり限りなく透明であることを要求し、
それがきれいという。
きれいになると底まで見えて、ゴミなどが汚く映るというのが
専門家の言い訳であるが、そんなことはないのだ。
ゴミは拾えばいい、鯉のしっぽがかすむような水がきれいという
のは浄化技術を開発出来ない専門家の詭弁である。
高野山に行ったことがあるが、泊まった宿坊の池は限りなく透明で、
鯉が輝いていた。
これが池である。
4.繊維ろ床は無限の可能性
鯉池は繊維ろ床との組み合わせで浄化
鯉池は、沢山の餌をやる。
窒素・リンは数日でアオコを発生させる濃度になる。
それでは3日に1回水替えをすればよいが、そんな水の豊富なところは
ほとんどない。
昔は私の故郷鳥取県でも田舎では川の水を入れて鯉を飼っていた。
それがステータスでもあった。
ところが農薬で死んでしまうので、今は鯉を飼う家はない。
飼うとなると川の水を入れないで、地下水をポンプアップしなければ
ならない。
当然水量は少ないから浄化装置が必要だ。
それが簡単ではない。
よく失敗する。
これからのろ過装置の基本は我々の繊維ろ床(ひも状ろ床)であろう。
繊維ろ床は餌を少なくする、あるいは、水交換を多くする等と組み
合わせると上手くいく。
是非試みられたい。
さらに紫外線との組み合わせ、ミジンコろ床など多彩なシステム
を研究している。
そしてシステムを売って我々に特許料を。
環境は冬の時代
特許を取ったらどんどんシステムを売ったらよいではないかとなる。
ところがそうはいかない。
今は「環境は冬の時代、それも木枯らしが吹いている」なるほど、
全国の大学では、教養部門の組み替えによって、沢山環境系学部
や学科が誕生し、卒業生を送り出すまでになったが、それは繁栄
したことにならない。
大学は時代に遅れるのが常であるから、それで判断してはならない。
しかし、バブルといわれる時代から13年、環境問題は新聞やテレ
ビの話題提供だけになってしまった。
環境問題に取り組むと、負の生産となり、取り組むほど損をする。
行政は、これからますます金がない時代に突入する。
それは日本がハッキリ自覚しないまま流され進めていること
である。
従って湖を浄化するなどのプロゼクトはあり得ない。
システムを売ろうにも行政は見向きもしない。
タダなら溜め池をきれいにして下さい
ーーそんなところである。
無限にタダとなるようなシステムを作らない限り、湖沼の直接
浄化はあり得ない。
繊維ろ床は無限の可能性がある
通常の池では特殊な繊維に捕まらない藻類が繁殖している可能性
は極めて低い。
これを使ったシステムは将来性が高い。
無限にタダに近いとはいわないが、今まで研究されてきた方法に
比べると極めて低コストの浄化システムである。
是非研究開発されたい。
(2003.1.27)
−−−
湖沼はなぜアオコが発生するか
湖沼の汚濁は激しい。その原因は何かを考えてみよう。
川は濁らない
ーー3日で入れ替われば川
池はアオコでみじめな状態になるが、川は相当汚くてミズワタが全面
に広がっていても結構透明に見える。
浅くてきれいに見えることもあるが、根本は河川水が一日で海に
流れ、植物プランクトンが増殖する暇がないためである。
それではどの程度の水の入れ替わりであればよいかというと、
私の計算では3日で水が入れ替われば間違いない。
たとえ池・堀といわれようと、水が3日で入れ替わるようならば、
それは川である。
5日位ではどうであろうか。
それは水質による。
淡水で肥料成分(窒素とリン)が高濃度であれば池はアオコに占領
される。
窒素・リン濃度が低いとか汽水ならばきれいである。
堀は川
平和公園で有名な広島市には広島城がある。
その堀は汚濁が激しかった。
そこで建設省は堀に旧太田川の水を入れる工事をした。
水で汚水を流し出してしまおうとしたのである。
約4〜5日で押し流してしまうようにした。
これで見事に堀は蘇った。
ついでに堀も登録上は川にしてしまったという。
国が自分を認可して取水工事をするのだから何でも出来る。
堀は川なのだ、水が流れるのが自然なのだ。
但し、堀川がきれいになると、わんさかと水草が生えてきた。
これを刈り取るのも一苦労、自然は逆襲するのである。
この場合はささやかであったが、じっさいひどい目に会うのが
池の浄化だ。
この旧太田川の水は汽水であるため藻類が繁殖しにくいという
幸運も重なっている。
潮水の導入で水はきれいになったのであるから、少々の水草など
辛抱しなさいである。
肥料はどれだけ必要か
これは、環境基準を見て貰えばよい。
およそ全窒素TN 0.2mg/l、全リンTP 0.02mg/lが境目である。
カリは水中だから満足するだけある。
これがガーデニングや野菜畑と違うところだ。
この両方を満足すれば藻類は繁殖するが、片方だけでは大繁殖と
はいかない。
山の水でも全窒素は0.5 mg/l程度はあるのが普通である。
結局全リンが問題になることが多い。
なぜ藻類なのか
藻類は大半が浮遊性藻類すなわち植物プランクトンである。
勿論藻類には群集し、大きな固まりとなるものもある。
アオミドロやアミミドロがそれで、一列に個体が並び長さが1mにも
なる。
当然アオミドロは固体にしがみついて生活する。
しかし藻類と呼ばれるほとんどは浮遊性である。
水に浮遊することで、他の植物に対し優位になる。
誰よりも先に太陽光線を獲得するのである。
沈水植物が繁殖するのは浅く、藻類が繁殖できない環境である。
藻類は有刺構造、籠状構造、筏状、板状など色々な工夫を凝らして、
浮遊しようとしている。
大きさも細胞本体が30ミクロン以下と小さいのも重要なことだと
考える。
こうした藻類は比重は僅かに水より大きいだけだから、一寸した
風、日光等で弱い水循環が起きれば浮遊する。
こうして我々は彼等が何時も湖沼水に均一に浮遊しているのを観察
することが出来る。
窒素が20mg/lでも透明な池
静岡県のある池は不気味に青く透明という。
窒素は何と20〜30mg/lもあるという。
それでも透明なのだ。
原因はリンが不足しているのだ。
付近は茶畑だ。
お茶は「めちゃくちゃ」窒素肥料を与える。
窒素は葉肥といわれ、葉が繁殖するが、これが多すぎると、通常
病気に弱くなりアブラムシが増殖する。
