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SONY CDP-X555ES

1990年発売、当時の価格で¥89,800のCDプレーヤである。所謂銘機といわれた機種であるが、回路的にはどのような工夫がされていたのか見てみたいと思う。

デジタル・アナログのトランスを分けたりといった分かりやすい部分以外に、フィルタ回路を工夫したり、電源回路を工夫したりすることで、 徐々に価格相応の音を作り上げていった様子が垣間見られておもしろい。さらに左右チャンネルの分離をよくしたり、フィルタ用電源のノイズをさらに減らすことで、 上位機種の音になっていくと予想される。自作であれば少しの手間であっても、販売する機器であれば部品点数に応じてうなぎ登りに価格は上昇していくので、 値段から回路が決まっていくという面もあるのだろう。

デジタルフィルタはSONY CXD1244S(4/8倍オーバーサンプリング)、DACはSONY CXD2552Q(自社製の1Bit DAC)で、最近の高級機に採用されているPCM1794A等のマルチビットでなくて純粋なパルスが出る。 データシート上はマスタクロックが1024Fs/3次ノイズシェイパで、パルス自体は44.1kHz*1024=45.1MHzのようである。 このパルス列を低域通過フィルタに通して出力信号を得るが、フィルタの設計により音質が非常に大きく異なるので、 この部分の回路が重要となる。また、併せて、フィルタに給電する電源の回路の設計も重要となる。

DAC後段のフィルタ

DACの出力は15k抵抗、帰還抵抗の6.8k//330p(fc=71kHz)、IC506(RC5532)で加算、反転増幅、高域が遮断される。2つの出力を加算すれば、 正味電圧は一チャンネル分とあまり変わらず、S/Nはだいたいsqrt(2)倍改善する。

出力段と共有のIC507(RC5532)で1倍に差動増幅される。この時も、だいたいsqrt(2)倍S/Nが改善する。帰還抵抗が4.7k//330p(fc=103k)で、ここでも高域が遮断される。

その後のオペアンプ2個の回路が、GICフィルタで、Lを使わずにLCフィルタを実現できる回路である。設計方法は他のサイトや書籍に掲載されているので詳細は省き、 シミュレーションの結果を掲載する。ちなみに、GICフィルタの後段の1800pFを抜くとリップルがさらに大きくなるが、これは意図された設計と思われ、後述する。

フィルタ回路を含め、オペアンプには5532が多用されており、高級機にも使用出来る、比較的安価で性能も良いオペアンプであることがうかがえる。現在では複数社からセカンドソース品が出ている。 最近ではTIで言えばOPA1611/OPA1612やLME49720等の性能の良いオペアンプが発売されているが、帯域が広すぎると発振しやすいこともあり、 まだまだ現役として使われているようである。最近のYAMAHAのアンプ(CX-A5000やDSP-Z9等)やCDプレーヤ(CD-S700)では、OP275が使われているそうで、 性能一筋で選択されているわけでもないようである。

データシートでは、差動アンプ後段のローパスフィルタでは、CRフィルタが採用されており(LTspiceモデル)、 CDP-X555ESのGIC回路(LTspiceモデル)はこれを変換したものと考えられる。モデルのシミュレーションでもほぼ同様の周波数応答が得られている。 GICフィルタで見られるリップルは、CXD2552Qのデータシートの定数でも見られ、DACの出力をsinc補償する必要がありこのような周波数応答での設計となっていると考えられる。 そのため、他のDACを使用した際には、それぞれのDACでの出力に合わせてポストフィルタを設計する必要があり、高級機の回路だからといって、 このまま定数と回路をコピーして使っても、正しい出力は得られないだろう。
GIC回路のシミュレーションで、高域の遮断が悪いのは、少し帯域の狭いオペアンプを使用したせいである。5532も、そこまで帯域は広くないので、高周波の応答はあまり良くないかもしれない。

フィルタ・プリアンプ用の電源

ツェナーダイオードを使った一般的な定電圧電源回路で、過電流時の保護用の回路も入っている。 完全な無帰還ではないし、本当に無帰還なら電源は暴走してしまうのだが、 このタイプの電源は無帰還型電源回路と言われることもある。音質としては、オペアンプを使った電源回路より 躍動感のある音が出ると言われることが多いようだが、実際はどうなのだろう。後述するDAC・発振回路の電源回路では オペアンプを使った回路が採用されており、本機においては、デジタル回路では、オペアンプを使った応答の早い電源回路が 望ましい音質となったと思われる。

ヘッドホンアンプ

NJM4556は出力70mAまで可能なオペアンプで、foxtex MN04でもヘッドホンアンプとして採用されていた。秋月価格で一個50円で、非常に安価であるが、 何万個と売って利益を出すのはなかなか大変な業界である。現在は日清紡ホールディングスのグループ会社とのことである。 強いバックボーンがないと、音響用オペアンプのような少数高価格で販売分野が非常に狭い製品は開発できないだろう。

DAC用の電源

回路図がそこはかとなく変なのは、オペアンプの端子番号と出力の対応がおかしいからである。 8番が電源、7番が出力なのは正しいが、オペアンプの図で電源と出力の対応が逆になっている。 実体配線図では正しいので、製品では問題なく動いていたのだろう。IC405(RC5532)の片側の回路は使わないので、 ボルテージフォロワでつぶされている。DAC用電源とはいえ、その出力はパルスであり、 基本的にはデジタル回路に最適な電源回路と思われる。これ以外に、もう一つ、デジタル用に ツェナーダイオードとトランジスタ(Q403/2SC3246)2石のレギュレータがあり、こちらはDACのデジタル回路用電源に接続されている。 設計した人にしかわからないが、音質的な理由があったのだと思われる。

You will stop at nothing to reach your objective, but only because your
brakes are defective.

Hell is empty and all the devils are here.
		-- Wm. Shakespeare, "The Tempest"


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