NPL REPORT DQL-AC-004
A review of the relative technical and practical merits of the IEC reference coupler and artificial ear and their future role in pure-tone audiometry
Timothy Sherwood (T R Sherwood)
Richard Barham (R G Barham)
邦訳: Teru Kamogashira
Quality of Life Division National Physical Laboratory
Teddington, Middlesex, TW11 0LW, UK
July 2004
気導純音聴力検査は、聴覚評価の基礎である。オージオメータと、特に、それと共に使用するイヤホン(ヘッドホン)は、 測定の一貫性を確保するために、校正の必要がある。 聴力閾値測定は、確立された基準レベルを参照し、難聴がどうか判定する。 人工耳は、検査中に提示される音圧レベルを、客観的に決定する手段となる。 現在、ISO 389-1では、限られた種類の耳載せ形イヤホン(supra-aural earphone) による構成についてのみIECの基準カプラ(60318-3)で校正し、 他のすべてのタイプのイヤホンによる構成については、IECの人工耳(60318-1)を使用して校正することになっている。 ISVRとの共同プロジェクトにおけるこの部分では、この報告書は、基本的に人工耳(60318-1)を使用し、この装置の使用者から、 この勧告に積極的な意見を得ていることを示す。よって、人工耳(60318-1)とそのRETSPLのみを使用することを、 ISO 389-1の改訂の基礎としてISOに提案する。
(C) Crown Copyright 2004
Reproduced by Permission of the Controller of HMSO
ISSN 1744-0599
National Physical Laboratory
Teddington, Middlesex, TW11 0LW, United Kingdom.
この報告は、出典が明記され、内容が変更されない条件で、転載可能である。
英国貿易産業省(National Measurement System Policy Unit)の財政的支援に感謝する。
Approved on behalf of the Managing Director, National Physical Laboratory
by Dr. B Zeqiri, authorised by Director, Quality of Life Division
気導純音聴力検査は、1879年以来、聴力評価方法の基礎であり、最初に市販された聴力検査装置は、 ヒューズ(Hughes)のオージオメータである[1]。現在では、被験者の聴力閾値レベルを、 正常聴力の閾値レベルに対して相対的に計測でき、被験者の聴覚の状態に関する診断的情報となる。
検査の基礎は、被験者が一方の耳にイヤホンを装着していることである。イヤホンは、オージオメータによって駆動され、 検査中に耳内に音圧を発生させる。被験者は、音圧レベルを制御することができ、 識別可能な音圧レベルに調整できる。 オージオメータはこのレベルを記録し、聴力閾値を決定する。従って、オージオメータは、 この測定が追跡可能なように校正される必要がある。 校正の過程で、イヤホンの音圧出力が所定レベルになるように、 接続された特定のイヤホンに供給される電気駆動レベルを調整する。 音圧出力は、人間の耳をシミュレートし、音圧を測定するためのマイクロホンを内臓した装置で出力される 音圧レベル(SPL)によって示される。このような装置は、一般的にイヤーシミュレータとして知られている。
被験者の聴力閾値レベルは、難聴の診断に必要な情報の半分しか提供しない。 測定された閾値は、正常な聴覚を示すある基準レベルと比較する必要がある。 この基準レベルは、基準等価音圧レベル又はRETSPLとして定義される。RETSPLは、 大勢の「耳の正常な」若年成人の聴力閾値レベルの測定値の平均値から定義、決定され、 それぞれの聴力閾値は、イヤーシミュレータ内に発生するSPLとして定義される。 これは等価閾値と呼ばれる。