それでも柔らかいハッパが得られると美味しい茶が出来るのだ。
当然、茶には窒素分が沢山含まれているのだが、これは問題は
ないのか。
茶畑ではとにかく殺菌剤と殺虫剤をかけまくるのであろうと
想像がつくのだが。
さて、その土は茶畑に入れたアンモニア性窒素肥料が高濃度で
含まれている(植物はアンモニアが好きである。動物には有毒だが)
これは土の中で硝酸に酸化される。
ところで、リンであるが、それ程多いわけではない上に、土中の
3価の鉄と不溶性のリン酸鉄を作り、そしてなくなる。
かくしてその付近の池や川水は硝酸ばかり高濃度の変な水になる。
勿論、呑んではならない。
家庭排水は肥料たっぷり
家があると必ず排水が出る。
これが合併処理浄化槽や農業集落排水処理施設からの排水だと
しよう。
全窒素20mg/l、全リン3mg/l程度の水質である。
藻類の繁殖を防ごうとすれば、100倍以上に希釈しなければなら
ない。
1日1トンの水を1家庭で使う。
そうすると100トンの水で希釈する必要がある。
これが池に流れるとしよう。
池の滞留時間は100日であるとすると、1万トンの水で希釈しなけ
ればならない。
ここで忘れてはならないものがある。
自然からの肥料分だ。
これが基準の50%含まれているとすると、先の1万トンは2万トン
といわねばならない。
100m*100m深さ2mのため池だと、この1軒の水が流入するだけで、
藻類が繁殖してしまう。
一町歩の立派なため池がたった一軒でダメになる計算だ。
かくも人間は恐ろしきものである。
湖山池を考えよう
私の郷里は鳥取である。
鳥取市に、日本最大の池がある。
それが湖山池だ。
ちなみに池とは人間が作ったものをいう。
さてこの池周囲18km、平均水深2.8m、水量0.19億m3の汽水池で、
平均3ヶ月で水が入れ替わっている。
上記と同じような計算をした。
但し一人が1日排出するTN6.7g、TP0.9gとして全排出量から計算する。
3ヶ月で600gと80gである。
汚濁しないで水質一級を保つ厳しい条件(TN0.1g/l、TP0.005mg/l)
の最低人口を計算すると、TNからは3200人、TPからは1200人となる。
これには自然の汚濁は計算に入れていないのだが、それにしても
たった2000人ほどが上流で生活すると湖山池は汚濁されるのである。
人の尿が問題 ― 油は問題ない
人がいると湖沼は汚濁される。
それでは何が悪いのかというと尿であって、台所排水はそれほど
汚さないのである。
台所の雑排水、たとえば油が元凶のようにいう者もいるが、これは
全くの大間違い。
食用油は確かにバクテリアの好物である。
だからレストランのグリーストラップという油除去槽は直ぐ腐り、
その臭いこと。
溝に台所の食器を洗った油が流れるとそのあたりは腐って臭い。
ところがそれは排水溝近くだけで、100mも流れると溝は臭くなく
なり、ミズワタも消えている。
バクテリアに食べられてしまったのである。
そして何も残らない。
油を肥溜めに入れても液肥は出来ないのだ。
オシッコがいけない。
オシッコしなければ自然に優しい人間になれる。
肥料分を除去すれば
勿論、窒素リンを除けばよいし、実際そのような技術もある。
しかし、それを完全にしようとすると何倍も浄化コストがかかる。
排水は自分は困らないで、下流のものが迷惑するものだ。
それに金をかける人はいない。
実際、都市は下水処理といっても、有機物だけ除去して、
そのまま排水している。
江戸・明治時代のように液肥を作って海や川に放流している。
(但し水洗だから水道水で100倍に希釈している)
肥料たっぷりの水をとうとうと捨てているのである。
湖沼の上流の田舎の人が悪者になってはたまらない。
琵琶湖の条件
現在の状況では、琵琶湖はアオコの爆発の寸前である。
なるほど色々な対策を立ててはいる。
しかし琵琶湖は怪しい色が濃くなっている。
何時アオコが爆発してもおかしくない。
窒素・リンを除去できる下水処理場も出来ているが、琵琶湖に
流入する肥料が止まる目途は立っていない。
肥料は琵琶湖に、特にリンは湖底に蓄積しているようだ。
昔から営んできた農業が悪いような意見さえ出ている。
農業はずっと続いてきた。
むしろ水田の施肥は減少しているし、減反も40%にもなっている。
結局の所、琵琶湖から人が撤退するのが一番である。
そうでないと、レストランや工場が出来てしまう。
これらはたくさん肥料を出すと考えてよい。
完全に行政指導すると工場や店は撤退してしまうであろう。
勿論琵琶湖周辺には野菜団地など作ってはならない。
野菜畑は無くすると良い。
このようにすると、琵琶湖には光明がさしかけるようになるであ
ろう。
−−−そのとき滋賀県は日本から消えたと同じことになるか
−−−
単独処理浄化槽と合併処理浄化槽の問題点
1.処理データから見る
BOD
河川を汚濁する元凶は単独処理浄化槽で、合併処理浄化槽は理想的
な処理といわれている。
それは次のような処理区分と処理能力によるものである。
香川県のホームページでは次のような値が示されている。
(カッコは一日人のBOD)
汲み取り式 ――台所・風呂など27g 計27g
単独処理浄化槽――屎尿のみ処理(13g→5g) 計32g
台所・風呂など(27g)はそのまま排出
合併処理浄化槽――全量処理(40g→4g) 計4g
結局、単独処理浄化槽が、最も悪く、合併処理浄化槽が、
ダントツによい。
窒素・リン
これについては値がない。
元々河川の環境基準にはない項目だ。
しかし、敢えて私が書くと
汲み取り式 ―――台所・風呂など排出 TN1.7g 、TP0.3g
単独処理浄化槽―――屎尿のみ20%処理 TN5.7g 、TP0.8g
合併処理浄化槽―――全量処理、TN20、TP30%処理 TN5.4g 、
TP0.6g
要するに窒素・リンは屎尿に大半含まれている。
従って汲み取り式が最も理想的である。
単独と合併処理浄化槽では特に差異はない。
2.管理がでたらめ
埋設したらお終い
K市の農業用水路の生物・水質調査を行っている。
そこで地元の住民と色々話をする機会が出来る。
浄化槽の話をしたとき「設置したらそれで終わりで、誰も掃除
して貰ったりや検査は受けていない」ということであった。
