研究室にある機器が古くて故障してしまうということは結構あって、更新に多額の費用がかかるという こともままある。20年以上も前に数千万円で購入した機器となると、その代替を選定するのも、予算を 見つけるのも非常に難しい。製造業者にはすでに修理用のストックがなくて修理も不能と言われてしまうことが多い。 前の会社がつぶれて別の会社 がサポートを引き継いだというので修理を頼んだら、20万もかかったのに、 数ヶ月で修理した2台ともまた同じ故障症状が出たりすることもあって、中を開けてちょっと確認したら、 ずいぶんおかしな修理をしているのに気づき、再修理見積りを出したら間違ったところの修理を言って きたりということもあって、古い機械の修理を頼むのもなかなか 信じられないことが多い。メンテしてくれる技能のある人がいればいいのだが、基本的に研究室というのは 人がいないものであるので、自分で直すしかないということになる。
動物で聴力を計測するときは、音が聞こえているか動物にスイッチを押してもらうわけにはいかないので、 音を聞いたときに出る脳波を測定して、脳波の出るか出ないかくらいの小さな音の大きさを決めて聴力とする。 この脳波はぱっと一回音を聞いたときだけだとノイズに埋もれてほとんど見えないので、何回も同じ音を 聞かせて加算して測る必要がある。脳波は数マイクロボルトという非常に小さな電圧なので、 これを計測する技術も必要であるし、波を何回も加算する技術も必要である。 以前は、日本では、日本電気三栄と日本光電という会社がこの脳波を測定する機器を 開発していたが、今は日本光電のみになってしまっている。写真の左右にあるのは、 右がNeuropack Σ MEB-5504(8chは5508)、左がNeuropack 8 MEB-4208(4chは4204)、という日本光電が設計・製造した機器で、 定価だとそれぞれ700万~1000万程度する。年数的には20年以上経過しているものもあるという大変な年代物である。 設計として、実際にはアートシステム株式会社が かなりの部分を請け負っていて、日本光電が設計した部分はそんなにないようであり、最新の機種でもかなりの部分下請けの範囲が多いようである。 この昔の機種のファームウエアにもアートシステムの記述が残っていて、昔からの取引のようである。 今ではブラウン管自体が希少品になってしまっていて、見つけるのも一苦労というのに、それが組み込まれて 使われているのだから、何とも言えずノスタルジックである。
ここには詳細は記していないが、起動のドライブがTEACのSCSIハードディスク、それも数百MBのドライブになっており、
これが壊れると代替品を手に入れるのは多分無理である。最近では、Compact Flash SCSI変換器を売っている
同人ハードウエア団体が国内外にあり、
そういうのを活用することができるが、そんなのがないと途方に暮れることになる。ちなみに、残念ながらこの機種はベンダIDロックで
この変換器は使えなかった。
これがある日突然全く計測ができなくなってしまった。すべてのチャンネルが0に張り付いて波が見えなく
なってしまっている。冬の大変寒い日に立ち上がりが悪い日もあり、暖気運転すればそのうちにもとに戻ると
思っていたが全くうんともすんともいわない。仕方がないので、腑分けして中を拝見といく。
機能別に分けられたボードと奥のパックプレーンで、相互に接続されている。 電源のボードもあって、もちろんというか電解コンデンサはすべてニチコン製である。 電源電圧チェック用のテストピン、チェック端子がすべての正負電圧部分についていて、よく考えられている。 まずはここのチェックといく。幸いなことに、この研究室にはオシロスコープが備わっているので、一通り見たところ、20年もたつ 割にほぼ問題なく、リップルもほとんど分からないくらいで、さすがの設計という感じである。 電源のボード以外には、RS-232C用のボード、CPUのボード、DSPとRAMの乗ったボード、刺激波形出力用のボード、 そして、アンプとADCの乗ったボードがある。いまはすべて一つのボードに収まるくらいで、技術の進歩に改めて驚く。 BB(Burr Brown)は、現在はTI(Texas Instruments)に買収されてしまっているが、一部の製品群に商標が残っている。 ADS602JGは、12bitの1MHz ADCで、最大8チャネルを逐次変換できる。いまでは、優秀なADボードが各種発売されているが、 この頃は、一つ作るのもそれなりの手間だったと思われる。
問題のアンプとADCのボードであるが、大きなセラミックパッケージに入ったADCとそのまわりのタンタルコンデンサが目につく。 タンタルコンデンサは特性は非常によいがショートモードで故障することが大変有名なので、ここを重点的に見たところ、 一つだけ黒く焼けてしまっているのを発見した。写真の真ん中のが、焼けてしまったコンデンサで、右のは正常、左は近くにあった せいでちょっと黒くなったコンデンサである。巻き添えで他の回路まで故障していないか心配であるが、とりあえず 交換といく。ここで気づくのは、多層基板である。基本的にボード上で回路を読み取れるはずなのだが、見えないところが 多すぎる。電源層は正負ともに内層だし、一部の信号ラインも外に出ていないので多分内層だろう。 20年も前というのに、6層基盤(多分)の設計を行って製造したのだから、相当の技術力を持っていたのだろうと今更ながら 驚いてしまう。 ビルドアップ工法 で調べると、ちょうど1990年代に急速に普及したとあるので、そういう時期だったのだろう。 自分はKiCadを使ってごく簡単な両面実装基盤の設計をしたことがあるだけなので、 多層基盤の設計がどれほど困難なものかは想像しかできないが、その時代は非常に高価なCADを使った設計が行われていたのだろう。
アナログラインのタンタルコンデンサの代替はなかなか難しいが、歪率にはある程度目をつむって、 最近は普及してきた大容量積層セラミックコンデンサで交換とする。一応すべて電源ラインなので、信号にそこまでの影響は 多分ないだろうということで、再実装、電源ON、今度はまたきちんと動き始めた。今度は何年持ってくれるかわからないし、 ブラウン管も徐々にヘタってくるだろう。でも、実は、この機械、そこまで考えられているのか、映像を外部の一般的なパソコン用 モニタに映すためのVGA端子まで持っている。設計した人がよくよく考えているとしか言えないが、ここまで長く使う人がいるとは 思ってもいなかっただろう。
計測データがノイズまみれになるということで修理対象となった。こちらは、上記のBB ADS602JGと異なり、Analog DevicesのADCの AD1671JQを使用しており、下位のビットにノイズが入るのでそちらの問題かとも考えたが、結局横にある2つの電解コンデンサの容量抜けであった。 ICは意外に壊れにくいようで、今まで接してきた修理物件でICの壊れていたのはアンプのパワートランジスタくらいであとはコンデンサがほとんどである。
I want to tell you two stories from my career which I think are classic illustrations of the difference between tech companies that are well-managed and tech companies that are disasters. It comes down to the difference between trusting employees and letting them get things done, versus treating them like burger flippers that need to be monitored and controlled every minute, lest they wander off and sabotage everything. -- Joel Spolsky -- "Two Stories" ( http://www.joelonsoftware.com/articles/TwoStories.html )