次に、被験者の聴力レベルは、被験者で測定された聴力閾値レベルとRETSPLとの差(dB)として定義される。 この測定方法は、ほとんどのオージオメータに組み込まれており、 聴力レベルを周波数に対する関数としてオージオグラムの形で表示される。
そのため、聴力測定におけるイヤーシミュレータの役割は2つある。一つ目は、 基準レベル(RETSPL)を定義するために使用され、二つめは、オージオメータの定期的な校正に使用される。
RETSPLデータの標準化は、聴力閾値の一貫した測定に重要で、難聴の医学的診断、子供の教育的配慮、 成人の聴覚リハビリの詳細に反映される。
現在、耳載せ形イヤホン(supra-aural earphone、耳介上に固定するように設計されたイヤホンで、 聴力検査において最も一般的に使用されるタイプ)によるオージオメータの校正では、 IEC 60318-3 「基準カプラ」と、IEC 60318-1 「人工耳」の2種類のイヤーシミュレータが使用されている。† イヤホンの種類ごとのRETSPL値は、ISO 389-1 [2]に規定されている。 各イヤーシミュレータで使用できるイヤホンタイプは、残念ながらどちらかでのみであり、 すべての校正ラボでは、使用されるイヤホンの全種類をカバーするために、両方のイヤーシミュレータを保持する必要がある。 このため、コストが余分にかかり、場合によっては、どちらのイヤーシミュレータを使用すべきかはっきりしない時がある。 すべてのタイプのイヤホンに対し単一のイヤーシミュレータを使用することで、この状況を改善できないか、 長い間提案されてきた。さらに、このイヤーシミュレータが、人間の耳をうまくシミュレートでき、 単一の普遍的なRETSPL値となることが最も求められているだろう。
†この報告書では、これらの装置は、IECの参照番号は省略し、それぞれ、「基準カプラ」または「人工耳」として記述している。 他の装置は、具体的な型式および名称、またはイヤーシミュレータという用語で総称した。
基準カプラの仕様は、基本的な設計と主要な寸法が、IEC 60318-3 [3]に記載されている。 音響インピーダンスが正確に定義された聴力測定用のイヤホンを搭載できる装置の必要性が認識され、 1962年にこの規格の作成作業が始まった。 イヤホンのカプラ内のSPLは、実際の耳とは必ずしも同じではなく、 当時すでに、イヤホンの種類により異なるRETSPLが必要であることが認識されていた。 しかし、オージオメータの性能を厳密に指定する必要性により、関連するイヤホンの校正を可能にするために、この規格は作成された。 米国規格協会(ANSI)によって規定されたNBS 9-Aカプラは、IEC基準カプラと非常によく似ている。
基準カプラは、5.78±0.08cm^3の公称有効容積を有する金属製円筒形空洞からなり、 空洞の底には、音圧を測定するためのマイクロホンがある。 規格では、標準溝穴の保護グリッドの代わりに振動板を邪魔しないアダプタを取り付けた1インチマイクロホンが指定されている。 このマイクロフォン構成は、IEC 61094-1 [4]で規定されており、IEC type LS1構成と呼ばれる。 イヤホンが取り付けられるカプラの斜面は、イヤホンがカプラの上端に置かれ密閉できるように指定されている。 イヤホンをカプラに密閉させるのに必要な力は、規格で、イヤホン自体の重量に加え、4Nから5Nと規定されている。
実耳の音響インピーダンスを測定するための機器と技術が開発されるにつれて、標準のデータが利用可能になり、 IECでは、広い周波数範囲で平均的な実耳を実用的にシミュレートできる人工耳の仕様が作成された(IEC 60318-1 [5])。 これらの機器の実用機は、始めは試作機または研究用機として製作されたが、後に市販品として製作されるようになった。 多くのイヤホンの相対的感度は、これらの機器において、80Hzから8kHzの周波数範囲では、基準カプラで得られるよりも、 主観的結果により近いものであった。 そのため、実耳の音響インピーダンスにより良い近似となる装置を使用すれば、十分に改善された結果が得られるようになった。
人工耳の設計は、基準カプラよりも複雑である。 3つの音響的に結合された空洞と、IEC type WS2で示される1/2インチ測定用マイクロフォン (通常は保護グリッドを付ける)からなる。 2つの空洞は、環状のスリットと4つの細い管によりそれぞれ3番目の空洞に接続される。 これらの部分と容積全体の音響インピーダンスは、平均的な人間の耳を近似するように設計されている。 基準カプラの場合と同様に、イヤホンが装着される面は、 イヤホンの重量に加え4Nから5Nの力でイヤホンと接合させるよう設計される。人工耳のIEC規格は、1970年に初めて出版された。