「一度4年ほど前になぜか一斉に検査を受けろとの指令があった
が、それでお終いで、今は元の木阿弥だ、だから冬の水路は
こんなに汚れている」
この検査の話は私と友達が何とか受検率を上げようと市や県に
働きかけていたときだと思う。
県は一年間委員会を作るまで行ったが、そのまま没にしてしま
ったようである。力量不足を痛感した。
受検率8%の世界
これが浄化槽の世界である。
浄化槽は何れも次のような方法で浄化しているが、勝手にメンテ
フリーとされてはかなわない。
排水→嫌気槽(単に放置)→溶出水を曝気処理→消毒→放流
嫌気槽というのは排水を貯めておいて自然に嫌気分解させる
ところである。
肥溜めのようなものである。
ここから出た水はろ床があるところで空気を受けて好気性条件
で分解される。
最後は次亜塩素酸ナトリウムで消毒される。
ところが、法定検査を受けるのはたったの8%、H県の値で
あるが、全国的に似たり寄ったりである。
検査を受けないと罰則が科せられますよ
ーー皆で渡れば怖くない。
勿論検査を受けないのだから、掃除もして貰うわけがない。
何時掃除したか、ハッキリとは記憶が無い世界である。
泥は貯まりっぱなし
嫌気槽は次第に泥が貯まってくる。
せめて1年に1回は掃除して貰わないと、どうにもならなくなる。
ところが、誰もそんなことはしないのだ。
泥は槽に貯まり、腐る暇なく、曝気され放流される。
曝気槽も掃除しないからろ床は目詰まりして役に立たない。
泥は流れ出す ー これが危険
食べたものや台所カスを完全に分解するとしても10%程度は無機質等
の泥になる。
これを除去しなければどうなるか、想像して欲しい。
槽内がどうなっているかを想像して欲しい。
処理デタラメで、汚泥と未処理物が排水となり河川に流される。
泥を除去しないことは問題の細菌や原虫を除去しないことである。
消毒しない
管理しないから、消毒しないで放流している。
学生と水路調査に行くのであるが、その汚いこと。
それでも研究だから逃げるわけには行かない。
教員は率先垂範してことに当たらなければならないが、あーやだやだ。
提供している自家用車が汚水にまみれる!!
合併処理浄化槽のBOD除去90%は嘘となる
本論文の最初では、BODは合併処理浄化槽は極めて除去率がよく、
僅か一人一日4gだけが放流される。
入口は40gとしているから、90%の除去率である。
他の自治体の資料でもほぼ同じように90%除去していると書いて
ある。
ところが、掃除しない、管理しない、検査も受けない
ーーこれで浄化出来るわけがない。
除去率は70%程度、あるいは60%、それ以下か。
素通りしているかも知れない
汚泥が詰まってしまうと、ほとんど処理を受けず、短い時間で
排水されるであろう。
勿論消毒も受けずにである。
これがどのような問題を引き起こすであろうか。
最も懸念されるのは、クリプトスポリジウムである。
地方自治体によっては表流水をそのまま塩素を入れるだけで水道と
してきたところがあったぐらいである。
それでも患者は越生町(実はなぜ患者が大発生したかはっきり
国はいわない。恐ろしい管理であったと想像するしかない)だけで
あるようだから、そう簡単には感染しないようだ。
それでも心配である。
3.地方では浄化槽は水洗化の主役
H9年度の和歌山県をみよう。
和歌山県は山地が多く、下水道等の普及が遅れている地域である。
水洗化率は49.3%、そのうち浄化槽が69.1%という。
何と水洗化する家庭の7割が問題の浄化槽を使っているのだ。
合併処理浄化槽が多くなって水洗化の16.5%担ってきていると
いうが、ほとんどは単独処理浄化槽である。
管理しないのであるからその区別自体意味無いことであるが。
こんな日本に誰がした
何しろ国民の28%(1996)が浄化槽でその大半が単独浄化槽である。
このような、汚い日本、危ない日本に誰がした。
江戸時代から昭和初期まで、日本は屎尿を公共水域に流すことは
なかった。
流していたのは、都会で、雨の度に生下水を公共水域にまき散ら
していただけであった。
行政の責任は重大である。
4.集落排水処理施設が供用開始されると
ここに助っ人が登場した。
集落排水処理施設である。
これら処理施設と合併処理浄化槽は同じ性能を示すといわれているが、
勿論それは間違いであることは上記の通り。
浄化槽はクリプトが素通りしている可能性があるが、これが
処理施設に変わると、当然管理はかなりまともであるから、
うんとよくなる。
95%程度は除去出来るようである。
浄化槽と比べると10倍の開きがあると推察する。
今、残り50%1万人が排水処理施設がないとする。
その20%2000人が浄化槽を使っているとすると、処理施設が出来
たとき、浄化槽の2000人は10倍の汚染に相当するから2万人である。
結局処理施設が出来ると危険性は半分に低下する計算である。
結局、我が日本の現状では、集落排水処理施設が建設されると、
汲み取り屎尿が水洗化されるにも関わらず、病原菌の心配は
減少すると考えるのが順当ではなかろうか。
5.集落排水処理施設が完備してもなお浄化槽は問題
施設が完備した場合、必ずしも個人は下水管に接続するわけでない。
接続すると維持管理費が掛かり損をするのだ。
色々難癖を付けて接続しない個人が出てくる。
法では3年以内に接続を強制しているが、それが強制させるような
自治体なら問題ないのであるがーー
最上流は浄化槽
たとえ排水処理施設が出来ても、田舎では最上流の集落は合併処理
浄化槽となる。
なぜならば、上流では民家がまばらで、下水管を埋設したのでは
コストが掛かって仕方ないのである。
最上流は時期を合わせて合併処理浄化槽に補助金を増して付けさ
せるのである。
汲み取り地域であった谷筋が、一挙に農業集落排水処理施設を作った。
その時最上流の集落は遠く離れていて、家が数戸ずつ分散していた。
そこで、その集落には合併処理浄化槽を認め(農区によっては浄化
槽を許可しない地域もあるが、これを機会に許可したということ
であろう)、それ以外の地域はまとめて農集排とした。
排水口は谷の最下流であるから、地域住民には都合がよい話の筈
であった。
ところが、「きれいだった川の水が汚れ、岩がヌルヌルし、水路
は真っ青になった。これではアユも育たない。生まれた初めての