ANSIの前身であるAmerican Standards Association (ASA)は、1951年にモノラルイヤホン聴取による正常聴力閾値を発表した(ASA Z.24.5-1951)[6]。 その3年後に、最初の英国標準、BS 2497[7]が出された。 興味深いことに、ASAの基準閾値は、英国規格で示された閾値より約10dB高い値だった。 これらの基準の目的は、難聴尺度の標準の基準ゼロを確立することで、純音聴力オージオメータの校正における一貫性を促進することだった。 英国標準で示された値は、英国で行われた、18歳〜25歳の耳科学的に正常な1200耳以上の試に基づく。 1964年に、国際標準化機構(ISO)によって国際勧告(規格ではない)がISO/R 389 [8]として発行された。 これにより、オージオメータの校正への直接使用に適したRETSPLの形での聴力閾値データが決定された。 このデータは、1950年から1961年の間に様々な標準化実験室によって提供されたデータに基づいている。
RETSPLは、様々な標準イヤホンの種類に対して、記載された範囲の種類(必ずしも標準化されている必要はない)のイヤーシミュレータで決定された。 1970年の規格では、さらにいくつかのイヤホンとイヤーシミュレータの組み合わせが追加された。 この勧告文書は、1975年にISOの方針変更に伴い、規格となった。 1980年代と1990年代の再改訂では、人工耳のデータの追加、周波数の追加、イヤホンとクッションの古い組み合わせの削除、 特定のクッションの等価性の明示、定義の更新などの変更があった。 この人工耳のデータの追加で言及すべきことは、人工耳でのRETSPLが、新たな主観的データによって新たに定義されたのではなく、 それぞれのイヤホンの人工耳での測定によって、基準カプラのデータから変換されて定義されたことである。 ISO 389は1997年に英国の規格として正式に採択されたが、それ以前から長くBS 2497の内容はISO 389に準拠していた。 1998年までに、聴力閾値基準が複数文書群となり、元のISO 389はISO 389-1となり、現況となる。
IECとISOには、7年ごとに基準を再考査する方針がある。これにより、妥当性と正確性を再検討することが可能となり、 計測方法の変更や技術的革新に追従することができる。 人工耳の基準は現在改訂中で、音響インピーダンスの測定方法とその公差、不確かさに関する情報が追加される予定である。 耳覆い形イヤホンと適切なアダプタ(現在IEC 60318-2 [9]に規定されている)の使用についても含められる予定である。 これにより、周波数範囲を16kHzまで拡張することが可能であるが、8kHzを超える仕様は現実的な音響インピーダンスに基づいていない。 IEC 60318-3は今後2年間で改訂予定である。測定の不確実性やこれらを考慮に入れた公差の見直しが入る可能性が高い。
ISO 389-1の改訂は、既存および将来の難聴補償請求への結果が広範囲に及ぶため、検討するのが常に難しい課題である。 ISOはこの作業を作業部会に任命し、この標準がどのように再考査され改訂されるのが最も良いかを検討している。
聴力閾値の基準の開発については、前の章で既に概説した。 1968年のWeisslerの論文[10]では、オージオメータの国際規格の基準ゼロが、すべてのデータからどのように統合処理されたかが報告された。 この研究により、かなりの誤りの存在が明らかとなっており、その後のISO 389-1の改訂以降もこれらの誤りが永続している可能性が高い。
1965年に、Riley、Sterner、Fassett、Sutton [11]は主観的な決定による規格の使用に不満を表明し、以下の事を示唆した:
『オージオメータを校正し、聴力閾値を実際の音圧レベルで記録する・・・この単純な物理的基礎により、 生理学的正常に基づく不確実な校正を避けることができる』
耳載せ形イヤホンを様々なタイプのイヤーシミュレータで測定し性能を評価した研究は数多くある。 これらの研究で使用され、聴力検査で広く使用されているイヤホンの大部分は、Telephonics社によって製造されている。 簡潔さのため、この報告書では、このTelephonics社のイヤホンをTDH-で始まるモデル番号によって示す。