事態だ。こんな水に誰がした」地域の親父さんの憤懣は、話を
聞く私に詰め寄ってきた。
確かに水質類型は「少し汚れた水」であった、山奥にも関わらず
だ。
かくして、残った浄化槽は相変わらず問題を抱えている。
上記事例のごとく、かえって危険性が増したということもある。
その鍵は浄化槽であった。
ここから何時問題が噴出するか分からない。
(2003.1.31)
−−−
川の汚れ指標に窒素・リンは不要か
河川の環境基準はBOD(生化学的酸素要求量)、SS(懸濁物質)、
pH、溶存酸素(DO)、大腸菌群数である。
肥料成分の窒素・リンは入っていない。
これが正しいかどうか考えてみよう。
1.河川汚濁の従来の見方
BODとDO
河川が汚濁するのは家庭排水、工場排水、畜産排水などが流入し、
その中の有機物成分があると水が腐敗すると考えてきたのである。
そのためまずはBODを重視した。
BODは検水に雑菌を入れてを20℃で5日間培養し、そのとき菌が
有機物を食い、それを分解するときに酸素を消費するが、
この酸素消費量を示したものである。
有機物が多ければ、それだけバクテリア(菌)が有機物を沢山分解
し、沢山酸素を使うであろうとの考えである。
一方、水には約9mg/lの酸素を溶解させる能力がある。
従って、酸素が飽和した水の場合、BODが5mg/lならば9−5=4mg/lの
酸素が余る計算になる。
分解の間、空気中から酸素を貰わなくても、バクテリアは全ての
有機物を分解できる。
すなわちこの水は腐らない。
このような関係にあるから、BODが10mg/l以下であると余り腐らない
水といえる。
但し川の底は嫌気性になっていて、混ぜると臭気が立ち上る。
DOが5mg/l以上あるようならば、通常、水は腐っていない。
これがDO 1mg/lであれば零の所もあるから悪臭を放つどぶ川と
いえる。
川には水面から酸素が補給されるが、穏やかに流れている場合は
余り多くを期待してはならない。
SSは重要ではない
これは濁り成分である。
河川の場合、その多くは粘土質であるから、これを考える必要はない。
どぶ川の水のSSは最もきれいな類型のAAの25mg/lを越えないことも
多い。
大腸菌群数
屎尿が流れ込む場合、当然ながら高い値になる。
pHは基準を満たせない
類型AA〜Eまで、pH6.5~8.5 としている。
これは工場排水を考えた値であると思うが、それはある意味では、
大きな間違いである。
河川水はpH8.5 を越えるのはよくあることだ。
PH10まであるのは事実。
これを以下議論する。
2.河川の高pH、池の高pH
序
私は学生と4年間、河川調査をしたことがある。
河川は夢前川、林田川、揖保川の本流及び支流である。
揖保川は一級河川で流域面積も大きい。
測定項目は水生生物、pH、水温、井堰構造であった。
そこでは集落排水施設と水質階級の関係、生態系無視の井堰などが
明らかになったが、さらにpHが10近くまで上昇することもあった。
集落排水処理施設と水質階級
夢前川は本流と同じような形状・人口の谷筋の菅生川がある。
菅生川は既に排水処理施設が全て稼働しており、本流は建設途中で
あった。
その結果菅生川は階級II、本流はI〜(II)であった。
明らかに菅生川の方が汚い。
ところが3年後、本流の施設のほとんどが供用開始して1年後、
どちらも水質階級はIIであった。
この結果は、集落排水処理施設が出来ると水質階級をやや落とすこと
を示している。
しかし、極端に低下することが無いのも事実である。
夢前川は瀬戸内海に流れる河川であるから、当然水量は少なく、
生活排水の影響が大きい。
渇水期には水量の多くは処理施設の排水と考えたくなる場合もある。
川のpHが10になる
さて、問題はpHである。
pHは天候に左右されるが、通常7.5〜9.5である。
10という測定値もでた。
環境基準の上限8.5を越えるのは普通といわねばならない。
水質階級AだBだといっていても、それらの基準をpHが満たして
いないとはどういうことだ。
最悪のE(嫌気性のどぶでない)さえも満たしていない。
しかし、これは当たり前のことである。
これが分からないようでは河川水質を議論する資格は無いと
考える。
湖沼の場合 ― 分からない関係者も
この現象は、湖沼ではあたりまえである。
鑑賞池の浄化で実験するとpH10.5というのもでてくる。
藻類が繁殖して炭酸を吸収したためpHが高くなるのである。
大体pH9を越えると藻類が大繁殖しているということになる。
湖沼の汚濁はpH9だけを目安にすればよい。
ところが、このことを知らない水環境の研究者が少なくない。
自分で手を汚して研究しておれば直ぐ分かりそうなものであるが、
不思議な人達がいる。
それでよく研究していることだといいたくなる。
さて、ゴルフ場では水質検査をして官庁に報告しなければならない。
ところがpH9を越えるのは普通であるから、排出基準を満たさ
ないことになる。
9年ほど前のことであるが、これが問題になった。
そうなると排出停止?
まさか急に堰止めるわけにはいかない。
私に分析会社が泣きついてきた。
「朝5時に採水しなさい」と指導した。
その結果無事パスしたと喜んでいると、7月末になって
「早朝でも基準を満たさなくなった」と報告があった。
もう知らない「官庁を教育せよ、何としてでも納得させよ」と
ふてくされる私であった。
その後、これで何とかなったようである。
かくのごとくpHは藻類が繁殖すると直ぐ高くなるものだ。
3.高pHは窒素・リンが元凶
理屈はこうだ
窒素・リン→藻類繁殖→水中の炭酸減少→pH上昇
→基準を満たさない
藻類が光合成すると水はアルカリ性になるのは炭酸が無くなる
からである。
たとえば地下水には炭酸が沢山含まれていることが少なくないが、
この時は曝気して地上の雰囲気に慣らしてやるとpH5台が
中性になる。
藻類が活動するとさらに炭酸(ガスは炭酸ガス、ビールの泡は
炭酸、同じものである)が取られて、pHはどんどん上昇する。
実験室で研究するとpH11にもなった(これは藻類から幾らか
アルカリ成分もでているかも知れないが、その確認はしていな
い)これが自然現象である。
水はpH7で、炭酸ガスが入るとpH5.6?
これは純水に限ったことである。
通常の水は本来アルカリ性である。
それは色々なアルカリ成分を溶かしているのが常だからである。
ところが、純水の炭酸ガス平衡のpH5.6を取り上げて、これ以下は
酸性雨等と議論するのであるから、ふしぎな世界である。
本来自然水はアルカリ性であることを考えるとpHは6〜6.5程度
を基準にすべきところである。
川水はpH9以上になるのも普通だ
川には付着性藻類(コケということもある)が石の表面を覆って
いる。
藻類は何も湖沼だけではない。
藻類のうち特に珪藻が良質であり、これを食べてアユは成長する
のである。
アユのあの風味は珪藻から来ている。
日本の河川は、5月頃から河川水量が少なくなる。
特に田植え時期は沢山の水が必要であり、河川水量は1,2週間
で極端に少なくなる。
揖保川のような大きな一級河川でも、その時は哀れなものだ。
僅かの水量が淀みながら流れているから、歩いて渡ることが
出来る。
この時はpH9.5〜10となる。
池のことを考えると当然の結果である。
何も驚くことはない。
この時期、集落排水などの窒素・リンは濃縮され、代かき時期の
落とし水にも肥料が入っている。
そして藻類が繁殖する。
この時は藍藻など不味い藻類も多く、鮎には困りものだ。
鮎放流はそれより上流が適している。
4.pHが高くなると水質は悪化
pH10でも鯉は泳いでいて、特に問題はない。
しかし、水質は確実に悪化する。
藻類光合成→pH上昇
→有機物放出
→藻類死滅
藻類の繁殖はpHの上昇だけではない。
先ず藻類からじゃじゃ漏れで色々な有機物がでてくる。
これらはバクテリアが食べるが、食べにくいものもある。
沢山藻類が繁殖すると結果として、その分は何れ死滅することになる。
川の中で有機物が生産されるのである。
このことについては余り議論されていないようであるが、窒素リンの
排出が恒常化した今、重要な視点である。
河川水質のために環境基準にも窒素・リンを入れるべきである。
現在、総量規制といって、リン・窒素が規制されるが、これは
瀬戸内海など特定水域の汚濁を問題としているのである。
私が主張するのは河川の水質のための規制である。
補遺
事例「鳥取市の浄水施設見直し検討委員会答申」を読む
答申のレベルを問う
科学者が間違った解析をする事例を記す。
2002年11月9日、関西では水道の行方を注目していた鳥取市の浄水
施設見直し検討委員会(早川哲夫委員長)は報告書をまとめた。
千代川の伏流水を直送方式にしているが浄水場を作るかどうか、
作るならどの方法かよいか、3年前から全市の議論になっている。
その答申中で膜ろ過を打ち出した。
河川水質の現状についての項がある。
P.4の1.において次のように述べている。
「―――。表流水の水質は、平成7年頃からpHが上昇傾向にあり、
一時的には水道水質基準のpH8.6値付近に到達するときがある。
これは上流の農業集落排水処理施設・公共下水道施設の供用開始
による排水の流入や山林の荒廃などにより雨水がいっきに流れる
などにより自然の浄化作用等が無いこと等が原因と考えられる」
先ず、平成6年(1996)にpH8.5があるようだ。
これは平成の大渇水が日本を苦しめた年であった。
水量が極端に減少したのである。
そのため全国の河川の環境基準達成率が悪くなった。
それが原因ではなかろうか
(1点だけであるから測定ミスということもあるかも知れないが)
「雨水がいっきに流れる等により」pHが上昇したのではない。
一気に流れるならば逆にpHは低下するのが順当である。
解析は真反対である。
余りにも物事を知らなさすぎる。
pHが高い排水が流され、自然浄化でpHを戻す間もなく流された
とは、とんでもない解析といわざるを得ない。
山が荒廃していると断定しているのも気がかりである。
本当に荒廃して、増水が激しくなっているのであろうか?
それが観測年からは見えない。
実際、終戦の時期は山が丸坊主であったからハッキリしていたが、
現在はそう簡単にものがいえない筈だ。
確かに手入れが出来ていない植林地はあるが、木材という意味では
荒廃したにしても、それが全て裸地になってしまったというのは
短絡である。
植林初期の裸地は少なくなっていることも考えなければならない。
pHは上昇傾向にあるというが、高いのは平成9,10年度であり、
12年度には平均に戻っている。
そもそも高くても平均7.5にも達しておらず、問題にするような
ことは何も起きていない。
ついでに将来予測についても
同じページの3.において、水質の将来予測がなされている。
現在上流に排水処理施設利用者29,800人、牛2,500頭で、将来
これに15,600人分の処理施設が供用開始になるという。
このデータから判断すれば、既に悪化の峠を越えている。
もし単独浄化槽などが現在ある程度あれば、かえってクリプトの
危険は減少することも考えられる。
畜産の動向も重要である。
単にまだ建設中の集落排水処理施設があるから、これからクリプト
の危険性が高くなるという結論は報告書データを見る限り無理
である。
研究者の責任
研究者が委員会に参加するとき、科学的事項については、全面的
に任される。
その科学的解析結果を踏まえて答申がまとめられる。
科学的根拠が判断できないで、場合によっては逆方向の解析を
してしまったとき、その責任は余りにも重大である。
私も研究者の端くれであるが、心してかからねばならないと肝
に銘じている。
(2003.1.29)
−−−
日本河川の美
1.序 ―― かしこくない知事にならないために
今四万十側が脚光を浴びている。
それはなぜか。