Rudmose(1964)[12]は、TDH-39イヤホンをNBS 9Aカプラ(IEC基準カプラと同等)とASAタイプ1カプラで校正する際の問題について説明した。 この論文では、TDH-39の周波数応答特性に約6kHzの強いピークがあるが、 このピークは人間の実耳にイヤホンを付けた時には存在しないことが指摘された。 Howard(1968)[13]は、TDH-39およびTDH-49イヤホンの周波数応答特性を、同じ2種類の米国仕様のカプラを使用して測定し、 人間の耳で生成される音圧応答と比較した。 TDH-39イヤホンの2kHzのディップと4kHzと約5.5kHzのピークの原因が説明され、5.5kHz付近のピークは、カプラとイヤホンとの間の相互作用に起因する。 これは、Rudmoseによって観察された挙動と同等である。 また、Howardは、TDH-49がより大きなダンピングを持つことで TDH-39に比べより高い周波数まで平坦でなめらかな周波数応答を持つ設計になったのは、これらの結果に基づいたことに言及している。
Robinson(1978)は、多くのTDH-39イヤホンの周波数応答特性を、基準カプラと人工耳とでイヤホンが生じる音圧差、SPL変換値として照合した。 そのほとんどは、他のいくつかのイヤホンタイプのデータとともに、現在は廃止されている。 これらのデータは、基準カプラのデータに基づいて人工耳のRETSPLを計算するために使用された。 この報告書では、TDH-39が型の間で6kHzの出力がかなり変動性することをを指摘した。 Robinson、Shipton and Hinchcliffe(1979)[15]による正常聴覚閾値を決定するための追加研究でも、 数群のTDH-39イヤホンのSPL変換値を測定し、6kHzでデータが特にばらつくことがわかった。 これらの知見に基づき、Robinsonら(1981)[16]は、ISO 389-1(表1)の修正(500Hzで2.5dB、6kHzで4dB)を提案した。
この研究や他の研究に続き、人工耳のRETSPL値が1985年にISO 389として公表された。 標準規格のRETSPLの組み合わせは、基準カプラで校正したMX 41/ARクッション付きTDH-39イヤホン またはフラットクッション付きBeyer DT48イヤホンのみが指定された。 そのため、新しい型のModel 51クッションが取り付けられているTDH-39イヤホンの場合、 基準カプラでなく人工耳で、そのイヤホンに別途指定されたRETSPLで校正する必要がある。 しかし、このことはオージオメータ校正の際に多くの混乱を引き起こす原因となっている。
Dowson・McNeill・Torr(1991)[17]は、NPLでMX 41/ARとModel 51クッションの同等性についての調査を行い、 TDH-39イヤホンに装着し基準カプラで計測した場合、6kHzにおいて最高2.8dBの感度差が見られた以外、 クッションの型は同等であると結論づけた。 しかし、この調査で、TDH-39イヤホンが金属ケースかプラスチックケースかによって6kHzの感度差が生じるようである、 という新たな問題が分かった。 これらの結果は、Michael・Bienvenue(1980)[18]の結果と、 2kHzで2つのイヤホンクッションの型の間に約1dBの差がある以外は、基本的に一致する。 ISOは、ISO 389:1991[30]の改訂で、クッションを等価と定義することであいまいさを明確にした。 そこでは、基準カプラは、フラットクッション付きのBeyer DT48イヤフォンと、 MX 41/ARクッションまたは新型のModel 51(P/N 510C017-1)クッションのいずれかを装着したTDH-39イヤホンのみで使用することになり、 RETSPLがTable 1に示された。Table 2に示されるRETSPLは、指定された限度内で他のすべてのイヤホンと人工耳の組み合わせに使用する。 MX 41/ARとModel 51のクッションは等価であるとされたが、 金属ケースのTDH-39とプラスチックケースのTDH-39イヤホンの等価性については言及されていない。
プラスチック製ケース入りTDH-39イヤホンの外観の変更は、単に製造法の変更によるものだったが、 初期の金属ケースバージョンと区別するためにTDH-39Pと指定されている (但し、初期のプラスチックの製品の型番はそうでない可能性がある)。 聴力閾値に関する初期の研究の多くは、これらのプラスチック製ケースのTDHイヤホンの導入前に行われたため、 得られたデータは金属ケース製イヤホンの結果のみに基づく。