いうまでもなく大きな自然河川は四万十川しか残されていないと
いうのだ。
それ以外はどうだ。
注目を集める前は長良川が人気だった。
ところが、長良川に河口堰を作った途端に人気が落ちてしまった。
受けに入ったのは四万十川、降って沸いた人気にてんやわんや
である。
それにしても岐阜県は長良川河口堰をよくも了承したことだ。
自分達には堰の一滴の水も要らない損ばかりなのに、都道府県の
七不思議だ。
さて、日本人の河川の人気はかくも移り気である。
それはわけが分からないことなのか、を考えようとしないで、ダム
を作る、河口堰を作るという知事はあまり賢いとはいえないかも
知れない。
勿論県民にとって、時には莫大な損失になる。
2.「河川の美」の神髄は何か
若者の美意識
長良川が捨てられると、岐阜城、犬山城、郡上八幡の観光資源に船底
を叩かれるような打撃だ。
何も川の水が汚くなるでもなし河床が変化するでもなく景色も変わら
ないにも関わらず、人々は集まらなくなった。
これもあれも河口堰のせいらしい。
日本人の美意識は極めて鋭敏ではなかろうか。
確かに今の若者は日本古来の美に無関心であり、将来の維持管理に
危機を覚える年輩の意見は納得がいく。
しかしながら、また片方で、長良川河口堰に対し拒否反応を示すの
も彼等である。
竜安寺の石庭や苔寺に興味を示さないわけではなく、コケが農家で
栽培できるようになり、あちこちでそれを植え込むことで最新技術
を用いて作った庭園が彼等を引き寄せないのである。
河川敷パーティ
河川敷にパーティが出来るようなところを作ることが流行である。
それらの河川敷はソフトボールが出来たりするから、チームが使う。
ときに焼き肉会となる。
子供会もそこを使うこともある。
しかし、家族がそこで焼き肉をすることがほとんどないことも
事実である。
彼等は川の上流をめざし、これ以上上流には民家がないというとこ
ろで、河原を見つけだし、そこにRV車を入れたり、セダンであれば
林道の小さな拡がりに置いて、パーティを思い思いに開いている。
子供達は浅瀬ではしゃぎ、タモを振りかざす。
整備した所ではないし、それ程広いわけではないが、彼等はその
穴場を見つけ、車の置き場所がないほど集まってくる。
このような雰囲気を醸しだすキャンプ場やパーティ場は連休となると
ごった返すが、岸辺に降りられないとか、民家が上流まであるよう
な会場は閑散としている。
日本人が、特に車を乗り回す若者が生き生きと感じ評価する所は
上記のような所である。
彼等は真に日本の美を体で感じ、表現しているのではなかろうか。
陳腐な形で受け継いできた庭園技術や、河川敷のお仕着せ広場に
対して正しく判断を下しているような気がする。
3.ヨーロッパの河川
川の水量は一定
欧州の河川の美は美術で見ることが出来る。
川はあくまでも穏やかに流れ、数本の木立がその川縁に蔭を落とし、
一面芝生のような緑が川岸を包んでいる。
これが彼等が見た河川であり、自然観はそこで生まれる。
このような河川風景を日本に探すとなると、そう簡単ではない。
なぜならば、欧州と日本では風土が全く違う。
欧州の河川は流況係数がせいぜい5程度である。
流況係数とは水の多いときの水量を少ないときの水量で割った値
である。
日本では1000程度になるが、ドナウ川、テームズ川、エルベ川など
増水することがない。
2002年の欧州を襲った大洪水など特異なことである。
このように水は年中ほとんど変化しないから、川辺に木が生える
ことが出来る。
少ない雨は初夏の時期、一面に緑の絨毯を提供してくれる。
自然を破壊しつくした風景
昔、中世には森林が沢山残されていた。
ところが中世から産業革命にかけて、人々はこれを燃料として
切り倒し、後を牧場や、ブドウ畑、小麦畑にした。
こうして自然を破壊尽くした景色が欧州に見られるのである。
オオカミは怖い
ーーこれはまだ森が沢山あるときの話であり、
家畜を襲うオオカミを最大の敵としたのは当然である。
いまでも森を怖がるなどと彼等を分析する日本人がいるが、余り
にもとぼけている。
彼等はそれ故森を大切に保護し、増やそうとしている。
自然破壊の爪痕を復元したいのは当然のことである。
奥入瀬渓谷は欧風
日本は河川の流況係数が大きいから、川岸に木が生えるわけがない。
しかし特殊条件の奥入瀬ではまさに欧州の川が見られる。
十和田湖を源流とし、その水位はほとんど変化しないから奥入瀬
渓谷の水量は年中一定である。
それ故、川の直ぐそばまで木が生えている。
これを見るために冬を除いた期間、人々が押しかける。
十和田湖は湖底の湧き水が水源であるから、このようなことが起
きるが(但し最近は発電しているため水位変動が激しくなって
いる)、他ではそうはいかない。
たとえば諏訪湖と天竜川を考えてみよう。
諏訪湖は山岳の水を集めていて、その流入量は大幅に変動する。
余り大きくない諏訪湖から流れ出す水も一定とはならない。
さらに天竜川には支流から沢山の水が増減しながら流入する。
かくして暴れ川となる。
3.日本河川の美
川の面影はいずこに
日本の多くの川は暴れ川であり、その治水の歴史は大変なものがある。
川といえば治水であり、堤防を強化し、河床を浚い、ダムを作って
きた。
さらに稲作を主な農業としてきた国であるから取水に大変な苦労を
してきて、今は川に井堰を作ってしまった。
このような河川を我々はどのように考えればよいのであろうか。
学生をつれて河川の生物と井堰の調査を4年間行った。
そこには破壊尽くされたかのごとき河川が、草ぼうぼうの状態で
存在していた。
中河川では井堰が500mに1ヶ所あって、それ全てを調査するのだから、