Canning(1991)[19]は、TDH-39とTDH-39PイヤホンのSPL差を測定し、6kHzでほぼ10dBの差があることを見出し、 使用されたイヤホンが本当に同等かどうか疑問を呈した。 しかし、TDH-39は非常に有名なイヤホンのモデルであり、流通しているイヤホンの大部分はプラスチック製ケースの製品である。 Canningの発見は、基準カプラと関連するRETSPLがTHD-39Pイヤホンの校正に適しているかについて疑問を投げかけた。 TDH-49とTDH-49Pの新型プラスチックケース製品の類似点についての疑問も出ている。
1990年代以降、様々な閾値レベルが決定されてきた。Burenら(1992)[20]は、18歳から22歳の69人の被験者による研究により、 ISO 389-1と比較し、125Hzと8kHzで7.5dB、250Hzと6kHzで5dB、そして他の聴力測定周波数では、小さいが有意な偏差を報告している。 この研究で使用された試験方法は、多くの点で、4年後の改訂で勧告されるものであると考えられていた[28]が、 興味深いことに、使われたイヤホン(TDH-39)は人工耳で校正されており、 ISO 389-1のTable 2に特徴的な6kHzのノッチが彼らのデータにない。
Sherwood・McNeill・Torr(1995)[21]は、NPLで、 金属製ケースまたはプラスチック製ケースのTDH-39とTDH-49の客観的な定量化を行った。 その結果、2つの標準化された機器と2つの関連するRETSPLが必要であるという不十分な結論に至った。 彼らは、気導聴力においてTDH-39とTDH-39Pを廃止することで性能差の問題を回避し、 耳載せ形イヤホンの校正装置に人工耳のみを採用することで校正が容易になるとしている。 これは、Delany(1967)[22]による結論と基本的に同じであるが、問題は37年間未解決のままであった。 1995年からの、NPLイヤホンを使用した客観的研究において、Qasem(1996)[23]は聴力閾値レベルの主観的比較を行い、 すべての耳載せ形イヤホンの校正には人工耳と関連するRETSPLが使用されるべきであると結論づけた。 この研究は主観的測定の考察に基づいて行われた。 この見解は、多くの追加研究によっても支持されている[23,26,27,29]。
英国の聴覚に関する全国調査(Lutman and Davis)(1994)[24]は、耳科学的に正常な若年成人の純音聴力閾値レベルの中央値が、 500Hzから4kHzの周波数範囲で5dB近くであり、ISO 389-1の妥当性に疑問を呈した。 この違いは、機器や測定方法の近代化によるものか、人々の聴覚の実際の変化を反映したものと思われる。 しかし、どちらにせよ、正常聴力を有する成人の予想聴力閾値を反映するために、 基準聴力閾値レベルを再確立するための議論が必要である。
Smith(1996)[25]、(1997)[26]、(1999)[27]によってISO TC43 WG1に提出された報告書では、 すべての周波数においてISO 389-1値からの大きな偏差を示す追加の聴力閾値測定の結果が報告された。 この報告書の1つ[25]では、人工耳によるすべてのイヤホンの校正に関して議論している。 推奨試験条件(標準化聴力閾値を決定するための推奨試験条件[28]を参照)に関する他の勧告もされた。
Smith・Davis・Ferguson・Lutman(2000)[29]は、気導聴力検査(ISO 389-3)(1994)[31]、 骨導聴力検査(ISO 389-1)(1991)[30]の改訂の必要性を論じた。 彼らは、改訂において、イヤホンの校正用に人工耳のみを指定することを推奨した。 また、耳科学的に正常な若年成人の聴力をより正確に反映するように、 ISO 389-1で公表されているRETSPL値を変更することも推奨している。
Martin(1997)[32]は、聴力検査の標準化の要件を評価し、Hart(2000)[33]はイヤーシミュレータの実用性を評価した。 両方の報告では、規格基準にかかる問題を精査し、基準カプラとISO 389-1の問題と、 規格基準の批判的改訂の必要性を明らかにした。 さらに、Hartは、聴力測定に使用する計測器、特にイヤーシミュレータに関して、根本的な変更が必要であることを示唆した。