学生もへとへとになってしまう。
どの堰もコンクリートで固められ、生態系保持など全く考えられて
いない。
四万十川の美
四万十川は若いときサイクリングで最上流から下ったことがある。
全長196km、流域面積2270kuと市国では吉野川に次いで大きい。
その川にはダムがないという(但し四国電力の小型の取水ダムがある
がそれ以外は支流にもダムはなさそうである)
ダムがないから増水はしばしば起きるが、人口密度は低く、開発
が遅れた地方であり、橋も沈下橋という洪水時には水没する欄干
のないものである。
こうした自然の河川には白砂利の河原が広がっている。
その中に一筋の流れがある。
沈下橋は熊本県でも見られるようであるが、今やこれが観光名所
だという。
古いもの、遅れた地域、これが今脚光を浴びている。
日本の河川の理想
河原は洪水が起きると植物は繁茂できないで、砂利や石ころで覆わ
れる。
これが昔の日本の河川風景であった。
河原は荒れ地に生えるカワラヨモギ、ハハコグサ、月見草、
カワラナデシコなどの世界であり、独特の美を醸し出していた。
川水はあくまでも清浄であり、下水を流すなどはあり得なかった
から、安心してそのきれいさを愛することが出来た。
これが日本の川の風景である。
若者は踊らされて長良川を見捨てたのではない。
川全体を一つの美として、それを破壊する場所を捨てたのである。
なるほど河口堰の上流でカヌー遊びするなら、流れがないから
安心である。
しかし、その堰ダム湖の底は腐り、シジミも棲めない。
誰もそのようなのっぺらな水面で遊びはしない、四万十川の
白い河原の中で緩やかな流れに身を任すことの方が意味あること
はいうまでもない。
日野川の美
日野川は鳥取県大山の水を集め、県西部を流れる全長76.8kmの
一級河川である。
米子から松江方向に進むと、日野川を横切る。
日野川は支流に小さな菅沢ダムがあるが本流は自然河川そのもの
である。
河原はあくまでもきれいであり、河口近くは砂丘のごとき砂の中
を一筋の水が流れている。
流域面積が四万十川の38%であるから、全国から人々が殺到する
という現象は起きないけれども、これぞ河川である。
この河川が海岸の砂丘を涵養しているのであるから、ダムなど
を作ったら大変である。
河川の原点として一度見に行って貰いたい。
4.ダムは自然破壊
ダムの維持管理
洪水調整だけを目的としたダムが出来ると、下流は流況係数が低く
なるから、安心できる。
しかし、ダムの水量調整は必ずしも下流の期待通りではない。
一般にダムは利水を目的として管理される。
渇水期に貯めた水を徐々に流し、水田を潤し、水道水源とするの
である。
そうなると渇水期には出来るだけ水を貯めておきたい。
何時まで渇水が続くか分からないのであるから、放流を最小限に
したいのである。
台風が来たらどうするか、数年前の神奈川県の例を見ればよく
分かる。
ダムは容易に満水となり、危険になって一斉に放水が始まった。
ダムは上流から下流ダムと次々放流される。
こうして中州にいた若者達が亡くなった。
この時若者の無謀さがテレビで中継されたが、ダム自体の問題も
小さくない。
河川の清掃システムを失う
中途半端な放水は、中州の人間を押し流すとしても、河川を掃除
する程の能力はないであろう。
河川は大雨の時、掃除してきたが、そのシステムが無くなって
しまった。
山奥の河川整備も進んでくると川は一般人が踏み込めないような
背丈を超える雑草の世界になった。
河川敷は人間が排出する豊かな窒素とリンを受け取り、水による
削り取りを止めたことにより、植物繁茂の世界になった。
そこで国土交通省は一級河川の河原や土手を会社に委託して草刈り
させている。
河川は今や税金を使って草刈りすることで維持できているのである。
ダムは確実に生態系を切断する。
しかしそれだけでなく、自然の清掃システムを破壊しているのである。
それは日本における河川の美を破壊していることでもある。
「洪水が起きたら責任取るのか」という意見はダム賛成派から
主張されるが、万に1つに対してすべて行政が責任取るのが
正しいのであろうか。
そのことはべつのところで議論したい。
5.生きた美を
神社仏閣だけ保存しても片手落ちである。
特に生き生きとした美を産み出すという意味では問題を抱えて
いる。
自然の美を回復することを、これから考えてゆくべきであろう。
それは堤防をカラー舗装したり、人工的な段々の水辺を作ること
ではない。
それは自然破壊である。
私たちは河川の美について真剣に考えるべきではなかろうか。
(2003.1.27)
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水田は浄化装置付き巨大ダム
1.面源負荷が汚濁の原因?
琵琶湖の汚濁では点源負荷と面源負荷が議論される。
点源負荷とは下水処理場処理水、浄化槽排水、工場排水などを
いい、面源負荷とは山林、畑、水田などを指す。
原単位はいろいろの値があるが、太田らは下記のようにまとめて
いる。
表 森林・畑・水田の面源負荷の原単位
その結果、北海道のほとんどの河川はTN,TP何れにおいても大半が
面源負荷であるとした。
窒素で1/4〜1/3が点源負荷、リンで1/10程度が点源負荷のよう
である。
また、琵琶湖の汚濁の原因でもこのような研究があり、面負荷、
特に田畑が問題というような研究結果も出されている。
排水処理の窒素・リン除去は不要か
そうであるなら、人は汚濁防止に苦労する必要が無いのかも知れ
ない。
特に窒素、リンの除去については高度処理等するだけ無駄となる?
少なくとも北海道はそういうことになる。
本州においては人口密度が高いから、即、排水処理は不要とは
ならない。
2,農業が元凶か
現在の研究によると農業の汚濁は非常に大きいとされている。
しかしながら農業で肥料を半減しなさいとは言い難いというのが
研究者の一般的姿勢である。
これは農業に対して注文を付けることのおそれであろうか、あるい
は研究結果自体の信頼度の問題であろうか。
研究者であるからには後者であるとの立場は表明しがたい。
結局、農家が肥料を使うことが元凶と考えるが、それを強く指摘
することは避けるとの姿勢であろう。
もう一つの見方がある。
それは森林の窒素、リンの負荷がバカにならないことである。
もしも、農業をすべて捨てたとすると、確かに面源負荷は大幅に
低下する。
しかし零にはならない。
また、リンでは大きな変化がない。
何れにしても、日本農業の水環境に対する影響は大きい。
従って、農業が衰退し、輸入農産物ばかりになるのは、歓迎すべき
こととなる。
ここで必要なことは農業を外国に任すことの損失と、国内生産する
ことによる水環境の外部経済としての影響を如何に天秤にかけるか
ということになるらしい。
3.水田は浄化装置付ダム
畑作地帯の地下水は飲めない
さて、ここで実際の田畑を例にとって、河川水との関係を議論しよう。
畑で問題になるのは窒素である。
畑の土壌は水が切れた状態であるから空気が充満している。
酸素があるから好気性である。
畑の肥料は全て硝酸にかえられる。
硝酸はそのまま土壌に吸着されることなく地下水に移行する。
こうして、畑作地帯の地下水は硝酸イオンが高濃度で、
20〜30mg/lとなる。
茶畑、果樹園なども同じ傾向がある。
特に茶畑が問題を抱えている。
工場を建てる場合、水の問題は大きな要件である。
この場合、単に地下水があるか、表流水の水利権が委譲してもらえ
るかなどで判断してはならない。
水質が問題なのである。
畑が広がっているところで工場を建てたところ、地下水に硝酸
イオンが10mg/l以上含まれていてどうにもならないと困っている
話がある。
付近が茶畑の池では硝酸イオンが20mg/l以上で、リンがない変な水で、
藻類も繁殖していないという。
茶畑が広がる川ではマンガンが石について黒くなっているという。
水田地帯の水はきれい
一方、水田地帯では硝酸イオンほとんど問題にならない。
水田は土壌の上部分は好気性で、下部は嫌気性、さらにその下は
好気性であるのが普通である。
嫌気性部分は水が充満しており、前年の稲の根が有機物として残って
いるため、嫌気性になる。
アンモニア肥料は先ず上の土壌で硝酸になり、次に嫌気性部分で
窒素ガスになってしまう。
すなわち脱窒されるのである。
さらに、水田は肥料が少ないことも特徴である。
畑作のように施肥すると稲は倒伏してしまう。
一時のように多収穫を追求するのではなく、美味しい米を生産する
ようになったことも留意したい。
リンは好気性の土壌に吸着される。
現在では三価の鉄イオンがリン酸鉄を作って不溶化すると考えられ
ている。
鉄は好気性で三価となり水酸化鉄の錆びとして沈殿し、嫌気性では
二価の鉄となって溶出する。
これとリンが絡んでいるのである。
湖沼で底が嫌気性になると鉄が2価になり、結果としてリン酸が
放出されるので、恐れられている。
琵琶湖や宍道湖が今厳しい状態にあるとされるのは、このリン酸と
鉄の関係である。
なおBODについても検討しておく必要がある。
BOD成分は水田の土壌をゆっくりと通過する間に分解されてしまう。
流入水のBODはほとんど除去されると考えてよい。
汚濁水を水田に入れると
下水処理水などを水田に入れると、窒素、リンが除去できる。
これは事実である。
水稲に吸収される量は、一時的にはそれ程大きくないとしても、
泥の吸着貯留量は大きい。
これを見て、「下水処理水を休耕田に流入させるならば、肥料が
取れ、水が浄化されて地下水となるので、好都合である」と
著名学者がいっていた。
なるほど理屈である。
但し、都会の人が、そこで収穫した米や、野菜を有機栽培下として、
喜んで購入してくれるであろうか。
それを説明すると逃げ出してしまうであろう。
都会人の勝手のような議論になるようだ。
実際、都市郊外に流れている農業用水は家庭排水で汚濁している。
しかし、これで稲は簡単には倒伏しない、そこには上記除去
システムが働いているのである。
上記表の窒素の原単位については、畑作との比較において、このよう
な解析が十分なされていないのではないか。
河川水は出たり入ったり
河川水は潅漑期、大半を農業用水として水路に導かれる。
水田に入れられた水はゆっくりと地下水に移行する。
この時に浄化がなされる。
地下に移行した水は下流で再び河川に湧き水として復水する。
これが水田の浄化作用である。
河川の水が保たれているのは、地下水とのバランスによる。
地下水位が低下すると、河川水は地下水となり、これを回復しよう
とする。
それでも地下水位が低下した場合、河川水はやせ細るのである。
勿論都市近郊では河川水は汚濁しており、川底は汚泥で目詰まり
しているから、簡単には地下に移行しない。
時々ブルで表面を掻き取って、水を地下に浸透させ、井戸の水量を
確保しているというのは、実際行われていることである。
浄化付きダム
水田の効用は浄化ばかりでない。
水田に流された水は地下水となるとはいえ、極めて穏やかに進行する。
河川水を放置しておけばその日の間に海に流れ出してしまうが、
水田に入れると月を越えてゆっくりと流れ出すのである。
水田は巨大なダムである。
勿論、完全に肥料成分を除去することは出来ない。
水田地帯を流れる程度の水質になるということである。
汚濁した水は水田がそこまできれいにするのである。
近くの河川水を見ると、窒素0.8〜1.5mg/l、リン0.03〜0.06mg
/l程度に収斂しているようであるが、正確な値は不明である。
注意しなければならないのは、水田における地下浸透量である。
水田の地下浸透は農家にとって起こらない方がよいものであり、
代掻きを行って泥で固めて、水漏れを防ごうとする。
週に一回15cm程度の浸透があると考えて欲しい。
単位面積あたりの処理能力とするときわめて低いものである。
従って、一部の水田を使って浄化システムを作るということには
ならない。
4.米自由化を考える
日本中が米作を行い、水を平地一面に張るシステムは巨大な浄化付
きダムである。
しかし、米自由化を外国からせまられていて、政府の腰は
はなはだ不安定である。
農業は、水環境に取っても重大問題なのである。
現在減反が40%である。
将来この数字は高くなるばかりである。
米自由化を全面的に呑んだとき、どうなるかを考えておく必要
がある。
コシヒカリは世界で最適地が沢山ある。
商社は虎視坦々とねらっている。
その時は一気に日本市場を中国など世界の米で制覇するというもの
である。
ある意味では富を世界に分け与えるのであるから、地球規模で
見るならば好ましいことである。
しかし、そのため、河川がやせ細り、汚濁するのは避けようが
なかろう。
第一そこまでお人好しがよいとは考えられない。
大雨の水は直ぐに海に放流されるのである。
日本が沈下していくと、さらに水使用量も低下するかも知れない。
特に公共財としての水道が現在の方向から抜本的改革を目指す
ことが出来ず、コストアップしていくのであるならば、
サラリーが減り、税金や人金の負担が増える近い将来、水需要は
ますます低下するかも知れないが、それに期待するのは無理があり、
何ともさみしい話ではある。
私は、水源確保、水源涵養のため、米の自由化は行うべきでない、
そのために外交交渉は戦うべきであると考える。
(2003.2.6)