アメリカ標準規格 ANSI S3.6-1996[34]と国際規格 ISO 389-1(1998)の間には相違点がある。 どちらの標準規格も、基準カプラを使用して測定したTDH-39についてほぼ同様のRETSPL値を引用しているが、 750Hzに0.5dBの小さな差が存在する。また、ANSIでは、ISO 389-1で認められていない組み合わせである、 基準カプラによるTDH-49及びTDH-50イヤホンの基準値も示している。
前の章では、2つの点で、聴力測定の基本に関して変更が必要である事実を示した。 まず、オージオメータの校正に必要なイヤーシミュレータとそのRETSPLを合理化できるか、 次に、入手可能な最新のデータに基づいてRETSPL自体を改訂すべきか。
最初の質問に答えるために、NPLと音響振動研究所(ISVR)との共同プロジェクトが、以下の目的で行われた:
- 基準カプラと人工耳の両方を維持する必要がある証拠について、既存の文献を検討する。 各装置の相対的な技術的利点を調べる。一方または他方を普遍的に使用できるか調べる。
- 上記から生じる勧告の意味を検討し、英国の使用者にこれらに対する対応について調査する。
- 英国の使用者の所見と対応に基づいて、ISO 389-1の改訂に関するISOへの適切な勧告を行う。
最初の目的はISVRによって行われ、別々に報告された[35]。主な結論は:
- THD-39イヤホンは依然として良好な性能を持っていたが、基準カプラを使用して校正されるべきそれなりの技術的理由はない。
- 人工耳は新しいイヤホンの設計と拡大された周波数対応範囲の両方において今後ますます重要になるだろう。
- 人工耳を唯一の校正装置として採用する可能性はあり、ある種の技術的改善をもたらすが、その結果、ISO 389-1の変更が必要となる。
Lawtonの調査結果(2003)[35]に続き、聴力検査用イヤホンの校正のための唯一の基準機器として人工耳を採用することと、 ISO 389-1で公表されている人工耳のRETSPL値の使用について、使用者グループからの意見が調査された。
提案の一般的な受容性、考えられる利点、採用時に予想される問題、この段階が改善と考えられるかについて、 約40の組織または個人が調査された。 これらは、主に病院及び大学の聴覚学部門であるが、聴覚・補聴器機器・校正および修理サービスを提供する専門技術機関も含まれる。 結局は、その提案が広く承認されているかどうかによるということであった。
耳載せ形イヤホンの唯一の測定装置として人工耳を使用することは、唯一のRETSPL値の使用と同じく、皆が受け入れ可能であることが分かった。 校正要件を単純化・合理化し、現在のいくつかの矛盾と曖昧さを解決できるという利点が一般的にはあるようだった。
一貫性の問題は、この変化の結果を上回る問題を引き起こした。 この提案の採用により、ほとんど認識できない変化が生じることが予想される。 それぞれのイヤーシミュレータ上でのTDH-39イヤホンの校正測定において0.5dB程度の差が見られている。 基準カプラ上のTDH-39の校正に関しては、例外的に6kHzで問題が存在することが判明している。 しかし、2つの機器での測定の等価性を完全に確立するには、さらなる作業が必要になる。 提案されている他の選択肢の1つは、正しい閾値レベルをよりよく反映するように現在のRETSPL値を修正することである。 この方がより広い結果をもたらし、聴力閾値測定の連続性に、はるかに大きな影響を及ぼすだろう。
変更に関しては、新しい校正用の機器を購入する費用という金銭的配慮に関して、いくつかの条件が提示された。
これは、TDH-39イヤホンを装備したオージオメータを校正する設備に関してのみの問題である。この設備では、基準カプラのみが必要である。
この提案に従うと、基準カプラを破棄し、人工耳と、場合によっては他の関連機器も置き換えることになる。
この状況は非常にまれであるが、例えば、メーカーや供給元が、販売したもののみの校正を行っていて、
TDH-39を装備した機器のみを販売している場合がこれにあたる。
実際には、様々なイヤホンを校正するのが一般的で、ほとんどのサービス機関が既に人工耳を所有している。
人工耳は以下の追加的な能力を持つので、必要な投資は正当化できるだろう:
正常および高周波聴力検査に使用される、より新しいタイプの耳載せ形イヤホン及び耳覆い形イヤホンを校正できるということ。
この変更のもう1つの意味は、スタッフの再訓練と質の高いシステム要件で、これには多額の投資が必要になる可能性がある。
この提案の外国市場への受容可能性の問題も提起された。 特に、米国では、耳載せ形イヤホンの測定には、唯一ではないが基本的にIEC 60318-3または同等のデバイスが広く使用されている。
この提案に対する全体的な反応は、一般的な受容意見から熱心な支持に及んだ。 変化をもたらす計画に反対した組織はなかった。主な識別可能な利点は以下の通りである:
- オージオメータの校正に必要な機器の削減。
- 必要な定期的な校正と保守の大幅な削減。
- 使いやすさの向上とマイクの損傷リスクの低減。 基準カプラは、周波数範囲全体にわたり露出したダイアフラムを備えたマイクロホンを使用する。
- どのイヤーシミュレータと対応するRETSPLを耳載せ形イヤホンに使用するかの曖昧さを排除し、継続する混乱の原因を取り除く。
- 完全ではないが、人工耳は、人間の耳のより良いシミュレーションとなり、よって、イヤホンのより現実的な校正ができる。
- より現実的なイヤーシミュレータは、聴力評価の信頼性の向上につながる。 特に、TDH-39イヤホンを使用して施行された多くの聴力検査で明らかな、6kHzの見せかけのノッチの誤った解釈の排除につながる。
- 人工耳は、耳覆い形イヤホンの校正機器としても指定されており、今後これらのイヤホンの全周波数範囲をカバーするように拡張される。
認識された欠点は、
- 勧告に適合するよう校正施設を調整するための、新しい機器、スタッフの再訓練、校正手順の改定、品質システムを含めたコスト。 しかし、これらは一回限りの費用である。
- 聴力閾値に関する基準データは、主に基準カプラで行われた元の測定値に基づいている。 人工耳には同じ量のデータは存在しない。
- 人工耳は基準カプラよりも複雑な装置であり、基準カプラと同様に維持するのが容易ではないかもしれない。
- 基準カプラは、純音聴力検査以外の用途があり、これらの勧告が実装されても完全に廃止されることはない。
したがって、この協議演習からわかった一般的意見は、聴力閾値測定のために単一のイヤーシミュレータを指定する勧告を進めることであった。 これらの知見に基づき、ISO 389-1改定作業部会の勧告を策定することが可能となった。
ISO 389-1は改訂中で、技術委員会(TC43, WG1)の作業部会によって検討される。 この改訂には、様々なオプションがあり、このプロジェクトの方向性によっては部分的な通知がされることがある。 これらは、おおまかにいって変更の大きくなる順に下記の通りである:
更なる選択肢がある場合もある。選択肢を選ぶ際に考慮すべき主な2つの問題がある。 まず、どちらのイヤーシミュレータを指定するか、次にRETSPLを修正するかどうか。 2番目の問題はこの作業の範囲外だが、一貫性と変更の影響は、意思決定を行う上で明確に考慮する必要がある。 最終的には、RETSPLに求められるものに依存する。 RETSPLは正常な聴力を有する成人で測定される予想閾値を示すべきであると考える者もいる。 この場合、難聴の診断を行うために測定された聴力レベル以外の情報は必要ない。 しかし、RETSPLと難聴補償の基準は、正常聴力レベルが適切に記述されているか、定期的に見直す必要がある。 他の選択肢としては、RETSPLを、正常な聴力閾値に近似するが必ずしも等価ではない、聴力を評価できる任意の基準レベルとみなすことである。 この場合、改訂の必要はないが、聴覚レベルがこのデータに対してどのように変化しているかを見ることは、面白い社会的研究である。
最初の質問に戻ると、この報告書に掲載された研究は、英国の意見から協議を通じて確立されたもので、 ISO 389-1が以下のように改訂されることを明確に示す:
IEC 60318-1人工耳は、すべてのタイプの耳載せ形イヤホンの測定のための唯一の装置となり、 (少なくとも現在提案されている改訂版では) ISO 389-1で現在公開されているIEC 60318-1人工耳用のRETSPL値と併用する必要がある。
これは上記のリストの6)に相当する。
しかし、基準カプラを規格から完全に取り除くことは提案していない。 基準カプラは、ヨーロッパの一部と、特に米国で、品質管理と日常的な試験のために、広く使用されている。 測定慣行が変更を反映するまでは、ISO 389-1ではすべてのイヤホンに人工耳を指定すべきであるが、 必要に応じて基準カプラ及びその他のカプラのデータを規格の附属書の情報に含めるべきである。
この研究では、純音聴力検査におけるイヤホン校正の基礎として、単一のイヤーシミュレータを採用することの、 技術的およびユーザの観点からの実現可能性を詳細に検討した。 技術的実現可能性は、Lawton(ISVRパートナー)によって報告され、以下の結論となった:
NPLは、使用されているイヤホンの範囲に対応する2つのイヤーシミュレータの要件を取り巻く問題をさらに検討し、 文献に報告されている多くの異常や矛盾した習慣を発見した。これらは、最終的に、同一人の聴力についての異なる尺度につながるであろう。
これらの知見に基づき、人工耳を耳載せ形イヤホンの唯一の測定装置として使用することを測定コミュニティに提案し、 その変化の結果に関するコメントを求めた。 ユーザーへの利点は明らかであり、少数でのみ事前の賛同を得ていたにもかかわらず、提案に対して全会一致で支持が表明された。
したがって、下記のことをISOに勧告することが可能である:
近い将来、人工耳の採用が最良の解決策となる。長期的には、実際の音圧レベルで聴力閾値を測定することにより、一連のISO 389規格が完全に不要になる。 さらに、現実的なイヤーシミュレータが開発されれば、または、耳内の音圧レベルを直接計測するイヤホンが開発されれば、 これに関して、オージオメータを校正することができる。 これは、聴覚が、時間と社会的条件に依存する主観的経験的データに依存せずに、純粋に物理的単位で測定されることを意味する。
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[2] International Organization for Standardization, ISO 389-1:1998 Acoustics. Reference zero for the calibration of audiometric equipment - Part 1: Reference equivalent threshold sound pressure levels for pure tones and supra-aural earphones.
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What they really mean is, don't get demoralized. Don't think that you can't do what other people can. And I agree you shouldn't underestimate your potential. People who've done great things tend to seem as if they were a race apart. And most biographies only exaggerate this illusion, partly due to the worshipful attitude biographers inevitably sink into, and partly because, knowing how the story ends, they can't help streamlining the plot till it seems like the subject's life was a matter of destiny, the mere unfolding of some innate genius. In fact I suspect if you had the sixteen year old Shakespeare or Einstein in school with you, they'd seem impressive, but not totally unlike your other friends. Paul Graham "What You'll Wish You'd Known" - http://www.paulgraham.com/hs.html -- Paul Graham -- "What You'll Wish You'd Known" ( http://www.paulgraham.com/hs.html ) Rule of Open-Source Programming #11: When a developer says he will work on something, he or she means "maybe". -- Shlomi Fish -- "Rules of Open Source Programming"